ルック×セラ 著者:17様
コンコン
返事を期待せずに彼は盆を片手にドアを開けた。
そこには簡素な寝台の上に淡い色の髪の女性が横たわっていた。
普段は具合が悪いんじゃないかと思うほどに白い彼女の顔は今は赤く上気して、荒い息を吐いている。
無理な召喚をさせすぎたのとこれまでの疲労がたたり、この大事な局面で彼女は体調を崩してしまったのだ。
サイドボードに盆を置き、彼は椅子を引き寄せてベッドの傍らに腰掛けて溜息をついた。
「……ルック、さま……」
気だるそうに彼女がぱちぱちと瞬きをして目を開いた。気がついたらしい。
「……起こしてしまったようだね。具合はどうだい?セラ」
「…大丈夫です……今すぐに……儀式の、ちへ」
無理に起きて支度を整えようとする彼女を彼は止めた。
「無理はしなくていい。紋章もすべて手に入れたことだし、セラが回復次第向かうことにしたから」
「もうしわけ、ありません……セラがあまりにも」
彼女の青い瞳が潤んでいた。
熱のおかげで時間勝負の計画に支障をきたしているということがわかっていたのだ。
(いつも……ルック様の足手まといになってしまう……)
彼等の行うことは彼の右手に宿した真なる紋章の破壊。
ハルモニアも敵となった以上、一刻の時間さえも惜しかった。
「いい。セラは重要な戦力なんだから。……それより、食事は取れる?」
「……はい。吐き気はありませんから」
そう言って彼女は身体を起こした。 白い夜着が汗で彼女の身体に張りついている。
サイドボードに載せていた盆をルックは無言でセラの膝の上に載せた。それを見てセラが口元を綻ばせる。
「どうかした?」
怪訝な顔をするルックにセラが微笑みかけたまま一人前の土鍋の蓋を取る。
そのとたん湯気の立っている粥から酸味ある香りが漂ってきた。土鍋の傍らには赤と白のコントラストのうさぎが二羽ひかえている。
「いえ、懐かしく思いました。昔、熱を出した時ルック様によく作ってもらったなと。梅粥とうさぎの林檎」
ふぅふぅと匙に息を吹きかけ、セラが口に運び始める。幸せそうに頬張る彼女の姿を彼は黙って見つめていた。
「……そんなに美味しいもの?」 「ええ。とてもおいしいです」
彼の場合何を食べても不味いとしか感じない。これもきっと造られた身体故なのかもしれなかった。 だから、セラのように食べて美味しいと笑みを溢したことなどなかった。
「そうとは思えないけど」 「そうですか?」
セラが息を吹きかけて冷ました粥を口に含んだ。そして、ふいに横を向いてルックにくちづける。
口の中に酸味が広がった。
「セラ!」
ごくんと粥を飲みこんで、焦った声をルックはあげた。
「どうでした?」 「……どろどろしていた」
「味はいかがでした?」
「……酸っぱい。………………………………美味しかったよ」
ルックがそっぽを向く。セラが満足げに微笑んで、残りの粥を平らげ「ご馳走さまでした」と両手を合わせた。
「林檎はいらないの?」
「それは二羽いることですし、ルック様といただきます」
「僕はいらないよ」
ぷすとフォークで林檎を指した。そして手を添えてルックに差し出す。
「ルック様、あ〜んしてください」
「いらないって!」
「しょうがありませんね。そんなにただのうさぎの林檎はおいやですか?」
しゃり。
「!!!!!!」
顎を押さえつけられ、今度は林檎を口に含んだままのキス。
(〜〜〜〜〜セラッ!!)
口移しで流し込まれる林檎。絡め取られる舌。
熱のおかげでいつもより熱い口接けだった。
「ルック様といただきますとセラは申し上げました。……いかがでしたか?」
「もういい」
「でも、まだ林檎1個半残っていますよ」
彼はセラの膝から盆を取り上げてサイドボードに移す。
「林檎はいらない……僕はこっちの方が欲しい」
そう言って、ルックはベッドの上に乗りあげてセラを押し倒した。
「煽ったんだから、熱でどうこう言うのは無しだよ」
「はい」
ごそごそと布団を被りルックがセラの上で服を脱ぐ。ぽいぽいと行儀悪くベッドの下にそれらを放り投げた。セラに纏わりつく湿った絹の感触に彼は顔を顰める。
「汗かいたんだから着替えなくちゃ駄目だろ?まったく、セラは子供みたいだ。……ほら、バンザイして。」
彼女の白い夜着をする、するっと引っかかりを覚えながらも脱がす。不平を言いながらもその顔は少し赤い。
「着替えるのは後でですね。今はまた汗をかきますから……ルック様、羽毛布団が邪魔です」
ごそごそと音の鳴るそれが嫌だった。彼の顔も……声まで隠してしまうから。
「これ以上体調悪化させるのは禁止だからね。駄目」
そう言ってルックは羽毛布団の中に顔を引っ込めた。
手探りで彼女の華奢な身体のラインをそおっと撫でていく。
ぴくんと彼女の身体が反応した。
「ん……ルック様……くすぐったいです……ぁふ」
セラがルックの背中に腕を伸ばす。細くて長い指が少年の背中をまさぐるように撫でた。
密着したセラの首筋にルックは舌を這わせ、口づける。
「セラの身体……美味しい」
「……ゃ……ルック様……そう言いながら……いきなり、そんなところ触らないでください」
太腿にあたるルックの局部が固く、熱くなってくるのがわかる。
「……そんなところってどこ?」
閉じたままのところを割ってくる気配。……恥ずかしくて、言えない。
「………言ってくれないとそのまま触り続けるけど」
「……ク……リトリ……ス」
「良く言えたね」
そう言いながらもルックは左手で肉芽を弄くるのをやめない。
「……ルック様」
抗議をするようなセラの口調にもルックは意に介さずに口を胸元までに落とす。
柔らかな胸を舌でなめた。
「言ったら触るのをやめるって僕は言ったかい?」
ルックの吐息がつんと立った乳首にかかる。
「はぁ……ぁっ……っ!やぁ……」
「きもち、イイの?……セラ」
「……はい………ぁ…あぁ…、…んっ」
いつもの鈴が鳴るような涼やかな声がどんどんと甘くなってくる。
さっきまで頑なに閉じていた肢体も力が抜けてルックのされるがままだった。とろりとした愛液がルックの左手まで溢れている。
(もう、いいかな?)
それをルックは自らの肉棒に絡める。セラの右脚を掴んで肩の上に持ち上げた。
「セラ、いれるよ」
「は………、んぁぁぁっあああ」
じゅぷぷぷと結合部から音が鳴る。
セラの中は相も変わらずきつい。
くっと息を止めながら腰を押し進めてようやく奥まで入った。
緩やかに腰を動かし始める。
「ひゃ…ふ……、ふぁ……ぁ…、…ん」
ルックの頭の上からセラの吐息が漏れる。
布団の中は暗くて暑いためにルックも自然と息が荒くなる。
ぎし……ぎぃ……
……最初はゆるかった腰の動きも徐々に激しくなっていった。
その行為に飲み込まれないように、ルックの骨ばった背中に爪が立てられる。
「……はぁ、ん……ぁあ」
セラを貫く物は抜き差しされるたびに堅さと熱さを帯びていき、セラを翻弄していく。
でも、それは限界に近づいていっていることは彼女にもわかった。
息も途切れ途切れになりながらセラが言葉をつなげる。
「ルッ、ク……さま……セラを……おいて…っいかないで」
「だいじょう…ぶ。セラも一緒にいこう」
我慢の範疇だ。これくらいなら、辛うじてだが。
暴発しないように堪えながらルックは腰を動かすが、だが、セラはぎゅうぎゅうと締めつけてくる。
「……セラ……僕を……受けとめて…!」
「は……ぃ……っ……!!!!」
白い奔流がセラの中に押し寄せてくる。
声にならない悲鳴をあげてセラは痙攣を起こし、そしてルックはセラのやわらかな胸に倒れこむようにして顔をうずめた。
ひとときの情事も終わっても、ルックはそのままセラの横にいた。
だが、夜明けも近くなり、そろそろ寝台から起き上がろうとした時、何かが彼の腕を引っ張った。
「……?」
セラがぎゅっとルックの右腕を抱き締めていた。去るのを拒む様に。
彼女の寝顔はやすらかで母の腕に抱かれている幼子のように安心しきっていた。幼い頃と全く変わっていない。
「セラ、離して」
勿論眠っているセラがルックの声に気付くはずもなく、その腕を離そうとはしない。
「……もう少し、このままでいるか」
ふぅと溜息をつき再びルックはごろりと横になって、セラを抱き締めた。
腕の中にある温かな鼓動。まどろみの笑顔。
紋章の器として造られた自分が得た儚い命……これから百万の命と共に失すもの。
「…………僕は、」
―未練が無いなんて、嘘だ。
「それでも、僕は………運命を砕くためにこの手を罪に染める」
決意を失わない様にそれを彼は呟いた。
―セラ。君の命を亡くしても、僕はやらなくてはならないんだ。
彼女の身体を抱き締める腕の力が強くなり、彼の緑色の目から一筋の涙が零れた。
<了>