娼館シリーズ・リムスレーア編(ミアキス×リムスレーア) 著者:11_54様

ブフオァッ!!!

娼館『ジーンの館』の待合室。
ゆったりとした東方調の敷布の上で、あぐらをかきながらおもたせのカクテルを飲み飲み、
レストランのような二つ折りのメニューに並べられた、かつて轡を並べ共に戦った、いくつもの名を順に見ていた。
奇抜なドレスをまとう少女。異国の女剣士。自称冒険家の少女。賭博狂いの女。なんとドワーフの女窓師までいるではないか。
しかしその名前は、中でも極めつけ中の極めつけだった。
『リムスレーア・ファレナス』
職業的にはある意味、娼婦の全くの真逆。
他のも大概だが、とにもかくにもこの娘だけは娼婦にしちゃいかんだろと、あらゆる意味から、そう思う。
「……汚いですねぇ。どうしたんですかリューグちゃん?」
後ろでうつぶせに寝転がり、足をぶらぶらさせながらこちらもメニューを吟味していたミアキスが訊ねてくる。
今自分が床に吹き出したアルコールを拭いてくれている、例のジーンさんのシモベ一号に
「すまないな」などと謝っているラハルと三人で、ここへ遊びにきたわけなのだが…
「悪ぃ、ありがと……いや、なんでもねぇよ」
女性向けのメニューには、半ば当たり前だがその名は無い。
だが親切に教えてやればどういう惨劇あるいは喜劇が生産されるか、
それが分らぬほどに馬鹿ではない。このモヒカンの中身はスポンジではないのだ。
「…そう、ですかぁ」
怪訝そうに、それでもまあいいやと思ってくれたのか、メニューの文字列を追いに戻るミアキス。
気付かれないよう、ひそかに安堵のため息をついて、あるいはこれは千載一遇の好機なのかもしれぬと思いつつも
残念ながら自分にロリータコンプレックスのケは全く無いのだと、改めて自覚する。
すなおに、歳が近い好みの子を探そう……と
「隙、ありいっ!」
あっと声も出ない。上方背後から、細腕が伸びてかっ攫われたメニューを持っていた時の腕の形のままで
一拍の間の後、我に返って慌てて振り向くと、ミアキスが「なにに驚いてたのかな〜」などと楽しそうに意地悪そうに男用のメニューを読んでいる。
「おい返せっ!」
襲い掛かるがミス!襲い掛かるがミス!パリングパリング!ミスミスミス!
万年二軍のほぼ初期レベルと、まがりなりにもファレナ十八傑にも数えられた現役女王騎士とでは、残念ながら勝負にならない。
レベルはともかく、ED後の立場だけならそうそう劣りはせぬものを……!
屈辱に熱い聴覚に、しかもこんな声まで聞こえてくる。
「では私は十二ページの『音師ラニア』をお願いします」
ちょwwwwwをまwwwwwwwwwそれ実の姉wwwwwwwwwww
「はい、ラニアさんね」
ジーンさんもwwwwwwあっさりスルーかよwwwwwwwww
ファレナに名高きファルーシュ軍が、実はこんな変態揃いであったと誰が知る。

そんな風に、改めて現実に軽ぅくショックを受けていると、
「―――ひっ!?」
背後で膨れ上がる、ものとてつもない殺気。
「……ジーンさん」
「はい?」
暗く深くてドス黒い、断罪の紋章のそれを三千倍にも増幅させたような圧倒的な悪寒と威圧。
ものともせずに普通に応対するジーンさんは、やはり只者ではないのだなどと、後じさりながらもこれまた再認。
「この……リムスレーア・ファレナスっていうのはぁ……どういうことですかぁ……?」
津波の前の凪。嵐の前の静けさ。あるいは自分とそれ以外全てに対する等しい怒りの焔をもって。
大破局を予感させるたしかな何かが地響きを友としながら闊歩しきたる。
「あら、リムスレーアちゃんをご所望?」
ほう、女が女を買うのもありなのか。……ではなくて
「そういうことじゃなくてぇ…………ふざけてるんだったら、私、怒っちゃいますよぉ?」
なにがおかしいのか、くすくすと笑うジーンさん。
ミアキスの、威圧感に場違いな笑顔に、場違いな青筋が、びしりにょろりと姿を現す。
「うふふふ……」
「うふふふふふふ……」
笑顔の対峙。
今更逃げ出そうにも足がすくんで動かない。
「まっ、待ってくださいミアキスさんっ!!!」
そこへ流星のように現れた、正確にはラハルを案内して戻ってきた、のはなんとジーンさんのシモベ一号。
この恐るべき対峙に割ってはいることができるとは、ああ偉大なるかな一方的でも愛の力。
「これはあくまで姫様―――いえ陛下の御意なのです!! 何度もお止めしたのですがどうしても、なんとしてもとの下知に、ついにやむなく仕方なく―――」
「あら、私は最初から構わな」
「―――おっ、お願いですからジーンさんは暫く黙っていてください!」
庇う後ろを振り向いて懇願するシモベ一号。
「そ、それでですねミアキスさん! 幸いなことに、陛下はまだ、お客を一人もお取りになってはおられないのです!
 なにせ名簿に名が載ったのが今日からですし、ミアキスさんたちお三方の前には二人しかお客もいらっしゃらなかったので―――」
その瞬間、沸騰し、ひっきりなしに泡を立て、気化したなにか禍々しいものを立ち昇らせていたそこに―――差し水を差したように、
ミアキスのなにかが、唐突に大人しく、普段通りの彼女に戻る。

「……姫様は、まだ、してない?」
「はいっ!はい!そうなんです!ですからむしろこちらからお願いをしたいのですが、
 ミアキスさんの方でなんとか陛下を説得して、太陽宮に連れて帰っていただくわけにはいかないでしょうか!?」
「あら、そんな勿体無いせっかくの幼」
ジーンさんの言葉に被せるようにシモベ一号。
「昨晩今日と胃が痛んで痛んで……!! 恐れながら姫様とミアキスさんは、単なる女王陛下と女王騎士の立場を超え、
 姉妹のように仲睦まじいとも話に聞きます。こうしてこのタイミングで貴女が来店されたのも何かの縁!!是非に是非とも是非是非是非に」
「ジーンさん」
「はい?」
懸命なシモベ一号の肩をぽんと叩き、にこやかにミアキスはジーンさんに振り返る。
「私ぃ、姫様を指名しようと思いますぅ。とりあえずぅ、今日一日ぃ」
「それは……まあその分の御代をいただければ勿論構わないけれど」
「……ミアキスさん?」
「あら、いやですぅ、そんな目しないでくだいよぅ♪ちゃあんと説得して、今日中に、なんとか連れ帰りますからぁ」
「あ、ああ、そ、そうですか」
自分でも何に違和感を感じているか、わかっていないのだろう。
可哀そうなシモベ一号は、複雑な表情で「うん?」などと腕組みをしている。
「ええ、それでもやっぱり悪いからぁ、お代はお支払いしますねぇ、姫様のそれも含めたぁ、迷惑料みたいなもんですぅ」
勿論自分も、暴露する気も止める気もなかった。
現女王陛下に対する忠誠も、ファレナの河と大地に準ずるくらいなみなみと持ってはいるが
折角あの大戦争から持ち帰ったこの命、今になってドブに捨てるのはやはりとっても忍びない。

それから先、それぞれの個室で何があったのか、詳しいことは勿論知らない。
ちなみに自分はエストライズの悪戯少女を選んで存分楽しんだ。
とてもエガッタ。

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