クリス×アヤメ「愛するが故に我は悩む」 著者:村雨様
カチャッ、カチャッ―――
薄暗いビュッデヒュッケ城の地下階に鎧の擦れる音が響く。どうもこの雰囲気は苦手だ…
ビュッデヒュッケ城に移ってからもう2月が経つ。無残に崩れてる城壁を見て私は愕然と
した。これでは攻撃に耐えられないではないか、と毒づいた。しかし、今の所ハルモニア
軍の襲撃は無い。
人口も当初は100人足らずだったらしい。しかし今や5000人の大集団に膨れ上がっ
ている。これもゼクセン・グラスランドを愛するが故の結果だろう。
普段は地上階に居る私が何故地下階に下りているのか…それはある理由があるからだ。
「アヤメさん…こんにちわ」
私は彼女の名前を呼んだ。
「…………どうも」
普段は他人に本性を見せずに任務を淡々とこなすくの一、でも私と過ごす時間の中ではク
ールでカッコイイお姉さん。それがアヤメさん。
「クリス殿もご健勝で何よりです……」
「その呼び名は止めて頂きたい。呼び捨てで結構ですから」
私は小さく笑ってそう言った。
普段から難しい顔してると良く言われる。確かに顔の筋肉を動かす事は少ないが…でもこ
こに居ると自然と顔の筋肉が動いてくれる。
「アヤメさんこそ…ご健勝で何よりです」
そう言うと私は膝まづいてアヤメさんの右手の甲にキスをする。その右手には「もずの紋章」
が浮かび上がっている。アヤメさんに扱えない紋章、あのもず落としは可憐で美しい。
「あっ…」
右手の甲にキスをするとアヤメさんはいつも驚いた様に声を上げる。いつもクールで
感情を示さない彼女が唯一感情を示す瞬間。
「この挨拶の方法は慣れませんか?」
私は顔を上げて言う。
「いえ…手の甲よりもこちらに…」
そう言うと、アヤメさんは顔を覆っていた紫の頭巾を取った。そこには端正な顔立ち
をしている本当の彼女がいる。世界中のどんな美女よりも彼女が美しい。
私達は使われていない倉庫へ移動した。そこはいつも私達が愛し合う場所で、誰にも
邪魔されない最適な場所だ。本当は私の部屋で過ごしたいのだが…
「アヤメさん…こちらへ…」
私は木箱の上に座って彼女を誘った。アヤメさんも言われるままに私の隣へ座った。
「こんな所で行為に及んでしまってゴメンなさい…本当は私の部屋にお誘いしたいの
ですが何せうちの騎士団の男は気配りが行き届かなくて…パーシヴァルは分かってい
るいるようなのですがそれ以外が…」
「…そんな事はありません。私はクリス殿と居られる事が嬉しいです…場所にこだわ
っていては…」
「でも…美しいお体に傷がつくのは…」
「クリス殿」
アヤメさんの眼光が鋭く光った。
「は、はい!」
私は機嫌を損ねてしまったと思った。彼女が怒りに駆られると大変な事になるらしい
と過去に聞いた事があった。
“チュッ”
…一瞬何が起こったのか分からなかった。
「ふふ…」
アヤメさんは微笑を浮かべている。
「……あっ!あ〜!」
私はようやく理解できた。不意打ちでキスされたのだ。
「アヤメさんっ!!」
「ふふふ…不意打ちはいけませんか?」
アヤメさんの笑みは妖艶な笑みだ。私だけが知っているアヤメさんの笑顔。
「不意打ちなんて酷いですよ〜…もぅ」
私は少し拗ねてしまった。だって普通にキスするかと思ったら不意打ちだ
なんて…でもアヤメさんがここまで興味を持ってくれる事は嬉しい。
「クリス殿…」
アヤメさんが私の名を呼ぶ。
「気分を害されたなら…謝ります」
「気分を害してはいませ…ひゃっ!!!」
後ろから抱きしめられた。アヤメさんの吐息が首筋に吹きかかって妙な気分
になった。それは私に対する挑発なのか――――
「鎧を…行為には不要です」
私は言われるがままに鎧を脱いだ。季節的に夏に近いので鎧の下はノース
リーブだった。依然としてアヤメさんは後ろに居るので表情は拝めない。
「はうぅ…ダメ…アヤメさ…ん…あ」
アヤメさんの手が私の胸を捉えた。白くて細長い指で私の胸を揉んで行く。
「ふふふ…感じてるのですか?」
「そ…言わないで…下さい」
「…乳首はこんなに突起なさってるのに…素直になられたら如何ですか?」
今度は耳朶に歯を立ててきた。微妙な強弱をつけて確実に刺激を与えてくる。
「ひゃっ!は…離してください!」
「…何故ですか?先程から全身が震えてます…余程耳朶が感じられるので
すね…性感帯…ですね」
「はうぅ〜…」
アヤメさんは行為を止めない。右手で乳房を触りながら左手はスカートの中に忍ばせた。
「!そ、そこは…」
「そこは…何ですか?クリス殿…何かいけない事でも?」
アヤメさんは笑っていた。
私はアヤメさんに為すがままにされていた。耳の裏、首筋に舌を這わされ胸への
愛撫も怠らない緻密な前戯に私の思考能力は麻痺寸前だった。今まで彼女とは何
度か交わってきたが、これ程までに緻密な愛撫は初めてだった。
「ふふふ…クリス殿は相当な淫乱ですね…他の御仁が見られたら何と言われるか…」
「いやっ!言わないで…」
耳元で言われる言葉にも私の羞恥心を煽るような言葉ばかりだった。
言葉に反応してはいけない、と頭で解っていても体が許さない。益々敏感になる
私の感覚。
「おや…何やら冷たい物が太股を伝ってますね…何でしょうか?」
「…はっ!?」
遂に愛液がショーツから漏れ出してしまった。これだけは何としても避けたかっ
たのに…そう思うと何だか悲しくなってしまい、
「ううっ…うぅ」
あまりの恥ずかしさに私は泣いてしまった。木箱の上に涙がポタッ、と落ちて私
の愛液と混ざり合った。そしてまたシミの後が大きくなる。
「すみません…自分が情けなくて……淫乱で変態な自分が憎くて憎くて…なるべ
く自分の仲に閉じ込めようとしてるのですが…ふとした弾みにまた……」
アヤメさんの胸に突っ伏して泣く私。
「……………」
アヤメさんは無言のまま私を抱いてくれた。そして、頭を優しく撫でてくれた。
「クリス殿…恥ずかしい事ではありませんよ」
「…え」
「人間誰しも性欲は持っています。強さは人それぞれ、クリス殿の場合は少し性
欲が強いだけの事…気にする必要はありません。むしろ、そんなクリス殿が私は
好きです……だから泣かないで下さい」
「アヤメさん…」
ふふふ、と微笑みながら小さくキスしてくれた。