大人の武術指南(ゲオルグ×ベルナデット・ミアキス) 著者:ほっけ様
「今日もよろしくお願いしますね、ゲオルグ様」
「手加減しちゃダメですよぉ?」
「ああ」
「…最近、ベルナデッドさんとミアキスとゲオルグが夜中に何かしてる」
ファルーシュが食卓でぽそぽそと呟くと、カイルの手からフォークが落ちた。
リオンはそのおまんじゅうほっぺを膨らませていたところ、こくんと飲み込んでしぼませる。
「何でしょう…武術指南でしょうか?」
「どうなんだろう。ミアキスはともかく、ベルナデッドさんて紋章系だし」
「甘いな。王子、リオンちゃん。そろそろそういうのも学ばないと」
フォークを拾いなおしながら、頭上に疑問符を浮かべる二人にカイルはチチチと指を振ってみせた
「そういうの…ですか?」
「王子は、そっちのことちょっと知ってるから気になったんですよねー?」
「う……で、でもゲオルグに限って、そんな…」
「どうでしょうねー。ゲオルグ殿も男ですし。それに、あの二人くらいの年頃だと、
包容力のある男性が好きになっても可笑しくはないじゃないですかー。
ありえないことじゃないと思いますよ?ゲオルグ殿がただものじゃないことはみんな知ってるじゃないですかー」
「え、ええと…何の話でしょう?」
「あ、いや…その…だから、さ」
「男女の関係を、複数人でナイショで持ってるかもしれない、ってことだよ、リオンちゃん」
「…………」
どぎまぎする王子、楽しげなカイル。そして硬直するリオン。
次の瞬間、お饅頭が桜餅になった。
「え、ええっ!?そ、そんな!?不純ですよ!そ、そういうことがあるのはしかたないにしても…!」
「事の顛末は想像しやすいかもね。ほら、ゲオルグ殿とミアキス殿、急に仲良くなったし」
「でも、あれはお詫びにお菓子を持っていったからじゃないの?」
「そうですよ!ミアキス様の誠意をゲオルグ様もちゃんと受け止めて…」
「うーん、王子とリオンちゃんにこういうことを教えるのも気が引けるんだけどなー」
『…ゲオルグ殿ぉ、その…』
『ミアキス殿、もういいと言っているだろう?』
『でも、私が納得いかないんですよお。受け取っていただかないと、けじめがつかないですぅ。
それに、また繰り返しちゃうかもしれないから…』
『ほう』
ゲオルグの口許が妖しく歪む。
常には飄々としていて、重みのある言葉を発するその口が、愉快なものを見つけて、否。
まるでチーズケーキを見つけたときの、大好物を目の前に据えられたときの喜悦の色に染まる。
『え…?あ、げ、ゲオルグ殿っ…!?』
『誠意、というものを指南してやろう―――何、自らを子供だと思うのなら。
先んじた者達の知識を吸収するのもいい経験になる』
『で、でもぉ…こ、こんな…』
『すぐ済む。力を抜け』
『あ、…ぁっ』
「題して、「ゲオルグ先生の夜の武術指南」。」
「あ、ありえませんっ!あのお二人に限ってそんなっ!」
「……で、でもありえるかもしれない。あの二人、もう大人だし…20台だし…。
どっちかっていうと、歳の近いカイルの言う言葉のほうが真実味があるっていうか…」
「王子まで…」
「で、でも!それだったらベルナデットさんが一緒にその、そういうことするっていうことの説明がつかないよ!」
「そうかなー?ちょっとゲオルグ殿に悪人になってもらうけど…ミアキス殿とベルナデットさんって、仲が良い」
「まさか…」
「まさか?な、何ですか、王子?」
「ベルナデットさんって、美人ですよねー、ってこと」
「…み、ミアキスを利用して…?」
「…? ………! そ、そんな…!」
「でも、このままじゃ卓上の空論ですよー。ここはやっぱり」
「…オボロさんたちに頼もうか?」
「いや。ここはオレたちがするべきですよ!同じ女王騎士として!そして王子は、彼等の上司として!」
「で、でもどうするんですか?」
「決まってるでしょー」
夜。
「……やっぱり…声が聞こえる」
「もうみなさん寝ていらっしゃるのに…」
「むむ、ゲオルグ殿ってば実はいやらしいんですねー。オレも誘ってくれればよかったのに」
「カイル様っ!」
「冗談ですよー。でも、まあ、この目で確かめないことには、ね?」
「行こう」
「…はい。でもいいんでしょうか、覗き見なんて…」
「仲間を正しい道に引き戻すのもオレたちの務めだよ、リオンちゃん」
「…うう」
ひそひそ話と抜き足でそろりそろり、ミアキスとベルナデッドの部屋に忍び寄る3人。
「……!」
ぴたりと扉に耳を当てた3人。
「ぅ、ぁ…はぁ、は…げ、ゲオルグ殿ぉ…もう、もうダメですぅ…」
「ふ、はっ、わ、私も…もう……」
「だらしがないな、二人とも。最初の威勢はどうした?
…ほら、こうだろう?はやくするんだ。」
「ぁ、あっ……!」
「うぁあっ…!」
「………、ッ!」
「〜〜〜〜〜〜〜ッ…!!」
「…やーっぱり…ゲオルグ殿ってやっぱ凄いなー」
「カイル様、感心している場合じゃありません!一刻も早く」
「入って止めるの?それはどうかと思うなー」
「ま、まだ何が起こってるのかわかったわけじゃないよこの目で見て確かめないと良いか悪いかもわからないじゃないか」
「王子!ちょっとパペッジさんがうつってますよ!」
「王子もやっぱり男の子ですねー」
真っ赤になったリオン。目が血走って息が荒くなりはじめた王子。終始楽しそうなカイル。
「じゃあ、こっそり見ちゃいましょう」
「で、でも…!」
「そ、そうだね…!」
「王子!」
「なんだかんだ言ってリオンも見たそうじゃないか」
「そ、それは…」
扉の淵に未だ耳をくっつけてたリオン。
そして3人の眼は暗闇に慣れきっている。つまり。
「いきますよー」
「は、はい…」
「う、うん…」
カチャ。
その3人が見た光景は、忘れられる気が全くしない凄惨なものだった。
大人への階段を昇り始めた二人の女性が、年上の男と――――
「違うと言っているだろう。そうではない!」
「ッ…く、う、腕がぁ…」
「腕が痛いのか?まだ1時間だぞ」
「で、でも…足も…」
「たわけたことを言うな。パティシエは不眠不休で立ち続けているんだぞ。
わかったら早くあわ立て器を動かせ!腕全体をつかって素早くかき混ぜろ!」
「「は、はいっ!ゲオルグ殿/様!」」
「リムとスカルド提督の笑顔が見たくないのか!」
「「見たいです!」」
「ならば復唱しろ!料理は!」
「「愛情ッ!」」
「ケーキは!」
「「真心ッ!」」
「味の道は!?」
「「ド根性ぉ〜〜〜〜〜ッ!!」」
電気消す必要ないだろーッ!と心の中で突っ込みを入れた3人。
ファレナを愛する気持ちはみんないっしょ。
まるで作品が違う―――何か甘ったるいにおいの中ありえないくらいの熱気に包まれたお部屋。
ボウルに満ちたケーキになりかけのものをかき混ぜる二人。
竹刀のかわりに居合い刀を構えて熱血指導を行うゲオルグ。彼の眼は本気だ。
腕が震え、膝が笑ってもその指導を受けながらケーキを作る二人。彼女たちの眼は本気だ。
ゲオルグの口にちょっとクリームがついているのは恐らく、「指南」の過程で出来た完成品を食っているのだろう。
「………王子、カイル様」
「うん…帰ろうか」
「そうですねー…」
朝。
「その、ゲオルグ…ごめん」
「ゲオルグ様、ごめんなさい…」
「ごめんなさーい」
「何がだ。まあ、座れ。チーズケーキを1ホール頼んである」
平和じゃないはずなのに、セラス湖のお城は今日も平和。
おめーらもうちょっと真面目にファレナの未来考えれ。