●読書メモ_時代小説(1)



拳豪伝 拳豪伝

著者:津本陽
出版社:講談社
本体価格:733円
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武田物外という、100人と綱引きして勝ったりする怪力坊主の伝記。坊主とは思えぬ破天荒な人物で、全編、酒を呑んだり、ケンカを売ったりしていた印象がある。なんか偉そうでムカつくから、という理由で新撰組にケンカを売ったりしていた。若年から爺になって死ぬまで、終始豪放でエネルギッシュな生涯は読んでいると妙な爽快感を覚える。大変気持ちの良い作品。

明治兜割り 明治兜割り

著者:津本陽
出版社:講談社
本体価格:330円
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榊原鍵吉という人が、なんか偉い人の前で、すごい丈夫な兜を剣で割る芸を見せる話。他4編。榊原さんは、すごく緊張したりして、結局見事に兜割りを果たすのだけれど、その兜割りというのが、想像してるようなスパッと両断するものではなく、ある程度、兜の中ほどまで刀が刺さった、という程度。それでも「見事ッ!」と言われて大絶賛。やっぱり兜は硬いんだ、割れないんだなあ、というリアリティを感じた作品。

酔って候新装版 酔って候新装版

著者:司馬遼太郎
出版社:文藝春秋
本体価格:514円
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世に尊皇攘夷が流行るちょっと前の頃、四賢候と呼ばれた大名さんたちのお話。タイトルの「酔って候」は年中アル中だった山内容堂の中編から。他三者は、島津久光、伊達宗城、鍋島閑叟。山内容堂はムチャクチャで面白いし、島津久光はヘタレっぷりが光る。伊達宗城は主に部下の話だが、本人はとても可愛らしく描かれていて、大変愛らしいキャラクターをしている。しかし、こういった大名視点の物語を読むと「上に立つ人は大変だなあ」としみじみ思う。

最後の将軍新装版徳川慶喜 最後の将軍新装版徳川慶喜

著者:司馬遼太郎
出版社:文藝春秋
本体価格:476円
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徳川15代将軍慶喜公のお話。慶喜は才能の塊のような人で、先見性も素晴らしかったが、あまりに明快に先を見通し、柔軟過ぎる対応をしたため、周りからは一本筋の通って無い人のように受け取られた。実際、彼はその先見性からさっさと大政奉還してしまう。と、まあ、そこまでにほとんどの紙幅が費やされているのだが、私としては、明治維新の後、珍しい自転車を手に入れて喜んで乗りまわす慶喜の描写に心打たれた。一国の主たる地位を失いつつも、それはそれとして、自転車を手に入れたら喜んで乗りまわす。すごい人だなあ。

項羽と劉邦(上巻) 項羽と劉邦(上巻)

著者:司馬遼太郎
出版社:新潮社
本体価格:1,800円
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項羽と劉邦(中巻) 項羽と劉邦(中巻)

著者:司馬遼太郎
出版社:新潮社
本体価格:1,800円
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項羽と劉邦(下巻) 項羽と劉邦(下巻)

著者:司馬遼太郎
出版社:新潮社
本体価格:1,800円
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司馬遼太郎の「項羽と劉邦」。ちなみに、「項羽と劉邦」という話は歴史的には三国志の少し前。結論から言うと、劉邦が項羽を下し、漢という国を作った。三国志の劉備は、自分は劉邦の末裔である、と言い張って軍を起こしている。
横山光輝の「項羽と劉邦」では勝者である劉邦が、どちらかと言えば善玉、正義のヒーローといった形で描かれているが、司馬遼太郎の「項羽と劉邦」では、劉邦は全編小心者の凡夫として描かれており、司馬の筆では「何の実力も無い、ただ大きいだけの入れ物」とされている。特に、敵軍から逃げるために少しでも馬車の重量を軽くしようと、劉邦が自分の子供たちを馬車から投げ捨てるシーンがすごい。当時の倫理観に照らせば、それも一概に非難されることではない、と司馬のフォローがあるものの、それにしても、やっぱりすごい。
一方の、暴君項羽はどうかというと、やはり暴君としての側面も描かれてはいるが、しかし、乱暴者で頭はちと足りないが、情に厚く部下に優しく、戦場においては勇猛果敢な、まるで映画版ジャイアンのようなキャラクターで描かれており、普通の読者がどちらにより好感を持つかは明白である。
で、それらヒーロー二者はさておき、司馬から最も高い評価を受けて描写されていると思われるのが、劉邦軍の文官蕭何(しょうか)であり、劉邦挙兵の際も、単に街のゴロツキから変な人望があるだけの劉邦を頭目に押し上げ、その後の彼の行動をフォロー、尽力している。三冊読み終わった後、韓信よりも、張良よりも、劉邦よりも、項羽よりも、何よりすごいのはこの蕭何だなあと思わされた。

編笠十兵衛 編笠十兵衛

著者:池波正太郎
出版社:新潮社
本体価格:1,359円
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池波正太郎が肩の力を抜いて書いたと思われる作品。架空のキャラクター、月森十兵衛が偉い人からの指示を受けて、赤穂浪士の討ち入りを影から手助けする話。フィクションだからか、少し軽い感じを受ける。しかし、その一方、何故か蕎麦の描写に力が入っており、これを読み終わると、無性に蕎麦を肴に酒を呑みたくなる。TVドラマ化もしたらしい。

おれの足音(上)大石内蔵助 おれの足音(上)大石内蔵助

著者:池波正太郎
出版社:文藝春秋
本体価格:486円
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おれの足音(下)大石内蔵助 おれの足音(下)大石内蔵助

著者:池波正太郎
出版社:文藝春秋
本体価格:486円
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忠臣蔵の中心人物、大石内蔵助を書いたお話。大石内蔵助が子供の頃はぐうたらしていた話とか、家老見習になってからもぐうたらしていた話とか、討ち入りの少し前になってもぐうたらしていた話とかが綴られている。
全編、大石内蔵助ののんびりした心持ちで進んでいくため、忠臣蔵にも関わらず、あまり殺伐とした感じはしない。大石内蔵助がしばしば心中で「吉良どのも大変だなあ」と述べていて、両者の間にあるものは憎しみや妄執ではなく、武士としてのしがらみ、また、ここで討ち入りを成功させなければ天下の正道が保たれないという正義感によるものだと描かれている。
大石内蔵助の昼行灯を、吉良方を騙すための擬態だけではなく、本当にそういうのんびりした人物だったと描くことで、大石内蔵助というキャラクターをかえって深くしている点は見事。池波正太郎の大石内蔵助は、討ち入りに際してさえ実に鷹揚な、余裕のある大石内蔵助である。池波正太郎の大石内蔵助に触れた後に、他作家の描く擬態で昼行灯を装っている精悍な大石内蔵助像を見ると「何ガンバっちゃってんの?」と思ってしまう。

堀部安兵衛(上巻) 堀部安兵衛(上巻)

著者:池波正太郎
出版社:新潮社
本体価格:667円
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堀部安兵衛(下巻) 堀部安兵衛(下巻)

著者:池波正太郎
出版社:新潮社
本体価格:667円
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池波正太郎の忠臣蔵関係3つ目はこれ、堀部安兵衛のお話。赤穂浪士の各々の名前なんて、普通の人は大石内蔵助しか知らないし、もうちょっと知ってる人でも、この堀部安兵衛あたりまでだと思う。堀部安兵衛が若い頃はずいぶんムチャしてて、立派なお爺さんの義理の甥になって、お爺さんと一緒に高田馬場の決闘で名を挙げて、その後、強引に堀部家に婿養子にされて、赤穂浪士討ち入りコースを辿るという話。
個人的には決闘シーンがいちばん良かった。決闘に臨むまでの心構えとか、決闘の後、生を実感しながらごはんを食べるシーンとか。しかし、序盤の若い頃のダメ人間ぶりは見ていて痛々しい限り。それが後半の人格形成や華々しい活躍に繋がっていくのだろうけど、それにしてもダメ人間。違う意味で読んでいてハラハラする。

大剣豪 大剣豪

著者:清水義範
出版社:講談社
本体価格:514円
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パスティーシュ作家、清水義範の短編時代小説集。表題「大剣豪」は剣豪を主題にした創作小噺で、他にも完全なフィクションのものはあまり面白くない。だが、史実を元にしたものは面白い。「どえりゃあ婿さ」は名古屋弁がとにかく読みにくいものの、普通に面白い秀吉の話だし、「山内一豊の隣人」は、運だけで立身した山内一豊を描いた珍しい作品。普通はあまり描かれない山内一豊の活躍(?)は、幕末、あの山内容堂に繋がるのかと思うと感慨もひとしお。

魔界転生(上) 魔界転生(上)

著者:山田風太郎
出版社:角川書店
本体価格:743円
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魔界転生(下) 魔界転生(下)

著者:山田風太郎
出版社:角川書店
本体価格:743円
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死して後、交合した女の腹を突き破り生まれ変わる、忍法「魔界転生」。この秘儀により甦った世紀の大剣豪、宮本武蔵、荒木又右衛門、柳生但馬守、柳生如雲斎、天草四郎、田宮坊太郎。彼らを操り、幕府転覆を企む森宗意軒の野望に立ち向かう、柳生十兵衛のお話。本作品は、アニメ・ゲーム・漫画・映画と、あらゆるメディアミックスの洗礼を受けた超有名作品(ちなみに、もっとも原作に忠実なのは漫画版で、もっとも原作からかけ離れてるのは今川監督によるアニメ版。アニメでは人が空を飛んだりロケットランチャーを撃ったりしてた)。
概説を読むだけで分かるとおり、高名な名剣士たちが柳生十兵衛とドリームマッチを繰り広げる、とってもアツイお話。しかし、名剣士たちと柳生十兵衛の戦いは、純粋な力量の競い合いといったものではなく、人質、奇計、騙し討ち、同士討ちといったものであり、正々堂々と両者が戦う戦闘描写を期待してはいけない。巌流島において、遅刻をすることで佐々木小次郎を苛立たせた武蔵の行為を「兵法」と評価できる人でなければ、ガッカリするかもしれない。
また、表題でもある、女の腹から生まれ変わる忍法「魔界転生」や、石段から転げ落ちるだけの柳生流「ひよどり越えの逆おとし」、性交し絶頂に達した女の髪の毛で敵の刀を斬る忍法「髪斬丸」など、変態的な奥義が乱舞するトンデモ伝記小説でもある。
しかし、荒木又右衛門はギリギリセーフとしても、田宮坊太郎をこの大剣士たちと並べるのは、知名度的にちょっと問題がある気がする。個人的には、彼ら全員が魔界へ転生するまでのエピソードが一番面白い。




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