コーヒー(ノーマ×リンファ) 著者:8_345◆IGA.li4jPs様
下腹部がまだ痺れている…気が付いた時、私はベッドの上で横になっていた。一糸身に纏わぬ姿で眠っていたのだから情事を重ねていたのは大方の予想はつく。
(私、また気を失ってたのね…)
私は強度の絶頂に達すると失神する体質で、これまで幾度となく意識を飛ばしていた。絶頂が近付くと頭の中が真っ白になり何も考える事が出来なくなる。そしてそのまま絶頂を迎える。普通の人間は絶頂を迎えると後は快感と言う坂をゆっくり下りながら、やがて普通に戻ると言うが私の場合は少し違う。絶頂が近付けば近付く程坂が長く、そして遠くなって行くのだ。簡単に言えば頂点が無い快感と言った方が良い。いつまでも登り続け、登っている途中突然目の前が真っ暗になる。そして、気付けば相手と行為を終えているのがいつものパターン……お陰で何度もカモに逃げられた。
気の向くままギャンブラーとして各地で浮き名を流してきた私。初めはイカサマ賭博で小金を巻き上げる程度だったのが、いつの間にか数千ポッチを掛け合う賭博を自分から仕掛ける様になり毎日がスリルの連続だった。
けど、ここへ来て暫く生活を送ってまた他所に行こうと思っていたが、いつの間にかここでの生活が楽しくて仕方なかった。気ままな生活をしていた時は一箇所に定住する事が馬鹿げた事だと思っていたが、ここでの生活はまた違った意味で飽きが来ない。ここには色々な人間が居る。賭博をしなくとも酒を片手に観察すると色々な事が見えて来た。だからここに居付くのも悪くない、と思えているのだと思う。そんな中ノーマに出会った。
最初はそう気に留めなかった。けど、王子君のお手伝いをする時には決まってノーマと一緒になる事が多く、彼女も私と一緒に居ると楽しいと言ってくれた。ノーマとは他愛も無い世間話をしつつ時間を過ごす事が多い。彼女はそれを喜んでくれているのだろう。
けど、一緒に居る時間が長ければ長いほど否応なしにノーマのことを意識してしまう。無意識の内にノーマの事を思い彼女の姿を目で追ってしまう。しかしノーマは女だし私より年下だ。私は生憎ソッチの趣味は無い…それでもノーマの事が忘れられなくなり自慰の対象も彼女の事を思ってしまう…そんな事がふと頭をよぎる。
それを打ち消す様に寝返りを打った。体が依然として鉛みたいに重く、今度のも相当絶頂へ達するのが遅かったみたいだ。つくづくノーマに申し訳ない。
「リンファさん、目が覚めましたか?」
私が動き出したのに気付いた様だ。用事をしていたノーマがこちらに来て覗き込む様にして私を見つめる。
「…大丈夫よ」
私はそっと微笑みながらノーマの顔を撫でる。ノーマは嬉しそうに私を見つめ返してくれる。そのまま彼女の顔を抱き寄せ唇を重ねる。
「リンファさん……」
ノーマも私と同じく一糸身に纏っていない。年頃の少女らしく胸は控えめだが形は良い。単に成長した私の胸とは大違いだ。体も小柄だがスタイルには均衡さが窺える。キスをした後、彼女の体をベッドに導く。
「何か悪い事しちゃったな…」
そう言うと一つ溜息をついた。
「そ、そんな事無いですよ。私、リンファさんとこうしてお付き合いさせて貰うだけでも嬉しいですし…」
「あぁ、その………そっちの事じゃないの……私一人が先にイッた事がどうも引っ掛かってさ…あ、決してノーマが悪い訳じゃ無いのよ?私が全部悪いの…医者に診て貰ってないから」
彼女が気落ちしない様に頭を撫でながら優しく諭す様な口調で語りかける。この時分の年頃の子は傷つきやすい。少なくともノーマの悲しんだ顔や泣き顔は見たくはなかった。
「リンファさん……無理…しないで下さいね?」
「こんな私でも…心配してくれるの?」
「も、勿論ですよ!だって私はリンファさんの……」
そこまで言うとノーマは私の胸に顔を埋めた。私はそれを抱きとめて髪を撫でる。何が言いたかったか大よそ検討はつくが、敢えてそれ以上を言うのは止めた。
「…喉が渇いたね、コーヒーでも入れようと思うけど要る?」
「え、あ…頂きます」
そう言うとノーマの頬にキスをし、彼女の体をベッドに残し抜け出した。キッチンに立ち湯を沸かしながら「彼女はミルクをタップリだったかな」と思いつつ二人分のコーヒーカップを準備した。
暫く待つとポットから湯気が立ちそれをカップに注いだ。ノーマの方は
ミルク分を差し引いた分だけ注ぐ。挽き立て・炒り立ての香りには程遠いがコーヒーの苦い香りが辺りに漂う。
「はいよ、カフェのコーヒーみたいに上手くは出来ないけど…」
「有難うございます…では……アチチ………ハァ、美味しいです〜」一口飲んでノーマは息を吐く。その光景は本当に可愛い。私の妹になって欲しいな、と思いつつ私もコーヒーをすする。無糖ブラック、これぞ大人の味だ。
「リンファさん、一つ聞いても良いですか?」
ふと、ノーマが言う。
「ん、何?」
「リンファさんはどうして…私の事を好きになったのですか?」
「それは…」
不意に会話が途切れる。遠く犬の遠吠えが聴こえた。部屋にはコーヒーから立つ湯気と共に香りも漂っていく。
「もう…バカね」
傍にあるイスにカップを置き、私はノーマの頬を撫でた。
「好きになる事に理由なんてあるの?「愛してる」ってこの言葉だけじゃ不安?」
「それは…」
「私はね、今まで色々な人間と関わってきたわ。勿論男とも関係を持った事もある。でも、そこに愛は無かったわ……どんな恋愛をしても私の気持ちは決して満たされる事はなかったの。どんなに注いでも小さな穴から全て零れてしまう…穴の開いたワイングラスって言えば良いのかしらね。だから人を好きになれなかった、だからギャンブラーとして一人で生きていこうと思った。ギャンブラーなら最期は誰にも看取られずに死ねるからね」
「……………」
「でも、アンタに出会って変わったの……忘れていた何かを見つけた気がしてね。「この子なら」って思える様になった…。それに運命って不思議ね。王子君のお手伝いに私が選ばれると同時にアンタも一緒に選ばれる…赤い糸って本当にあるのか、って信じたくなっちゃった」
自分の過去を話す内に目頭が熱くなった。他人に泣く姿を見せるのはみっともない。ノーマに悟られぬ様に視線を外す。
「あぁ、何かしめっぽい話をしてゴメン」
「いえ……リンファさんの気持ちは分かりました」
そう言うとノーマは私の方をじっと見つめる。
「私、リンファさんの気持ちに応えられるかどうか分かりませんが…それでも精一杯頑張ります」
優しい、でも力強い目だった。
「私も…こんないい加減な女だけど宜しく」
それに応える形でノーマの持っているカップを脇に追いやるとそのまま抱きしめた。ノーマもそれに応えて私を抱き返してくる。
「じゃあ…このまま寝よっか?」
「…ハイ」
カップをテーブルに置きベッドに潜る。ノーマは自然と私に体を預けてくれた。
「後さぁ…呼び方なんだけどリンファさんじゃなくてリンファ、って呼んでくれないかしら?何か堅苦しく感じちゃってさぁ」
ふと思い出した様に私は言った。実は何処で言うかずっとタイミングを計っていたのだ。「さん」付けだとどうしても一方通行な感が否めなかった。
「え……じゃあ…リンファ……」
ノーマは少し恥ずかしそうに私の名前を呼んでくれた。
「ウフフ、有難う」
そう言うとノーマにキスをした。
「お休みなさい、リンファ…」
ノーマのお休みのキスは少し甘く苦かった。