マリノ×ハヅキ 著者:お茶様

─────────みてしまった。
「お休みなさい、ハヅキさん」
彼はそう言って、目の前の小柄な少女にキスをした。細い肩を抱いて。
今までに見たことのないような優しい笑顔を向けて。
「ああ……気を付けて戻れ」
少女…ハヅキもまた、みたことのないような可愛らしい笑顔で、
恥ずかしそうにそう答えた。
その姿を見た女ならば、今の今まで、ハヅキが何をしていたのか。
正確には、誰と、何をしていたのかなんて、一目でわかる。
いつもきりっとした涼しい顔をしているハヅキが、
歳相応の少女のように頬を赤らめ、目の前の男───ベルクートに、甘えるように口付けを返す。
それは、きっと誰が見たって、恋人同士が逢瀬を惜しむそれにしか見えなくて。

近いんだから、大丈夫ですよ。ベルクートはそう言ってハヅキの頭を撫でた。
そうして、二人は別れた。わがままを言って、無理やりに近くにおさまったハヅキの部屋から、
ベルクートの部屋まではそんなに距離がない。
「四六時中監視する」と言う言葉通り、彼女はいつもベルクートの傍にいたのだ。
────そう、こんな、夜のひとときまで。

先に出会っていたのは、わたしの方なのに。
マリノはきつく唇を噛んだ。涙が零れる。
時間だけで言うならば、先に出会っていたのはハヅキの方かもしれない。
けれど、二人が再会する前にマリノはベルクートと出会って、恋をした。
辛いこともあったけれど、ベルクートはいつもマリノに優しかった。
だから、気が付かなかったのかもしれない。

誰にでも平等に、公平に優しさを向けるベルクート。
その優しさに安心して、彼の本心を全くわかっていなかったのかもしれない。
安心していた。優しくされるのが嬉しくて、幸せだった。

「どうしてハヅキさんなの…?」
廊下に取り残されたマリノは、閉ざされたハヅキの部屋の扉をきつく睨み付けた。
「どうして、私じゃないの…?」
ゆっくりと、その扉へと歩み寄る。

幸せそうな二人の顔が頭を過った。二人とも、この部屋の中でずっと一緒に────…

『そんなの嫌!』
ほんの一瞬、その光景を思い浮かべてしまい、自らの想像にひどくショックを受ける。
憧れの男が、よりによって自分の嫌いな女と愛し合っている姿なんて、例え想像の中でも見たくなんてなかった。
くやしい。マリノは思わずしゃがみ込んで嗚咽を洩らす。
もしかしたら、ハヅキに気付かれるかもしれない。別にそれでもよかった。
問い詰めて、引っぱたいてやるくらい許されてもいい筈だ。
ずっと好きだったのに。知らないうちに取られてしまったのだから。

「────そうよ」
ふと、マリノはある事を思い立ち、ゆっくりと立ち上がる。
扉に手をかけると、鍵はかかっていなかった。軽く押すと抵抗なくうっすらと扉が開く。
「わたしだって…ベルクートさんのことが好きなんだもの…」
うつろいだ瞳に妖しい光を宿しながら、マリノはゆっくりとその扉を押し開いた。

ハヅキは壁に背を当て、そのままずるずるとその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
別れ際の口付けの感触が、温もりが、まだ残っているような気がした。
口付けだけではなく、その前の営みを。触れる手を、熱い肌を、声さえもが鮮明に蘇る。
ハヅキにとって、初めての経験だった。
それがベルクートであった事は、嬉しくもあり気恥ずかしくもあった。
明日からどんな顔をして会えば良いのだろう。
きっとどうしても重なってしまう。どんな顔をされても、先程までの一人の男としての顔と。
思い出すだけで下肢がじわり、と熱くなる。今朝までは何も知らない清い体だった。
それが今は───。思い出せば思い出すほどに熱くなる。今頃になって再び訪れた快楽の余韻に、
ハヅキは自らの身体をぎゅっと抱き締めるようにして蹲る。身体が熱い。あれほど求め合ったというのに、
足りないなんて。もっと欲しいと思うなんて。どれだけ自分は淫らな女なのだろう。
ハヅキは切なげな息を吐く。秘所が疼く。
まるで体内に残された情交の証が熱を放っているかのような錯覚を抱いた。

いけない、そう思いながらもハヅキは寝間着の裾にするり、と細い手を忍ばせ、
疼きの止まない秘所にそっと触れる。
「んっ…」
情交の後、湯を使うことも拭うこともしていなかったハヅキのそこは、
まだ───否、また、というべきだろうか、濡れたままだった。ハヅキは恐る恐る敏感な肉芽に触れる。
「あ…っ」
息が漏れる。指先にコリコリした感触が伝わり、同時に痺れるような快楽が広がった。
男と交わるのは勿論、自慰の経験もなかったハヅキにとって、これが初めての自慰行為だった。
そのまま更に指を進め、たっぷりと蜜を垂らすそこに触れた。
指が動くたびにくちくちと淫らな音が零れる。ぎこちない手つきで自らの秘所を弄ぶ。
先程、ベルクートがそうしたように。触れられたその時を思い出しながら。
「あ…っ、ふ……あぁ…っ」
ほんの少し躊躇いはしたものの、ハヅキは思い切ってゆっくりと自らの指を内部に沈める。
加減がわからないのでそれほど深くは挿入せず、入り口を軽くかき回すように動かしてみる。
自分自身の身体なのだから、自分の何処が快いのかはハヅキ自身がよく判っている筈だった。だが、自らの手でそんな奥まで触れることをほんの僅かに恐れ、控えめな動きでゆるゆると入り口のあたりを刺激しては、その甘い快感に酔った。

性的なことに一切の経験がなかった為、自慰さえも余裕がないハヅキは、
所を弄るので精一杯だった。快楽を求めて指を動かすたびに伝わる水音に、
ゾクゾクと身体が震える。抑えていた声さえも次第に露わになる。

はしたないと、頭のどこかでこの行為にブレーキをかけようとする気持ちはあった。
だが、あまりにも深い身体の欲求に、そんなものが叶うわけもなく─────。

「ぁ…んっ、ぅ……ベルクート…!」
その名を口にした途端、ハヅキの身体が大きく跳ね上がった。絶頂を迎えたのだ。
細い体が強張り、次第に力が抜けて行く。
先程まで秘所に触れていた手をだらりと投げ出して、肩で息をする。
まさか、こんな所で、こんな事で、達してしまうなんて。何とはしたないのだろう。
こんな姿を見たら、ベルクートはどう思うだろう?そう思うとハヅキは泣きたくなった。
頭の中がぐちゃぐちゃで良く判らない。

ただ、もう一度抱いて欲しいと思った。先程別れたばかりなのに。
もう一度、あの温もりを与えてほしいと思った。
部屋へ戻ることを勧めたのは自分だ。要らぬ詮索を受けたくなかったが為に、
何よりベルクートが、自分との関係を知られて困るようなことがあればと思い、部屋へ戻らせたのだ。
ベルクートにしてみれば、愛しい女と抱き合ったという事実は変わらないのだから、
誰に何を言われようと気にはしないのだが。

でも会いたい…もう眠ってしまっただろうか?
幸いなことにベルクートは、戦でも多くの功績を上げている故か、個室を与えられている。
眠っていたら諦めよう────そう思いながら立ち上がった。

「……?」
扉を開けようとしたその時だった。外から扉が押し開けられたのだ。
ベルクートだろうか…とほんの一瞬思ったが、すぐにそうではない事を知る。
そこにいたのは、マリノだった。昼間会った時と同じ、
宿のカウンターに立つ時の、いつものマリノの姿。

「な……何だ、こんな時間に…」
何の用だ…と、その言葉をハヅキは飲み込んだ。様子がおかしいというのが一目でわかったからだ。
どこか虚ろで、それでいて真意を知らせぬような、失礼な言い方だが不気味な目。
何故かはわからないが、危険だ。
そう直感したハヅキは身を翻そうとするが、それよりも早くマリノに腕を掴まれてしまう。
いざとなればハヅキの方が武芸に通じているだけに強く、簡単に振り払うことはできるだろうが、
マリノの異様な様子に呑まれてしまったのか、掴まれた腕を振り払おうともがきはするものの、
無駄な抵抗となってしまったまま、部屋の中程まで詰め寄られてしまった。

「離せ、何のつもりだ!」
いつもの朗らかで愛らしい姿からは想像できなかった。
無表情のまま、真っ直ぐにハヅキの顔を見つめる青い瞳は、
生気が灯っていないようにさえ感じた。
確かに、マリノに嫌われているという自覚はあったが、こんな事は初めてだ。

「ベルクートさん…さっきまで、ここにいたでしょ?」
「な…」
何故。そう問い返そうとして口を噤んだ。最も、もう手遅れだろうが。
明らかに「何でそれを知っている」と言うような反応をしてしまったのだから。
マリノも当然それに気付いたはずだ。ならば、下手に隠し立てすることもない。
マリノはベルクートと親しく付き合っている人間の一人だ。話しても───ハヅキはそう思った。
ハヅキ自身には全く悪気はない上に、決してわざとではなく、マリノが
ベルクートを特別な異性として好いている、とは気付いていなかったのだ。
ベルクートは勿論だが、マリノも同じように、誰にでも優しく、
心からの思いやりをもって接する女性だった。つまり、同じようなものだと思っていたのだ。
少なくともハヅキ自身は。

「隠さなくてもいいの。私、見てたから」
この部屋から、ベルクートさんが出て行くのを、見てたの。マリノはそう繰り返した。
腕を掴む力が強くなる。痛みにハヅキが眉を顰めた。
「ベルクートさんと……したんだよね?」
マリノの視線が、初めてハヅキの眼から外れ僅かに下を向く。首筋に残された赤い痕。
鎖骨や、乱れて僅かに覗いた胸元にも、見受けられた。
ハヅキは視線の先を知り慌てて肌蹴かけていた胸元を、布を掻き寄せて隠す。
既に見られてしまったのなら意味はないのだが。

「…何の、ことだ」
今更、その上相手は明らかに気付いている。
けれどハヅキはそれを正直に言う気持ちにはなれなかった。
マリノの様子がおかしいという事だけでなく、
ただ、誰にも知られたくないと思ったのだ。
それがどんな感情から来るものかはわからなかったが、特にマリノにだけは知られたくないと、
その時初めて思った。
「どうして隠すの…?そんな嘘ついてもわかるんだから!」
初めてマリノの表情が変わった。打って変わって怒りの表情に変わり、
空いている方の手で乱暴にハヅキの胸元を隠す手を掴み、力任せに引っ張った。
突然のことと、予想しなかったマリノの力の強さに抗いきれず、
ハヅキの胸元が先程よりも大きく肌蹴られた。
形のよい乳房が寝間着からこぼれて揺れる。そこにも、幾つもの痕が残されていた。

「私だってずっと、ベルクートさんの事好きだったのに…!」
マリノの表情が、今度は悲しげに歪む。色恋の鈍さでは軍でも1,2を争うハヅキでも、
ここまできて、漸くマリノの言わんとしている事に気がついた。
そして、マリノの気持ちにも。
そんなマリノに見られてしまうとは、迂闊だった───自分は却って余計なことをしたのだ。
自分が不用意だったばかりに、傷つけてしまった。ハヅキは申し訳ない気持ちになる。
結果こそ同じではあるが、こんな現場を目撃してしまうのと、
そうでないのとでは傷の深さも違う筈だ。
…だからといって譲るつもりはないが。好意を寄せているからこそ、操を捧げたのだから。
では、マリノには何と言えば良いだろう?
経験浅い、というよりも何もかもがはじめての経験のハヅキには、いきなり重過ぎる修羅場だ。
どうしたらいいのか判らない。

「ずるいよ、ハヅキさん…私、私だって…!」
「マリノ…」
ほんの一瞬、ハヅキの警戒が解ける。
その時、マリノはまるでそれを待っていたかのように、ハヅキをベッドへと突き飛ばした。
倒れたハヅキの上に、まるで男がそうするかのようにのしかかり、両腕を掴み抑えつける。
マリノの表情はまたここへ入ってきた時と同じ、感情のこもらないそれに戻り、瞳には妖しい光を宿していた。

「ハヅキさん、いっぱい可愛がってもらったんだよね…?気持ちよかった…?」
妙に甘いその声に、ハヅキはまるで背筋が凍りついたかのような寒気を覚えた。
───まさか。有り得ない。ベルクートが好きだというのはよく判った。
だが、それとコレとは全く関係がないはずだ。
第一、そう思うなら私ではなくベルクートにそうすれば良いではないか。
…叶う相手ではないだろうが。だが、それでもそっちの方が道理に叶う。
混乱して動けないハヅキに、まるで追い討ちをかけるようにマリノは笑ってみせた。
優しい、可愛らしい笑顔だった。そして、それが逆にハヅキの恐怖に拍車をかけた。

「ずるいよ…独り占めするなんて。……ねえ、私にも、分けて?」
言うなり、マリノはハヅキの唇を、自らのそれで塞いだ。

抗議しようと開きかけた唇を塞がれ、舌を差し込まれる。
寒気がした。抗おうともだえるが、マリノは以外と力が強いようで
なかなか腕を離すことができない。
生温い舌が縮こまったハヅキの舌を絡み取る。
ハヅキは勿論だが、マリノもこんな深いキスの経験はない。
ただ、逃げ惑う舌に自らのそれを絡め吸い上げ、軽く歯を立てる。
何度も、何度も、それを繰り返す。
含みきれぬ唾液が口の端から垂れた。腕を押さえつける力が弱まったのを感じ、
ハヅキはもう一度押し返そうと力を込める。
意外なことに、マリノの腕はあっさりとハヅキを解放した。
が、今度はその両腕は別の所へと向かっていた。
「んっ…むぅ……ぅ…!」
マリノの手が、形のよいハヅキの胸を包むように揉みしだく。
柔らかく、繊細に。同じ女であるマリノの愛撫は、男のそれとはまた違ったもので──────。

「ふ……っ、お前、こんな…!」
漸く長い口付けから解放されたハヅキが、瞳に薄らと涙を浮かべながら抗議するが、
まるでマリノの耳には届いていない様だった。マリノはしつこい位にハヅキの胸を揉み、
桃色に色づいた頂きを指で弄び、口付ける。
その一つ一つの行為に、ハヅキの身体は敏感に反応した。
引き剥がそうとマリノの背に伸ばした手も、力が篭らない。

「いっぱい、キスしてもらったんだ…。たくさん痕がついてる…」
マリノはベルクートが残した痕の上に、唇を重ねハヅキの肌を吸う。
白い肌に浮いたまるで花のようなその痕は、更に鮮やかに色づいてゆく。
「気持ちよかった?
…ねえ、ベルクートさんは、どんな風にハヅキさんの胸に触ったの?」
舌を這わせ、愛しい男が残した痕を辿りながら、マリノは甘く囁いた。
ハヅキの抵抗が強まれば、乳首をきつく吸い上げ強い刺激を与える。
恐怖とない交ぜになった快楽でハヅキを支配しながら、
マリノは既に用を成していない寝間着の帯を解き、
その帯でハヅキの両腕を拘束し、ベッドの柱にくくり付けた。
「やっ…ぁ、やめ…ろっ…!」
羞恥を煽るような言葉と、切れ間なく与えられる刺激。
加えて自由を完全に奪われてしまったことで、ほぼ完全に逃げ道を失ってしまった状況に
ハヅキはこの上ない恐怖を覚えた。
次いで、辛うじて下肢を覆っていた寝間着さえも剥ぎ取られ、
色づいた艶かしいハヅキの裸身がマリノの目の前に晒される。
「なにを……考えている…」
身体は本能のままに熱を帯びていながら、頭の中だけがまるで冷水を浴びたかのように
冷ややかに、冴え渡っている。あまりに異常な状況に、ハヅキの身体が小刻みに震え出す。
マリノはそれを楽しそうに、嬉しそうに見下ろしている。その意図が全くわからない。

女同士で身体を重ねたところで何になると言うのか。
ハヅキにしてみれば、愛しい男を奪った女の身体に触れている、
その状況が一体何の意味を持つのか、検討もつかないのだ。
悔しいだろうし、憎いだろう。
それなら殴るなり何なりしてその悲しみや怒りを晴らせばいい。
ハヅキにとっても、そうされた方がよっぽど楽だった。
気の済むまで詰り、謗り、罵倒すればいい。だが、マリノはそうしなかった。
普段は感情的で、声を荒げる事の多いマリノなら、
きっとそうすると思っていたが────。

「何って…言ったじゃない。私にも分けて、って」
マリノはそう言って、自らの着衣をゆっくりと脱ぎ始めた。
分けるとはどのような意味なのか、ハヅキにはやはり判らない。
目の前でマリノが一枚、一枚とゆっくり衣服を脱ぎ、床に落とす。
「お前がどうしたいのかは知らぬが……ほどほどにせぬと、私とて考えがあるぞ」

マリノはひどく緩慢な動きで、少しづつ脱衣してゆく。
その間に僅かばかり冷静さを取り戻したハヅキが、マリノを睨み付けながら言い放った。
マリノは正常ではない。きっと、混乱して我を失っているだけだ。落ち着けばいつもの彼女に戻る。
ハヅキはそう考えたのだ。
口調は厳しくとも、内心では次第に恐怖が膨れ上がって行く。
それを打ち消すためにも、何かを言わずにはいられなかったというのもあるが。

だが、マリノはやはりどこか壊れた笑いを浮かべるだけだった。
はらり、と腰紐を解くとボリュームのあるスカートがすとん、と床に落ちる。
「考えって何…?誰かを呼ぶ、とか?」
マリノはにっこりと笑って身を翻した。
何をするつもりかとハヅキは起き上がろうとするが、
腕を拘束されたままで起き上がることは困難だった。
そうしている間にマリノは入り口へと辿り着き、閉ざされていた扉を、うっすらと開いた。

「な…何を!」
「これなら、大声を出せば誰かが気付いてくれるかもしれないわね。…誰かが。
ベルクートさんだけじゃない、他の人にも、聞かれてしまうかもしれないけど」
マリノはまた笑った。その声が廊下に反響する。静まり返った廊下に、その声はよく響いた。
「やめろ!!」
「そんな大きな声を出したら、聞こえちゃうんじゃない?」
ハヅキの顔がさっと青ざめた。マリノは知っているのだ。この廊下に面した部屋は、
ハヅキの部屋意外は全て男の部屋だということを。
少しでもベルクートの近くに、というハヅキの意思を汲んで、
王子がこの部屋を与えてくれたことを。
女王騎士らの部屋も近い。異変があればすぐに駆けつけるだろう。
───この部屋に。

マリノはゆっくりとベッドへ戻る。
最後に、下着を脱いだ。ハヅキと同じ、一糸纏わぬ姿になる。
「卑怯な」
「卑怯なんかじゃない。嫌なら呼べばいいのよ…助けて、って、叫べばいいわ。
誰が来るかはわからないけど」
身体を離した事と、言葉を交わしたことで、ハヅキの身体の熱は冷め始めていた。
逆に、まるで急速に体温が下がって行くかのような錯覚に捕われる。
おかしい。こんな事、普通じゃない。
マリノはまるで舐めるようにハヅキの身体を頭から爪先までじっくりと眺めている。
薄く、笑みを浮かべながら。
「─────狂ってる」
これ以上、何も出来ない。
観念したわけではないが、どうしたらいいのかも判らない。
ただ、心だけは決して屈しはしないと、そんな気持ちをこめて吐き捨てた。

その意志の強さが災いしたなどとは、その時のハヅキにはわかるはずもなく。
忌々しげに、マリノは言った。

「あなたのそういう所、─────大っ嫌い」

マリノは再びハヅキに馬乗りになると、躊躇いもなくその両手でハヅキの胸を包んだ。
唇を噛んでハヅキが目を閉じるが、気にはしない。
ベルクートが寝泊りしている部屋はこの部屋の蓮向かいにあたる場所にある。
扉を開いた時にちらりと見たが明かりは洩れていなかった。もう眠っているのかもしれない。
逆に、その隣の部屋の扉は開いていた。確か女王騎士であるカイルの部屋だった。
もし感づかれでもしたら自分まで危険な目に遭わないとも限りはしないが、そんな事はどうでもよかった。
円を描くように揉み、再びその頂きに唇を寄せて優しく舌を絡める。
まるで味わうかのようにねっとりと絡み付いては吸い上げてくる舌にハヅキが小さく喘いだ。
「気持ちいいの?」
笑みを含んだ言葉に、ハヅキは言葉で返すことはせず、ただ顔を背けるだけだった。
声を出すまいときつく噛み締めた唇を指でこじ開けると、もう一度舌を差し込んだ。
「う……」
体が強張る。キスは苦手なのだろうか。
マリノは先程したのと同じように強引に舌を絡め取る。わざとくちゅくちゅと音を立てて吸いながら、
先程まで舐めていた乳首をつまみ上げ転がしてやると、ハヅキの体が跳ね上がった。
ピンク色の突起を両手で荒っぽく捏ねまわす。その間も口膣内を舌で侵しつづけた。
閉ざされたハヅキの瞳に涙が浮かぶ。嫌悪か、それとも生理的な涙なのかはわからない。

そのまま下肢に手を滑らせると、ハヅキが目を開き身をよじった。
同じ女とはいえ、そんな所に触れられるのは嫌だ。
増して先程まで男と交わっていたというのに。マリノは構わず強引に触れようとするが、
舌を思い切り噛まれ手を止めた。
「痛いじゃない」
非難の眼で見下ろすが、涙を浮かべたまま、意志の強い瞳が睨み返してくる。
ハヅキのこの真っ直ぐな強い視線がマリノはとても嫌いだった。
いつもそのゆるぎない視線でベルクートを見つめていた、そんな姿が嫌いだったのだ。
「噛んだのだから痛いだろうな」
短くそう吐き捨てると、ハヅキはまた唇を噛んだ。触れるなと拒むように。

噛んだといっても、噛み切るような力ではなかった。手加減したのだ。
それが無性に腹立たしい。痛みはすぐに引いた。それが証拠だ。
この期に及んでまだ相手に気を遣う余裕があるというのか。

どうせそんな余裕もすぐになくなる。
思い直したマリノは、再びハヅキの胸元に顔を寄せた。
普段は鎧で隠されているハヅキの身体は、女の目からみても美しかった。
鍛えられた体には無駄な肉はなく、引き締まっている。
きめの細かい白い肌はまるで絹のような手触り。同年代の女と比べると豊満な胸のふくらみに、
くびれたウエストのライン。何度か風呂で見たことはあったが、
間近で見るのとでは大違いだった。
マリノは太い、というわけではないが、平均よりややぽっちゃりした体系で、
胸のサイズも平均的。ごく普通の娘だった。
それだけに、ハヅキのこの身体をはじめて目の当たりにした時はショックを受けたものだった。

細い腰のラインを指でなぞりながら、腹部に残された痕に唇を重ねる。
ハヅキはゾクゾクと背中に這い上がる甘い痺れに見を震わせた。
マリノはベルクートが残した痕を追い、それに忠実に従うかのようにその部分を吸う。
まるでそれがベルクート自身であるかのような目で、ひとつひとつを丁寧に探し当てては、
甘く刺激を与えるのだ。
彼が痕を残している、即ちそれはハヅキの感じる部分である、ということ。
洩れそうになる声を必死に抑え、耐える。声を出してはいけない。
それはこうしてマリノに触れられる事に対して「屈しはしない」という意味の他に、
誰にもこの姿を見られたくない、という思いもあった。
誰に見られるのも嫌だ。
赤の他人とまでは言えないが、特別な相手でもない男に裸を見られるのは嫌だ。
もちろんそれもある。
だが、愛しい人に、…ベルクートに、女に犯されている自分の姿を見られるのが怖いのだ。
軽蔑されるかもしれないと思うと、身が竦む。そんな目で見られたくない。

「いやっ…!」
思考に落ちていたハヅキの意識が急に現実に呼び戻される。
ハヅキの意思などに関わりなく、マリノは無遠慮にハヅキの身体の至る部分に触れていた。
柔らかな尻肉を揉み、少女らしい瑞々しい太腿に残る痕を辿り、たっぷりと口付ける。
「ねえ、お尻にもキスしてもらったの?」
言いながら、マリノは固く閉ざしていたハヅキの両足を思い切り広げた。
露わになった秘められた部分に視線が向かっているのがわかる。
かっ、と頬が赤くなるのを感じた。
「やめろっ…!触るな!!」
羞恥のあまり大きな声を出す。マリノは楽しそうに笑いながら、
まるで男がするようにハヅキの右足を持ち上げて、自分の肩に乗せる。
「いいの?…カイル様、起きてるみたいだけど」
「─────ッ!」
口を噤む。たった一言で、ハヅキの声を封じることが出来るのだ。
今、この嫌な女を支配しているのは自分。大嫌いなハヅキを自分のいいように操っている。
それが楽しい。
歪んだ喜びに頬をゆるめながら、ハヅキの秘所に触れた。

「あっ」
ほんの一瞬声を上げ、ハヅキはまた唇を噛む。
嫌でも見えてしまうマリノの行為に嫌悪と羞恥を覚え、再び瞳を閉ざした。
マリノの指が、ハヅキの秘所を探るように動き回る。
遠慮なく最も敏感な肉芽を捉えると、きゅっ、と指で挟んで転がす。
かと思えば指先で押し潰すように刺激を与え、空いた手で内腿のキスマークを探り、
くすぐるように撫でまわす。
「あ…っ、は、やっ…」
同性からの弱い部分をよく知ったその責めは、経験の浅いハヅキには、
声を抑えて我慢していられるような刺激ではなかった。
認めたくは無いが指が這い回るごとに、淫らな音が耳に届くたび、
ハヅキの身体はその快楽に震えた。

「いや…っ!」
ひとしきり秘所を刺激し、ハヅキの蜜で濡れた指を荒っぽく挿入する。
根元まで挿し込んだかと思うと、勢い良く抜き、再び挿入する。
何度もそれを繰り返し、時折中をめちゃくちゃにかき回したり、緩急をつけて責め立てた。
ハヅキのそこは意思とは関わりなく、内部へ押し入るマリノの指をきつく締め付けた。
それがより深い快感になる。
「や…ぁ、やめろ…っ、はぁ…」
声を荒げないように、大きな声を上げてしまわないように、ハヅキは必死に耐えた。
既に口だけになっていたものの、それでも抵抗は止めない。
「気持ちいいみたいね…。ねえ、私がするのとベルクートさんと、どっちが気持ちいい?」
「くっ…ふ、ふざけるな…!っあぁ…んっ…!」
抵抗の言葉さえ快楽の喘ぎに飲み込まれる。悔しいが、身体は本能に忠実だった。
狂おしいほどの甘い悦びが全身を駆け回る。頭の中が真っ白になる。
これ以上耐えられない───。
抱え上げた足に残された痕にマリノは口付けた。
それだけでハヅキの身体は反応してしまう。休みなく指を動かしながら、
そのまま少しづつ腿の方へと唇を滑らせ、足の付け根に残っている痕にキスをした。

「!!」
びく、とハヅキの体が仰け反る。内部に沈めた指が一際強く締め付けられた。
絶頂を迎えたのだ。マリノは指を引き抜くと、楽しそうに声を上げて笑った。
「そんなに気持ちよかったの…?女の子にされていっちゃうなんて、いやらしいのね」

ハヅキは呆然とした瞳で天井を見上げている。
肩で息をしながら。興奮と屈辱で涙が止まらない。
こんな事をして何になるのだろう、ハヅキの思考は最初のそこへ戻っていた。
「もう終わったとか、思ってないよね?」
マリノの声に、呆然としていた意識が戻された。
反射的に声の方へと視線を向け、後悔する。同時に足をばたつかせて抵抗した。
マリノの顔は自分のその部分の目の前にある。
次に来る行為に、その快楽に、ハヅキは抗った。
「嫌っ…やめろ、離せ!!」
ハヅキの言葉が終わるより先に、マリノは既に蜜でとろとろに濡れた秘所へと舌を伸ばし、
拭い取るように舌を動かした。入り口に舌を窄めて挿入し泳がせるように動く。
羞恥を煽るようにわざと音を立てて。
「いやあああっ!」
ハヅキの声が悲鳴じみたものに変わる。が、マリノは容赦しない。
指でくい、と秘所を広げ、肉芽に吸い付きながら、もう片方の手は、
指を奥まで差し入れ、内部の蜜を掻き出すように動き回る。
「ベルクートさんはどうしたの?あなたのここ、どんな風に触ったの?」
ちゅ、と音を立てて吸い、問い掛ける。当然ハヅキは答えない。
答えられるものでもなければ、そんな余裕もない。

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