●『君主論』研究_第一九章





『どのようにして軽蔑と憎悪を逃れるべきか』
〔第一九章では表題通り軽蔑と憎悪を逃れる方法、ならびにそれによるメリットなどが書かれている〕

・とりわけて憎悪を招くのは「臣民の財産や婦女子を奪う行為」
これさえしなければ大多数の者は満足して生活するので、残り少数の者たちの野望と戦うだけでいい。

・軽蔑を招くのは「一貫しない態度、軽薄で、女々しく、意気地なしで、優柔不断な態度」
軽蔑を回避するための方策の一つとして、「臣民のあいだの私的な事件に関しては、自分の裁定が撤回不能であることを知らしめ」とある。これは時代劇に良く出てくる「お上の裁きは変わらない」というのを想起させる。


君主が恐れるべきもの――臣民の謀反の恐れ
                 外敵の恐れ

憎悪と軽蔑を免れ、高い名声を獲得した君主ならば、これらから免れることもできる。外敵は良い軍備があれば固い同盟軍が常にあるし、また君主が畏敬されていればいかなる攻撃にも耐えれるらしい(根拠は書かれていない)。
部下の謀反に関しては、まず陰謀は基本的に成功率が低いうえに、うまく成功しても君主が憎悪されていない(民衆から慕われている)場合には、君主を殺しても民衆から逆に反撃されるのでさらに成功率が下がる。そして、陰謀を企むものが同僚の誰かを仲間に引き入れようとしても、君主が慕われていればその同僚は君主にチクる可能性の方が高い(同僚はそれで自分の株を上げれるから)。よって、憎悪と軽蔑を逃れ、民衆から慕われている限りは、謀反を起こされる可能性は極めて低い。
『豪族を絶望に追いやることなく、民衆を満足させつつ安心して暮らせるように万全の配慮を』


・憎悪を免れるための優れた制度の例『フランスの高等法院』

豪族に抑圧されている民衆を(豪族と対立しないように)救済するために、第三の法院を設けることで君主自身に責任のないところで豪族を罰することができるようにした。これで、君主は責任を問われることを他者に押し付け、民衆への恩恵に関しては、自分の手柄にできた。


・ローマ皇帝の例(マルクスからマクシミーヌスまで)
具体的には、マルクス、コンモドゥス、ペルティナックス、ユーリアーヌス、セウェールス、アントーニーヌス・カルカッラ、マクリーヌス、ヘーリオガバルス、アレクサンデル、マクシミーヌスのこと

注:ローマ皇帝はマキャベリの時代の君主と異なり「兵士の残忍さと貪欲さ」という困難があった

善良な皇帝――マルクス
          ペルティナックス
          アレクサンデル

うまくいった人 → マルクス

マルクス:力量があった上に、世襲君主というアドバンテージがあったため、問題なくうまくいった。
ペルティナックス:それまで好き勝手やってた兵士たちに真面目な生活を強いたら憎まれた。また老齢であることの蔑みが加わり、滅ぼされた。
アレクサンデル:大変善良だったが、女々しいと軽蔑され、軍部に殺害された。


悪い皇帝――コンモドゥス
        セウェールス
        アントニーヌス・カルカッラ
        マクシミーヌス

うまくいった人 → セウェールス

コンモドゥス:マルクスの息子。軍隊を甘やかして勝手放題を許すことで民衆に憎悪され、皇帝なのに剣闘士と戦ったり卑しい行為をしたことで軍隊から蔑まれ、陰謀により殺された。
セウェールス:民衆を率先して弾圧したが、力量がすごかったため、兵士を常に見方に引き付け、滞りなく統治した。
アントニーヌス:残忍さと獰猛さが度を越していたため、憎悪されて身辺警護の者に殺された。※1
マクシミーヌス:生まれが羊飼いと卑しかったため蔑まれ、部下が残虐行為を行ったことで憎悪されて殺された。

※1 
ここで話が脱線して、こういった鉄砲玉はどうするかという話になっている。そういう例は稀なので基本的には恐れなくて良いとしながらも、自分の身辺で働いている人たちに重大な危害を加えないようにだけ注意している。アントニーヌスは身辺警護の者の弟を殺して、さらにその者を脅しつつも、なお身辺警護に当たらせていたらしく、マキャベリは「向こう見ずな行為」と断じている。

残りの皇帝に関してはマキャベリは省略している。軽蔑を招いてすぐ殺されちゃったから別に論じることもない、とのこと。


・良い皇帝であれ、悪い皇帝であれ、破滅の原因は憎悪と軽蔑

善良な皇帝であれ、悪い皇帝であれ、どちらの陣営も一人だけ上手くいって他は失敗していた。これはマルクスは世襲君主であったために上手くいったのを、世襲君主でないペルティナックスとアレクサンデルが真似したのがミスだったし、またセウェールスは力量があったから上手くいったのに、それほどの力量は無いコンモドゥスやアニントニーヌス、マクシミーヌスなどがセウェールスと同じことをしても上手くいくわけないということ。良い行いをしても、悪い行いをしたときと同様に、憎悪を受けることがある。

新しい君主は、マルクスもセウェールスも模倣することはできないが、セウェールスからは政体の基礎を固めるのに必要な要素を取り入れ、マルクスからは確立された堅固な政体を保持し、名声を高めるのに必要な要素を取り入れるようにすると良い。


第一九章のまとめ

・憎悪を招くのは「臣民の財産や婦女子を奪う行為」
軽蔑を招くのは「一貫しない態度、軽薄で、女々しく、意気地なしで、優柔不断な態度」

君主が恐れるべきもの――臣民の謀反の恐れ
                 外敵の恐れ

どちらも(特に謀反は)憎悪と軽蔑を免れることで回避可能

・ローマ皇帝の例から学ぶこと
→良い皇帝であれ悪い皇帝であれ、破滅の原因は常に憎悪と軽蔑にあった。良い皇帝の善良な行いも、悪い皇帝の悪行と同じくらい憎悪を招く可能性がある。逆に破滅しなかった原因は「世襲君主だから」「圧倒的な力量があったから」などで、要素を取り入れるのは良いけど、マネをしてはダメ。


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