黄昏(ヴィルヘルム×リオン) 著者:前野199様

黄昏の刻。
大地も、河も、夕焼け色に染まる。
当然本拠地においてもそれは例外ではなく、男が釣り糸を垂らす水面も紅く染まる。
まるで血の池だ、と物騒なことばかり思いつくのはもはや職業病だろうか。

王子軍の目標であった王都奪還を果たした現在、本拠地は閑散としていた。
それでもかろうじて機能を果たしているのは、いまだ戦いが終結していないため。
ソルファレナや王宮という格式高い街の空気に馴染めなかったヴィルヘルムは
王宮の護衛として自分の部隊から人手を貸し出すと、早々に本拠地に帰ってきていた。
釣りなんて性に合わない行為も、まもなく離れるであろうこの場所への、彼なりの別離の挨拶である。
ふと、夕日色の水面に人影がさす。
「…よお」
ヴィルヘルムは特に振り返りもせず、影の主に挨拶をした。
「あんたが1人なんて珍しいな。王子もこっちに来てるのか?」
「…今はサイアリーズ様の墓前に。今日は、おひとりで過ごされたいそうですから」
リオンが静かに答えた。

「釣れますか?」
ヴィルヘルムの隣にちょこんとしゃがみこむ。
「どいつもこいつも俺様を馬鹿にしやがる。まあそれもいいさ。
 ガラクタがひっかかったと思ったが、いい金になるヤツもあるらしい」
男の反対隣をちらりと見て、リオンは思わず微笑む。彼の戦績は壷や長靴ばかりだった。
「まだ本調子じゃないみてえだな」
「え?」
糸から少女に視線を移したヴィルヘルムがつぶやいた。少女の血色が良くないのは夕日のせいではない。
「普通は逆に顔色がよく見えるはずなのにな。相当無理してねーか?」
「無理なんて…私だけじゃありませんし、多少は無理しないと。
 まだ、太陽の紋章が残っていますから」
ファレナ女王国が長い歴史のなか守り続けてきた、27の真の紋章の1つ。
それを取り返すことができなければこの内乱は終わったことにはならない。
少女の頑なな決意も理解できるが、ヴィルヘルムは引っかかっていた。
「ねーちゃん、ちょい」
「?何で…きゃあっ」
手招きしてきた大きな手はリオンの腕を捕らえると強引に引き込んだ。
油断していたリオンはバランスを崩し、気づけば胡坐をかいているヴィルヘルムの膝の上にすっぽりと納まっている。
少女が座りやすいように抱え直すと、再び釣りを再開した。
「ほら見ろよ。今日の夕焼けは格別綺麗だぜ」
「…別にあなたの膝の上でなくても夕焼けくらい見えますけど?」
「まあそう堅えこと言うなよ。息抜きしに来たんだろ?」
「…」
諦めたのか、拒むことなくリオンはそのまま静かにしていた。
息抜きというのは確かに間違ってはいないのだが、ここに足を運んだのは美しい景色の為か、この男がいたからか。
自分にすら出せない答えをこの男は見抜いているようで、リオンは小さく溜め息をつく。

紅く染まる景色の中、二人揃って釣り糸を気にしながら他愛のない話で刻は過ぎた。
どちらも先日まで返り血を浴び、仲間の断末魔の叫びを聞いていたとは思えないほど
それはあまりにも平穏で、安らかな時間。
「でよ、その酒はファレナに来てから知ったんだが…」
「あのっ」
平穏を逆に恐れるかのようにリオンは話を断ち切った。
「ん?」
振り返ると豪胆な戦士の顔が目の前にある。いつもの下卑た笑みではなく、周りの景色のように落ち着いた瞳。
「あの、ですね…」
「おうよ」
きっとこの男は気づいているのだろう。自分が気づかないふりをして、逃げているものを。
何も聞いてこないのはこの男の優しさか、ただの余裕か。
ソルファレナで紋章を受け継いでから、彼女の左手を気にしなかった者はこの男が初めてだった。
「ヴィルヘルムさんは…怖いと思ったことがありますか?」
「あぁ?急に難しいこと聞いてくんな」
頭を掻き、無精髭をいじりながら思いを巡らせる。
「そうだな、怖いか…あえて言えば、世界って怖えよな」
少女の瞳がきょとん、と丸くなる。ヴィルヘルムは口の端をニヤリと上げて話を続けた。
「世界に比べりゃ人ひとりなんてちっぽけな存在だ。
 争いでたくさん人が死んじまっても世界は動く。その死体のひとつが俺だったとしてもな。だから強くなるのさ」
「死なないために、ですか」
「いや、死なないってのも間違っちゃいないがちとずれてるな。
 悪あがきをする為さ。一日、一刻でも俺の存在を世界に知らしめるために」
所詮は悪あがきだけどな、と明るく笑い飛ばす。
「そういうあんたはどうだ?怖いモンでもできたのか?」
「あ…」
途端、リオンの表情が強張った。
「わたし、は」
ヴィルヘルムは微かに震える小さな肩を空いたほうの手でぽん、と叩き、背中をそっとさする。
ゆっくりと、リオンが言葉を吐き出せるように。
「王子をお守りする為に、そのためなら怖いものなどなにもありませんでした。
 私が幽世の門だったと伝えた時、王子に嫌われることが怖かったくらいで…
 でも」
自分の左手を夕日にかざす。小さな少女の手。その手の甲に紋章が紅く光る。
「…どうして私に宿せたのかわからなくても、王子のお力になれるなら、と
 そう、思っています。今でも。私でも役に立てるんです、この紋章を使えるのが…」

こわい。

「…っ」

体を蝕まれ、こころを削がれているようで。

「ねーちゃん」
「紋章を…宿してから、体も、心まで、弱くなってるようで、こんなんじゃダメなのに。
 王子をお守りしなきゃいけないのに、自分が言うことを聞いてくれなくて…っ!
 あと、もう少し、もう少しなのにっ!!」
少女がやつれて見えるのはかつての傷の所為ではないと、
他人にとってはただの予測でしかなくともリオン自身は確信していた。
わかっていた。黄昏の力に蝕まれていると。
それでも弱音を吐くことなんて、できるはずがなくて。
王子も、ゲオルグ様も、ミアキス様もロイ君だって言えばきっと優しく受け止めてくれると知っているけど。
これ以上心配をかけたくない。足手まといになりたくないから。

パシャン。
ようやく魚が引っかかった釣竿が、手元を離れて湖に吸い込まれていった。
竿を持っていた大きな手はリオンの背中を強く支えている。
「ごめん、なさい」
「謝るこたあねえよ」
「だって」
あなたになら、甘えてもいいなんて。
「ひきょうじゃないですか…」
黄昏の世界が広がる中、遠く桟橋に男の背中を見つけたとき。勝手に足が向かっていた。
「あんたの独り言を俺が勝手に聞いてるだけさ。それに、」
少女の顎に手をかけ、自分に向かせた。濡れた蒼の瞳はヴィルヘルムを真っ直ぐ射抜く。
「俺が、他の奴らが何を言っても、あんたはそれを外す気ねえんだろ?」
涙に濡れても、瞳の奥の信念は揺らいでいない。
「…はい」
「なら今は泣けばいいじゃねえか。たとえ逃げたいと言ってもあんたを咎めねえよ。俺にそんな資格はねえしな。
 ただ泣きたいあんたを重いとも思わん。いくらでも抱えてやるよ」
ねーちゃん1人くらい、軽いもんさ。と。
ヴィルへルムはいつものように笑い飛ばした。
今、この国の運命を左右するモノに対抗できる、チカラ。その片割れを手にした少女。
だが、ただの少女なのだ。
盲目的に崇拝する王子の為にと強がっても、その体も精神も器はまだ未成熟で。
人々を巻き込み、導く覇者の器を先天的に持つ王子と肩を並べようとすれば弥が上にも負担はかかる。
そしてこの少女は馬鹿なほど生真面目すぎて、全てを自分に閉じ込めていた。
「相変わらず、不器用なこった」
「ふ…」
泣きじゃくる小さな背中を優しく抱き締めた。
見ていた夕日が沈んでいき、かわりに闇が広がるあいだ、ずっと。

完全に日が暮れてしまった頃、リオンはようやく落ち着きを取り戻した。
顔を上げると、冷たい空気が頬に触れる。ヴィルヘルムにすっぽりと包まれていた状態だったリオンは
はじめて冷たい夜風から守られていることに気づいた。
両手を伸ばし、自分より冷えてしまったヴィルヘルムの頬を包む。
「すみません、こんな時間まで…」
「気にすんな。もう大丈ぶふぉっ」
リオンがそのまま腕を回し、ヴィルヘルムの頭をぎゅ、と抱き締めた。
当然ヴィルヘルムの顔にやわらかい膨らみが押し付けられ、リオンの温もりが伝わる。
「ほえー、こりゃ極楽だあ」
「…」
「でもよう、ねーちゃん。俺も男だからなあ、こんなことされちまうと…」
「っひゃっ!」
大きな手が太腿を這い、平然とスカートの中の双丘をまさぐる。
咄嗟にリオンは腰を落とし、ヴィルヘルムの腕をつかんだ。見上げるとヴィルヘルムの満面の笑みがある。
「…」
「んー?」
顔も真っ赤にしながらも、ヴィルヘルムの手をはねよけようとしない。
ヴィルヘルムの知っている彼女なら、視線もそむけるはずなのだが。
まさぐる手を止め(しかし手は置いたまま)彼女の様子を伺う。
「…て、くれますか?」
小さな、夜風に消え入りそうな声。しかしヴィルヘルムは聞き取れた。
だいてくれますか、と。

「…当然、そういう意味で言ってんだよな?」
「ダメ、ですか」
「いやあ、俺は大歓迎だが…あんたはそれでいいのか?」
来るものは拒むどころか大歓迎のヴィルヘルムだが、何でもいいというわけでもない。
彼女はまだ男を知らないはずだ。破瓜が心身ともにそれなりの痛みを伴うこともいくら彼女でも知ってはいるはず。
「こないだのはただの手伝いだから俺も相当我慢してた。前と同じようにはいかねえ」
リオンはゆっくりうなずき、ヴィルヘルムの首にしがみついた。ヴィルヘルムの耳に小さな声が届く。
「こんな、こと…愛とかそういうのを、よくわからない私がお願いするのは、卑しいことだって、
 あなたにも失礼だと思います…でも、あなたは、こんなみっともない私を、私でも
 誰にも言わずに、ただ、受け止めてくれたから…おねがい、します…」
ヴィルヘルムは大きく溜め息をついた。
「だから、いちいち自分を悪く言いなさんな。ねーちゃんに覚悟ができてるなら構わんよ。
 怖いモンも何もかも忘れさせてやるさ」
「忘れ…られますか?」
しがみつく腕を緩め、そろりと男の顔を覗き込む。ニヤリと不敵な笑みが返された。
「忘れたいんだろ?」
「わたしは」
無意識に発した願いをゆっくりと反芻してみる。
あんなことを言ってしまったのは、あの方に似ているから…?
ちがう。それだけじゃない。
この人は私の世界の小ささを笑い飛ばしてくれた。
じゃあ、この人の世界は?
私より、もっともっと大きくてどこまでも広がっていそうな、あなたの世界を。
「みたいから」
「見たい?」
「あなたの、その目に広がる世界を見たいんです、私も…。教えてください」
ヴィルヘルムはクッと喉の奥を鳴らして笑う。
「んな理屈で考えるな。俺の世界は目でみるもんじゃねえ、感じればいい」
リオンの顔を両手で包む。その手に対して小さく、儚い顔。
やわらかい頬に感じる手の感触はあたたかくて、リオンにはむずがゆく、そればかり気にしているうちに
「ん」
唇にいままで経験したことがないものを感じた。
初めて感じる他人の唇がどんなものかよくわからないまま、さらに刺激は口の中へ移動する。
「んふ、んんっ…」
背中の大きな腕が逃げることを許さないで、さらに強く少女を抱き締める。
さらに深く、さらに激しく。リオンがこれ以上何も考えられなくなるまで舌が舌を犯し続けた。
「ふぁ、はあ…ん」
ようやく唇を解放されたころには体力まで吸い取られたかのようにふらついた。
体に力をいれることもままならず、だらりとヴィルヘルムに体を預ける。
「気持ちよかっただろ?」
リオンを覗き込む満面の笑みは少年のようだ。
「よく、わかんないです」
「それでいいんだよ。この程度でへたれてると最後までもたねえぞ?」
ヒャハハハといつもの笑いが夜の世界に響いた。

その頃、本拠地食堂では落ち着かない様子で歩き回るロイがいた。
様子を見ていたベルナデットと視線が合うと珍しくロイの方から声をかける。
「なあ、リオン、見なかったか?」
「リオンさんを探していたの?うーん、…殿下と一緒じゃないの?」
「いや、王子さんにはもう聞いた。今日は自由にしてるらしいんだけど…」
悪い、あんまり気にしないでくれ、と言いながら食堂を去っていくロイを見送り
ベルナデットはひとつ溜め息を落とす。
先刻、塔の高台から桟橋をたまたま見渡していたときの光景。
傭兵の隊長に近づく人影は多分、先程の話題に出た少女。
ずっと注視していたわけでもないのでそのあと彼女がどうしたかなんてわかるはずもなく。
ただ、その不思議な組み合わせが心に残っていた。
「話した方がよかったかしら…」
ベルナデットは下手にそのまま話してロイを刺激しないほうがいいと判断した。
それは女のカンなのだろうか。
あえて理由をあげるなら、その組み合わせが不思議ではあったが不自然に感じなかったから。
二人のいる光景を壊したくなかったのだ。
結局、ロイのほうもリオン探しを諦め、一旦自室に戻っていった。
寝台に身体を投げ出し、最近元気のない少女を想う。
「リオン…」

皮肉なのは運命か、それとも頑丈にできた遺跡の造りか。

部屋の壁1枚向こうで、探していた少女が嬌声を上げているなんて。
ロイに気づくことなどできるはずがなかった。

人目を避け、リオンを抱えたヴィルヘルムが向かったのは宿屋…の先の下り坂。
軍の要人の多くが太陽宮に移ったいま、この円堂も閑散としていた。
螺旋を描くなだらかな坂を歩き、最初に辿りつく扉を開ける。
全ての星が王子の下に集っていたらその部屋にも仲間が滞在していただろうが、
ヴィルヘルムの入った部屋は雑然とした物置になっていた。
「自分で立てるか?」
リオンを降ろし、後ろ手に扉を閉める。
「…まさか、いつもここに女性を連れ込んだりしてるんですか?」
「んなコソコソしねえよ。他のヤツらは使ってるみてえだけどな」
憮然とした表情をみせるリオン。そんな彼女に大きな手が頬をつまみ、ふにふにとやわらかい感触を楽しむ。
「俺は別にさっきのとこでもよかったんだが、あんたが風邪引いちまったら大変だしなあ」
「にゃっ、ふにゃけ、もう、ふざけないでくださいっ!外でそんな事できるわけないじゃないですか!」
しゃべりを邪魔する指を抑えて叫ぶ。
「星も綺麗でココより色気があると思ったんだが…しょっぱなから青姦は早すぎるか…」
「あおか…?なんですか?」
「独り言だ、気にすんな。わりいな、布団もムードもねえとこで」
保管してある毛皮や反物を勝手に敷き、寝床を作る。
「逃げるなら、最後のチャンスだが?」
ヴィルヘルムが目の前で鎧のベルトを外し始めるのでリオンはあわてて背を向けた。
「…逃げませんよ。ここに来たのも私が人の目を気にしてるのを、気遣ってくれたとわかってますから」
頬を真っ赤に染め、背を向けながらもとりあえず、ありがとうございますと礼を伝える。
がちゃん、と音が響く。鎧を外したヴィルヘルムはそのまま上衣も脱ぎ、厚い胸板を外気に晒した。
「なら、来いよ」
誘導されるまま振り返るが、ヴィルヘルムの上半身に顔を上げることができない。
リオンの手を引きながらヴィルヘルムが先に毛皮に座り、リオンも隣へ座らせる。
「あ…」
もはやからくり人形のような動きの少女。潤ませた蒼い瞳で男の顔を見るのが精一杯だ。
「んな顔するな。我慢できなくなっちまう」
「え、あ…ちょっと」
毛皮のかたまりを背当てにし、脚を伸ばすと自分の腹の上にリオンをまたがらせた。
強張るリオンを抱き寄せ、今度は優しく口付ける。
「ほら、簡単だろ?やってみな」
「い、今のですかっ」
「目閉じててやっから」
そう言ってその体格に似合わずおとなしく目を閉じてじっと待っている。
迷いながらもリオンは広い両肩に手をかけ、そっと、かろうじて触れる程度に唇を重ねる。
だが、ヴィルヘルムは動かない。
「…うう」
少しずつ、繰り返されるキスの練習。次第にリオンの唇の感触がはっきりと伝わる。
重ねる唇に無駄な力が抜けてきた頃、桜色の唇をちろりと舐められた。
「なかなかうまかったぜ、ごちそーさん」
「…変な言い方しないでください」
「そう拗ねんなよ。手本みせてやる」
今度はヴィルヘルムの方から唇が重ねられる。
意外に柔らかい唇は桜色の下唇をやんわり食み、なぞるように舐め上げる。
「ふ…」
抵抗をみせない唇にゆっくりと舌が侵入する。
ヴィルヘルムの頬にかかる少女の黒髪をすくと、さらりと絹のように心地良い。
「ん、ふぁ…」
わずかに吐息を漏らすたびにリオンから力が抜けていった。
もたれかかる女体の曲線を堪能するように武骨な指が背中を辿り、しゅるりと帯の結び目を解く。
「あ」
リオンが気づいたときは、鎧を留める紐を慣れた手つきで解いていた。

「ほら、ちょっと起きな」
半身を少し浮かせば鎧はあっさり取り払われる。リオンを抱き寄せ上半身をぴたりと密着させた。
「これでようやくあんたのやわらかさが堪能できる」
「それは嫌味ですか…どうせ胸とか肉付きよくないですから」
「ハッ、でかきゃイイってもんじゃねえさ。俺はあんたみたいに感度が高い方が好みだが」
「もう、そういうこと言うのやめ、っひゃあんっ!」
リオンが文句を言おうと体を浮かせると、大きな両手は隙なく胸の膨らみを堪能し始める。
リオンの身体を持ち上げるような体勢のため、揉みしだく手の動きに細い上半身はゆらゆら揺れていた。
「あっ、はあぅ、んっ、ん、待って、っ」
「こうやって念入りに揉んどけば成長するって言うぜ?」
過敏な乳房は衣の上からでも突起した蕾を露わにした。指の腹で弄ぶと少女の身体が跳ね上げる。
「んんっ、んふぅっ」
弄ぶその手を止めず、さらに再び唇を塞ぐ。
 ぐちゅり、ぴちゃ、ちゅくっ。
舌を、歯列を、男の舌が卑猥な動きでかき回し、二人の唇の隙間から唾液が垂れてもなお止まらない。
「ふぁあ、あむ、ん」
いつしかリオンの舌も自ずから絡めるようになると、桜色の上衣の合わせを解き、膨らみに直接触れる。
「んふぅっ!!はあっ、ひゃああっっ!!!」
唇は解放されたものの、ヴィルヘルムの舌は耳へうなじへと執拗に刺激を与える。
白い肌に赤い花びらを残すと、リオンの身体を上へ抱き上げた。眼前にある桜の蕾をおいしそうにしゃぶりつく。
「あ、あっ!!」
捕まるようにヴィルヘルムの頭にしがみつき、必死に快楽を受け入れる。
少ない肉をたぐり寄せ、先端の蕾を舌先でいじられると、一際高い声で鳴いた。
「外には聞こえねえんだ。もっと鳴いてくれ。あんたの綺麗な声、ゾクゾクするぜ」
太腿を、そして突き出た双丘を撫で回し、揉み上げる。
中指を一本、双丘の割れ目をなぞっていくと、秘所を覆うタイツにまで愛液が染み出していた。
指の腹でぐにぐにと刺激を与えると、リオンの耳にぐちゃりと卑猥な音が届く。
実際には聴覚ではなく触覚で感じたのだが、リオンにはそれすら判断ができなかった。
「やああ…ああっ」
「おっと」
しがみつく力も抜け、だらりと身体を預けるリオンを抱き止める。
胸元のリボンもほどき、上衣を脱がせた。
どうやら胸元も隠す余裕もなく白磁器のようにすべらかな肌を晒し、荒げた呼吸を整えている。
「はあ、はあ…」
「大丈夫か?」
子供をあやすように髪を撫でる。くるりと指に巻きつけてもすぐに零れ落ちる感覚が気持ちよくて、
ヴィルヘルムはリオンが落ち着くまで絹髪の触り心地を楽しんでいた。

「脚のプロテクター、自分で外せそうか?」
赤らんだリオンの頬をふにふにとつまんで反応を伺う。
ふらついていた焦点も定まり、こくりと頷いた。
ヴィルヘルムの腹から降り、プロテクターのボタンを外す。両足とも脱いでぺたりと座り込むと。
  「・・・」
ぼんやりとしていた思考が凍りつき、リオンの視線は一点に集中する。
それは、ヴィルヘルムが緩めたズボンから飛び出してきた、モノ。
「ん?そんなに珍しいか?王子も顔に似合わずご立派なのついてんじゃねえか」
「お、王子はそんなっ!いびつなもの…っ」
そこまで言って、自分の言葉に湯気が出そうになる。
目の前にあるモノが股間についた王子がリオンの頭をよぎり、慌てて首を横に振った。
(ちがーーうっ!!!王子が、王子がそんなっ…)
王子が性別上オスなのは重々承知している。
だからといって王子にもこのような太く赤黒い物体が存在すると思いたくなかった。
「そんなにビビんなよ。ほれ、触ってみな?」
百面相するリオンに笑いをこらえながらもリオンの腰に手を回し、誘導する。
「ううっ…」
リオンの手がゆっくり近づくとそそり立ったモノはピクリと揺れる。
「っ!」
「別に襲ってこやしねえよ、そっと触ってくれや。掴まれたら俺だって痛えからな」
言われるままにそっと肉棒の先端に触れてみた。
ぬるり、とリオンの指先にぬめった液が絡みつく。
「熱い…」
「ああ、あんたの中を掻き回したくてこんなになっちまった」

「あ」

「ん?」
再び固まるリオンをヴィルヘルムは不思議そうに眺める。
リオンはリオンで、最も重要なことをすっかり忘れていた。
これが、入ってくるのだ。自分の中に。
知識としてぼんやりと知っていても、いざ現実を目の前にすると到底信じられない。
こんな太いものが、一体身体のどこに収まるというのだ。
万に一つ、口に入れたとしても喉につかえて入りきるはずがない。
それを、よりによって―――。
「ちゃんと入るから心配すんな。女体の神秘ってやつよ」
ヴィルヘルムが引き寄せ、軽いキスを落とす。
この状況で不安要素などそのくらいしか思いつかなかったらしい。
「まあ初めから痛くないってのは無理なハナシだがな。それも覚悟の上だろう?」
耳元に低い声がそっと響く。
「痛いのは、覚悟してます。けれど、その…」
「大丈夫だから、深く考え込むな。ほれ、もっと気持ちよくなれよ」
そういって言葉は熱い吐息となり、リオンの耳を、首筋を、感度の高い箇所を刺激する。
「あっ…」

先程とは逆にリオンを寝かせると、下半身を覆う衣に手をかけた。
スカートとともに黒いタイツと彼女らしい白いショーツもずるりと引きおろされる。
リオンは抵抗も見せなかったが、愛液溢れる秘所を隠したいのかもじもじと太腿を寄せて視線を逃れる。
結果的にヴィルヘルムに白い臀部を見せつけて欲情を掻きたてることになってしまったのだが。
「そんなに誘われると喰っちまうぞ」
それはリオンに、というより目の前の白い双丘への言葉。
「え?っうあん!」
双丘の割れ目を沿うように骨太い指がつたい、くちゃりという音が秘所へ辿り付いた事を知らせる。
「ああっ、やっ、ふうっん、ん、ん、んっ」
指が刺激を与える度にみずみずしい双丘がぷるぷると揺れる。
ニヤリと笑いを浮かべたヴィルヘルムは悪戯小僧の瞳をしていた。
 はむっ。
歯は立てず、厚い唇で双丘の片割れをぱっくりかんだ。
「へっ?やっ、ちょっとそんなっ」
リオンの制止を無視し、秘所への愛撫を止めぬまま唇と舌で肉の感触を楽しむ。
「やあ、だめですっ、くすぐったい…っ」
「そうかぁ?ココのよだれは増えてきたぜ?」
「…っ、そんなことっ!」
ふくれるリオンを笑いながらなだめ、ヴィルヘルムは試しに中指に力を入れた。
「っ!ふ…うっ…」
愛液を纏わせ、それが溢れる壷の中へとゆっくり押し入れる。
初めて侵入する異物を拒むように内壁は収縮し、ヴィルヘルムの指を締め付ける。
「コラ、力むな」
「そう、いっても、ん、うまく、力が、抜けなくて…」
指をゆっくり出し入れる度、白く細い脚が僅かに痙攣する。
内壁を傷つけないように、節を曲げながらリオンが反応する箇所を探った。
「ん…」
「痛いか?」
ふるふると首を横に振る。
「なんか、ぞわって…」
もう一度探りを当てると、今度は明らかに艶やかな声を上げた。
繰り返し、しつこいほどに同じ箇所に刺激を与える。
「ああっはあ、んっ、ひゃっ、ああ、あ、ああっ!」
溢れる愛液は指をつたって手の平までぐしょぐしょになっていた。
「ゾクゾクするんだろ?一度いっちまいな」
低く、そして優しく響く声にリオンは必死に抗う。
「や、だめ、だめっです!お願い、あなたも、あなたもっ…」
ヴィルヘルムの手首を押さえ、懇願した。
もうろうとした意識の中、自分だけ刺激の波に溺れるのをよしとしなかった。
これでは、前の、あの時と変わらない。
苦笑いしたヴィルヘルムは指を抜き、抑えていたリオンの手を取って甲にキスを落とす。
「いいんだな?」
乱れた呼吸の中、リオンはこの日初めてヴィルヘルムに笑顔を見せて、頷いた。

完全に組み敷かれたリオンは、自分の意識とは無関係な脚の震えを止めようと力を入れる。
だが震えは止まるどころかさらに言うことを聞かなくなった。
「気にしなくていいから力だけは抜いとけ」
震えを収めるように大きな手が両の腿を優しくさする。目の前にある瞳に宿るのは以前に見た、真摯の光。
「ああっ…」
既に秘裂にはヴィルヘルムのモノがあてがわれていた。
指とも異なる熱い感触に自然と甘い吐息が漏れる。
 くちゅり、ぐちゅり。
肉棒の先端に愛液を塗りこみ、位置を定めて、体重をかけた。
「うっっ…ふううっ!!!!」
今までの快楽の刺激が全て無に返されてしまうほどの、ただの痛み。
指より遥かに太いモノを受け入れながらリオンは必死に痛みに耐える。
ヴィルヘルムの方も愛液で潤ってもなお激しい圧迫感の中、できる限り痛みを与えないようゆっくり腰を落とす。
「うああ…ううっ」
「もう少し…力、抜けるか…?」
頑強な身体にしがみつく少女を落ち着かせるにも、果たして自分の言葉は彼女に届いているのだろうか。
艶やかな黒髪を梳かし、少女の耳元へ、低く静かに言葉を放った。

「リオン」

「あ…」
なつかしい、ひびき。
その声が放った音が自分の名だと認識するのに、数瞬。
「リオン」
ヴィルヘルムがもう一度呼ぶと、蒼玉の瞳から溢れるように涙がこぼれた。
「ああっ、っ!ふぁあああっ!!!」
緩んだ内壁に肉棒が最奥まで押し入った。
自分の身体の下で全身を震わせる少女を抱き締める。
「ああっ、あ、ヴィル、ヘルムさ、ん…」
「ちゃんと入っちまったぞ?」
大きな手が柔らかい頬を包み、小さな白い手がその手を覆った。
「ヴィルヘルムさんに、名前、呼ばれると、あったかい、です…」
「そうか」
優しく、ついばむようなキスを落とし、涙も舐めて、二人はさらに深く繋がる。
ゆっくりと繰り返されていた挿入も、内壁の抵抗が弱まるのにあわせて次第に激しくなっていった。
「ああっ!!いっ…んん!!!」
「もう、少しの、我慢なっ…!」
ヴィルヘルムに激しく叩きつけられ、細いリオンの身体は折れそうなほど波に揺れた。
だがその口から拒絶の言葉は一切無く、全ての刺激を一身に受け入れる。
やがて苦悶の喘ぎの間に、少しづつ、甘い吐息が漏れた。
「うあ、あ、はぁ、ああっ!もう、もう、壊れてしまい、ま、す!うう!!」
「もう、ちょいだっ!リオン…!リオン!!!」
「はあっ、いっ、ヴィルヘルムさぁんっ!!!」

「あああっ…!!!」

肉棒が抜かれ、リオンの肢体に生暖かい液が勢いよくかかる。
白濁の液は、血に混じってくすんだ色をしていた。
「お疲れさん。…がんばったな」
「…はい」
聞き覚えのある言葉に思わず微笑んだ。

そして、戦いは終結した。
太陽の紋章は王宮に戻り、国に平和が訪れる。
そして次なる戦を求め、傭兵旅団は旅に出るのだ。
「すっかり沈んじまったな。影すら見えねえ」
ファレナ王国を出る直前、ヴィルヘルム達はかつての本拠地が沈むセラス湖に来ていた。
あの砦には命を落とした傭兵仲間や、この戦いで背中を預けた仲間達が眠っている。
ヴィルヘルムをはじめ、隊員達は皆ここの仲間達が好きだった。
湖を見つめ、皆それぞれ最後の別れをする。
声を上げて泣き出す者もいたが、今日に限りミューラーも何も言わなかった。
「…」
あの、少女も。ここに眠っている。

最後の戦いの後、王子に抱きかかえられて帰還した少女の体にはぬくもりが消えていた。
全ての戦いが終わり、王宮では祝宴の話が始まっているだろう。
だが、本拠地の住人は喜ぶことなどできなかった。
それだけ少女の存在が大きかったことを思い知らされる。

じっと湖を見つめていたヴィルヘルムの視界に見慣れた金髪の頭が入ってきた。
「リヒャルト、どっか行ってたのか?」
少年は振り返るといつものようにへにゃりと笑う。手には1輪、白い花を持っていた。
「?」
「ミューラーさんがね、さっきあっちの崖の下覗いてたんだ。
 何かなあって僕も覗いたら、絶壁の途中にこれだけ咲いてて」
「んで絶壁おりてそれを摘んできたのか。おめえよく落ちなかったなあ」
「へへー。何か、あんな所で1輪だけ咲いてるなんてすごいよね。
 白いし、あの子に似てるなあと思ったから」
そういって湖の方へ駆けていく。ヴィルヘルムが思わず目を見開いたことを気づいただろうか。
リヒャルトがそっと水面に花を浮かべると、静かな風がゆっくりと、
かつての砦に向かって花を泳がせる。
 『名前、呼ばれると、あったかい、です…』
名前など、呼ばなければ良かっただろうか。
ヴィルヘルムは普段から女性を名前で呼ぶことが少なかった。
それは決して女性を軽んじているわけではない。女も、土地もひとつに固執することがない彼の生き方ゆえ。
余程想い入れが強くなければ名前を呼ばないのは、忘れることができなくなるからかもしれない。
(いい女だったぜ、リオン)
頬を紅く膨らまして怒る少女の顔が目に見える。
「さて、」
湖を背に向け、隊員たちを見回す。コキコキと首を骨を鳴らすのはいつものクセ。
「そんじゃ、行くか!」
「ウィーーーーッス!!!」
いつもの声、いつもの表情。いつものように、旅立つ。馬に乗ると、もう一度だけ湖に視線を投げた。
「じゃあな」
つぶやくと、ぽんと馬の腹を蹴り、男達は旅立っていった。

END

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