ポーラ×ジュエル 著者:2_262様
ここに彼女たち以外の人がいないと分かってから、数日が経つ。
団長殺しの嫌疑を掛けられた友達の無罪を晴らすため、彼が乗せられる小船に隠れる覚悟は思ったよりも簡単だった。同じ気持ちだった友達も居たから。どこにいるのかも分からないオールをこぐだけの毎日も乗り合わせたチープーのおかげで暗い気持ちにはならなかった。クールークの哨戒船のことは、忌々しい出来事だけど、今思えば、そのあとの嵐に比べればなんでも無い様な気さえする。
ポーラには無人島の自然の美しさすら恨めしく映る。ふう、と小さなため息をついて、焚き火に薪をくべる。
「どうしたのよ? ポーラ」
「あ… ジュエル、起こしてしまいましたか?」
「眠れなかっただけだから、気にしないでいいよ。でも… まさかポーラ、弱気になってたりしないよね」
「…まさか」
「あ〜! 今、間があったよ〜」
ポーラはくすり、と小さく笑った。ジュエルの優しさが嬉しかった。心の中で少し弱気になっていたことを彼女と寝息を立てている彼とチープーに謝る。
「…ポーラがさ、これを言い出した時は嬉しかったんだから。彼と一緒に行こう。彼の無実を晴らそうって。タルとケネスはさ、信じられないって塞ぎ込むばっかりでさ。 …スノウは妙に落ち着いてるし。なんか… こう、胸の奥がはっきりしないって言うかさ、その…」
「ありがとう、ジュエル」
そう言うと、ジュエルはまたポーラのほうにくるりと背を向けてしまう。
「なによ… 改まったりしてさ。ホントにもう… そりゃ、彼を信じるって事はさ、スノウを疑うわけでしょ? 当然、辛いわよ。アタシにとってスノウはさ、身分も高くて、才能もあって、何て言うんだっけ?」
「白馬の王子様?」
「そう、そんなようなものだったのよ…。ああもう! なんでアタシばっか喋ってるのよ!」
そう言ってから、ジュエルの言葉が途切れると、急に波音が大きく聞こえて、世界が静まり返っていくのを2人は感じた。日が沈んだあとのこの島は急に涼しくなって風が寒いくらいに感じる時さえある。ポーラはこの澄んだ風の感触が嫌いじゃなかった。不安も喜びも全部等しく撫でて、心を自然に帰してくれる。
「私は… ジュエルが一緒に来てくれるとは思ってなかったの…」
「随分じゃないの」
「だって、ジュエルはスノウに好意を持っているのは分かったから。彼に肩入れするようなことを言い出したら私まで漂流させられるかもしれない。もっとも、この計画を決心した時点で、そんなことは怖くもなんとも無かったけど…」
「じゃあ、なんでアタシに声をかけたのよ」
凪が訪れたような気がした。夜は重く沈む。
「…あなたに一緒に来て欲しかった、から…」
びゅうっと強い風が吹く。焚き火の炎が揺れ、運ばれた小さな砂粒が頬に当たる。パチパチと薪が弾ける音だけがその場の空気を震わせていた。もしかしたらそれは一瞬のことだったのかもしれないが、2人は長い長い沈黙に支配される。ジュエルは何とかポーラの言葉を流そう何度も試みたけれど、なにひとつ言葉を見つけることができなくて焦った。ポーラが込めた意思の力は中途半端な言葉で流すにはあまりに重い。堂々巡りする思考回路、回想と推測のイメージがくるくると回って、うまく気持ちを落ち着けられない。船乗りとして失格だ。ジュエルがはっきりと悟ることが出来たのはそれだけだ。その混乱のせいでジュエルは、ポーラの存在に自分のすぐ後ろに来るまで気付かなかった。
「ジュエル、わたしは、あなたの、ことが、すき」
目の前にあるポーラの端正な顔。ジュエルは小さな唇からその言葉が紡がれるのをどこか遠い世界の出来事のように感じた。そして、その唇が今度は自分の唇へと近づいていることも。吹きかかるかすかに暖かい、吐息。
「あ……」
小さな言葉の破片がこぼれたあと、また、沈黙。やわらかい、やわらかい感触。唇が離れて、また感じるお互いの吐息。
「ジュエル… わたしは、おかしい、ですか…?」
「アタシ… 好きとか、そういうの、あんまり、慣れてないから、よく、分かんないんだけど、ポーラのその気持ちは、とっても、嬉しい、よ…」
ジュエルは、なんとかそこまで言い終えてから、もう一度キスしよっか、と言った。両の手をお互いの背中に回す。抱き合ったまま、初めてのときよりも少しだけ器用に重ね合う。自分のものとは違う唾液が流れるのが分かる。ポーラの舌が滑り込んでくる。迎え入れて、求めようとして、倒れたままもつれ合う。深いくちづけを交わしたまま、ポーラはジュエルのベルトを外して、ノースリーヴのシャツの裾に手を掛けると、それを少し強引にたくしあげる。
「やぁ… そんな…」
ジュエルが生まれたままの姿になるまでそれほど手間はかからなかった。褐色の美しい肌をゆっくり眺めては、確かめるように唇をあて、そのかたちを舌でなぞる。ジュエルはそのたびに甘い声を漏らして、しなやかな身体をくねらせる。
「ずるいよ… ポーラばっかり…」
うずくまるようにしてポーラのくちづけをかわして、草色の衣服を繋ぎとめているボタンを外す。真っ白な肌が月の光に照らされる。天に向けて突起した乳首を舌先で遊ぶ。ポーラの呼吸が熱を帯びて行く。
「ジュエル… そんな…」
「ポーラかわいい… 白くて、綺麗な肌… いいな…」
胸の周りを丁寧に愛撫する。弾力を確かめるように、何度も、何度も。そして、大きな葉をモチーフにしたスカートに手をかける。
「…あれ? あれ?」
「…後ろにある金具を、ふたつ外して…」
少し腰を浮かせる。その透き間から手をのばして、スカートの上に手を這わせ、金具を探す。
「…はあっ…!」
ポーラは少し身を強張らせる。ようやくジュエルは金具を探り当てて、それを外す。けれどそのまま、手を這わせるのを止めない。
「ポーラ… ここ、弱いんでしょ? 分かっちゃった…」
いたずらっぽく、彼女は笑う。ジュエルの指先の動きが、今度は布を介することなく直接、ポーラの感覚を痺れさせる。ジュエルの指はそのまま、ポーラの脚のつけ根へとのびる。生暖かい液体に触れる。
「ジュエル… あなたとくちづけを交わすと、自分が自分でなくなっているような…
そんな、気が、するの…」
「アタシも… ポーラの胸も、お尻も、肌の暖かさも、全部、全部、愛しいよ…」
「もっと… 私を…」
そういってポーラはジュエルにしがみつくようにして、彼女の身体に巻きついて、押し当てるように唇を、深くまで舌を差し込む。呼吸を奪い合い、苦しくなった瞬間の空気を吸う音の美しい響きを耳元で愉しみながら、ポーラは自分の下腹部で探るように動いていた細い指が、確かに目標を定めて、奥へと入り込もうとしているのを感じていた。同時にポーラも自らの指をジュエルの下腹部へと運ぶ。内股から這わせ、溢れた愛液をすくいとるように。
ふたりはほとんど同じタイミングで、ふたりのなかへ入っていく。ピチャ。
「あ… や、やぁっ…!」
初めに声を出したのはジュエルだった。入り込んでくる異物への違和感、でもそれは不思議なくらい嫌じゃなかった。だから彼女は余計に困惑した。自分の膣内でうごめくポーラの指先は激しさを次第に増し、その度に、困惑は悦楽へと書き換えられた。思考はますます溶けていく。気付くと、ジュエルもポーラのなかで本能が赴くままに暴れていた。
「ポーラ… そんな… あ… ぁん」
「ジュエル… ジュエル… 私の、なかを… もっと、感じて…」
ポーラのせつない表情、上気した桜色の肌、かすれたアルトの声が、何度も愛するひとの名前を呼ぶ。快楽で張り裂けた羞恥心を唇が拭い去る。波の音が近づいてくるような錯覚。もっと激しく、して! だらしなく垂れ落ちていく愛液、同期する欲望。
クチュリ。
「も… もう…」
ダメ。と言ったのはもうどっちだったのか分からない。アタマは真っ白になったまま。ポーラは糸の切れた人形のように砂の上に崩れ、ジュエルはしなやかな身体を弓なりにそらせて、ポーラの胸のなかへと倒れこむ。
「アタシのなか… まだ、ポーラが残ってる…」
「私も、です… ジュエル…」
寝転んだまま、火照ったお互いの身体を優しく抱きしめあう。小さなキス。
「アタシ… やっぱりまだ、好きとか、よく分かんないんだけど…」
少し強い風。ふたりの髪を撫でていく。気付くと月が高く昇っている。
「アタシの中… どこもかしこも、ポーラでいっぱいになっちゃったよ…」
「私の中はずっと前から、ジュエルでいっぱいですよ」
「もう…」
微笑みながら、ジュエルは風が乱したポーラの髪を整える。
「…あん」
「ふふ… 感じちゃった?」
「…ジュエルが撫でてくれるのなら、私は… どこでも感じてしまいます…」
「ずるぅい! ポーラっ!」
月の蒼い光が、ふたりのからだを浮かび上がらせる。不思議な夜は、まだ始まったばかり。