5主人公×ラン 著者:群島好き様

その少女はしきりに時間を気にしていた。
サウロニクス城下町の入り口で、ウロウロと行ったり来たりを繰り返しては遠くを見つめ、ハァ…と一つ溜息をつく。
いや既に一つではない。もう何度もそれを繰り返しては時折通りすがる人に奇妙な目で見られていた。
「……おっそいなぁ……」
口に出すのももう何度目か、少女は―いや、竜馬騎兵の制服に身を包む女性は頭を捻る。
もしかして日にちを間違えたのか?とも思ったが、手紙は穴が開くほど何度も確認した。
――時間を無理矢理空けたからそっちに行くよ
そう書いてあるのを見て、人目を憚らず「やったぁー!!」と叫んで同僚の注目を浴びてしまった。
それほど嬉しくて、自分の部屋に帰ってからも何度も目を通した。その時は柄にもなくにやけた顔をしていたかもしれない。
そう彼女、竜馬騎兵団初の女性団員となったランは恋人を――その言い方は彼女を照れさせ怒鳴らせてしまうが――待っているのだ。
かつて起きたファレナの地の騒乱を共に戦い駆け抜けて、お互いの想いを重ね合った恋人を。
最初は身分の差から叶わぬ恋だと思っていた。しかし男はそんなもの、と一蹴した。
「ランだから。ランじゃなきゃ嫌だ」
その言葉に思わず涙して、こんな場面幼馴染には見せられない、と思ってしまった。
しかし戦乱後の処理はお互いの居場所を遠く隔ててしまう。
男は戦後処理に文字通り駆け回り、一緒にいられる時間は少なかった。
そして少女もそんな恋人に負けないようにと、密かに願っていた竜馬騎兵団に入りたいと打ち明ける。
離れる事は辛い事だけれども、互いの進むべき道を尊重して生きていこうと誓った。
一緒にいられる時間は格段に減ってしまったが、その分二人の想いはより高まり、一緒の時間を大切にした。
他人から見て非常にサッパリとした関係ではあったが、それが二人の付き合い方。
仲の良い友人にしか見えなくとも自分達だけがわかっていれば構わないと楽しく過ごし、体を重ね逢瀬を重ねてきた。
戦乱終結から四年。そして今日も――
久し振りに会える嬉しさについ、こんな城下町の入り口で待っている。まだかまだかと少々イラつきながら。
そしてランの華のような笑顔が炸裂する。
(見えたっ!!やっと来たっ!!)
他人の目を気にすることなく両手を振って、居ても立ってもいられず走り出す。
男の馬の傍に立って開口一番、溜まった思いを口にする。
「おっそーい!いつまで待たせる気だ、王子様!?」
恋人同士の再会の瞬間とは思えぬ言葉。しかしそこに悪意は何もない。それが分かっているからこそ、
「ハハ…勘弁してよ…。これでも急いで来たんだから…」
少年から立派な青年になったファルーシュは苦笑するしかなかった。

「何も入り口で待ってなくても、部屋まで迎えに行ったのに…」
馬を預けてきて、一緒に歩きながらサウロニクス城へ向かう。
「なんだよー、折角待ってあげたのにひどい言い草だなー」
プンスカと、しかし本気で怒っていない様子にファルーシュは、相変わらずだな、と思う。
そしてもう一つ、試したい事が頭に浮かぶ。
「ごめんごめん、愛しの恋人を長い時間待たせて悪かったなって思ってね」
「ば、ばっきゃろー!恥ずかしい事、昼間っから言うんじゃねーよ!」
顔を真っ赤にさせて大声で照れを隠そうとする。いかに成長しようとも変わらない恋人にファルーシュはついつい嬉しくなる。
「ハハハッ、ごめん。……本当に変わらないなぁ、ランは」
その様子にからかわれたと感じ取ったランはまた頬を膨らませる。
「ったく、王子様も相変わらずだよ…」
そしてしばらくしてからどちらからともなく笑い声が出る。屈託のない笑い。
お互いを知り尽くしているのだなぁという思いからでた笑いだった。
そしてファルーシュは最愛の女性を見る。
内面は変わらないが、容姿は大分美しく変わった。母親譲りかその美貌は着実に女性のものへ変化している。
共に戦っていた頃は、快活な少女らしさに気を惹かれたが、今はそれ以上に魅力を感じる。
あの人に似ないで本当に良かった…と心の中でガハハと笑う男を思い浮かべ、そして神に感謝する。
残念ながらその格好はもう竜馬騎兵の制服に変わってしまったが、独自にアレンジを加えたそれがまた似合っている。
動きにくいから、と下半身はスカート状になっておりその下からは、昔から見慣れたスパッツを履いている。
あの頃は結構際どい格好をしていたのだなぁと今更ながらに思い、少し残念にも思う。
「ラン…僕はもう王子様じゃないよ?まぁ、二人の時は別に構わないけどね」
「あ〜、ずっとそう呼んでたからなかなか直らないんだよなぁ。母さんからも注意されたし…」
本当に忘れてた、とあっけらかんに言う恋人にまたちょっかいをかけたくなる。
「言い易いほうでいいよ。本音を言えば…」
「本音を言えば?」
「ファルーシュ、とか、あ・な・たとか呼ばれたいなぁ」
ボンッ!と音を立てて再び顔を真っ赤にする。
「また、恥ずかしいことを…!!」
わーわーと街中だと言うことも忘れてファルーシュに突っかかる。
そしてランもファルーシュを、大好きな人を見る。
あの頃のあどけなさを残しつつ、今では誰もが目を見張る青年に成長した。
その柔らかな、だが逞しさを併せ持つ容姿は世の女性を虜にし、現に今も街中の女性がファルーシュをみつめている。
今は普通の昔たまにみた服装のようなものだが、女王騎士長の格好は呆気に取られるほど、男性に言う言葉ではないが美しいと思った。
自分には勿体無いと思った事もあるが、今はもう誰にも渡したくない。
ファルーシュは自分だけのものなのだ!その思いを他の人に見せ付けるように、腕を抱き締める。
「ラ、ラン!?」
(お?驚いてる驚いてる!)
こういう時でなければ仕返しは出来ない。ファルーシュの驚く顔を堪能しつつ、言葉を発する。
「ほらほら!さっさと用事は済ませちまおう!」
あまりベタベタするのは好きではないが、今日ぐらいは構わないだろう。
せっかく会えたのだ、二人きりの時間にさっさとしなければ、そう考えて稀代の英雄を引っ張っていった。

「えっと…ゴホン!団長、ランです!女王騎士長閣下をお連れいたしました!」
おやこんな言葉遣いも出来るようになったのか、とファルーシュは思いながら用事のついでを――本来はこちらが重要なのだが――
済ませようとサウロニクスの竜馬騎兵団団長の部屋の前に立つ。
「入りたまえ」
以前の主のような貫禄のある声ではないが、落ち着いた凛とした声で返答される。
「はい、どうぞお入り下さい!閣下!」
ドアを開けられ、ランの前を通る時「似合わないなぁ…」と呟きランの顔を引きつらせる。
何か言いたそうに睨んだが、その事は後で聞こう。時間はあるのだから。
「閣下直々にサウロニクスにおいでになられるとは。よくぞいらっしゃいました」
現在のこの部屋の主はラハル。その冷静さと観察眼、そして十分過ぎる程の力を買われて、若くして団長の座に着いた。
「団長、お久しぶりです。…ところでお一人ですか?」
その意図を一瞬で汲み取ったラハルは目でランに合図をして、部屋の扉を閉めさせる。
「ふぅ…、やっぱり肩が凝るなぁ。人目があるとどうにも肩肘張っちゃって」
「ははは、やはりその辺はまだ閣下も勉強中と言う所ですか」
中の声が外に漏れなくなってから、その心を良く知る者達は仮面を外し、素の表情を出す。
「今は本当に吹き出しそうになるのを我慢したよ。ランが別人になったのかと思ってさ」
「あたしだって怒鳴りそうになったよ!何もあんな時にボソリと言わなくても…って団長、失礼しましたっ!」
二人の悪ふざけの言い合いに、口を押さえて笑いラハルは弁明を流す。
「いや、君達の関係は知っているから別に構わんよ。しかし、こうして見ると普段とは全く別人だな…」
「そんなに別人なのかい?それはそれで見たいような見たくないような…」
「王子様!」
三者三様の本音が溢れ出る。共に戦乱を駆け抜けてきたあの頃のように話が弾む。
「はは、所で閣下。さっさと用事のほうを済まされたいのでは?」
二人の関係を長く知っているからこそ、ラハルはファルーシュに話を振る。
「そうだった、はいこれ。リューグからの報告と太陽宮からの要望書。色々と無茶も書いてあるけどまぁ適当に。
 現場の事を知らない人達が書いたものだから目を通すぐらいでいいよ」
まるで手紙でも渡すかのように、重要な書類をポンッと渡す。
「…本当にこちらは用事のついでなのですね。一人で来られた事と言い無茶をされる」
「随分泣きつかれたよ。お願いですからお供を、せめてリオン殿だけでもってね。
 これから恋人に会いに行くのに女性を連れて行くなんて、無茶を言ってるのはどっちだって言いたくなったよ」
隣のもう今日何度目かの顔を赤くしている恋人を見る。その目は今にも襲いかかりそうなほど睨んでいる。
「じゃあラハル、今日の所はこれで。五日ぐらいはこっちにいるから、また後程」
「ええ、ランとごゆっくり。今夜は部屋に戻らなくても咎めはしません」
そう言って仲良く(?)言い合いをする二人を見送る。
閉まった扉の向こうから「団長のバカーっ!」と女性の声が聞こえ、ラハルはまた口を押さえて笑っていた。

二人を良く知る者達にとって、二人が付き合い始めたというニュースは然程驚くようなものではなかった。
数少ない同年代なだけあってよく一緒に話をしたり、様々な場所に一緒に行動していた。
また古参からの仲間だけあってお互いの気心は知れていた。
二人ともいつから意識をしていたかは覚えていない。ただ気が付けば傍にいて、惹かれ合っていた。
それが当たり前のことになっていた。

「…なぁ、王子様?」
「どうしたの、ラン?深刻な顔をして…」
ファルーシュの部屋、いつものように部屋にやってきたランをもてなしていたファルーシュはその深刻な表情に驚く。
普段はいつも快活に笑い、恥ずかしい台詞に照れて怒鳴るランだが今日は違う。至って真剣な顔だ。
「何か相談事?僕で力になれることだったら何でもするよ?」
何か重要な事だと悟りこちらも様子を変える。しかし
「ありがとな。…じゃあ聞くけど」
「うん」
ゴクリと唾を飲む。何か告白するカップルのようだ。心臓がドキドキする。
頭の中で金髪の軽薄な男が「女性から言わせてはだめですよー」と囁く。五月蠅い、黙れ。
「何で王子様は竜馬に乗れるんだ!?」
「…………」
両者沈黙。ランはファルーシュの言葉を待つ。一方ファルーシュは、
「はぁ?」
と護衛の少女が言うような間抜けな声を出すしか出来なかった。
「あ、あの、ラン?」
「ずるいじゃねーかっ!王子様だけ乗れてあたしが乗れないなんてっ!なぁ、何かコツでもあるのか?
 何か竜馬に好かれるものでも持ってんのか?なぁなぁ、教えてくれよー!」
「え、えっとそう言われても…僕にもどうしてなんだか…」
狼狽する。ここまで焦るのは生涯で初めてか。
「何だ!?天然か?天然なのか!?ずるいずるい、ずーるーいーっ!あたしものーりーたーいーっ!」
子供のように駄々をこねるランにただ呆然とすることしか出来ず、
それでも言葉の端々からその熱意が見え隠れしていた為、言わざるを得ないのだろうと観念した。
「ラン…、これはまだ内輪の内緒話なんだけど…」
その言葉にランが顔を寄せてこちらに乗り出してくる。
「うんうん、やっぱり王子様!頼りになるぜっ!」
あのそんなに身を乗り出してはその胸が視界に入り、気になるのですが…とは言えず、
「う、うん。クレイグさん達も男性だけ、というのは見直したいみたいで…」
「それって…」
「まだ気の早い話ではあるんだけど、この戦乱が終わってから…みたい…だけど、ラン?」
みるみる内にションボリしてしまったランを見る。
「そうかー、やっぱ今は無理かぁ。ハァ…」
「う、うん。僕もその話には賛成だし、でもまずは戦乱を終わらせないといけないから…ごめんね?」
本気で落ち込んでしまったランを何とか慰めようとする。
「そんな!王子様が悪いわけじゃねーって!あたしも頑張らないとなっ!」
少し元気が出たようで安心する。予想した話ではなかったことに残念ではあったが。
温くなったお茶を替えようと立ち上がり背を向けた時、また声をかけられる。先程とまた違った声色で。

「なぁ…これが落ち着いたら…王子様はどうするんだ?」
その声は今まで聞いた事のない声だった。まるで何かに怯えているような声。
それが気にかかり、手を休め振り返る。そこには俯きがちにこちらを見つめる少女がいた。
「どうする…って、多分、リムの手伝いをしないと…」
さっきとは打って変わった様子に戸惑いながらも言葉を発する。
「って事はソルファレナへ戻る…って事だよな。離れ離れになる…んだよな…」
離れ離れ、その言葉に胸が締め付けられる。ランと離れる…
「もう、今みたいにのんびり喋ってもいられなくなるんだよな。王子様だもん、忙しくなるもんな!」
無理矢理大きくした声が今は痛々しくて。
「ラン…」
「あ、あたしみたいな漁師の娘が出しゃばる必要なんかないし!」
「ラン」
「お、王子様にはきっといい人が傍につくわけだし!」
涙が出てくる。何故だか無性に悲しくなって。何故だか無性に寂しくなって。
ただもう道が別々になるのだと考えたら気持ちは抑えられなくなってしまう。
ずっと一緒にいたのだから、ずっと傍にいたのだから離れたくなくて。だけど理性が働いて気持ちとは裏腹の言葉が出る。
「あ、あたしなんかより、ぐすっ、もっといい人が、ひっく、みつかる、わけ…だし…」
消え入りそうな言葉。本音を言えればどれだけ楽になれるのだろう。
だが強い心をもつ彼女だからこそ、それが出来ない。出来るのは、気持ちを包み隠してしまう事だけ。
「ラン」
そんなランの様子が見てられなくて、ファルーシュはようやく自分の心に気付く。
彼女を追い詰めたのは自分だと、傍に居る事が当たり前すぎて気付いてあげられなかった事を悔やむ。
「ごめんね、ラン」
彼女を抱き締める。気丈な彼女が腕に包まれてビクッと震える。
やっぱり女の子なんだと感じて自分の気持ちを伝える。
「ごめんね、気付いてあげられなくて。ランが傍に居る事、隣で支えてくれてる事が当たり前すぎて分からなかった」
「ひっく、お、王子様?」
「ランはずっと気にしてたんだよね。自分がただの漁師の娘だって事を」
またランの体が震える。
「僕はそんなもの気にしないし、ランにも気にさせない。…ランの事が好きだから。ランだから、ランじゃなきゃ嫌だ」
涙でグシャグシャになってしまった顔を上げてファルーシュを見上げる。
それが少し可愛らしくて涙を指で拭う。
「だから、今だけじゃない。これからも一緒にいてくれる?」
「そんなっ!あ、あたしなんか王子様に合わないよ!乱暴だしガサツだし…」
「知ってる」
「手が出るのは早いし、礼儀作法も知らないし…」
「うん、それも含めて全部好きなんだ、ランの事が」
もう涙を止める事は出来た。あとはこの少女を自分の大好きな少女に戻すだけ。

「でもでも、やっぱり!」
「他の人の言う事なんか、いつもみたいに蹴散らしちゃえばいいんだよ」
「う〜、あ、あまりの粗忽さに呆れるはずだ!」
「そこはまぁ、追々治していけば」
「あうぅ…、ラフトフリートの女は嫉妬深いぞ!」
「嫉妬させる暇もないほど愛してあげるから」
「ば、ばっきゃろー!何恥ずかしい台詞言ってやがる!」
「あ、ようやく戻った」
気が付けば、涙は止まり言動もいつものようになっている。
やはりランは元気で、行動力があって、すこしばかり乱暴なほうがいい。
「それで、返事はどうなのかな?何となくは分かったけど言葉でちゃんと聞きたいな」
「あ…う…」
まともに戻っただけに尚更言いにくい。恋だの愛だのそういう少女らしい事とは無縁だったばかりに。
「あ、あたしも…」
「うん」
「お、王子様の事が…す、す、す、好き……だ…」
その一生懸命な必死さがいつも以上に可愛らしくてまたランを抱き締める。
「お、王子様?」
「もうちょっとこうしてたいなぁ」
「だ、駄目だよ。人が来たらどうすんだよ!」
今度は違うベクトルに必死さが見える。恥ずかしくて顔を真っ赤にしているが逃がさない。
「ここは僕の部屋だよ?来るにしてもノックぐらいするよ」
「だ、だからって!」
ジタバタと自由の利かない手足を必死に動かすが、所詮力ではファルーシュに敵うはずもなく。
「キス、してもいい?」
「なっ、なにぃっ!?」
至って真剣な表情で迫る。そこに少しばかり悪戯心があったかはともかく。
体を抱き締める手は既に解かれいつの間に、とランが思った時には両手でもう肩を掴まれている。
何の知識も持たない純朴な少女に、最早断るという選択肢などは与えられておらず、
また与えない情況にまで追い込んだファルーシュの作戦勝ちと言えよう。
ランはもう全てを覚悟して――それこそ首を斬られるような覚悟をして目を瞑る。
「大好きだよ、ラン」
その台詞が聞こえたあと、二人の唇は触れ合った。

その日からしばらく経った頃、最初こそぎこちない二人だったが今ではもうお互いの「らしさ」を取り戻していた。
世のカップルがするようなベタベタした付き合いが苦手だった二人は、自分達らしく付き合おうと話し合い、
ぎこちなさを払拭していつものように、友人のように一緒にいた。
それでも以前よりお互いを気遣い過ごす二人を、その変化に気付いた周りは微笑ましく見守っていた。
そしてまた二人がファルーシュの部屋で夕食後を過ごしている時――
「ねぇ、ラン。まさかとは思うけど僕達の事、誰にも喋ってない……よね?」
ルクレティアに頼まれた軍の編成をしながら、ファルーシュの部屋の本棚を見回しているランに尋ねる。
「へ?当たり前だろ。こんな事、大っぴらに言えるかよ」
ましてやスバルに知られたら…と言葉を繋げ、気になるタイトルでもあったのか背を伸ばして取ろうとする。
それが少し危なっかしくて、立ち上がり代わりに取り、手渡しながら尋ねる。
「はい、これ?……何か妙にカイルやミアキスがにやにやしてたり、キサラさんが異常に優しかったりしたから気になって」
「あ、ありがとっ。そう言えば母さんや提督が「子供はいいもんだ」とか言ってたけど、今思えばわざとらしすぎるな…。ば、ばれてる?」
二人は顔を見合わせる。一応以前とは変わらないような態度で臨んでいた筈だが。
「まだそんなにはっきりはしてないだろうけど…ばれてる気がする…」
「え〜〜っ!?ど、どうしよ?何がいけなかったのかな!?」
最も余程鈍い人物でもなければ二人の違いは、周りからみて一目瞭然なのだが、変な所で鈍い二人は気付かない。
「僕もログさんに殴られたりするのかな…?まぁ、それぐらいは覚悟してるつもりだけど」
「だ、大丈夫!あのバカ親父にゃあ手は出させないから!絶対に!」
その必死なまでの決意が嬉しくて、再び王子の暗黒面が顔を出す。
「ラン、キスしたいけど…いいかな?」
「え、えぇ!?なんでまた急にっ!?ってもう手が!?」
またもやいつの間にかランの肩にはもう手が、逃がすまいと禽獣のように掴んでいる。
「ランの一生懸命さが可愛くて、ね。…いくよ」
「ちょっ、ちょっと待っ――」
唇が触れるだけのキス。今まではここでお終いだったが今日のファルーシュは一味違った。
そこにはもうバレたのだからいけるとこまで、という気持ちがあったものか――
ともあれ終わらない。まずは唇を甘噛みする。ランがビクッとするがこれぐらいはまだ許容範囲のようだ。
カプカプとランの唇を味わい、そして舌を侵入させる。
「んっ!?んんっ!んむぅ〜〜〜!?」
流石にこれは予想も出来なかったのか、声を出し手をばたつかせる。
それでもファルーシュは侵入を止めず、舌で歯をなぞり、口腔裏を舐め取り、唾液を飲み込ませようと移動させる。
「んふっ!?ん〜ん〜、ふむぅ、……ごくん」
自分の唾液を飲み込んだのを確認してから、ゆっくりと唇を離す。その二人の間からは糸が引いていた。
「ラン…凄く良かったよ。……大丈夫?」
あまりの衝撃的な出来事にランの目はトロンと焦点が定まっておらず、体はガクガクと震えている。
本人としては、そんな事聞くな!と言いたかったのだが、それもままならない。
「ふ…あふ…はわぁ…」
とだらしなく口をポカンと開けて呆然とするばかり。ならばよし!とファルーシュは一気呵成に攻勢に出る。
「もう一度いくよ。今度はランも舌を出してね」
「ふあ…?んむっ!?んちゅっ…ふむぅ…じゅるっ、ちゅばっ…」
先程の言葉が理解できたのか定かではないが、それでもランは舌を差し出してきた。
舌を絡ませ唇を強く押し付ける。面白いもので舌を引っ込めると、物欲しそうに舌をより差し出してくる。
それが少し楽しくて、いけない事だとわかりつつも、後で殴られる事を覚悟しながらランの口を、舌を弄んだ。

色恋の事など何も知らなかったであろう少女が、懸命に求めてくる。
それだけで嗜虐心をそそられ、また年頃の少年が求めるこの先へ、という渇望が湧き出してくる。
それでも大好きなこの少女を無理矢理などとはしたくない。それは最も忌むべき行為。
「ラン、もうあまり我慢出来ないんだけど……いいかな?」
キスを止め、真っ直ぐにランを見つめて素直な気持ちを言う。
「ふわぁ…王子様…我慢、してたのか…?」
どの予想とも違う返事に少々狼狽する。それはどういう意味なのか――
「ご、ごめんよ、あたし、そういうの良く分からなくってさ。その…男と女が抱き合う、ってのは知ってるし、
 好きな人同士がするってのも分かるんだけど、ど、どういう風にすればいいか分かんないし…。
 でも王子様が我慢してたんなら、あ、あたしは応じたほうがいいのかな?」
「今日が嫌なら、僕は無理矢理なんてしない。その…ランの事が好きだから二人が納得してから、その、したいし…」
「あ、あたしは嫌なんかじゃないよっ!」
突然の大声に驚くファルーシュと、自分の爆弾発言に真っ赤になるラン。
沈黙が続き、やがてどちらからともなく笑い出す。
「…何か僕達、お互いの事考え過ぎてたみたいだね」
「ホントだな。自分の頭だけで考えたって答えが出る訳ないのにさ、ははっ」
どこにでもいる恋人達のような甘い一時などは存在しない。だけど二人にはこれで十分な訳で。
「ラン、大好きだよ。……君を抱きたい」
「あたしも大好きだ!だから…王子様に抱かれたい」

ベッドにちょこんと座るランはいつもより小さく見えた。
これから起こる事への不安と、少しばかりの期待が今の彼女をおとなしくさせる。
非常におおまかな事しか知らないランは、全てをファルーシュに任せようとした。それでも緊張は止まる筈もない。
「え、えっと、服は脱いだほうがいいのかな?」
知る限りの知識を総動員して言ってみたものの、幾分、暗黒面が出てきたファルーシュは認めない。
「僕に全部任せてくれるんだろ?だったら服を脱がすのも僕の役目だよね」
「あうぅ……」
ガチガチに緊張するランを尻目に、まず頭巾を外し見た目より量の多い髪が肩にかかる。
そして腰の帯を外し、羽織っている着物を脱がし、ランは胸に巻くサラシとスパッツだけになる。
「やっぱり、ランの肌は綺麗だね。すべすべしてる」
そう言って遂にサラシを解こうとする。スル…スル…と少しずつ解ける度に乳房が露になっていく。
時々、視界に入っては意識をさせられる胸が今は何の障害もなく見られようとしている。
「ランの胸…綺麗だ。…さわってもいい?」
「お……おう…」
色気のない返事だが、何か無性に嬉しくなる。
ふにゅふにゅと優しく触れる。柔らかさに感動しつつ、その感触をもっと確めようと両手で揉んでいく。
「ふあっ……何か、変な感じだ…」
その言葉にもう少し力を込めようとする。
「んんっ、はぁ…あうっ、な、なんか、すげぇ…ぐにゃってなってる…」
全体を揉みしだきつつ、それでも悪くないという声を出してくれるので、狙いをその頂につける。
「はぁ、ふあっ…あいたっ!」
「ご、ごめん!ちょっと力が強かったかな?」
「あ、あたしこそ大声出してごめん…。そこがそんなに敏感なんて分かんなかったし…」
どこまでもお互いを気遣う二人。
「うん、次はもうちょっと優しくやるね。………このぐらいでどうかな?」
「う、うんっ、ああっ、すごっ…なんかビリビリって…ひゃうっ!」
力加減を理解したファルーシュはそのまま乳首を弄る。指先で、指の腹で、また二本の指で少し捻ったり。
「ああうっ、ゾクゾクってしたり、ふはぁ、あうんっ、何か変に、なっちゃうっ、はぁんっ…」
思う存分声を上げてくれる事に嬉しく、そしてただ手で弄るだけでは物足りなくなる。
ちゅぱっ
「ふああっ、お、王子様、何やってんだ!?そ、そんな赤ちゃんみたいな!?ひゃうんっ!」
口全体で乳房を吸い、その口内では舌でなぞり、乳首を弄り、また歯で甘噛みする。
ランにとって予想だにしなかった事と、未知の体験による快感に頭が真っ白になる。
「そんっ、なっ、おうじ…さま、吸っちゃ、ふわぁっ!だめ…ひゃああっ!」
少し初めてなのにやりすぎたかな?と思い、口を離す。非常に残念ではあったが。
「…ラン、大丈夫?やり過ぎた…かな?」
「はぁ、はぁ、ふぅ…当たり前…だ…。ふぅ、で、でも気持ち悪いとかそんなんじゃないからな!
 ただ凄く驚いたってだけで、す、少しは気持ち……よかった……し」
最後の消え入りそうな声での本音に、ファルーシュの頭は衝撃を受ける。何て可愛いんだ!
「その、次は下を脱がすけど、いいよね?」
下、その言葉にランは一瞬考え、直ぐに顔を紅潮させる。
「やっぱり脱がなきゃ駄目か!?…駄目だよな……うぅ、恥ずかしい…」

ベッドに横たわらせ、スパッツを脱がす。そこには後は下着が残るのみ。
「触るよ…あんまり緊張しないでね」
気休めにしかならないであろうが、それでも前置きをして、下着の上からさする。
シュッ…シュッ…とこするだけだが、そこは既に熱気に塗れ濡れている。
「もう濡れてるんだ…」
「あうっ!なな何で!?あたしの体、おかしくなっちまったのか!?」
本当に何も知らないのだと思い、ついクスリと笑ってしまう。
「大丈夫、これはランが気持ちよくなってくれたって証拠。何もおかしい事じゃないよ」
「そ、そうか。ならいいんだけど…ひゃうっ!これ、なんか、変に、なっちゃうよ…きゃうっ!」
「もっと声を出していいんだよ。感じて声を出してくれると僕も嬉しいし」
「そ、そうなのか。うあっ、お、王子様が嬉しくなるんなら、あ、あたしも…ひゃあっ!」
下着の上からさするだけの愛撫。それだけでランは声を上げてくれる。しかしまだ物足りない。
既に染みが出来始めている下着を取り外したい。
「じゃあ…これも脱がすよ…」
「ええ!?ちょっ、ちょっと待っ――」
行為を止める声をあえて聞き流し下着を脱がす。外気に曝され、誰も見たことのない場所が露になる。
「これが…ランの…。湿ってヒクヒクしてる…」
半ば独り言のように呟くが、その声はランの耳に入ってしまう。
「あうぅ〜、そんな、説明しなくても……ひゃうんっ!」
今度は直に触れる。茂みをさぐり、肉の感触を確める。
「熱くて、濡れて、うごめいてる…。これがクリトリスかな」
クレパスの上部の小さな突起を見つけ、さする。
「ひゃああっ!!い、今、なんかきた!そこは、まずい…ああっ、はうっ、ひああっ!」
今までの最上の声を出し、体が快楽に包まれる。体を駆け巡る衝撃が、頭を麻痺させて、嬌声を上げさせる。
「ふあっ、んくっ、ふぁふぅ、ひぃっ!?こえ、がっ、とまらなっ、ひゃうっ、あああっ!」
両手はシーツを握り締め、体は衝撃が来る度に揺れる。だらしなく開いた口からは涎が、その両目からは涙が零れている。
しかし身体は正直に、蜜壷からは愛液を垂れ流す。
ファルーシュとしてはもう少しこの声を、この痴態を見ていたかったが本能を無理矢理押し留める。
何しろランは初めてなのだ。気遣ってあげなければいけない。
それとファルーシュ自身ももう限界だった。既に秘部は十分な程濡れている。
「ラン…もう大丈夫かな。そろそろ挿入れるよ」
手を止めてランの顔に身を寄せる。
「はぁっ、ふぅ…も、もう王子様も、が、我慢できないんだろ…?あ、あたしも、王子様と…繋がりたい…」
その言葉に今日一番、いや生涯一番の衝撃がファルーシュの頭に響く。
こんな言葉を聞かされて、少女を愛おしく思わない奴はいない。
真っ直ぐで、純真で、真剣な言葉に脳が蕩けていく。ランの同意を待たずにキスをする。
「ふむぅ!?はうっ…ちゅ、ぺろ…んちゅっ…」

名残惜しいキスを済ませ、自らの服を脱ぐ。既にペニスはガチガチに勃ってしまっている。
「うおあっ!?そ、そんなもんが、は、入るのか!?ふ、太い…」
今までに見た事のない、興奮している男のものを見てつい声を上げる。
予想してたものとは全然ちがうものに少しばかりの恐怖が出てくるが、それ以上の興味も出てくる。
「な、なぁ、ちょっと触らせてくれないか?お、男の人のって、は、初めてだし」
「ええっ!?いや、まぁ構わないけども…」
ファルーシュの許しが出た所で、まずはじっくり眺めてみる。
少し、いやかなりグロテスクなフォルムだがビクビクと震える様子は少し可愛らしく思った。
次に触ってみる。熱を持つそれは硬い。感触を確めてますます不安になる。
「すっげ…、こ、こんなのが、あ、あたしに入るのか?何か怖くなってきたけど…」
「うん、まぁ最初は多分痛いと思うけど……我慢するのは辛いけど、怖いのなら…やめたほうがいいかな?」
「な、何言ってんだよ!そりゃ確かに…ちょっとは怖いけど、ラフトフリートの女は度胸満点!
 惚れた男の為なら何だってやるぜ!」
気丈に振舞う少女が可愛らしくて、これ以上の迷いは少女を不安がらせるだけだと決心する。
「うん、わかった。…それじゃあ横になって」
ランを横たわらせ、それに覆い被さる形になる。
「じゃあ、挿入れるよ…」
ランの愛液をペニスに擦りつけて、誰も侵入した事のない秘裂を突き進む。
「あぐぅっ…うあっ…あ、熱いのが…」
熱を持った肉棒が熱を持った媚肉に絡まり奥へと侵入する。そしてひとまずの行き止まりへ。
「あうあっ…こ、これで……全部なの…か…?」
「ごめん、まだなんだ。…あんまり苦しまないように一気にいくよ」
ズグッ!
「うあああああぁっ!!」
処女膜を破り、少女は今、女となる。
ファルーシュはその悲鳴を聞き、心の中で謝ると同時に、愛しの少女を貫いたという黒い達成感も感じる。
それでもランの呼吸が落ち着くまで、少し待つ。
ハァッ…ハァッ…と呼吸が整ってから少女を気遣う。
「大丈夫…とは聞かないけど、少し落ち着いたかい?」
まだボロボロと涙を流しながらも、ランも言葉を返す。
「うぅ〜、ひっく、こんなに痛いもんなんて、えぐっ、思わなかったけど、う、うん、少しは、ひっく、落ち着いたかな…」
それのどこが落ち着いたのかと言いたいが、そんな事を言ったら拳でも飛んできかねない。
あくまで気丈に振舞っているのだから、その心意気は汲み取らねば。
「うん、でも動いても大丈夫かな。このままでも正直、気持ちいいんだけどもっとランを味わいたくて」
「えぐっ、あたしは料理じゃねーぞっ!でも…あたしも…王子様にもっと気持ち良くなってもらいたい。
 ここまでいっぱい気持ち良くしてもらったから。だから…動いていいぞ!」
ぶっきらぼうで、乱暴な言い方だけども。ランの想いが心に染み渡る。
「わかった。出来るだけ優しくするから…動くよ」
本能のまま動くのではなく、少しでも楽にさせようと正に抱きしめる。

「あうっ、はあっ、ひぐぅ!だ、大丈夫…だか、ら、あうっ、ひっく、王子様、大丈夫、だから…」
いかに取り繕おうとも始めて体内に異物が入っているのだ。辛くない訳がない。
それなのにこの少女は自分の事を想い、愛する事の証を残したいと思っている。
男として、これからも傍に立つただ一人の男としてこれほど冥利に尽きる事はない。
「あふぅ、ふあっ、うああっ!王子様ぁ…王子様っ!」
自分の事だけを呼び、腕を首に回してくる。
心細いのか、それとも大好きな人の温もりを感じていたいのか。ファルーシュには分からない。それでも
「ラン、大好きだ!ラン、ラン、ランっ!」
愛する少女の名を呼び、その身体を貪る。抱き締めるように、その身に溺れるように。
ランを早く楽にしてあげたいと、腰の速度を上げる。
それでなくとも処女特有の締め付けは、先程からペニスを食いちぎらんばかりでファルーシュも限界なのだ。
「あうぐっ、は、早く…うああっ、すごっ、お腹にっ、響いてっ、うああっ!」
「ラン、凄い…もう、限界だ…出るっ!」
ドビュルルッ
引き抜いた腰の先から、ランの身体を白く汚す。大量の精液が、ランの身体に、胸に、顔に降りかかる。
腰が抜けたようにファルーシュは座り込み、白く飾られるランを見る。肌の色と白のコントラストに見入ってしまう。
「はあっ、はあっ…すっご……これが、男の人の…」
一方ランは自分の体を見る。粘つく液体をかけられても不快などとは思わない。
これが自分の体で大好きな人が気持ち良くなってくれた証なのだと分かったから。
今はもう自分の体を抉られている痛みもどっかに行ってしまった。白い精液を触ってみる。
少し熱を持っていてネバネバする。その時、いつだか友人が言っていた事を思い出し舐めてみる。
「うえぇ……苦え……」
「ラ、ラン!何も舐めなくても!い、今何か拭くもの持ってくるから!」
突拍子もない行動にファルーシュのほうが焦る。手拭いを持ってきてランの身体を拭く。
「いや〜、前誰かが舐めると男の人は喜ぶって言ってたからさぁ。王子様もそのほうが嬉しいかなって思って」
「そりゃ、嬉しい…じゃなくて!で、でも元はと言えば僕がランを汚しちゃったからなんだよね」
ランは今や身体を見られて拭われる事も忘れてファルーシュに言いかかる。
「そこで謝ったりすんなよ?王子様だって流石に、な、中はまずいって思ってやったことなんだろ?
 これが精液なら、あ、あ、赤ちゃんが出来ちゃうかもって」
「…ありがとう、うん、その通りだね。…はい、拭き終わったよ」
そう言って手拭いをその辺に投げ捨てる。
「さ、少し休もう。ほらそのまま横になって」
「え、ええ!?ふ、服もなしでか!?だってここ王子様のベッドだぜ!?」
「僕も一緒に横になるんだからいいんだよ。そーれ」
「おわああぁ!?」

ファルーシュのベッドの上、裸のまま抱き合い横になる。もっともランはすぐに後ろを向いてしまったが。
「う〜ん、どうしてこっちを向いてくれないのかなぁ」
背中から手を回し抱き締めながら少し不満を言う。
「しょ、しょうがないだろっ!恥ずかしいんだから!あっ、こら、変なとこ触るなっ!」
決して本気ではない怒りと、照れてそっぽを向くのが可愛くてクスリと笑いちょっかいを出す。
すこしばかり甘い一時というのも味わいたいが、やっぱり自分達には合ってないようだ。
「ごめんごめん。ところで身体のほうは大丈夫?何か調子の悪い所はない?」
「あ、うん。まだ何か入ってるような感触があるけど、別に大丈夫だぜ?」
「そっか、良かった」
そう言ってまた抱き締める。今度は抵抗はない。そして今度はランから言葉を発する。
「あ、あのさ、王子様?今更言うのも何だけど……本当にあたしで良かったのか?」
それはまだどこか心に残るしこり。しかしファルーシュは、
「…ラン、こっちを向いて」
「え?え?」
「いいからこっちを向いて」
以前のような優しい声ではない。真剣な、そして怒りの声。
「王子様……」
手を振るわれ思わず目を瞑る。しかし
「あいたっ!デコピン!?」
「本当に今更だよ…。ランが変な事言ったからお仕置き。これに懲りたらもうそんな事は言わない事。いいね」
「で、でもっ!」
「ランじゃなきゃ嫌だ。その気持ちは絶対に変わらない、誰に言われても変えない。
 それとも皆の前でランへの愛の誓いを宣誓しようか?」
最後ににこやかに笑い、その想いをランにぶつける。
「それだけはやめてくれ!!恥ずかしすぎる!もう言わないから!」
そんな事されたら死んでしまう!と言わんばかりに謝る。
「まったくもう…えいっ!」
「きゅぷっ!?」
力強く、しかし優しく抱き締められファルーシュの胸板に頭を寄せられる。だけどこれ以上の確め方はないだろう。
「へへっ、王子様、あったかいな」
愛されてる、と実感し、嬉しくて涙を見せないように頭をうずめる。
そしてファルーシュも最後に、いや、これから何千回言うであろう言葉を発して眠りに落ちる。
「大好きだよ…ラン…」

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