初恋(フェリド×アルシュタート←ゲオルグ) 著者:ほっけ様

 誰から誰でなく酒を注ぎ合い、誰からとなくグラスを傾ける。
 好き好きなペースで、小さい円卓を囲んだミアキス、ゲオルグ、カイルの
 若い女王騎士の面々は、朝までの僅かな時間で酒盛りに興じていた。
「初恋ですかぁ」
 カイルが何気なく振った話題に、ミアキスはそのかわいらしい唇に
 己の指を当てて考え込んだ。
「10…歳、くらいですかねぇ…リューグちゃんだったんですぅ」
「ほう、あの竜馬騎兵団の」
「幼馴染かぁ。いいですねー」
「ふふ…結婚式ごっことかしてたんですよぉ?
 でもあの頃は子供でしたからぁ…今はお互い大人ですしねぇ。
 今は本当に、兄妹みたいな感じですよぉ」
「今はミアキス殿もリューグ殿も異性に大人気ですしねー」
「やだ、カイル殿も女の子に大人気じゃないですかぁ」
「確かに。ソルファレナでもミアキス殿の評判は高いからな」
 つまみのチーズケーキの最後の一切れを、フォークの鍔迫り合いで
 渡すまいと眉間に皺を寄せるゲオルグとミアキス。
 その間にもミアキスはカイルと談笑していたが、
 自分は巻き込まれないようにとサラミに手を伸ばしていた。

「で、カイル殿はどうだったんですかぁ?」
「あ、オレのこと気になります?」
「当然だろう」
「ゲオルグ殿まで。いやー、もてて困っちゃうなー」
「…………」
「話の流れだろう。気持ち悪いものを見る目で俺を見るな、ミアキス殿」
「わー、貞操の危機ー …ごめんなさーい、うそでーす。 オレはですね」
 闇の中に僅かに鞘走りの音が響き、人死にが出る寸前でカイルは冗談をしめくくった。
「…初恋…っていうと、そうですね。お姫様でしょうか」
「ほう」
 楽しげに眉をひそめるゲオルグと対照的に、ミアキスの状態は「怒り」に加速した。
「落ち着け、ミアキス殿。どう考えてもリムではない」
「ふーっ、ふーっ…ふぅ、ふ…」
 噛み付こうとした手を腕を差し出してカイルをかばったゲオルグは、
 手刀で軽くミアキスの頭を殴って制した。
「すいません、ゲオルグ殿」
「構わん。で、姫とは?」
「御伽噺のお姫様ですよー。多分ミアキス殿の初恋よりもっと小さかったころ」
「はふっ。 そ、そうだったんですかぁ?」
「ええ。凄いえらいのに、優しいお姫様。で、オレはその物語の騎士になりたーい、って思ったんですよね」
「そうか」
「そうですかぁ…」
 ミアキスとゲオルグは、サイアリーズの姿を瞼の裏に思い浮かべ、そして目を開いて消した。

「それで、ゲオルグ殿の初恋は?」
 カイルがそう言うと、ミアキスもゲオルグに視線をうつす。
 噛まれた腕をさすりながら、ミアキスがカイルに襲い掛かろうとした際に
 ちゃっかりゲットしたチーズケーキを飲み込み、視線を上げた。
「俺か?」
「そうですよぉ。気になりますぅ」
「そういえばオレたちって、殆どゲオルグ殿のこと知らないじゃないですかー」
「………そうだな、初恋か…」

 10数年前、群島諸国。
 アルシュタート・ファレナスがファレナ女王即位して2年。第一子は男児であり、
 その国の肩を僅かに落とさせたものだが…
 女王騎士長フェリドとアルシュタートの人柄と手腕は、ファレナに希望を見出させる程の器を感じさせた。

 女王が乗った船が、とある島の港へ入った。
 視察は視察であるが、多少密裏の王務であるため、出迎えは最低限の人数だった。

「…群島諸国は相変らず暖かいですね」
「ファレナは今少し肌寒いからな。大丈夫か?日傘は」
「心配はいらぬ。ふふ…最初にここで会ったときも、そのようなことを言ってくれましたね」
 宿の廊下を歩く二人。もうピンク色ムードである。
 激動の内乱を潜り抜けた二人の絆は確固たるもの。最強の新婚である。
 「はい、あーんv」「あーんv」とかしそうな空気を読んでか読まずか、足音が彼等の向かいから響く。
「フェリド!アルシュタート!」
「おお、ゲオルグか!」
 まだ群島諸国の仕官として活動していたゲオルグ少年。10代半ばの美味しそうな年頃である。
 ニフサーラがいれば思わず舌なめずりしそうな、眼帯の厳つさを銜えても十分な美形だ。
「久しいな。壮健であったか?」
「まあな。話は聞いたぞ」
「まあ、アルの手腕あってこそだ。そうだ、ゲオルグ。お前も「陛下」と呼ばんか」
「構いませんよ、公務の折ではないのですから。久しぶりですね、ゲオルグ」
「……ぁ、ああ。久しいな」
 そのゲオルグの美顔が少し紅くなる。
 アルシュタートの美しい微笑みにやられたのか、といえばそうでもない。それもあるが…。
 …何を隠そう、ゲオルグの初恋の相手は彼女である。
 群島諸国ではじめてアルシュタートにあった2年ほど前。見事な一目ぼれであった。
 その時は、フェリドと激しい争奪戦を繰り広げたものである。

「…ふふ、ゲオルグ。アルは綺麗だろう?」
「フェリド…」
「ああ、噂に名高いファレナの女王に相応しい」
「そうだろう?そうだろう?だがな」
 にやにやと笑っていたフェリドは、ぐっとアルシュタートの肩を抱き寄せた。
 思わず驚き恥らう、まだ幼さを残すアルシュタートの顔。
 しかしゲオルグの瞳は驚きの一色に染まっていた。
「だが、俺の嫁だ」
「………!」
「もう、フェリド…」
「ふふ、いいではないか。忘れたわけではなかろう?あの夜を…」
「睦言を楽しげに語るのは礼に反しますよ?…それに、思い出すのは腰の痛みばかり…」
「それだけか?…気遣ったつもりなのだがな」
「いえ…それだけではありませぬ、が」
「ふはははっ!照れるな照れるな!」
「もう、フェリド…。 …でも、もっと思い出深いのは、あのときみたファレナの空…」
「ああ、星が綺麗だったな…」
「フェリド……」
「アル……」
「…………………」

「…ふっ」
「(うわ、何かすっごい切なそうに笑ってるー!)」
「(な、何かまずいこと聞いちゃいましたかねぇ?)

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