氷解(5主人公×ルセリナ) 著者:6_970様
ソルファレナの夜は眩しい。太陽、黎明、黄昏の3種の紋章が戻った今、
太陽宮全体が柔らかな光に包まれているような気がする。
それは、眠りを妨げるものではなく、
この場所で生きる人たちを優しく包み込むものだけれども。
あの悲しい戦いから5年が経ち、ここで働き出して、
私もすっかりこの暖かな夜には慣れていた。
フェイタス河から吹く夜風を感じながら廊下を歩いていくと、
連日の執務の疲れが逆に和らいでいくような気さえする。
見張りに立つ衛兵たちに言葉をかけつつ、私は目的の部屋まで進んだ。
中にいる人物が不快に感じないよう、静かに3回扉をノックする。
「騎士長閣下、夜分遅く申し訳ありません。ルセリナです。
お言いつけの書類をお持ちしました。」
すぐに、中から見知った人の優しい声が聞こえてくる。
「はーい、ドア開いてるから入ってきていいよ。」
「はい、失礼いたします。」
左手に書類を抱え、そっとドアを開ける。
机の前で椅子にこしかけていた人物が、椅子を動かしてこちらを振り向いた。
ファルーシュ騎士長閣下。5年前この国を貴族達の横暴から救った人物であり、
今もこの国を支えるために第一線で働いている、強い人。
見聞のためにファレナを離れ、帰ってきたのが2年前。
以前より成長されても、前女王陛下の面影の残る美しい容貌と
銀髪は変わっていないように思う。
今は、大きくなられた体を黒く分厚い女王騎士服に包み、往年のフェリド閣下の貫禄も
備わってきているように見える。軍神と呼ぶ人もいるけど、正にその通りなのだろう。
「ありがとう、こんな時間なのに働いてくれて。でも別に明日でもよかったんだよ?
急ぐ仕事でもないし…竜馬騎兵団支部の人事ももう終わってるしね。」
直接閣下の事務机に書類を置かせていただこうと思ったが、
その前に彼は椅子から立ち上がり、私の前に歩いてくると、書類を受け取ってしまった。
「いえそんな。閣下が働いていらっしゃるのに、
私たちだけ休むというわけにはいきませんから。」
「妹が戦後処理で駈けずり回ってる間、のん気に見聞の旅してた身としては、
ちょっと耳が痛いなぁ。」
少し困ったような、あの優しい笑顔をお浮かべになってそう閣下が言う。
私は、そのことに慌ててしまった。
「そ、そんな!閣下のことを批判したつもりではございません!
閣下は帰ってきて以来誰よりも精力的にこの国のために働きになって」
「ご、ごめん、ルセリナ。冗談、冗談だから、落ち着いて?ね?」
なだめるように、閣下の手が伸びて私の肩をさする。
「申し訳ありません、閣下…。」
「いいよ。何も謝ることなんてないから。
あ、そうだ。赤月のお茶が手に入ったんだ。飲んでいかない?」
そういうと、閣下は笑顔のまますたすたと茶器の方まで向かっていった。
「い、いえ私は!そ、それに閣下に茶を入れさせるなど!!」
「いいからいいから。あ、そこ座ってて。」
前よりも、少しだけ低くなった声にそう促され、
私は客用に用意された椅子のひとつについつい座ってしまった。
「赤月はちょっと政情不安定になってきてるらしくてね…。あんまり手に入らないんだ。
ちょっと貴重なんだよ?」
ティーカップを二つ置きながら、私の真向かいに閣下が座る。
「き、貴重なお茶でしたら、なおさら私などが…」
「ごめん、また変に緊張させるようなこと言っちゃった?
お茶なんて飲むためにあるんだから、飲んじゃえばいいよ。」
この人はいつも、私の慌てるそぶりなど全て受け入れてしまうように笑う。
私もそれ以上拒むのは逆に失礼になるように思ったので、素直にいただくことにした。
口に運ぶと、さわっと香り立つ匂いがする。本当にいいお茶だった。
「ルセリナとこうしてお茶を飲むのは、久しぶりだったかな?
セーブルの周辺に南岳兵団の一部が動いている、
という情報の確認で、お互い忙しかったもんね。」
「はい…。前にこうして閣下にお茶を振舞っていただけたのは、
3月ほど前のことだったと記憶しています。」
「そっか…時間の経つのって、早いね。僕も太陽宮に帰ることが少なかったからさ、
最近何があったかとか、教えてくれる?いい機会だから。」
「あ、はい。」
それからしばらくは、二人で近況を語り合った。
最初こそ、仕事の話が中心だったけれども、話が進む内にお互いの周りに起こった
おもしろいできごとを喋っていた。トーマ殿が騎士になる試験に受かって、
ガレオン殿が感動のあまり泣きはらしていたこと。
女王陛下が結婚の話をすぐに蹴ってしまわれるので、女官が困っていること。
カイル殿がふらっと帰ってきたんだけれども、それをミアキス殿が国中に広めて、
カイル殿に泣かされた女の人たちが集まってしまったことなど。
「あはははは!み、ミアキスはいつもとんでもないことをするなぁ。」
閣下が、涙を浮かべながら笑う。大きな声で笑っても、この部屋の壁は厚いので
大丈夫だろう、きっと。私もつられて笑ってしまう。
「ええ、カイル殿はその後また姿をくらませてしまわれました。」
「あーあ、せっかく会えるところだったのに…ちょっと残念だったかな。」
「また、お帰りになられると思いますわ。ここを離れた他の皆さんも。
ここは、故郷なのですから。」
「…そうだね。」
故郷という言葉に、閣下は感慨深げな表情を浮かべる。
この人も、また帰ってきた人なのだ。私はそれがとても嬉しかった。
この人の側でこうして働けること以上の幸せは、私にはないように思う。
時々、それ以上の欲が頭をもたげそうになることもあるけれど、そんな高望みは許されない。
今夜も、そんな思いに駆られそうになってしまった自分を感じ、部屋を退出することにした。
「…閣下。そろそろ私は失礼させていただきたいと思います。
閣下の連日の激務、心配です。少しでもお休みになられた方がよろしいかと。」
「そうだね。…ごめんね、長くとどまらせて。お休み、ルセリナ。」
「いいえ、楽しい時間をありがとうございました。お休みなさいませ。」
そういって、二人で席を立つ。見送っていただけるかのように、
ドアの側まで私と一緒に閣下も歩いてきて。途中で、ふと閣下の足が止まる。
「ルセリナ。」
聞こえてきた声に呼ばれて、閣下の方に向きなおした。
目の前にいる人の口から出てきたのは、まったく予想していなかった言葉だった。
「好きだ。僕と付き合って欲しい。」
真剣な目、真剣な表情。いつも戦いの前に見せていたような、あの人のりりしい顔。
それを目の前にして、私の思考は数瞬止まっていた。言われた言葉を頭の中で咀嚼できない。
ようやく言葉が理解できた時、私の心はこれまでの人生で経験したことがないほど揺れていた。
そうして、それに答えなければいけないことにも動揺していた。
「閣下…も、申し訳ありません…それは…それはできません…。」
断りの言葉。閣下から、あんな言葉をかけていただいて、それを無下にする。
そのことに、涙を抑えることができなかった。今この場で私を殺してでも
私の口を塞いでくれる人がいたらどんなに良かったか。けれど、言わなければならないのだ。
「そっか…。いや、いいんだ。断ってくれたって。命令じゃないんだから。
でも、泣くほど嫌だった?ごめんね、僕はてっきりルセリナも僕のことを
好きでいてくれたんじゃないかなと勘違いしちゃって」
「違います!!違います、閣下が悪いところなんて何もありません!」
まるで私が閣下のことを嫌って、悪し様に振ったかのように思われることだけは、
どうしても我慢ができなかった。それだけは嫌だ。言わなければ。言わなければ。
「私は…私はバロウズ家の人間なんです!!」
「…ルセリナ…。」
閣下が、驚いたような表情を浮かべる。私は決心をして、一気に続く言葉を吐いた。
「今は、バロウズ家はもうなくなったかもしれません。
でも、でもバロウズ家のことを憎む人たちがいなくなったわけではありません!
私が…私が閣下と…恋仲になったりしたら、そのことで閣下にきっとご迷惑をおかけします!」
「女王騎士長はバロウズ家の娘にたぶらかされたって?」
一息で私が言い終わった後、二の句を継がせないかのように閣下に割り込まれる。
先ほどとは違った種類の、真剣な声。お怒りになられたんだろうか?
「そ、そうです…。」
「本気で、そう思ってる?」
やはり、何かに怒ったような声。
「え…?」
「君がここで5年間仕事をしている間、王宮の人たちは君のことをそんな風に蔑んできた?」
「…!」
いいや、私はそんな風に言われたことはない。最初の頃、戦いが終わってすぐ後こそ、
ソルファレナ勤務の衛兵の方々は私に戸惑いの目を向けてきたけれども。
共にセラス湖の城で戦ってきた元義勇兵の方々は、私のことを説明してくれた。
殿下にお仕えした仲間だと。国を売った連中とは違うんだと。
「王宮の外では君のことをまだそんな風に思っている人が残ってるかもしれない。
でも、もしも君のことをそんな風に見る人間がいたとしたら、それはその人間の方が間違ってる。
君は、何も悪いことはしてない。ファレナのために、誇れるだけの仕事をしてきた。
もしもそれでも君のことを蔑む人間がいるとしたら、僕はそれを正しに行くよ。
何時間、何十時間かけてでも、説得してみせる。ルセリナはそんな娘じゃないって。」
そう言いながら、閣下は私の肩に手をかける。大きくなった手が肩を包み込んで、
閣下の言葉が私の胸に染み込む。
嬉しさ、なんて言葉では表現できない想いが胸にこみ上げるけれど、
ここで踏みとどまらなければならない。私には、私には。
「私には閣下にそんなことをしてもらう価値などありません!」
「そんなことない。それに、僕がそうしたいんだ。」
肩を掴む力が強くなる。私に、ご自分の心を伝えたいという思いが手から伝わる。
心が折れそうだ。踏みとどまれない。目の前に現れた幸せに飛びつきそうになる。でも。
「私は…私は…罪を、償わなきゃいけないんです。
バロウズが、ファレナにもたらした罪は…私一人の人生では贖いきれないほど大きくて…。
それなのに、閣下と…一緒になって、幸せになるなんて…。
そんなこと、許されるわけがないんです。
私は、そんな風に自分が幸せになるために働いてきたわけじゃ…。」
そこまで言って、私はそれ以上を言うことができなくなった。
肩にまわされていた腕が、背中の方にまで動いて、閣下が私の方に近づく。
気づいたら、私と彼はほとんど密着して、彼の顔が私の顔の真横にあった。
美しい銀髪が私の耳にもかかる。それが、抱きしめられているのだと気づくのに、
好きだといわれたと気づいた時よりもずっと長い時間がかかった。
「ねぇルセリナ。ノルデンさん、覚えてるよね?」
少し、ほんの少しだけ落ち着いた頃に、耳のすぐ近くで、閣下の声が聞こえてくる。
どこか遠くで聞こえていたようにも思えるけど、なんとか内容を掴むことはできた。
「え、ええ。もちろん覚えております。あの方も、バロウズに巻き込まれた方でしたね。」
なぜ、今彼の話が出るのか分からない。やはり、バロウズの罪を…。
「この前、東地上を回った時に、会ったんだ。
今はロードレイクの復興も終わって、レインウォールに帰ってきてたんだけどね。
あの人ね、この間奥さんが戻ってきてくれたんだって。よりを戻そうって言ってくれたって。
それで、嬉しい嬉しい、ってずーっと泣いてたよ。」
糾弾されるのかと思って身構えた私に、予想もつかないほど穏やかで優しい声が届く。
彼のことは、覚えている。私と同じ罪を償うために戦っていた戦士。
「…あの方は…幸せになれたんですね…。」
「そうだよ。『ロードレイクを崩壊させることに加担してしまって、
自分はもう一生罪を背負って生きていくのだと覚悟していた。
それが、ロードレイクの人々にも許してもらって、
妻まで戻ってきてくれて、こんなに嬉しいことはない。』って。」
頬に流れる涙を感じる。さっきは、つらくてつらくて流れていたけど、
今は違うような気がする。これまで心に積もっていたものが、溶けたような。
「『全て閣下のおかげです!!』とか言い出したから、君自身の行動の結果だよ、
ってちゃんと訂正しておいたけどね。
でも、ありがとうありがとう、嬉しい嬉しいってずーっと言いっぱなしで、
その晩は一緒にお酒を飲んで、これまでのことを聞かせてもらったよ。」
もう、私の足を止めていたものはなくなってしまった気がする。
この人の言葉で、溶けていってしまった。でも。最後に残った欠片を私は口にしてしまう。
「私は…でも、私はやはりその方とは違います。私は、サルム=バロウズの娘なんです!
一番、策謀の身近にいた人間なんです。」
「ルセリナは、いつも人が何をするべきか冷静に見ることができるのに、
自分のことになると目が曇っちゃうよね。そこも、好きなんだけど。」
好きという言葉に、体が敏感に反応する。抱きしめてくる体の温度が伝わる。
「忘れちゃいけないこともあるけど、ルセリナが背負わなければならないことなんて、何一つないんだ。
幸せになったって、いいんだよ?君が不幸になることを望む人間なんて、誰一人いやしないんだから。
君は、幸せになってもいいだけのことをしてきたろ?」
涙は止まらない。私は、誰かから言ってもらいたかった言葉を今一辺に言われてしまった。
それも、一番言ってもらいたかった人に。もしかしたら、私は待っていたのだろうか。
答えたい、と心から思った。この言葉に、想いに、答えたい。
抱きしめられた体を少しだけ離して、閣下の方に顔を向ける。
本当に目の前にある閣下の顔に、やはり緊張しながら。
「閣下…。」
「できたら名前で呼んでもらえると嬉しい。」
「ファルーシュ様…。」
「いいよ、様もつけなくて。」
「ファ、ファルーシュ…」
「ルセリナ。」
名前を呼ばれることがこんなに嬉しい瞬間は、多分今までになかったと思う。
「わ、私で…よろしいのでしょうか。私なんかが…」
「今更それを聞く?僕はさっき断られたと思って一度地獄の底にまで沈んで、
今天にも昇る気持ちってやつなんだけど。」
やっぱり、私はこんな言葉しか返せなかったけれど、彼は、ファルーシュはそんな私の
言葉まで受け入れて笑顔になってしまう。私も、少しだけ笑顔を作れそうな気がした。
精一杯の笑顔で、答えた。
「私も、嬉しいです。…好きです、ファルーシュ。」
「うん、僕も。大事にするからね。…ってこれじゃあいきなりプロポーズだな。」
「プ、プロポーズ!?」
「そう受け取ってもらっても、僕は構わないけど。結婚を前提に付き合いたいし、
もうお互いのことは十分良く分かるだけの時間、一緒にいるしね。」
「け、結婚…。」
こうして閣下に…ファルーシュに抱きしめられて、私のことを好きだといってくれているだけでも、
とうに私の予想をはるかに超えていることなのに。
その二文字の言葉で、完全に私の思考は止まりそうになってしまった。言葉を発せられない。
「ふふ、また急がせたちゃった?ゆっくりでいいよ。僕らにはもう、時間はたっぷりあるんだからさ。」
そう言って、またファルーシュが笑顔になる。私が慌てていることも、全部楽しまれているのだろうか?
少し、抗議したい気分になったけれど、それは叶わなかった。
ファルーシュの顔が迫ってきて…私の口に、口付けする。
そのことに気づいた時には、口の中に舌が割りいれられていた。
彼の舌が、私の口の中で動いて、私の舌をからめとろうとしている。
ゆっくりでいい、って言われたけれど、彼にとってはこれがゆっくりなのだろうか。
私の顔は、多分これまでにないくらい上気していて…心臓の鼓動が、そのまま体全体に伝わっている。
もちろん、気持ちいいとか、そういうことを感じる暇さえなかった。
息をするのも忘れて、必死で受け止めている内に、彼の口が離れる。
「はぁっはぁっ…。」
動揺と、息苦しかったことで、必死で空気を取り込もうとする。気持ちを落ち着かせる暇がまったくない。
しばらくそうして私が深呼吸をしていると、ファルーシュがまた真剣な顔を作っていた。
「…ルセリナ。さっきの言葉撤回させて。」
「え?」
彼の顔がまた近づいて、今度は耳元でささやかれる。
「君のそういう顔見てたら、君が…欲しくなってきちゃった。」
すぐ近くで聞こえたはずの声なのに、頭の中心に届くまで、10秒くらいかかった。
せっかく少し落ち着いた鼓動が、早鐘のように打ち鳴らされている。
これまで、恋とかそういうこととは無縁で、むしろそんなものにかまけてちゃいけないと
思っていた私だったけれど。さすがにそれが何を意味することなのかは分かった。
嫌とか、そういうことは浮かばなかった。
彼から、そういう風に思われるということがとても嬉しいと思う。
私自身、もう何年前からそういう考えが頭をよぎりそうになったことが度々ある。
それが、こうして現実になるなんて、想像はできなかったけれど。
「ファルーシュ…その…私も…もうずっと前から、あなたに…抱かれたいと思っていました。」
恥ずかしさで逃げ出したくなってしまったけれど、どうしても伝えたくなったから、言い切った。
こんなことを聞いて、ファルーシュがどんな風に思うのかと思うと、彼の顔を直視できない。
「その…はしたない娘だとお思いになりましたか…?」
「うん。」
聞こえてきた言葉で、私は幸せな気持ちから一気に冷水を浴びせられた気がした。
そうだ、仮にも元貴族であった子女が、こんなことを言うなんて。
「す、すいませ…。」
「ごめん、嘘。君も僕のことを求めてくれていることが嬉しくてたまらないです。」
必死で言い繕おうとした私の言葉をまた止める。「嘘」という部分を理解するのに、
また何秒かかかってしまった。自分の頭がこれほど働きが悪くなったことも、
多分今日が生まれて初めてだと思う。さすがに、少し腹が立った。
「ひ、ひどいです!…ファルーシュ!」
「ごめんごめん。ちょっと、怒らせてみたかったんだ。」
「え?」
「ルセリナ、僕に一度も怒ったことなかったろ?
冗談でだって一度も僕に文句ひとつ言わなかった。寂しいなぁ、って思ってたから。」
彼の笑顔から発せられる言葉は、何でこんなに心に染みるんだろう。
彼に怒ることなんて何ひとつなかったし、本当だったら私は糾弾されていてもいい立場だった。
どれだけ感謝しても仕切れないほどのものを与えてもらってるのに、怒ることなんてできるわけがない。
でも、きっとここで言うべき言葉はそういうことじゃないんだろう。
少し泣きそうになってしまったのが悔しかったから、尖った声を精一杯出して、言う。
「…それじゃあ、これからは、言わせていただきます。
私だって、怒れないわけじゃないです。ずっと兄や父をしかりつけていましたから。」
「うわぁ、厳しそうだな、それは。」
少しも困っていない、楽しそうな声が耳元で聞こえて、そのまま強く抱きしめられた。
ずっとこのまま、抱きしめられていたいと思ったけれど、体が少し離れたと思うと、
膝の下に手をかけられて、ベッドの方まで運ばれてしまう。
そのまま優しく降ろされて。見上げた彼の顔は、すごく優しいものだったけれど、
やはり怖い気持ちがないわけではない。それに、この部屋は…明るすぎる。
「ごめんなさいファルーシュ…その…明かりを…。」
「あ、そっか。僕としては君の体を見れなくなっちゃうのは残念だけど…。」
そう言うと、彼が部屋に置かれた火の紋章片のランプにそっと息を吹きかけ、部屋の明かりが消される。
明かりが消されて、私は自分が太陽宮にいることを思い出した。ここは、いつも柔らかな光に満たされているのだ。
薄い光の中で自分の体を見られると思うとより恥ずかしいけれど、
ベッドに腰掛けた彼は、もうテキパキと女王騎士服を脱いでいく。
私も、今更脱がないわけにはいかない…。意を決して、肩紐に手をかける。
コルセットも外し、ドレスを脱いで…そのまま下着にどうしても手をかけられないでいると、
後ろから伸びてきた手が、私にそれを外すよう促す。
「ファルーシュ…。」
その手に促されて、生まれた時のままの姿にさせられてしまった。
ここまで来たのに、振り向く勇気が私にはない。そのまま止まっていると、
伸びていた手が私の両の乳房に触れていた。そっと、包み込まれるように触られる。
「あっ…ん、んっ…。」
「やっぱり、声もかわいいな。もっと聞きたくなる。」
そう聞こえてきた後、両方の乳首を摘まれてしまった。
「ひゃっ…ん…!」
声を出さないようにしたいけれども、できない。自分の口から、これまで聞いたこともないくらい
切ない声が漏れてしまう。それが恥ずかしいけれど、彼の手は止まらない。
体中を撫でていく。気持ちいい、けれど彼の手だと分かっていてもやはりどこか怖い。
手が、足の付け根の辺りを触ったことで、私はついに叫んでしまった。
「やあっ…ファルーシュ、怖いっ…!」
その声で、一瞬彼の手が止まる。そのまま、私を抱きかかえるようにして、
彼の方に体を向けさせられた。やっと、彼の顔が見える。いつもと同じ顔だけど、
いつもより少し興奮で上気している顔。
「大丈夫。怖くないから。」
そういうと、彼がおでこを私のおでこにそっとくっつけた。その仕草に少し安心したけど、
やはり彼の手はまた動き出す。私の脚を割ろうとして…力を入れて止めようとしても、
止まらなかった。開いた脚の付け根、私のあそこが…見えてしまっている。
「は、恥ずかしい…。あっ」
「ごめん、恥ずかしがる君もかわいい。」
つっ、と、指が一本差し入れられてしまった。湿った音を立てて、ファルーシュの指を易々と受け入れてしまう。
彼の指が、私の中で動いて、そのたびにいやらしい音がして…
「やっ、あっ…!」
指が2本に増やされる。湿っていたそこはやはり簡単にそれを差し入れることを許して、
お尻まで濡らしてしまうほど、濡れていく。痛みもなくて、すっかりよくなってしまった。
気持ちがいい、と思う。けれど、彼の目に映る私はどれだけいやらしいのだろう…。
「は、恥ずかしいです…。」
「でも、気持ちよくなってきてない?もうちょっと、して欲しいとか。」
ひどい、と思って彼のほうを見るけれど、その間も中で動かされる指のせいで、
まともに返答もできそうにない。今日もう何度目になるのか分からないけど、
顔から火が出そうになる思いを堪えて、私は小さく頷いた。
「…そう、じゃあ、気持ちよくさせてあげる。」
楽しそうな声で彼がそういうと、指の動きがさらに増した。
「ひゃっ、ああっ!」
さっきよりもずっと大きな水音がして、私の耳にはそれももう気持ちいい音にしか聞こえない。
気づくと、指の動きに合わせて自分で腰を振っていた。もっと、欲しい。ファルーシュに、
滅茶苦茶にしてほしい。それを伝えようとしても、私の口からはあえぎ声しか出てこない。
「あっ…あ、あっ、や、いいです、いっ…ああんっ!!」
何かがはじけて、私の中が、びくびくと収縮するのが分かる。
彼の指を、もっとと促してるみたいに、締め付けてしまう。
それを恥ずかしいとも思えなくなって、私は快感を受け止めていた。
すっと抜かれた指を、彼が私に見せる。淡い光の中、それはぬめぬめと光っていて。
彼が、その指を口に含む。
「あ、ふせひなのあひがすふ。(ルセリナの味がする)」
言いながら、それをゆっくりとしゃぶる。私の味…卑猥な言葉…。
「そんないい方やめてください…。」
「おいひいよ?」
心底楽しそうな顔で笑って…この人には、こうしてずっとかなわないのだろうか。
それ以上抗議しようとしても、その光景に、私のあそこはさらに濡れそぼっていってしまうのが分かる。
「やっぱり、ルセリナは綺麗だな。体も。ずっと、見たいって思ってた。」
「ファルーシュ…。」
綺麗と言われたことは何度もあるけど、あまり嬉しかったことはなかった。
今は、私が彼に綺麗といわれる体をしていることが、とても嬉しい。
今までまじまじと見ることがなかった彼の体も、大きくなった肩幅に似合わない、
白くて綺麗な色をしていると思う。
その体が、覆いかぶさってきた。
「いい?」
「…はい。」
怖さが消えたわけではなかったので、少し戸惑ったけれど。正直に答えた。
彼の手が、また私の脚を割って、開かせる。恥ずかしいという気持ちも変わらない。
でもここまできたら、もうお互い止めるわけにもいかない。
「あ…」
入り口に、当たる。それが、少しずつ少しずつ、私の中に入ってくる。
「怖い…。」
「大丈夫。」
そう言って、口付けをしてくれた彼に、しがみつく。まだ痛くはないけれど、涙が浮かんでしまう。
まだ、進みきってはいないと思うけど、何かが引っかかるような感触がした。
「ルセリナ…いくよ…。」
「え?…ひっ!!」
彼に、ぎゅっと強く抱きしめられたかと思うと、それと同時に引っかかりを越えて彼が入ってくる。
痛さで、何も考えられなくなって、彼の背中を爪で引っかいてしまう。
「ファルーシュっ、ファルーシュ…!」
彼は、しばらく動かないように待っていてくれたけど、それでも痛さは変わらない。
その痛みに慣れるまで、しばらくの時間がかかった。少しだけ、痺れたような感覚になる。
「ひっ、あっファルーシュっ…」
それでも、彼を呼ぶ声はかすれる。痛みで、涙が出る。彼は、手で私の頭をなでたり、
おでこに口付けをして…落ち着かせようと、してくれていた。
「好きだよ。」
と、ぽつりと呟いたのが聞こえる。私も、と言いたかったけれど、
代わりに彼のことを抱きしめた。彼も、強く抱きしめ返してくれる。
しばらくそうしている内に、痛みよりも、痺れたような感覚の方が強くなってきた。
少し、楽になったような気がする。彼は、まだ私のことを抱きしめてくれていたけど、
やっぱり…動いてもらわないと、いけないんだろう。
「ファルーシュ…その…もう、動いても大丈夫だと…思います…。」
「大丈夫?」
「はい…まだ…あなたに、気持ちよくなってもらってないから…。」
「うん…。」
短い彼の呟きが聞こえて、さきほどの指よりももっと太いものが、私の中を動こうとするのを感じる。
いっぱいに満たしていたものが、動いていくのは怖いけど…。してもらいたいと、思う。
「んっ、ん!」
ゆっくり、指の時よりも本当にゆっくりと動くそれが、痛みよりもほんの少し大きい
痺れをもたらす。少しだけ抜いて、また入って。また、水音がしだしたのに気づいた時、
私は、今自分がされていることに、改めて気づく。恥ずかしいとも思うけど、
それ以上に嬉しい。ファルーシュにこうしてもらう日がくるなんて、思ってもいなかったのに。
「ぁうっ…うっ…」
気持ちいいところも一緒に擦られて、さきほどよりも気持ちいいとはいえないけど、
あえぎ声が漏れた。そこを弄ばれて、ほんの少し気持ちよくなって。
私の中が、ファルーシュを締め付けてしまうのが分かる。
「ファルー、シュぅ…、あっ、あ…」
動きが少しずつ早まっていく。痛みも少し増したけど、それ以上に気持ちよさも増していく。
少しずつ、さきほど感じた、はじけるような感覚に近づいていっているような気がする。
「あ、あっ、はあっ…あっ…。」
水音がいやらしい。彼が、動いている。私は今抱かれていて、彼自身を打ちつけられている。
また、思考が遠いところにいきそうな、さらわれそうな、そんな感覚に襲われて…。
けれど、彼の声で引き戻された。
「ルセリナっ、もう…!」
彼の体が、少しだけ震えたように感じた。
それと同時に、そこに…何か注ぎ込まれるような感覚になった。
「あっ…」
杭を抜かれたみたいな、そんな感覚で、彼が私の中から引き抜かれる。
空気に晒されて、痺れた感覚が抜けると、ずきずきと下肢が痛み出してきた。
鈍い痛み。そして、そこから少しだけもれ出ている、彼の放った精。
「つうっ…!」
じりじりと襲ってくる鈍い痛みに、少し、声を上げてしまう。
しばらくそのままで待っていると、彼がまた口付けをして、私を優しくベッドに倒した。
「ごめんルセリナ…痛かったよね。」
「いいえ、初めて、でしたから。私は、初めてがあなたで…嬉しかったです。」
「…僕も、嬉しい。」
ぎゅうっ、と彼が強く抱きしめてくる。
彼が抱いてくれたことが、嬉しい。彼とそういう関係になったんだということが、堪らなく嬉しい。
だから、私も彼のことを抱きしめ返した。
「好きだよ、ルセリナ。」
「私もです。」
こんな言葉も、これから何度も言ってもらえるんだろう。私も、きっと何度も言うんだろう。
これまで、言ってはいけないと思っていた分、何回も何回も、言うんだろう。
「一緒に、いようね。」
静かにその言葉が聞こえて、私は抱きしめられたまま頷いた。
彼の精を受け止めたことを思い出す。きっと、これから彼と家族を作るんだろう。
私は、私がこれまでずっと求め続けていたものを手にしているのだろう
5年前からでも、彼が戻ってきた時からでもなく、ずっとずっと欲しかったもの。
また涙が出てきそうになったので、もっと強く抱きしめた。彼が抱きしめて返してくれた。
「あ、すまない。その話蹴らせて。」
玉座に座ったかわいい陛下の横でお守りをさせてもらってから、もう何度こういう光景を見たのか分かりません。
今日も、内政官の一人からファルーシュ閣下の縁談がまた持ち込まれて、また蹴られちゃいましたぁ。
でも、今日はなんだか返答が早い気がしますぅ。閣下は、いつも話だけは真剣に聞くのに。
「は、はぁ…しかし、今度のお相手は中々ようございますよ。
閣下に政略結婚を持ち込むのが失礼であることは重々承知しておりますが、
この方は群島やゼアラントの王侯貴族からもぜひ后に迎えたいとの評判で…。」
「もうよい!兄上がしたくないと申しておるであろう!」
閣下の結婚話になると、いつもイライラしちゃう陛下が話を切り上げようとしますぅ。
もう、陛下ったらかわいい♪
「はっ、これは…過ぎたことを申しました。ご容赦を。」
「ああ、分かってる。お前が自分の利益ではなく王家のことを考えていることはな。
ただ僕に事情があるだけだから、気にしなくていい。丁重にお断りしておいてくれ。」
「はっ、仰せのままに。」
事情?事情って何でしょうかぁ。
いつも、『今は新体制の地固めをする時だ。
まだそういうことは考える気分にはなれない』ってお断りするのに?
「そうじゃ、結婚など兄上には早いのじゃ。わらわの相手も決まっておらぬというのに!」
陛下は、その辺の微妙なニュアンスの違いに気づいてないみたいです。
閣下のことになると鈍くなっちゃう陛下のそういうところが好きなんですけどぉ。
「あらぁ、姫様。普通は年長者の方から結婚は決まるものじゃないですかぁ?」
「いっ、いいのじゃ!ファレナ王家は特別なのじゃ!!兄上もしばらく結婚などする気は
ないのじゃろう?」
てっきり、閣下も『ええ。』って答えると思ってたのに。
今日のファルーシュ様はちょっと違いましたぁ。私もびっくりですよ?
「いえそうでもないです、陛下。実は私は先日ルセリナと付き合い始めまして。」
「…な、何ッ!?な、なにを言い出すのじゃ兄上!?」
「いずれは彼女と結婚したいと思っておりますゆえ、先ほどはお断りさせていただきました。」
「ファルーシュ、何も今ここで…!」
今まで、特に興味もないわって感じで聞いてたと思ってたルセリナちゃんが、割って入ってきましたぁ。
あらあらぁ。閣下に「ファルーシュ」ですって!私の知らない間に、色々進んじゃったみたいですぅ。
「ちょうど結婚の話題だったし、いいタイミングだと思ったんだけどな。」
「あ、あ、あ…」
陛下は、開いた口がふさがらないって感じですぅ。そりゃそうですよねぇ?
「あらあらぁ。閣下ってヤることはヤる、じゃなかった、やる時はやるんですねぇ。
ルセリナちゃんも、駄目よぉ。そういうことする時は私に報告してくれなきゃ。」
そーんなおもしろいことするなら、やっぱり女王騎士たる私にも
参加する権利とかそういうものが発生しますよねぇ?
「え…?あの、報告って…。」
「あー気にしなくていいよ、ルセリナ。」
閣下がルセリナちゃんの肩を抱きます。ああ、もうラブラブここに極まるって感じですぅ。
私としたことが、こんなにおもしろいことを見逃してたなんて。ミアキス一生の不覚!
知ってたら、ルセリナちゃんにアレやコレを渡して閣下の部屋に忍び込んでぇ…。んー、残念!
「というわけで、陛下。これからはルセリナとより深い結びつきを持ち
二人で内政外交軍事と陛下をお支えさせていただきますので。」
ああ、私のかわいい陛下のことを忘れてましたぁ。ふと玉座の陛下の顔を見ると、
もうこれ以上混乱できないって顔してますぅ。
赤とか白とか入れ替わって、ドレミの精が運動会してるみたいです。
「…だ、駄目じゃ駄目じゃ!」
「何で?」
「何でですかぁ?」
「あの、陛下、私では何かお許しいただけない事情があるのでしょうか…。」
本当は何でダメなのか分かってるけど、つい聞いちゃいました。
閣下もルセリナちゃんも天然だから、陛下かわいそうですぅ♪
「と、とにかくまだ早いのじゃーーー!!」
「なんだよ、リム。許してくれなきゃルセリナと他の国に逃げちゃうぞ。」
「兄上ーーー!?」
あらあらぁ。
今女王騎士長と内務長官に逃げられちゃったら、ファレナ女王国は大変なことになっちゃいますねぇ。
これは、陛下を説得しなきゃいけないみたいですぅ。きっと、わがままいっぱい言ってくれるんだろうなぁ。
陛下のわがままも久しぶりに聞けると思うと、なんだかおもしろくなってきましたぁ。
あ、閣下とルセリナちゃんのことも忘れてないですよ?
これからどれだけ楽しめるのか、計画を練るのに眠れない日々が続きますねぇ♪