無知は罪?(5主人公×ルゥ) 著者:マチルダ執筆団員K様
城の一室…王子殿下であるファルーシュの部屋では、連日の最前線での指揮、部隊の統制を仕切り続けて疲れ果てたファルーシュの姿があった。
今日は戦後処理を昨晩に済ませ久々の休息を得て、ベットの中で蹲るようにして眠りについていたが、疲れがまだ抜けきっていないのか、瞼が重く睡魔が頭を支配している感覚だったが、その睡魔を弾き飛ばすような不快な音が耳を劈いてきた。
それは入り口のドアを叩く音で、ファルーシュの状況の空気を読まずに激しく叩いている。
「う〜ん…」
掛けている毛布を被って音を遮ろうとするが、音の衝撃はそれを破り頭の中に直接響いてくる。その行為に完全に眠れなくなったファルーシュは、いい加減にして欲しいと不愉快な気分で眠たい目を擦り、仕方なく扉の方へ重たい身体を引きずっていく。
「は〜い…」
眠気の欲求を振り払いながらも半分しか開いてない目で欠伸をしながらドアノブを握って開ける。ファルーシュには大体誰が来たのか予想が付いていた。こんな朝っぱらから元気良く…いや無神経に人の部屋のドアを叩く人間はただ一人…。
「おはようー!」
「やっぱり君か…ルウ」
目の前にいる少女を見て予想通りの人物だった事にファルーシュは肩を落とし、まだ束ねていないはねっ毛のある銀色の髪を掻きながら溜息をついた。
「今日は何の質問…」
「あのね!そのねー!」
ルウの質問に答えるのが日課になっているファルーシュ…始まりはつい最近だった、パペッジと弟子一号が遊んでくれない事に腹を立てていたルウが目安箱に彼宛てに愚痴を書いた手紙を送ってきた。
それがちょっとばかり可哀想だなと思い話し相手になってあげた事がきっかけだ。
まだ幼さが残り好奇心旺盛な彼女はファルーシュがどんな生活をしていたのか、どんな事を学んだのかを次から次へと聞いてきた。
時には三節棍を貸してくれと無理矢理奪い取られ飽きられるまでぶん回された事もあった。しかしファルーシュは気が優し過ぎる為にルウのそんな行動も笑顔で見ているだけ。
だが、それがマズかったのか、親切にされまくったルウは何かとあらば子犬の様にファルーシュにべったりで、リオンに激昂されても小悪魔の笑みであしらっていたりしている。
そして今日も空気も読まず、親切なファルーシュに最近知ったばかりの質問を聞くために朝早く訪れたのだが…それが予想だにしない問いであったのにファルーシュは耳を疑った。
「せっくすって何?」
「ぶっ!」
耳に入ってきた成人用語に眠気の纏う目が一瞬にして開き、背筋を伸ばして驚いた表情をする。
「い、今何て?」
「だからー、せっくす!」
「…!」
ズビュ!と鋭利な刃物で脳をぶっ刺される感じがした。ルウの口から発せられた言葉を刺された脳内で解析するがどう考えても2つの答えしか出ない…。
それはファレナ国大辞典に書かれていた説明文と捏造された記憶の一部が混じった物…。
セックス 壱【性別を表す、男、女】
セックス 弐【性交…説明省略―表現例(騎士長は元気な子が欲しい女王の為に激しい性交を嗾けた)】
「(ち、違う!違う!特に二番!)」
一瞬変な事を考えてしまい頭を横に振って自分の妄想を消し去ろうとするがパニック状態の頭ではそれをする余裕などない。
「ねー、どういう意味なの〜?」
「そ、それは…その…何と言うか…」
「せーっくす!せーっくす!」
おまけに答えないと連呼する始末でファルーシュはパンク寸前まで追い詰められていた。
そもそもどこでそんな成人用語を覚えてきたのかが謎だ…とにかく事態の終始を図る為に目の前の問題を一つずつ解決しなくてはならない。
「ルウ…教えるからさ…静かにして」
「分かったー!」
ルウは人の気も知らずにはしゃいで喜んでいた。そんな姿を見ると嘘をつけなくなってしまう性格のファルーシュは仕方なく重い口を開けた。
「セックスって言うのは、互いが想い合っている男性と女性が快楽を…じゃなくて!愛を確認する行為なんだよ」
「ふむふむ」
「ふぅ…これ以上は別の人にでも聞いて…」
「えー!?」
教えられる範囲はここまでだが、知識だけならもっと詳しい領域まで知っている。しかしそんな事を真顔で言えるわけがない、ましてや今セックスについて説明している事すら恥ずかしい。
「あのね…口で説明するのは難しいし…」
「うー…説明が難しいならやってみてよー」
「はぁ?…やってみてって…」
「口で説明できないならやって見せればいいんだよ」
適当な答えに不満が限界値まで達しているのか、ルウはファルーシュを睨みつけて現実から逃そうとしない。
「で、でもねルウ、これはやれって言われてやれるものじゃなくて…男性と女性が…」
「じゃあ私とすればいいじゃん」
「いや…どういう意味か分かって言ってるの?」
「分からないから王子様に聞いてるんだよ〜」
一歩先を潰しに来る言葉にどうしていいか分からず、ただ迷いだけが感情を惑わして苦しめる。こんな時、父フェリドであったらどうしていただろう…母アルシュタートなら…。
「ファルーシュ!男は勢いだ!俺だって昔は勢いだけでアルを襲っては毎晩ヒィヒイ言わせていたぞ!」
「フェリドったら、わらわが泣いて懇願しても止めてはくれなかったのですよ」
「父上…母上…それは息子である僕に話すべきことじゃないと思うけど…」
「ははは!細かい事は気にするな!それよりもお前は俺の血を受け継いでいるんだ!お前なら出来る!彼女がお前を望むなら、それに応えてやるのも優しさってもんだろう!」
「そうですよ、ファルーシュ…迷うくらいなら覚悟を決め、やってしまいなさい…わらわもフェリドと共に見守ってますよ」
確かに聞こえた父フェリドと母アルシュタートの声に「そうだ…僕は…女王騎士長フェリドと女王アルシュタートの息子なのだ」と纏わりついていた迷いを断ち切るように心で叫ぶ。もう障害は無い、あるのは静かな心、研ぎ澄まされた感覚…明鏡止水。
「ルウ…そんなに知りたい?」
「え、教えてくれんの?」
ファルーシュは返事の変わりにルウの肩に手を回すとベットにルウを倒す。いきなり押し倒されたルウはキョトンとした表情で見つめ返してくる。
「もう一回聞くけど、本当にいいんだね?」
「う、うん…だってどんなのか知りたいし…」
怯えているのか口が震えて声が霞んで聞こえてくる、それに思わず口元を吊り上げて暗い笑顔を作った。