ルシアとアップルのY談 著者:通りすがりのスケベさん様
ちゃぷん……。
湯面からもうもうと湯気が立ち上っていく。
真っ青な空の下、適温に調節された風呂につかる瞬間は、
何物にも代え難い至福の時間だ。
「ふう……。」
思わず漏れる安堵の吐息。
ぐっと身体を伸ばしてもまるで狭さを感じさせないこの空間は、
実に入り手の事をよく考えて作られていた。
「いい湯加減ですね。」
「全くだ。彼には後で礼を言っておかないといけないな。」
湯につかって数分も経たずに、身体の中からぽかぽかと熱くなってきた。
『身体に優しい温度』とでも言おうか。
いつまでもつかっていたいと感じさせるこの風呂に、
彼女達は今この時だけは身を委ねようと思った。
「それにしても、ルシアさんは本当に綺麗な身体をしてますね…。」
そう言って、目を細めて胸元を覗きこむように顔を近づけてきた彼女に
ルシアが心配そうに話しかける。
「アップルはそんなに目が悪いのか? 」
「はい………眼鏡なしではルシアさんの顔もぼやけて見えてしまいます。」
じっと寄り目をしてルシアの身体を見る彼女は、いつもより人相が悪く見える。
さらにアップルは、遠近感がつかめないのか手を伸ばして
ルシアの身体に触り出した。
肌の感触を確かめるようにさわさわと彼女の身体を撫で回している。
その手の動きが自分の胸に訪れようとした時、ルシアは止めるようにして
アップルの遠慮ない手に触れた。
「……別に触らなくてもいいと思うが?」
「あ、あ! ごめんなさい! つい、その……ははは。」
ルシアの手に脅されたように、アップルは慌てて自分の手を引っ込めた。
多少怒気がこもった声と、はっきりと見えないルシアの表情が
余計彼女を震えあがらせる。
「アップルさんアップルさん、じゃあ私誰だかわかる?」
背後から聞こえた声に振り向いてみると、
お湯をかきわけてこちらに歩み寄る少女の姿が見えた。
だが、悪い視力と邪魔をするかのように立ち上る湯気で
アップルはその顔を確認する事はできない。
「ふふ、何を言ってるの。ベルちゃんとはさっき脱衣所で一緒だったじゃないの。」
「あ、そうか……。」
クイズにもならない問いかけをしてしまった自分に1人照れながら、
ベルはお湯に鼻の頭までつからせて、恥ずかしそうに縮こまった。
ルシアはベルがやってきた方向より奥、
風呂の入り口付近で遠慮気味に立っていた少女に目を向けた。
「ほらアーニー、そんな端にいないでこちらへ来なさい。
これだけ広いのだから遠慮する事なんてないよ。」
小さな身体とは不釣合いな大きなタオルで髪を巻き、
倒れてしまうのではないかと心配になるぐらい覚束ない足取りで
ゆっくりと湯の中をアーニーがこちらへ向かってくる。
「あ……すみません……でも、私……こういう広いところ、落ちつかなくて……。」
「別に誰に見られる訳でもなし、何が落ちつかないんだ?
あんたいっつも狭いところで勉強してんだからさ、
こういう時ぐらいは身体を伸ばしてゆっくりすればいいのに。」
普段から図書室の隅で勉学に勤しんでいるアーニーにしてみれば、
隅にいる事の方がリラックスできるのかも知れない。
しかしベルにそんな事が理解できるはずもなく、
彼女の手をとって強引に3人の輪の中へ引き寄せた。
偶然図書室で一緒になったアップルに誘われてきたものの、
大勢(彼女にしてみれば)の人間に囲まれて入浴するというのは、
余計疲れを呼ぶことになっていた。
「あ、あの……ごめんなさい。」
「何故謝る?」
「だって……せっかく誘っていただいたのに、私だけ何だか、その……」
自分1人、場の空気に馴染んでいない事がわかる。
アーニーは浮いている自分の存在を自覚しながらも、
打ち解ける事ができない自分を情けなく感じてしまっていた。
「全然平気、気にしないで。アーニーさんとはあまりお話した事なかったし、
一度ゆっくりこういう機会が持ちたかったの。」
「そうだな、私も興味があった。その年齢で随分教養があるようだけど?」
アップルとルシアが、気遣うようにして彼女に話を振る。
そんな2人の心遣いが嬉しかったのか、アーニーは少しだけ笑顔を見せて顔を上げた。
拙いながらも、必死に会話を続けようとする。
「あ……、私、グリンヒルに留学してたんです。知ってますか? グリンヒルって…」
「………私には忘れられない場所さ。」
大きな瞳を向けて聞いてくるアーニーに、低い声でルシアが答えた。
昔の出来事に思いを巡らせているのか、その表情はやや厳しく見える。
「まぁすごい! あそこは設備が整っているから勉強にも集中できたでしょう?」
「え? あ、はい……。」
雰囲気が曇るのを感じて、アップルが明るく切り出す。
アーニーにもその雰囲気は伝わっていたのか、
再び萎縮し始めていたところを彼女の声に救われた気がした。
「へぇ、スゴイんだな。アーニーは頭いいから羨ましいよ。」
急に横から話しかけられ、アーニーはビクッと身体を竦ませる。
すぐ横では、風呂の温かさにやや頬を上気させたベルが
眼鏡をかけていない自分を物珍しくじぃっと見つめていた。
「そ、そんな……ベルさんの方がすごいですよ。
私なんて、戦うことできないし、皆さんのお役に立てているどうか…」
「武器を持って戦う事だけが役に立つ、というものではないよ。
人に知識を教える事だって重要な役割さ。」
先ほどまでの厳しい雰囲気はもうない、毅然としたルシアが彼女に言う。
部族の長をやっている彼女からそう言われた事がアーニーにはとても嬉しかった。
「そんなことをいうなら私も戦ってないわよ。もっと肩身を窄めないといけないかしら?」
やや皮肉った言い方でアップルが話しかける。
「すっすみません! 私、そんなつもりで言ったのでは…」
「ふふふ、解かってるわ…ごめんなさい。でもルシアさんの言う通り、
剣を持つ人だけが戦争している訳じゃないわ。作戦を考える人、それを伝える人。
兵隊さん達の御飯を作る人だって、なくてはならない人よ。」
「あ………そう、ですよね……。」
戦場に出て戦うことだけが全てではない。
それを補佐する人がいて初めて彼らは後ろを気にする事なく戦えるのだ。
頭の中では理解していたものの、実際に戦争を戦い抜いてきた2人の言葉は
アーニーの持つどの知識よりも彼女を納得させる力があった。
「そう、だからあなたも自信を持ちなさい。アーニーは必要とされているんだから。」
そう言ったルシアの表情が、優しい笑顔になる。
「……ありがとうございます……。」
あまり見る事のなかったルシアの温かい眼差しが
自分の居場所を指し示してくれているようで、ただ嬉しかった。
「なんか難しい話だね……私にはよくわかんないや。」
そう言ってベルは掌でお湯を掬って、バシャと顔を洗う仕草をした。
ぼやけた頭を覚ますように、ふるふると水滴を飛ばしながら頭を振る。
「少し話しこんでしまったようね……身体を洗いましょうか。」
「そうだな。少し身体を空気に当てたい気分だ。」
アップルの呼びかけに、ルシアが腰を上げる。
立ちあがった2人を、アーニーは唖然として見つめた。
(………………す、すごい……。)
「ん? どしたのアーニー、まだつかるの?」
「い、いえ……。」
貧弱な身体を隠すようにして、アーニーはベルの後に続いた。
ひんやりした空気の中、各々石鹸を泡立てて身体を洗っていると、
何やら視線を感じたのか、ルシアが横に座るベルへと顔を向けた。
「何だい?」
「いやぁ〜〜……………、なんか圧倒されちゃって……。」
おそらくルシアの身体の事を言っているのだろう、
はぁ、と溜息をついてベルは自分の未発達な胸をさすった。
「ルシアさんやアップルさんはいいなぁ。おっぱいもお尻も大きくて。」
「……ふふ、ベルもきっと大きくなるわ。」
「私は今すぐ大きくなりたいの。そして、素敵なあの人と…」
その時だった。
「ベルちゃん、男なんてそんなイイものではないわよ。」
おそらく“男”と言う意味だろう、『あの人』という単語に敏感に反応したアップルが、
やや刺のある言葉でベルに忠告する。
どこか威圧感のあるそれに、ベルも少し驚いたようだった。
「な、なんで?」
「男という生き物はね、自分勝手ででたらめな生き物よ。
想像するのはいいけど、あまり過ぎたイメージを持たないほうがいいわ。」
早口にまくし立てるアップルに、場の3人が注目する。
鼻息を荒げて身体を洗う彼女は、あきらかに今までとは違う雰囲気を放っていた。
「随分手厳しいな、アップル。何かあったのか?」
「あり過ぎですよルシアさん……ちょっと聞いてください!」
アップルはそう言うと、身体ごとルシアの方へ向けて
手振りを加えながら不満を口にし出した。
「あいつ、私と初めてする時、こーんなに足を広げさせて、
『入れるよ』とかさえ言わずにいきなり突っ込んで来たんですよ!?」
「……………。」
「?」
「それは私も恥ずかしくて『初めてなの』とは言えませんでしたけど、
2人で行為を行うのが初めてだと言うのに、いきなり腰を動かしますか?
それも思いきり!」
「………そ、それは………。」
「腰って?」
「痛いって言うのに、『それが良いんだろ?』ですって!!
私の身体が硬いのを知ってるくせに、こんなに足を広げさせるんですよ! こんなに!」
アップルは身体を前倒しにして開脚をして見せた。
どうやら本当に身体が硬いようで、もっと脚を広げたいようだが
それ以上進まない身体を無理矢理押し倒そうとしている。
「こ、これ以上進みませんけど、もっと広げされられたんです! もっと!」
次第に身体が痛くなってきたのか、アップルは脚を広げるのを止めて、
ルシアに訴えかけた。
その勢いに圧倒され、ルシアは返す言葉も失ってしまっている。
「身体硬いね、アップルさん。」
「もうやめてって言うのに、膣出しですよ! 自分だけ気持ちよくなって
私の気持ちは全く考えてくれませんでした!」
「ひ、非道いなそれは……。」
「膣出し?」
話の内容が理解できず、ベルがかろうじて拾えた言葉をアップルに聞いてみるも、
興奮する彼女はベルの声が聞こえなかったのか、さらに言葉を続けた。
「私が楽しみにしていたピクニックの時だって…」
何時の間にか握り締められていたアップルの手がぶるぶると震えている。
よほど嫌な想い出なのか、口にする事さえできない様子だ。
「ア、アップルさん?」
「頑張ってつくったお弁当だったんです。
私、料理あまり上手くないのに、彼のために精一杯つくりました。」
ただ彼に喜んでもらおうと……」
人間は極度の怒りに達したその時、やけに冷静になることがある。
急に声のトーンが下がったアップルに、ベルとアーニーが不思議そうな表情を向けた。
「それをあいつは『そんなもの後でいいから、しよう』っていきなり襲いかかってきたんです!
お弁当箱ぐちゃぐちゃにして私を無理矢理犯そうとしてきたんですよ!!」
我慢できなかったのか、アップルが全身に泡をつけたままで立ちあがった。
彼女の隣に座っていたアーニーがビクリと身体を竦ませる、
「お、落ちつけアップル……アーニーが怖がっているぞ。」
「ムードが大事なのに! 御飯食べて2人で肩寄せて、
それで雰囲気に流されて…って展開なら私も!」
「雰囲気に流されて……犯される?」
「違います! 2人同意の上なら、私も文句ありません。
只でさえ外でやるなんて、恥ずかしいのに…!」
「……男というのは、恥ずかしがる女を見ると興奮するらしいからな。
アップルの相手も多分に漏れなかったのだろう。私も経験がある。」
「ル、ルシアさんも!?」
ルシアのいきなりの告白にアップルも驚きを露わにした。
2人の少女の視線も一斉に彼女の方へと向く。
皆の興味がいきなり自分に向いた事にややたじろいだルシアだったが、
彼女は隣で立ったままの軍師よりも数段冷静に話し始めた。
「あぁ、どうしても外でやりたいと言うのでな……。
痛くしないなら、と約束したが…気づいたらお互い獣のように身体を交わしていたよ。」
「は、恥ずかしかったでしょ? 男の考える事は解かりませんよね!?」
いくらか冷静さを取り戻したアップルが再び座って、
ルシアに同意を求めるように問いかけた。
そんな彼女に苦笑を返しながら、
「まぁ確かにその気持ちはあったが……あまり気にはならなかったな。
今考えると、私も興奮してたらしいな………恥ずかしい話だが。」
と、かすかに表情に恥ずかしさを匂わせてルシアが呟いた。
無理矢理求められたアップルとはどうやら違った印象を持っているらしい。
「いいですよね……2人で同意した事なら納得できますし……。」
「だがアップルが先に言った『ムードが大切』だという考えには同意する。
女はその場の雰囲気で何倍も気持ちよくなれると言うのに。」
ざー、とお湯を身体にかけて泡を流して、ルシアはその長い金髪を後ろで束ねた。
右肩の上を通して身体の前へ持ってくると、
その豊かな胸を隠してしまうほどに金色の髪が広がる。
ルシアは手に専用のソープをつけて、その自慢の髪を丁寧に洗い始めた。
「私の相手は皆大きな胸が好きだったようでな、
いつも強く胸を掴まれて千切れそうな思いをしたよ。」
ルシアは自分の胸を労るようにして、そんな事を言い出した。
「そうなんですか……大きい胸も考えものですよね、辛い事の方が多いですし。」
「そうだな。アップルもこの気持ちは解かると思うが、
年を重ねる毎に肩こりが酷くなって堪えるよ。」
「悲しいぐらいによく解かります。私も結婚してから急に大きくなりだして、
昔は大きな胸の人が羨ましかったものですが、
最近は何をするにも邪魔になってしまいます。
男の目にはそんな苦労は映りませんから…。」
アップルはハァ、と溜息をついて自分の胸に視線を落とした。
「でも、やっぱり私は羨ましいけどね。男の人は大きい胸が好きなんでしょ?」
ベルは豊乳の気苦労を口にする2人に、自分の胸を見せるようにして姿勢を正した。
「一概にそうとは言えないわ。小さな胸に欲情する人もいるというし。」
「人の好みはそれこそ星の数ほどある。全く同じ趣味の人なんてそうはいないわよ。」
ルシアとアップルが口を揃えて、ベルの意見を否定する。
すでに大きな胸をもった2人には、ベルの胸こそ羨ましく映っていたに違いない。
「人の好みと言えば、私の旦那は毎回繋がっている部分を見せようとしてましたね……。
あんなグロテスクな場面を見せて何が興奮するのか、困ったものでした。」
「グ、グロいの?」
「確かに見ていて気持ちいいものではないな。人の神秘とでも言おうか、
禁断の場所と言おうか、私も実際目の当たりにした時は自分の身体ではないように
思えたよ…………? どうしたアーニー、 気分でも悪いのか?」
ルシアがアップルの向こうに座っていたアーニーに声をかけた。
そう言えば、先ほどから彼女は全く言葉を発していない。
アップルもすっかり会話に夢中になっていたようで、
反対側に座る彼女の様子にはまるで気がつかなかった。
「い、いえ……そうではなくて……」
2人の話の内容が刺激的すぎるのだ。
なまじ知識だけは豊富なアーニーにしてみれば、彼女達の生々しい実体験は
頭の中でリアルな想像を描き立てるのに充分すぎるほどの内容だった。
どんどん過激になっていく2人の会話を聞いているうちに無言になっていった彼女に、
ルシアが気がついて声をかけたという訳なのだが…。
「少し長湯しすぎたか? そろそろ上がった方がいいかも知れない。」
「あ、だ、だ、大丈夫ですから……私、お湯につかってきます……」
アーニーはこれ以上大人達の告白を聞いていられない、と
そそくさとその場を立ち去ろうとした。
「私達もそろそろ上がりましょう……つい話しこんでしまいました。」
アップル達は全身を2、3度洗い流してから、再びお湯につかろうとアーニーの後を追った。
来た時と同じように肩までゆっくりお湯の温もりを楽しんでいると、
やや控えめにベルが口を開いた。
「あのさー、さっきのアップルさん達の話の内容、いまいちわかんなかったんだけど。
アーニーも何かわかってるみたいだったし、私にも教えてよ。」
1人蚊帳の外だったベルは盛り上がっていた2人に聞いてみることにした。
『気持ちいい』やら『痛い』やら『恥ずかしい』などという単語が飛び交う話の内容は、
好奇心が強い彼女には興味をそそられる事なのだろう。
「アーニーはわかったのか? 本当に博学ね。」
「い、いえ…そんな……わ、私経験ないですし…」
「ベルちゃんにはまだ早いかも知れないわねぇ……。」
アップルが思案げにベルを見る。
先ほど拝見した彼女の身体の発達ぶりから、ルシアとの会話の内容の事をいたすのは
まだ先のように思えたからだ。
「いや、知っていて損をすることなどないだろう。
むしろいきなりそんな場面に遭遇してしまった時に役立つかも知れないよ。」
しかしルシアの考えはアップルとは反対だったようだ。
性教育を子供に教えるように、言葉を選びながらルシアは考えをまとめ出した。
「ベル、私達がさっき話していた事は自分の好きな人とする行為の事だよ。
男と女の間にはなくてはならないもの……そして、子供を育むのに必要なことさ。」
「こ、子供って……それじゃ…」
ベルの頭にあった記憶が蘇る。
不確かな記憶……まだ性の事など興味のなかった時に耳にした、遠い記憶。
母にせがんで教えてもらった当時は信じられなかった。
「そう……あんたの大事なところで、大切な人を迎え入れる行為だよ。
身体を合わせる人が好きな人ほど、それは快楽を与えてくれるものなのさ。」
「でも簡単に決めちゃダメよ、男は身体が目当てで言い寄ってくる人が多いんだから。」
まるで自分の事のように、アップルが慎重な面持ちでベルに忠告する。
どこか説得力のあるその言葉に、ベルは黙って頷いた。
「好きな人かぁ……。」
「そうよ。ベルちゃんは、今好きな人いる?」
アップルに振られ、ベルは顔を少し赤らめた。
おそらく彼女の頭の中には、まだ知らない彼が浮かんでいるのだろうと思い、
アップルの表情が少し緩む。
「あの、ルシアさんに聞きたいんですけど…」
「うん? 何だい?」
「ヒューゴさんって、今好きな人いるのかなぁ……?」
唐突に出た息子の名前にルシアは多少驚きながらも、考えを巡らせてみた。
「あ、あの子かい? ……そうね……そういう話は聞いたことはないけど。」
「じゃ、じゃあ今はフリーって事だよね!? やった!」
あやふやな答えなのに、ベルは大袈裟にはしゃぎ出した。
その態度で、ルシアはなんとなく彼女の気持ちがわかってしまった。
「でも、ひょっとしてヒューゴさん、胸の大きな女の子が好きかな……。」
いささか頼りない自分の胸に視線を落とし、ベルは心細げに呟いた。
ちら、とルシアの方へ視線を向ける。いや、正確には彼女のふくよかな胸へ。
「あの子の周りには今まで大きい女性が多かったから……
ベルみたいな子は新鮮に映るかも知れないよ?」
ルシアの言う通り、ベルの知っているところだけでも母親のルシア、酒場のアンヌ、
そして密かにライバル視していたアイラと、標準以上の体格の持ち主が顔を並べている。
しかしその中に敢えて自分が飛び込むことで
彼の目はこちらへ向いてくれるかも知れない、と
自分にハッパをかけるが如くベルは気持ちを切り替えようとした。
「そ、そうだよね! よーし、そうと決まれば先手必勝だ!」
ベルからすれば、決してそんなふうに見た訳ではなかったのだろうが、
ルシアは彼女に睨まれているような気がして、只ならぬ気迫を肌で感じ取った。
「そ、そろそろ上がろうか……。」
「私、今から準備しなくちゃ! お先にっ!」
ベルは叫ぶようにそう吐き捨てて、身体を拭くのももどかしそうに急いで脱衣所を出ていった。
どうやら考えるより先に身体が動く性格のようだ。
誰もいない脱衣所に入ると、さわやかな風がルシアの身体の横を通りすぎていった。
「……すごいパワーですね。」
「あの子の恋愛に口を挟むつもりはないけど……。」
「ベルちゃんがお嫁に来たら、どうします?」
「…言わないでくれ。」
「で、でもベルさんはいい人だと思いますよ…………。」
「それは私もそう思うけどね……」
嫁に来るとなると話はまた違うものになる。
彼女にはおよそ似合わないであろう、カラヤの服装を着たベルを想像しながら、
ルシアはふと、ベルと一緒にからくり丸Zを整備しているヒューゴを連想しようとした。
……………できなかった。