ゴロウ×サナエ 著者:5_653様
「サナエちゃん、どこに行ったんだろう?」
昼食時になっても食卓の席に付いていないサナエを心配し、皆、開口すると始めにこの台詞を言う。
ジュウジュウ音を立てていたハンバーグが、サナエの席にだけぽつんと置かれ、既に冷めきってしまっている。
「料理も冷めちゃったね…」
皿を下げながらメイミが呟く。
何故か、俺もそわそわしていた。
※
番台へ戻る前に、俺はいつもここで木を眺めて暇を持て余している。
森の清々しい空気を吸う事も、もう日課だ。
桶を作るには欠かせない素材を、眺めているのには飽きない。
「おまえは、大きくなったなー」
こうして木々に話かけるのだ。それに植物には会話がよろしいと、よく聞く。
「…このアマがっ」
だが、今のは俺じゃない。
こんな罵声は浴びせられない。
俺は慌てて目を見開いた。
木々の生い茂るその向こうをジッと凝視すると、複数の人影が蠢いていて、
それらが荒い息づかいで「オラ!」だの「餓鬼が!」だのを
繰り返している事が微かながら分かった。
新手の森林伐採か、俺は落ちていた太めの枝を拾い上げ、
音を立てないように、慎重に奴らとの間合いをつめて行った。
雑草や木々で見えにくい視界だったが、近づくにつれて目の前が開けてきて、俺は息を飲む。
もう、俺の心拍数は絶頂だ。
「起きろ、まだまだだ!」
そこには体格のバラバラな男が3人もいた。見た事も無い、変な男達が一本の大木に向かって怒鳴り、腰を打ち付けているように見える。
様子がかなりおかしい。
男達はズボンをはいていない。
新手の変態か、俺はそこで確信した。
だが、さらにおかしいのだ。
それは時折「うっ」「んふっ」などといった呻き声が大木の反対側から聞こえるということ。
嫌な予感がさっきから胸の当たりに篭もっている。
居ても立っても居られなくなり、ぎゅっと握りしめた枝を、高々と掲げて俺はやっと一歩を踏み出した。
「お前ら!何をしているんだ!」
同時に低めの声を喉から吐き出すように響かせる。
我ながらドスの利いたいい声が出た。
「うぁ!」
細身の男がくるぶしまで下がっていたズボンを慌ただしく持ち上げると、反動で後ろに転げでしまった。
容赦なく、俺は残り二人の露出された性器めがけて枝を投げつけてやった。
直後に鈍い二つの音。
「ぐあ!!」
「っ!!」
俺は奴らを見据えた。
なんという幸運だろうか、一つしか投げつけていない枝が
流れ弾のように跳ねて見事に二人へ命中したのだ。
それもきちんと俺の狙ったアレに。
一分もしないうちに奴らは逃げていった。
尻餅をつきながら。
尻尾を巻いた負け犬のように見えて、なんだか笑えてきてしまう。
そうなると気になるのは、奴らの行っていた怪しい行動。
先ほどよりも何故か心拍が高まる。
大木の反対側が苦しそうに喘ぐからだ。
きっと…、いや絶対。
鈍い俺でも流石に蒼白になってしまう。
そこにいるのはサナエちゃんだ。
「はぁ…はぁっ」
案の定。
「っうぅ…う」
回り込んでそっと覗くと、はだけた着物に深々と潜って顔を隠し、震える彼女の姿があった。
木を背もたれに、涙と何か別のもので濡れた顔面を
拭う素振りを幾度か続けては、また小さく震える。
俺は出来るだけ柔らかな声色で彼女を呼んだ。
一度、彼女の肩がぴくりと跳ねた。
「!っご…ゴロウさん?」上擦った声で、俺をよぶ。
ひどく怯えている。歯があたってガチガチ言っている。
眼鏡にひびが入ってしまっている。
「死ぬかと…っ」
言いかけて、またガチガチ震え出してしまった。
実を言うと俺も怖かった…。戦闘すら参加した事も無いのに、突然は反則だと思った。
しかし一番辛かったのは彼女である、優しく接してやらないと。
俺は彼女の前に座って、二人の目の高さを合わせるようにしてやった。
「も、もう…大丈夫だよ」
こういう事に慣れてないが、もう一度柔らかくつつむように話してやる。
やはりそれはありきたりでとてもぎこちない口調だが、今の彼女には十分だったようだ。
俺の話す声にあわせて、ただ、うんうんと頷いている彼女はなんだか見ていて悲しくなってきてしまう。
途端に奴らのいないという安心感から彼女が声を出して泣き出した。