ゲド×クイーン 著者:スペード様

躯が重い。
ずっと自分を縛り付けていた真の紋章を失えば、楽になると思っていたのに…皮肉なものだ…

「あのさ、ゲド…」
ゲドの思考を途切らせたのは、12小隊でゲドの片腕と言っても過言ではない、凛とした女の声だった。
普段は放任主義のクイーンが珍しく何か物言いたげな表情で、妙な汗をかいているゲドの顔を覗き込んだ。
「大将!どうしたんですか!?顔色がマジでヤバ…あ」
自称チーム1の色男エースは、自分が禁句を言いかけた事に気付き、ハッと言葉を飲み込んだ。

真の紋章を奪われてしまった今、ゲドの命は後何日もつのか誰にも予測できない状態なのだ。
そんな状況下でゲドを除く5人には、その事には触れない。いつも通り接する。といった暗黙の了解が存在していた。
クイーンを始めジャック、ジョーカー、果てはアイラから殺気の隠った視線をチクチクと受けたエースは、いや何でもないですよ。へへへ…と情けない表情で後列に下がるしかなかった。
ところがそんなやり取りは全く届いていないかの様に、ゲドは歩を進めていた。
ルビークで鉄拳制裁をした拳がまだ感覚を残していると言う事は、山道に入って少ししか歩いていないと言う事だろう。

山道のでこぼことした道が、更にゲドの足を重く感じさせる。
と、その時―――
「………っ!」

温かく、優しく、それでいて力強さを感じる滴が幾度目かゲドの拳に落ちた時、その質感に導かれる様に男は眼を醒ました。
見覚えのあるカレリア風の天井と、少し固めのベッドは、いつも世話になる宿屋の一室に相違ない。
ふと腕に眼をやると、其所には失われた紋章の代わりに、しっかりとゲドの手を両手で握り、其所に額をこすりつけるように顔を寄せて泣いているクイーンがいた。
普段の振る舞いからは想像もつかないような、弱々しい姿だ。
初めて見るそんな彼女の表情に困惑して、ゲドは声を掛けるのを一瞬躊躇した。

「お願い…死なないでよ…ゲド……ゲド………!」
嘆願する様に声を震わせているクイーンを見るに見かねて、というよりは、見たくないという方が正しいだろう。
気丈な彼女をこんなに弱くしてしまった責任は自分にある事を、ゲドは直感した。クイーンの涙をこれ以上見れば、この直感を真実と認めざるを得ない。それは、不老であっても、明日死んでも不思議ではない今の状況でも、変わらずお互いを傷付けるだけの感情にすぎないからだ。

「…勝手に殺すな」
「―――――――!!」
突然声を掛けられた驚きと、生きていた喜びと…様々な想いがぐちゃぐちゃに混ざり合って、クイーンは溢れる涙を抑えられなかった。
「良かった…ゲド…本当に心配したんだよ」
「…すまない」
「あんたが急に倒れたりするから…」
「もう泣くな…」
わざと冷たくクイーンの言葉を遮り、ふいとそっぽを向いた。
取り乱していたクイーンだったが、瞬時に其の言葉の真意を知り涙を拭う。そう、この男に想いを寄せる事は、必ずしも幸せな事ではない。それは周知の事実であり、クイーンの「愛情」という価値観を揺さぶるものだった。

「………」
聞き慣れた沈黙がクイーンの躰を縛る。
それに逆らうように体の中から溢れそうな、切ない気持ちが沸き上がる。
いや違う。この沈黙だけがクイーンを抑える事ができるのをゲドは知っている。
乱暴な方法だが、これがゲドの優しさなのだろう。
やれやれ、やっかいな男に惚れてしまったもんだねと思い、ふっと溜め息混じりの嘲笑を溢す。

更に沈黙は続く―――
カレリアの乾燥した風がランプの火を揺らす度に、微かに見えるクイーンの頬の涙跡だけが時間の経過を物語っていた。

「…そろそろ部屋に戻れ」
時間の経過は、拒絶の沈黙を拒絶の言葉にまで昇華させていた。
それは聖域。何人をも立ち入る事を許されぬ、不老と可老の壁。ここに踏み込んだ者は、必要以上に傷付け合うのを避けるため、2度と言葉を交す事さえも不可能にするだろう。

クイーンは試されていた。

ここで部屋に戻れば、仲間として互いの命在る限り傍らに居られるだろう。
もし帰らなければ―――

そんな考えが脳裏をよぎったのと同時に、ある推測も浮かんできた。
どうしてもそれを確かめたい衝動に駆られたクイーンは、場を取り繕うように話を切り出した。
「怖いかい?」
「…何がだ」
「かつての炎の英雄は、愛する女と共に老いる事を望んだ」
「……」
ゲドの沈黙の空気が変わった。やはりゲドの興味を引くには、この方法が一番楽なのである。ここはクイーンの作戦勝ち、といったところか。
「ほんと、度胸のある男じゃないか」
「………あいつは弱い。自らの宿命に耐えきれず、守るべき者を捨てた」

「それじゃあ、あんたも弱いって事だよね?ゲド」
間髪入れずにクイーンは言葉巧みに言い倒す。ゲドを傷付けようとする破壊衝動を止める術を彼女は見い出せない。
「愛する人が老いるのを見たくないが為に紋章を封印した英雄が弱いってんなら、誰も愛そうとしないあんたと何が違うんだい?
そりゃあ私から見ても、相手を傷付けたくないってのは解るさ。
女だったら自分がどんどん老けこんでくのを見られるのは正気じゃいられないしね。
だけど、そんなのは建前だろう?
一人置いてけぼりにされる自分が可愛そうなんだろう?
あんたが人を―――」

「それ以上…言うな」
ゲドがその台詞を口にした時には既に、クイーンはベッドに押し倒され、喋れないように口を唇で塞がれていた。
「―――っ…はぁ……ぃやっ…」
それでも最後まで言いきろうとするクイーンの顎を強引に掴み、ゲドは激しく舌を絡ませた。
女に抵抗力が失せてきたのを確かめ、お前が挑発するからだと低く言い放つ。

クイーンの気持に気付かぬ程、ゲドは鈍くなかった。
ただ100余年生きてきても、自分を仲間ではなく男として見られるのは苦手だった。

「…お前の言う通りだ」
「ゲ…ド……んっ…」
また強引に舌を差し入れ、絡め合う。
事実、ゲドはどちらかと言えば、相手がどうのこうのよりも、自分に近付いてきた者に己の弱さを知られるのを嫌っていたのかもしれない。
しかし今、舌先で感じている女と一緒ならば、そんな自分を変えれそうな気がした。
そしてこのまま自分の全てを晒けだしたい、とゲドは生まれて初めて思った。

十二分に堪能した口内から舌をヌルリと抜き出し、繋がる唾液の糸を切らないように、唇を近付けて囁く。
「今宵…一人の男としてお前を抱きたい」

思いもよらない男の言葉に、ぎゅっと抱擁で答える
この男が何を思い、考えたかは、速さを増す鼓動から何と無く伝わってきた
それは男の方も同じ

――もう言葉は要らない――

優しく口付けながら互いに衣類を脱がしあう
露呈されていく白い素肌にキツく吸い付き、独占欲を象徴する所有印を付けてゆく
「あ……っゲド…」
左手で桜色に色付きかける胸を揉み、片方の胸は唇で玩ぶ
そして余った右手で秘部を愛撫した
女は三点を同時に責められる快感に溺れ、自分の胸元に顔を埋める男の髪に指を絡めた

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