ヒックス×テンガアール 著者:2_262様

 「突然こんな所に呼び出したりして、なにか用があるの?」
 月の昇りきったテラスには、彼らの他に人影はなく、ただ窓からこぼれる灯火と生まれたばかりの月があるだけ。
 「そんなに、大したことじゃないんだ…。」 「だったら!」
 そう言って彼女は、彼に詰め寄る。
 「はやく言ってちょうだい。ボクは眠たいんだから。」
 彼は、一歩下がって、うん。と、弱々しく、くぐもった声を出す。
 「次の戦いは、いつになるか分からないけれど、けれど… この前のよりは激しくなると、僕は思う。」
 「それで?」
 彼から見て、彼女の機嫌はあまり良さそうには見えなかった。
 「こんなふうにこの城に戻ってくることも、無いかもしれない… だろ?」
 「縁起でもないこと言わないでよ。」
 彼が弱気なのはいつもの事。それにしても今夜は様子が違う気がする。
 「そ、それで… こ、今夜の月は一段とキレイだね…。」
 「そう? いつもと変わらないよ。」
 昼のあいだ考えていた言葉がぐるぐる彼の頭の中でまわる。もう段取り通りにはいかない。その不安が彼を焦らせていく。
 「どうしたの? ヒックスなにか悪いものでも食べたの? ボク、ハイ・ヨーさんに言っておこうか。」
 彼女に言葉も彼の耳には入ってこない。彼の頭の中にあるのは、いちかばちかだ。という漠然とした思考だけ。
 「…テンガアール!」
 彼は突然、叫びにも似た声で彼女の名前を呼び、腕を伸ばし彼女の肩口の辺りに巻き付かせる。するりという衣擦れの小さな音が聞こえる。
彼女は素直に彼の胸におさまった。落ち着いているのか、不安なのか、安らいでいるのか、怖いのか、それは自分たち自身でも理解できてはいなかった。ただ、そのとりとめの無さは彼の思考の混乱を助長していた。
 ヒックスは自分の唇が勝手にテンガアールのそれへと動いていくのを、ただ眺めているような感じがした。
 ちょっと! 心の準備がまだ! 彼女は、とっさにあごを引き、自分の唇を庇う。その直後、ゴツンという重く響く音が、あたまの中で反響する。彼にはもうひとつ胸を思いっきり押される衝撃のおまけつき。
 「もう!!!」
 ひたいを押さえながら、彼女はそうとだけ言って、テラスから走り去っていった。彼には、頭をさすりながら、部屋に帰る事しか残されていないようだった。

 ふうぅ… もう何度目になるのかわからないためいきを、彼女は心の中でついた。その後に、頭をもたげてくるのは、後悔と自責の念と、それらのお友達のユウウツだった。
 謝ったら許してくれるかなぁ… 気まずくなるだけだよねぇ… ふうぅ…。
 「こんな夜更けにレディが出歩くのは、城内といえど、あまり感心しませんよ。」
 テンガアールは、カミューさんこんばんは、とごく軽く、そっけなく挨拶をした。
 「おや? またヒックス君と何かあったんですか?」
 「どうして、わかるの!?」
 彼女としては、憂欝そうな顔はしてないつもりだったので、礼儀正しい騎士からの意外な言葉に戸惑ってしまう。
 「レディの悩みが見抜けぬようでは、騎士は務まらないんですよ。」
 このカミューでよろしければ、いくらかお役にたてるかも知れません。と、彼は続ける。 確かに、カミューさんなら、良い答えを知ってるかもしれない、経験豊富そうだし。彼女は意を決して、質問をぶつける。
 「あの…! オトコとオンナがうまく、その… 抱き合うためのコツってないんですか?」
 これで、ヒックスにお返しができるかも知れない。
[随分と唐突なことですね…。」
しばらく考え込んでから彼は答える。
 「ふぅむ… そうですね… 私の経験からして大事なことは、受け容れること、といったところでしょうか。」
 「受け入れる、こと…?」

 「これはもちろん精神論にすぎないのですが、例えば、あなたがヒックス君と抱き合うにしても、相手を受け容れようという意志があるかどうかで、おのずとその行為の価値とでもいうべきものが、変わってくると私は思うのですが。」
 彼女はちいさくうなって、カミューの言葉を必死で噛み砕こうとする。
 「理解とか、共有という言葉におきかえられるかも知れません。依存でも構いませんが抱擁というのは二人がいて初めて成り立つというのを忘れないでください… やや抽象的でしたが、お分かりいただけましたか?」
 「うん。でもボク…あたしには、すこし難しいかな…。」
 「若い頃の恋愛というものは盲目的なものです、思いっきりぶつかっていくのも良いと思いますよ。」
 カミューは自分で自分の言葉を聞いて、老けたな、と思わざるを得なかった。このままでは、マクシミリアン殿のように老いることは到底望めそうもない。
 その彼の心中を知らない彼女は、澄みきった張りのある声で、彼にお礼を告げる。少しだけ軽くなった足取りで回廊を歩く。
 気が付けば、彼の部屋の前だった。彼女は心を決める。

 トン、トンと、まだ新しい木の扉を叩く音。 「ヒックス、入るよ。」
 ノブをひねって、扉を開け、蝋燭の灯りひとつしかない暗い部屋に踏みこむ。

 「テンガアール、どうしたの?」
 彼はベットから半分だけ身をおこしていた。眠っていた様子はなく、普段着のままでいることから眠る気すらなかったのかもしれない。
 「となり、いいかな?」
 彼女の曖昧な言葉は少年の心を引っかきまわすのに充分だった。そして彼女は彼のベットの上に座って、目を合わせないまま、ぽつり、ぽつりと語りはじめる。
 「えっとね… ボクもいろいろ考えたんだけど…その… 謝るのはできるだけ早い方がいいって思ったし…。」
 テンガアールはそう言って体だけ、彼の方へ向ける。目は合わさないままで、ふたつの腕を彼の後ろにまわし、しっかりと彼女自身の身体をあてがって、密着させる。
 「キミと、こうしてるのが、もちろん、キライなわけじゃなくて…」
 彼女は彼の胸に顔を埋めたままつづける。 「ボクにちょっと勇気がなかったから… ゴメンね…。」
 彼は自分のなかでうずくまる小さな少女を見つめて、気にしてないよ、と優しくささやきかける。そのあと、彼らは初めて瞳を重ねる。彼女の方から唇をあわせていく。優しい柔らかさをお互いに感じた。
 ゆっくりと唇を離す。テンガアールは、ベットが汚れちゃうから、と言って、指先でひとつひとつ木靴をはずして、もう一度、彼の胸に身をうずめる。
 「すごく、居心地がいいんだ… ここ… 」
 彼女の身体が、ぴったりとくっついく。

 心は少しづつ舞い上がり、ちいさな欲望は彼の下腹部とともに加速度的にふくれあがってく。
 彼は身を起こし、テンガアールをゆっくりと抱きよせ、その襟に手を掛けて、小さな肩をゆっくりとすべらせていく。薄手のコットンでできたキャミソールという簡素な下着は昔から変わっていないようだ。
スカートを支える帯をほどき、ぎこちない手つきでスカートから、細い足を取り出そうとする。誰にも見せたこと無い部位を見られる事への不安と羞恥からか、彼女の身体がこわばっているような気がする。
 「…いいよ。このまま……」
 彼は、その手をそのまま彼女の胸にあてる。掌におさまってしまいそうな小さなふくらみから、豊かな感覚が伝わる。
 「ひゃぁ!」
 思わず、彼に強く抱きつく。彼の手は優しく、確かめるような動きで、彼女の心を揺さぶり続け、そして、コットンの端をもって、彼女を覆う薄布を取り払う。
 一糸まとわぬ姿。長い髪、大きな瞳、小さな肩、発育しきってない胸、淡いピンク色の乳首、かすかな毛におおわれた秘所。細くきれいな脚、彼女を彩るすべてが目の前にある。
彼女が恥ずかしそうな顔をしながら、彼の服を引っぱっている。彼は思いだしたように、自分の上着のボタンを外し、シャツを放って、ズボンを脱ぎ捨てる。
 少年と少女は、生まれたままの姿になってしっかりとお互いを、くくりつける。肌を通して感じる相手の体温は温かく、鼓動まではっきりと聞こえる。こわばっていた彼女の身体も、しだいに力が抜けていく。

「もうひとつ、お願い、いい? 髪をほどいてちょうだい…」
 彼はきつく締められた髪止めにしている紐をほどく。あとは手でといでやるだけで髪は簡単にその束縛を抜け出す。
 そして彼女が額を振るうと、亜麻色の髪は見事に宙を舞って広がる。甘く微かな香りがあふれて、彼の鼻孔をくすぐる。テンガアールのにおい… 彼は直感的にそう感じ取る。
 「ねぇ… キミだけに見せてあげるよ… こうするとボクも少しだけキレイに見えるでしょ…?」
 彼の腕に力が加わって、彼女の身体は軽くベットに打ちつけられる。長い髪が散らばる。
抵抗もせずにそこに彼女は横たえられて、そのまま上から唇を押し付けられ、彼女を唇をわって彼の舌が入り込む。溶けあうように、彼女は入ってきた舌に自分のそれを絡ませてゆっくりと混ぜ合わせる。そして名残惜しそうに離れていくそれが小さく細いアーチを作る。
 彼は普段の姿からは考えられないほど本能に忠実に、彼女の身体をむさぼっていく。首すじに舌を這わせ、胸に手を押し付け、そこの淡いピンク色にキスをして、口にふくみ、赤子のような所作をする。
 そしてその唇が、彼女の二つの脚の間にあてがわれた時、小さく彼女の身体が弾けるも、桜色に上気した彼女の肌が求めるのは、理性ではなく、理由のしれない快楽、彼女は吐息を熱くしながら愛されるという行為に没頭し、温かい液体をただ溢れさせつづける。
 彼は腰を密着させ、自分の手で自分自身をガイドしながらテンガアールのなかへと先端を入り込ませる。その瞬間、愛液の流動と彼女の媚肉の締め付けが彼に知っている範躊をこえる刺激を伝える。すでに張りつめきっていた本能に白い衝撃が叩きつけられる。
 次の瞬間、彼の眼に映ったものは、ごく最近の記憶の何割かのサイズになった自分のそれと、そこから出た精液に汚されたテンガアールの姿だった。
「ご、ごめん!」

 ほとんど反射的に立ち膝をついて、あやまる。彼女は、自分の内股からへそのあたりにかけて、こびりついたままの彼の精液には気にとがめるようすもない。
 「ヒックス…。」
 テンガアールは彼だけにしか聞こえない声で彼の名前をつぶやく。
 「ね、もういっかい、キスしよ…」
 濡れほそった唇を重ねる。ゆっくりと押し付けて、息もできないほどに。
 「ええっとね…… ヒックス……」
 何度目かのキスのあと、彼女はこう言った。
 「ちょっと、その… おねがいだから… 驚かないで。」
「ちょっと! テンガアール!?」
 そこには、さっき彼女のなかにはいりかけた彼自身がある。あまりに生々しいその形に彼女は言葉を失いかける。
 「驚かないでっていったでしょ。それから動かないで。」
 彼女はようやく、それだけ伝えて、小さな手のひらをそれにあてる。ひんやりとした、すべすべの手の感覚は、彼の本能を強烈に刺激する。
 自分の愛するひとの部分。そう思うと不思議と優しい気持ちになった。彼女はそれの先端に自分の唇をあて、そのまま口の中にそれを沈める。
 「う…ん」
 小さくうめきながら彼女は舌をうごかし、なめていくたびに、口の中でそれは膨れあがってく。
彼は顎をひいて快感に耐える。その視線の先にはひとつの手で髪をかきあげ、もうひとつの手で身体を支え、瞳をとじて、一心に彼に奉仕し続ける彼女の姿があった。普段、彼に激をとばす少女と同じとは、にわかには信じられない。この世の出来事ではないような気さえする。
 感情が高揚して、苦しそうな息をヒックスは吐きつづけていると、急に彼女が大きく鳴咽する。

 「ちょっと、大きくなりすぎだよ…」
 そう言った彼女の口から、いままで口にふくんでいたものとの間で、彼の先走りの細い糸がひいている。
 「ねぇ… ヒックス…」
 その糸をかるく拭いながら、彼女がためらいがちに口を開く。
 「…今度はボクを満足させて…」
 彼はわずかにうなづいて、もう一度彼女を自分のしたに組み敷く。テンガアールにとっては荒々しい動きで、全身がむさぼられる。
 首筋には吸った痕ができ、乳房には彼の手のひらの熱が居座り、蜜壺には長い指が沈められて淫らな音が鳴り続ける。彼女はただ切なげに喘いで、とめどない悦楽の誘いに身をよじる。
 「…君とひとつになりたい。」
 とぎれとぎれの言葉でヒックスはそう、ささやく。彼女は返事をしなかった。必要も無かった。彼は抱きしめるように身体を密着させる。彼女は脚を大きく広げて、濡れた花びらをむきだしにする。
彼の腰が動いて、その先端が入り込む。充分に濡れたそれは、優しくあたたかくそれを受け容れようとする。
 「あ……!!」
 破瓜、朱い血が流れ出して、苦痛が流れ込む。全身に紅いイメージが伝わる。
 怖い! 彼女はひとつの手でその口を塞ぎ、もうひとつの手で彼にしがみつく。眼は驚きのあまり見開いてしまったまま。
 朱い血液はなかにある彼のそれを容赦なく塗りつぶす。粘り気のないそれの感触と少しづつ隙間を通ってにじむ朱は彼に罪悪感をつくりださせる。
 ゆっくり彼が抜こうとすると、彼女の腕が二つとも、彼の後ろにまわって、さらに強くしがみつく。
 「いやぁ! ボクからはなれないで!」
 彼には彼女の意図することが理解できなかったが、そのままの位置で止めたまま、テンガアールが少しづつ紡ぐ言葉を拾い集める。
 「…これ以上、臆病なボクのせいでキミが傷つくのは、耐えられない…よ…」

 彼女は静かに瞳をとじて、口もとを浮かせる。ヒックスはその無防備になったうなじにくちびるをあて、両手でくびれた腰を持ってゆっくりと挿入する。肉壁をかきわけ、ほとんど強引に欲望をつめこむ。
彼女は鋭く、尖った息をときおり吐き、小さく、かすかに鳴咽する。痛みが弱まっているかどうかなんてもうほとんどわからない。無意識に瞼に涙がたまる。
 ふたつのからだの境界はは消え去り、にじんだ朱はまわりを染め続けながらも、除々に勢いを失いつつあった。彼は腰を支えていた手を動かしてとどく限りの彼女の身体を愛撫する。
内股の愛液を絡めとって、張りのあるヒップをその手で揉んで撫でると、鼓動の数が上がって、甘く理性を溶ろけさせる旋律が、より切なさを増す。胸を責めれば、髪をふるわせ、染み出る蜜は、なかに入ったままのそれをとらえて離さない。
 お互い熱く胸を上下しつつ彼の思考はオスとしてのそれに、彼女の思考はメスとしてのそれにそれぞれ変貌していく。
 ヒックスがゆっくりと腰を揺らすと、テンガアールは弓形に身体をしならせて、小刻みに息を吐く。途中で声帯にひっかかったそれが官能的なメロディを奏でる。
 意識が混濁してベットに染みだしていく。欲望は膨れ上がる。キスをして、愛撫を繰り返す、そこにあるのは性の希求だけ。
 溶けることが出来てしまえばいいのに、その素肌が二人を隔てる。彼は肌を重ね、腰を突き動かすことで、彼女は息を荒げて、奥へ迎え入れることで、隔たりを近づけようとするが、絶頂が訪れる。
 彼に熱く、どろどろとしたものが、自分の性器を昇り詰めてゆく。

 彼は愛するひとの名前を叫びながら果てた。それは、テンガアールの体内をべとべとしたものでいっぱいにする。
 彼が小さくなった性器を抜くと、白濁した液体のうち出された跡が、くっきりと先端に残って、彼女のそれとつながっている。彼女は一言も言葉を発さず全身に残った愛するひとの余韻に浸った。

 「…責任はとってくれるんだよね。」
 「そのくらいの覚悟ぐらいは、僕にだってあるよ。」
 「ねぇ… ヒックス。」
 「なんだい?」
 「どうして、今日に限ってボクの服を脱がしたりしたの?」
 「男には、その… いろいろあるんだってことだよ。」
 「ふぅん…、…ボク寝るよ、明日に差し支えるから。」
 「服は着ないの?」
 「面倒くさいからいらない。」
 「そうだね… おやすみなさい。」
 「おやすみなさい。ヒックス。」
 小さな身体が彼の上にたおれかかって、瞳を閉じた少女はそのまま安らかな寝息をたてはじめた。
 その安らかな寝顔を預かっているんだと彼は思うと、少しだけ強くなれるような気がした。

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