2主×ジョウイ×ナナミ 著者:マサムネ様
大き過ぎる満月が中天に差し掛かる頃。
「ナナミ……起きてる?」
ベッドの上に身を起こしたリオウは、隣のベッドで安らかな寝息を立てている少女を小さく呼
んでみた。しばらく耳を澄ますが、返答はない。
「ジョウイ……?」
反対側に向かって今度はもう少し大きな声を出したが、両側から聞こえる微かな呼気は相変わ
らずの二重奏を奏でている。
ベッドを降りたリオウは、足音を忍ばせて椅子の上に投げ出しておいた自分の荷物に近付いた。
取り出したのは、ナナミが作ってくれた二枚のハンカチ。隅にきちんと彼の名が刺繍されている。
窓から差し込む月明かりの下でその不器用な刺繍をそっと指でなぞると、少年は意を決したよう
に唇を引き結び、眠るジョウイの枕元に立った。
「う……ん」
毛布から覗く腕を頭上に持って行き、両手を合わせてベッドの支柱に縛り付ける。小さく呻い
た口に脱いできちんと畳まれていた彼の衣服を丸めて捩じ込むと、少年がぎょっとしたように瞼
を開いた。何が起こったのかわからなかったのだろう、一瞬不安げに視線を彷徨わせ、その先に
リオウの姿を見つけたジョウイは驚愕に瞳を震わせた。
「安心していいよ、ジョウイ……君にはまだ用はないから」
耳元で優しく囁いて、リオウはナナミのベッドに足を向けた。
「ナナミ、起きてよ」
同じように両腕をベッドの支柱に固定してしまうと、リオウは先に目が覚めた朝いつもするよ
うに少女のふくよかな頬を手の平で軽く叩いた。背後では翼をもがれた鳥のようにジョウイがベ
ッドを蹴立てて無駄に足掻いていたが、覚醒を迎えたばかりのナナミにはその音は聞こえていな
いようだ。あどけない表情でリオウを見つめて「あれ、まだ暗いよぉ?」と眉を顰める。
「いいから。もう起きる時間だよ」
どこか毅然とした口調で言うリオウにわずかに不満を表しながら、ナナミは仕方なげに大きな
欠伸をした。
「え……?」
その表情が、固まった。両腕が動かなかったからだ。
「やだやだ、何これ!」
ジタバタとひとしきり暴れてから、ナナミは傍らでくすくすと笑っているリオウを睨んだ。
「もう、リオウってば!夜中にこんないたずらするんじゃないの!」
少年の瞳に浮かぶ酷薄な光に、彼女はまだ気付かない。すぐ気付かせてあげるよ、と心の中で
だけ呟いて、リオウはいつもの柔和で人好きのする笑顔のままナナミの毛布を力任せに引き剥が
した。そのまま腹の上に馬乗りになっても、まだじゃれているのだと信じて疑わないナナミは
「いい加減にしないとゲンカクじいちゃん直伝の奥義お見舞いしちゃうから!」と悪戯っ子を叱
るような調子を崩さない。
「やってみれば?やれるならね」
すっと笑顔をしまうと、リオウはすでに子供らしさを失った大きな手の平で、彼女の胸の双丘
を鷲掴みにした。
「や……やだ!リオウ、何するの!」
ようやく悪ふざけでは済ませない何かを感じ取って、ナナミは甲高い声を上げた。脇に流れた
柔肉を身体の中央に寄せるように集めてやり、横臥の体勢では小振りに見える胸を揉みしだく。
「ふぅん……あんまりおっきくないけど、ナナミのおっぱい思ったよりはあるね」
「いや!放して!放さないと本気で怒るよ!」
あくまで強気な姉の立場を保とうとするナナミ。しかしその弱々しい声音は弟を叱りつけよう
とする彼女の思惑を見事に裏切ってしまっていた。
そのまま弄ぶように握り込み、乱暴に捏ね回した。ほとんど泣き声に近い金切り声で「やだ」
と「やめて」を繰り返す少女を、リオウは心の中で罵った。おまえも所詮メスか、と。
「いやじゃないんでしょ、ナナミ。乳首立っちゃってるよ」
薄い布越しに爪でぴん、と敏感な尖りを弾いてやる。
「ひゃん!」
上擦った声を出したナナミは、リオウの大腿に触れている温かな腹を通して、明らかに嫌悪感
や恐怖からではない震えを伝えて来た。続けざまに押し潰す、捻る、引っ掻くなどの刺激を与え
てやれば、面白いほどあからさまな反応がある。
「やぁ!やだよぉ!助けてよ、ジョウイ!ジョウイ……!」
「そんなにジョウイがいいの?そうだよね、いつだってナナミは僕よりジョウイを選ぶんだ。で
も今ナナミが選べるのは僕だけなんだよ」
どす黒い感情の沸き上がるに任せて、リオウはナナミの頬を張った。悲鳴が絶えるまで繰り返
し、丸みのある柔らかな頬に真っ赤な手形を刻んでいく。口の中が切れたのか、少女の唇の端か
ら朱色の筋が伝い落ちた。ぐったりとなったナナミの上から一旦離れると、リオウはナナミのパ
ジャマの下に指をかけ、少しのためらいもなく下着ごと引きずり下ろした。
「い……いやぁ!リオウ!それだけはだめぇっ!」
「止めたって聞かないよ。僕以外選べないって言ったでしょ」
必死に膝を閉じ合わせて少しでも秘所を隠そうとするナナミを、リオウは既に弟と呼ばれた彼
とは別の存在であることを誇示するかのように凄まじい力で引き裂いた。骨が砕けるほど強く膝
に指をめり込ませ、無慈悲に押し開く。包み隠すものが何もなくなった少女の陰部を青白い月明
かりが暴いた。薔薇色の襞をわずかに濡らす雫を見つけて、リオウは嘲るように鼻を鳴らして笑った。
「だめだのいやだのって口先ばっかりだね、ナナミは。濡れてるよ?」
「ど……して?リオウ……どうしてこんな、ひどいコト……」
「ひどいコト?ナナミが僕にしたことの方がよっぽどひどいと思うけど?」
泣いたって無駄だよ、と冷たく言い放ち、リオウは手の平に唾を吐いた。そしてまだ潤いの足
りないナナミのそこに強引に塗り込むと、すでにズボンの前を押し上げている固く屹立した自ら
の欲望を露にした。
「ごめんねジョウイ。君の場所、借りるよ」
そのまま一気に刺し貫いた。自分のものではない肉体を力づくで蹂躙することへの高揚感が、
リオウの動きを嫌が上にも荒々しくしている。
「やだぁ!やだよぉ!痛いよ、リオウ……!」
「ジョウイのよりだいぶおっきいでしょ?でもすぐ慣れるよ」
奥を掻き回すように腰を使っていると、徐々に蜜と先走りによって繋がり合った場所がぬかる
み、動きが円滑になり始めた。狭い部屋に濡れた音が殷々と響く。ふと向こうのベッドを見遣れ
ば、足掻き疲れたジョウイが現実から目を背けるように枕に顔を埋めていた。
「ぅん……や……ぁあん……やぁ……」
制止を求める言葉を紡いでいたはずのナナミの唇からは次第に拒絶の色が褪せてゆき、代わり
に嬌声が漏れるようになっていた。その様子に薄く笑いながら、リオウは激しく腰を打ち付けて
絡みつく内壁に自身を擦り付けるように出し入れを繰り返す。恥骨がぶつかるほどに叩き付ける
と、ナナミが背を弓なりに仰け反らせて大きく喘いだ。
「はあぁん!」
「……ふぅん。いやだって言ってたくせに、やっぱり気持ちイイんだね、ナナミ……」
快楽に流されて行く少女を幾分冷めた目で見つめて、リオウは力で征服するように何度もその
体内へ楔を打ち込んだ。その度にナナミは下肢を震わせ、唇の端から血混じりの唾液を垂らして
快楽を貪った。
「やあぁん!ぁんっ!イクぅ!イッちゃうよぉ……!」
「ナナミ、待って……一人で先にイクなんてズルイよ」
「もぉだめぇ!やあぁっ!ぁあん!ああっ……あああああぁっ!!」
全身を痙攣させ、ナナミは激し過ぎる絶頂を味わった。抵抗する気力すら失せてだらりと弛緩
した少女の脚の間から自身を引き抜いて立ち上がると、リオウはてらてらと濡れて光りながら未
だ上を向いてそそり立っているそれを左手で握り込んだ。
「いっつもこうだ……ナナミは勝手だよね。僕の都合なんてちっとも考えてくれやしない。自分
のことばっかりだ」
言いながら、ナナミの顔を跨いで真上に立つ。
「どうして、って言ったよね?ナナミ。僕の方が聞きたいよ。どうして僕をあの戦いの中に残し
て、一人でキャロに帰れたの?たった一人の家族が死んだって聞かされて、僕が一体どんな気持
ちだったかナナミにわかる?」
苦しげに歪んだ声に、欲望が燃え尽きた後の倦怠感に身を任せていたナナミがハッと目を開け
た。そのナナミの顔の上で、リオウは自らの欲望を慰め始めた。
「僕はナナミのために戦ってたのに……ナナミが望む平和を手に入れる為だけに戦ってたのに……!
みんなが必要としていたのはゲンカクじいちゃんの名前とこの輝く盾の紋章だけで僕自身じゃな
いって知ってたけど、僕の力が役に立つのならリーダーとして頑張ろうと思ってた。下らない諍
いを終わらせてもう一度ナナミと幸せに暮らせる日が来るなら、シュウの傀儡にでも何でもなっ
てやろうって。なのにナナミは一人で逃げたよね。おねぇちゃんって呼んでなんて言っておいて、
さっさと僕を置いて逃げ出したんだ!そうだろ!」
「ち、ちがうよ、リオウ!あたしはリオウが……」
「心配だったから?すべて僕のため?違うよね。ナナミはジョウイと争うのが嫌で、戦いを僕一
人に押し付けて逃げたんだ。戦いの間中、ナナミが考えてたのはいつだってジョウイのことばか
りだった。ジョウイは僕らを裏切ったのに……ずっと傍にいたのは僕だったのに……!!」
虚しい行為によって吐き出された欲望の飛沫が、咄嗟に背けたナナミの横顔を汚した。血と唾
液に濡れた顎を昨日まで弟と呼んだ男の精が流れ落ちてゆく。
「……ナナミはあの時ジョウイを選んだんだ。そのくせのこのこと僕の前に現れて、実は生きて
ました、だって?三人でまた仲良く暮らしましょうだなんて、虫がいいにも程があると思わない?
ここまで馬鹿にされて、それでも僕は生きててくれて良かったって感動しなきゃならないの?」
リオウはパジャマに覆われたままのナナミの胸の上に座り込んだ。そして自らの放ったもので
ベトベトになったナナミの顔を指先で拭い、それを彼女の唇に運んでゆく。嫌がるナナミの舌に
次々と粘液を擦り付けて、リオウは満足そうに嗤った。
「本当に勝手だよね。ナナミも……ジョウイもさ」
「ち……がうよ……リオウ…………」
ベッドの支柱にナナミの手首を縛り付けていたハンカチを外すと、リオウは最早抵抗する気力
を失ってただ涙を流しているナナミを俯せにして、両腕を後ろ手に縛り直した。
「そうそう、ナナミ一人が楽しくなってちゃジョウイが可哀想だよね。待たせてごめんよ、ジョ
ウイ。今度は君も仲間に入れてあげる」
腕を掴んでナナミを引きずったまま、リオウはジョウイのベッドに移動した。その気配に顔を
上げたジョウイは、悲しげな目で問いかけるようにリオウを見つめてきた。そして唾液を吸った
布を引き出して奪った声を返してやると、枯れた声で呟いた。なぜ、と。
「なぜこんなことするのか知りたいってこと?決まってるじゃない。僕を裏切った君達二人への、
決別のプレゼントだよ」
いっそ楽しげに見えるくらい明るく言って、リオウは軽く右足を上げた。そしてそのままその
踵を、ジョウイの股間へと下ろす。
「リオウ……!」
「何だ。見てないのかと思ってたらしっかり興奮してるんじゃない。苦しそうなくらいだよ」
リオウは揶揄うように足の裏をジョウイのものに押し付け、ぐりぐりと刺激を与えた。男にし
ては白過ぎるジョウイの頬が、カッと朱に染まる。
「ほら、ナナミ。窮屈でしょうがないんだってさ。出してやりなよ」
「や……もうやだぁ……」
床の上に蹲っているナナミを髪を掴んでベッドに押し上げ、嗚咽を漏らすのも構わずその顔を
パジャマの上からジョウイの脚の付け根に埋めさせた。
「よせ、リオウ……やめてくれ……ナナミをこれ以上苦しめないでくれ……」
「へぇ。こんな時でも良い子のお返事がよくできました、だね。でも勘違いしないで欲しいな。
僕は君達を苦しめたりなんかしてない。だってこれ、ナナミもジョウイも大好きなことでしょ?」
更にナナミを押し付ける腕に力を込めてやると、息苦しくなったナナミが無我夢中で口を動か
し始めたのだろう。ただ困惑するばかりだったジョウイがいきなり身を捩った。
「あっ……や、やめ……ナナミ!」
「やめてじゃなくて、気持ち良くしてってちゃんと言いなよ。こんなおっきくしちゃってるくせ
に、ナナミにしてもらわないでどうするの?」
「リオウ……!わかってるんだろ、ナナミが君のことどんなに大切に思ってるか。なのにどうし
てこんなこと……!」
「しつこいな。そういう君の自分だけ良い子でいようとするところが僕は大嫌いなんだよ」
リオウはもたついている様子のナナミを髪を掴んで一旦引き剥がした。どうやら上手く口で前
立てを開くことができなかったらしい。ジョウイのパジャマは唾液で濡れそぼってはいたが、肝
心のものはまだ露出していなかった。
「しょうがないな。男なんか脱がせるの嫌なんだけど」
不愉快極まりないといった顔でそう吐き捨てた後、リオウはジョウイの下肢を隠す布を容赦な
く剥ぎ取った。限界まで熱を持った猛りが弾き出されて、腹に付くほどに反り返る。嫌がって後
ずさろうとするジョウイの下腹部に再びナナミの顔が押し付けられた。すでにこの地獄を一刻も
早く終わらせようと腹を括ったものか、ナナミは従順過ぎるほどの態度でジョウイの肉棒をぺろ
りと舐め上げ、口に含んで舌を使い始める。
「良かったね、ジョウイ。ナナミもしたいってさ。本望だろ?この為にわざわざルルノイエの王
宮から逃げ出してきたんだから」
「リオウ……君は一体何を言ってるんだい?また三人で一緒にいようって、ずっと一緒だって、
僕ら誓い合ったじゃないか……なのにどうしてこんなことするんだよ?ナナミは君のたった一人
の家族で、僕らは親友じゃなかったのか?」
「君もナナミも世話が焼けるなぁ。自分を誤魔化すのが本当に上手だよね。ナナミは君と戦うの
が嫌で一人で逃げた。そしてジョウイ、君は僕を裏切って敵に回っておきながら、最後まで自分
の決めた運命を受け入れるだけの勇気もなくて、僕との友情にすがってお情けで生き長らえる道
を選んだんだ。違うかい?」
「ち……ちがう!くっ……僕は、そんなつもりじゃ……」
後ろ手に縛られたナナミはベッドの上に突っ伏してリオウに背中を向けたまま、ジョウイに舌
技を施している。じゅぼじゅぼと音を立ててピストンを繰り返す度、白く丸い尻が目の前で無防
備にゆらゆら揺れた。リオウは再び下半身から昂りが突き上げてくるのを感じ、身体の欲求に従
ってナナミの腰を抱え込んだ。
「ん……っ!」
背後から秘所に押し当てられた熱い欲望に気付いて、ナナミがぴくりと身体を震わせた。先程
の行為とジョウイへ口腔愛撫をすることによって熟れた場所は、何のためらいもなくリオウのも
のを根元まで飲み込んだ。刺し殺すほどの勢いで奥を穿ってやると、肌と肌の間で空気がたわみ、
粘膜と粘膜の間で粘液が掻き回されて浅ましい音を立てる。
「あぁん……っ!」
耐えきれずにジョウイのものを口から吐き出して、ナナミは甘い吐息に咽を鳴らした。弾力の
ある柔らかな尻を撫で上げると、少女が腰を振るのにあわせて指の間で肉が跳ねた。
「ほらナナミ、お口がお留守だよ。ジョウイにもちゃんと気持ちよくなってもらわなくちゃ。最
後だから三人一緒に仲良くいこうよ、ね?」
言いながら、少女が欲しがる刺激をぴたりと止める。すると彼女はノロノロと唇を動かして先
程吐き出した肉棒を再度しゃぶり始めた。
「もう、やめてくれ……リオウ。頼むから……」
「……ジョウイ。君はあの時ルルノイエでハイランド王国の象徴として僕達同盟軍に倒されるべ
きだったんだ。なのに君は自分が仕掛けた戦いを放棄して一人で逃げ出し、天山の峠で僕を待っ
た。もしもルルノイエで皇王と同盟軍リーダーとして対峙していたら、僕は仲間の手前君を殺す
しかなかっただろう。それがわかってて、君は僕一人が現れ、美しい友情とやらで許しを与える
のを待ってたんだ」
「ちがうんだ、リオウ!くっ……僕は……ナナミを死に追いやってしまったと思ったから……だ
から君の手にかかることで償いたくて……」
「だとしたら、余計残酷なんじゃないの?親友に一対一で止めを刺させようなんてさぁ。悪趣味
だよね?」
「そんな……リオウ、僕はただ…………っ!」
押し寄せる悦楽を頑なに拒否し続けていたジョウイだが、すでにその声には喜色とも言うべき
色が滲み始めていた。リオウがナナミの体内を隅々まで征服していくと、それに呼応するように
ジョウイの呼吸が荒くなる。舌と唇だけでジョウイに刺激を与えながら、ナナミはより深い快楽
を引き出そうというように自らリオウの恥骨に陰唇を押し付けて動いていた。内壁が収縮を繰り
返し、引き絞られるように欲望を締め付けてくる。終わりが近いことを感じたリオウは、腰を掴
んで少女の身体を引き寄せ、捩じ込むように自身を深々と沈めた。
「ナナミ……っ!」
「あああああぁ……ん……!!」
かつて最も近しい存在だった三人は、互いに繋がり合いながら一気に快楽の頂点へと駆け登り、
同じ瞬間に同じ高みを手に入れた。リオウは膣内に、ジョウイは舌の上に、それぞれ灼熱の塊を
流し込む。それを受け止めたナナミは戦慄く身体を強張らせたまま、ぐったりとベッドに横たわった。
「……そろそろ恨み言は終わりにしようか。これ以上言っても意味がないよね。もう僕らが僕ら
であることは二度とないんだから。君達二人が何を望もうと、一度過ごしてしまった時間を無か
ったことにはできない。いくら痛い記憶に蓋をし目を背けようとも、昔の僕ら三人に戻るのは無
理なんだよ」
諭すような口調で穏やかに言って、リオウは少し疲れたというように首を振った。着ていたパ
ジャマを脱ぎ、額の汗と汚れた下肢を軽く拭って床の上に投げ捨てる。いつもの赤い服に腕を通
し、荷物を担いで最後に手に馴染んだトンファーを手にすると、真直ぐにドアに向かった。だが
ノブに手をかけたところで立ち止まり、一度だけ振り返った。
「……僕が始まりの紋章を一つにしなかったのは、一人で永遠の時間を生きるなんてご免だと思
ったのと、ジョウイが僕の手にかかって自己満足に浸りながら死ぬのが許せなかったからなんだ。
せいぜい二人で償いの道でも探してくれ。僕はもう付き合いきれないよ。じゃあ、バイバイ」
そして少年は、これまで自分のものだった世界を自ら壊し、一人去って行った。残された者達
はその背中に投げる言葉を持たなかった。
「これが……僕が犯した罪への代償なのか。一番大切な親友を失うことが……」
どこか表情の抜け落ちたような顔でぼんやりと呟いて、ジョウイはナナミの自由を奪う戒めを
解いてやった。ナナミも同じように呆然とした面を上げ、赤い刻印の残る手首をさすった。
「あの子、いつだって優しかったのに……全然話も聞いてくれなかったね。あたしの知ってるリ
オウじゃないみたいだった。あたし達が……リオウを壊しちゃったのかなぁ……?」
陰惨な戦争によって失われるものが決して生命だけではないことを彼等が悟った時には、すで
に二人の道は去っていた少年のそれと二度と交わらない方向へ分かたれていた。