「おもいうかべひとりあそぶ」(ミアキス→ゲオルグ・リムスレーア) 著者:ほっけ様
―――――にちゃ
太腿の間に差し入れられた、相応の大きさしかない手についた5本の指。
己の意思で好き勝手に動かしていると、そのうち水音がたちはじめる。
「………ぁ…」
真っ暗な部屋、もそりと身をベッドの中捩って、布団に身体をこすり付けるようにもがく。
全身にゆったりと広がっていく甘い痺れに、うっとりと瞳を細めた。
しかし其処で止める筈もない。僅かな潤みを更に広げんと、己の秘された部位を踏み荒らすように、
爪先で優しく掻き、指の腹で押して、全体でなぞりあげ、シーツが、指が汚れるも厭わずに。
「は、ンッ……ん、ん…」
枕に押し付け、落ち着きを見せずに乱れていく紫の髪。
その隙間を縫って、きゅぅと閉じた唇から零れていく艶かしい吐息。
その唇が綻べば、快楽に酔った媚声が零れるのだろう。
誰が、こんな彼女を想像するだろう。
普段屈託のない笑顔を浮かべている彼女からは想像もつかぬほど、卑猥で、淫蕩で、
どうしようもなくおびえて、快楽で意識を混濁させることで気を落ち着かせようとしている儚い姿を。
「ンく、ぅっ……ひ、め、様ぁ…っ」
愛する者を呼ぶ。
自分の半分くらいしか生きていないのに、今、その幼い身に不安と孤独という刃が落とされている。
傍にいたい、お救いしたい、幸せでいてほしいと願うも、自分には何もできない。
否、それ以前に、仲間がいる、孤独でないこの状況で、まるで半身を失ったかのように、潰れてしまっている。
夢想し、独りで己を慰める。
身体と精神を繋ぎとめるには、愛しい、太陽のような微笑みを思い浮かべるしかない。
どれだけ想っても、自分はこれほどに卑しく、弱い。
想いが強くても、恐らく、あのひとを最初に抱きしめる資格は自分にはない。
そう思えるのに、頭に描いた瞬間恐くなって、誤魔化すように指の動きを強め、自分を追い詰める。
「ふぁ、ッ…はっ、あ、」
思い浮かべ、流れていく思考の中、銀色が最初に見えた。
そしてそれに纏わりつくべたついた真紅が過ぎり、そして、冷たくも優しい光を持った瞳が思い浮かんだ。
「ッ、…やだ……ぁ、んっ」
出てくるなと、ぎゅ、と唇に歯を立て、痛みと、指が秘部を弄る音と快楽に思考を濁そうとする。
しかしそうすればする程に、その像が鮮明になっていくのは何故か。
それは、愛しい存在の今と関連付けるにはあまりに適した存在であり、そして自分の胸に強く刻み込まれた存在でもある。
――――裏切り者!
数年越しの激情をぶつけた、愛しい者の血縁を奪い、居場所を奪った…逆賊。
太陽宮を血で汚したその影、誰よりも憎い筈なのに、憎もうとする傍ら、その瞳に宿る、
どの女王騎士とも違った、「好むもの」、戦火に身を投じる者特有の色に、惹かれていた自分をも思い出してしまう。
そう、その思い描く“自分”が、彼女にとってはどういうものかわからず、不安になる。
何故、一心に憎むことが出来ないのか。
そうぐるぐると巡る思考を誤魔化すにも、また指を動かすしかなかった。
「あっ、ン…!ふぅッ…」
頭がぼぅっとしてきても、愛しい影と、恨みし影はぼやけることなく脳裏に残る。
快楽に意識が崩れてくると、そのふたつの強い感情が浮き彫りになっていく。
どうにもできない不器用な己の、感情と、一心に酔えぬ快楽しか発さぬ指。
それすら憎くなった。
「くふっ…んぅ、…んんうっ…!」
ようやく絶頂が近づく。上り詰めた一瞬、ほんの一瞬だけ、全てを忘れることが出来る。
発しそうになる甲高い嬌声を、枕に顔を押し付けることで抑し、くぐもった音と温かい吐息で、
僅かに枕を湿らせ、びく、と小さな身体を一度強張らせた。
「ふぅ…は、…」
思わず閉じた瞳を開くと、潤んでいたのか、既に幾筋か零れていた涙のとおりみちを、また新しい涙が落ちた。
肩を動かし、呼吸を整えようとしても、熱い体と疼く胸がなかなか許してくれない。
下着の中に入り込んでいた手を取り、月の灯りだけを頼りに顔の前に持ってきて、凝視した。
だらしなく塗れ、指と指の間で細い銀糸を輝かせる醜態。
……わすれることなどできはしないのに。
股に残る熱と湿り、じっとりとした全身を包む暑さと気だるさ。
むなしさと悲しさ、無力、自責、色々なものがこみ上げて来る。
抑えることが出来ず、身体を丸め、出来るだけ、声を抑えて泣いた。
…翌日、同室のベルナデットが自分より起き抜けが遅いのを見て、
ミアキスはどうしようもないくらい申し訳ない想いにかられた。
気づかない振りをしてくれているのだろう。
しかし、彼女が気を回し、寝ている間にシュークリームの山と、「ごめんなさい」の手紙を添えたせいで、
互いにそれを知っていること、をかえって認識してしまい、夜まで顔を合わせることが出来なかった。
そのため、か。場所を変えた。寝静まったベルナデットをよそに、ある場所で、熱を高め、そして冷ます。
そして、自分のベッドで目をさます一連。
…だが、その意図にも行動にも気づいてしまい寝付けなくなったベルナデットが、
寝る前に無理してお酒を飲んでいることは、知らないのである。