マイク×アヤメ 著者:17様

「総員退避――――――――――!!」
次々と大きな岩やら柱やらあらゆるものが鈍い音を立てて崩れてきた。
兵士達が一斉に外へと退避しはじめる。
その流れに逆らうようにしてアヤメはステージの入口を見つめるアップルの元へと駆け寄った。
「……何でしょうか」
「城まで伝令をお願いできるかしら。“炎の運び手、魔術師ルックの陰謀の阻止に成功”とね」
「……承知。……ワタリは?」
アップルは首を傾げた。
「それがどこにもいないのよね。だからあなたを呼んだというわけなんだけど」
「いない?」
(……まさか、逃げたのか、ワタリ)
アヤメの胸に暗い影が落ちる。
「とにかく、一刻も早く伝令を頼むわね。私はみんなが戻ってくるのを待っているから」
「……」
アヤメはふっと空気を感じさせないような動きでその場から立ち去った。

本拠地についたのは真夜中だった。
食堂前の扉から城館の中に入る。
いつもならそこにワタリがいたはずだった。
(やはり、いないな……)
とりあえず、先に伝令を大広間にいる不寝番に伝えることにし、
エレベーターに向おうとしたその時だった。
「?」
貯蔵庫から光が漏れている。
(……何だ?珍しい)
貯蔵庫の鉄扉の隙間からアヤメは中の様子を窺がう。
「……か」
「……ですからね」
男性たちが数人貯蔵庫で話しているようだった。
一人がその中心で脇腹を押さえてうずくまっている。
「……き、さま……っ」
息をするのも辛そうな声。
(……ワタリ!)
アヤメが息を飲んだ瞬間、背後に殺気を感じた。
とっさに小太刀を引き抜いて振り返ったが、既にそれは遅く、
彼女の視界は黒い闇に落ちていった。

(……冷たい)
まず気がついたのが寒さだった。肌が冷たい石床に直に触れている。
「……あなたがいけないんですよ、すべてね」
「……」
「おやおや、お怒りのようですね、でも、もっと苦しませてさしあげますよ」
(……何を、言って……)
……息が苦しくない。いつも口を覆っているマスクは外れてしまったらしい。
黒い霞がかった視界が徐々に晴れ、色彩を帯びてくる。
周囲の気配は3人……いや、4人といったところか。
それと同時に遠くに聞こえていた声も段々と鮮明になってきた。
話をしているのは2人。それと共に水滴が落ちる音が混じる。
「まさか、おまえ……!」
ワタリの声だ。
動こうとしても、意のままに動けない。
腕と手首に無理な力が加わっている。……どうやら手首を縛られた状態らしい。
「あなたに苦痛を与えた上で、我々も愉しむことができる
……一石二鳥だと思いませんか?」
そう言って男は笑い声を漏らす。 その笑い声には聞き覚えがあった。
縄抜けをしようと関節を動かそうとしたその時だった。
「気がつきましたか、アヤメさん」
―間違いない。 アヤメは顔をあげた。

「……マイク……おまえ、なに………なっ!!!!!!ワタリ!!!!!!」
目の前の光景に彼女は茫然とした。
貯蔵庫の石壁にワタリが吊るされていた。
手首には鉄の枷がつけられていて、天井からの鎖がそれを引っ張っている。
そして、ワタリの皮膚からは脂汗が滲み、脇腹からは紅い染みが今も流れていた。
彼女は膝をついた状態で身体を起こし、見下ろす青年を睨みつけた。
「貴様……っ!これはどういうことだ!!」
「制裁ですよ。アヤメさん」
明日は晴れですよと言わんばかりの口調でマイクが答えて腰を下ろす。
アヤメの顎をつかんで彼は目を細めた。
眼鏡の奥の瞳は冬の雪が降る前の雲のような影を帯びていた。
「彼のおかげで我々のことが知れるのは大変困るんですよ。
そのための適切な処置ってところですね、ははは。……薬も盛ったんですけど、
まだ正気があるとはさすが“カゲ”の一員というべきでしょうか」
「ゲスが」
アヤメは唾を吐きかけた。
「いい誉め言葉ですね……それよりも、アヤメさん。交換条件といきませんか」
頬にかかった唾をマイクは手で拭い取った。
「あなたがこの場で我々に奉仕をしてくれたら、ワタリさんはここで殺しませんよ」
「奉仕だと……」
「ええ。貴方の身体で我々を慰めてください」

「何を……」
冗談ではない。縄抜けしてワタリ連れてとっとと逃げてやる。
アヤメが手首を動かそうとしたときに首筋に冷たいモノが当てられた。刃物だ。
「あなたがそんな格好で外に出られると思っているんですか?」
「なっ!!……貴様!!」
改めて自分の格好を見てみるとサラシと下着だけという惨状だった。
「それに、縄抜けしたら即座にあなたの頚動脈切って、ワタリさんの心臓を貫きますから。こちらも一応プロでしてね、それ相応の腕は持ってますよ」
(くっ……!)
マイクの視線が本気であることを告げている。それにその言葉が真実であることも。
先程彼女を襲った者の気配を寸前まで認めることができなかった。
悔しいがその実力はアヤメを超えているだろう。
交換条件ではなかった。 アヤメには拒否権など存在せず、
自分が逃げるためには、またワタリを助け出すには彼の言うことを聞くしかなかった。
唇をきつく噛み締めてアヤメは頷いた。

マイクが鎖を下げろと男たちに指示をした。
じゃらじゃらと音を立ててワタリの身体が床に近づいていく。
マイクがワタリに歩みよって、彼の下衣を剥ぎ取り、彼の下半身が露わになる。
足が床についた瞬間にワタリは呻き声を上げた。額からは脂汗が伝う。
「……ワタリっ!?」
「……なんでも、なぃ………おまえ、一人だけでも……にげ」
「できるか!!」
ワタリを足で伸ばして座らせた状態で鎖が止まる。その腕は吊るされたままだった。
アヤメの言葉を聞いてマイクが笑う。
「……そう、できませんよねぇ?アヤメさん。
彼は左足と肋二本折っているんですから、放っておけるわけありませんよねぇ」
アヤメに追い討ちをかけるようなマイクの言葉。
「なっ……!」
普段のワタリなら苦痛に声をあげることなどない。
骨三本折られて、脇腹を刺され、薬を盛られた……ワタリをそこまでしたこの男たちは一体……。
驚きに声を失うアヤメにマイクは彼女の頭を掴んでワタリの股間に押しつける。
口の中に押しこまれたのは、萎えたワタリの肉棒だった。
「!!!!!!!!」
口から引き抜こうとするのを後頭部を押さえつける手が阻む。
「さぁ、あなたの大切なワタリさんのモノですよ。まずはこの人のをしゃぶっていてください」
「……き、さま……っ!」
怒りに燃える目でワタリはマイクを睨みつける。
(これ以上、アヤメを貶めるな)
アヤメは何も関係がなかった。
ただワタリを追ってきた、それだけなのにこのような目に合わせてしまった。
そんな風に仕向けた男と、不甲斐ない自分自身が許せなかった。
「あなたも気持ちよくして差し上げようと思っただけなのに、そういう目をするんですか」
マイクは心外だという目を彼に向ける。
(だが、これでいい)
マイクは内心ほくそ笑んだ。
人というのは目の前で自分が大事なものを汚された時に面白い反応をするのだから。

―それを見るのが、最高の快楽の一つ。

「おや?さっきあてたナイフが少し切ってしまったようですね。
まぁ舐めとけば治るでしょう」
マイクがアヤメに覆い被さるようにしてうっすらと血の滲んだ首筋を舐めあげる。
「……っ」
背筋に衝撃が走り、声が出そうになるのをアヤメは堪えた。
声を出してはいけないことはわかっていた。
……そんな手に誰が乗るか。
「……おや、アヤメさんはこんなところを感じるのですか。
ここなんかはどうなんでしょうね」
アヤメの反応をこの青年は見透かしている様だった。
耳を舐めしゃぶりながら胸を鷲掴みにして揉みしだく。
サラシが解けて白い乳房が零れ落ち、マイクの手の中で柔らかくその形を変えていった。
それから逃れようとアヤメは身体を動かそうとするが、
口の中のモノがそれに反応して堅くなり、その動きを止める。
(……ワタリ!反応するんじゃないよ!!)
アヤメの首筋に息がかかるくらいまで唇を近づけてマイクは囁いた。
「アヤメさんはイヤらしい身体しているようだ……あなたが声を出しても
一向に構わないんですよ、私は。気持ちよかったら素直に反応していただかなくては」
「……!」
こんな奴に犯されて感じるなんてどうかしている。
何も感じてはいけない。

だが、アヤメの心情とは裏腹にマイクの愛撫は反応を引き出していく。
「それにしても、お尻を突き出してイヤらしい格好ですね、アヤメさん?
そんなに私にココを弄って欲しいのですか?」
(……ちがっ……!)
マイクがアヤメの下着の中に手を滑らして陰唇を擦る。びくっとアヤメの身体が強張った。
くちゅとそこから音が漏れた。
「……おや、下の口はあなたの上の口と違って素直に意思表示をするようですね」
かちゃりと金具が擦れる音がした。
アヤメの尻に堅いモノが押し当てられる。
「っ!ふぁめろ……」
ワタリの肉棒のせいで声がうまく発せられない。
「……何か仰いましたか?アヤメさん」
「……ふぁめろ……ふぁめてふれ」
(やめてくれ……!)
マイクの口の端が歪んだ形に引き上げられるのをワタリは見た。
「……『嵌めてくれ』ですか?私もこれからそうしようと思っていたところですよ」
「ひが……っ!……ふぅうううううっ!!」
指で馴らされずにマイクの怒張がずぶりと音を立てて秘所を貫いた。
温かな液体がアヤメの頬を伝ってワタリの肌に落ちる。
ワタリは目をきつく瞑った。目の前の行為を見ないように。
いっそのこと殺してくれれば良かった。彼女が汚されるのを見るくらいなら……。
(アヤメ……すまない)
その様子は見えなくても、聴覚から触覚から臭覚から…
…残る感覚がワタリに目の前の光景を伝えてくる。
そして、視覚を閉じてしまったためにより鋭敏にわかってしまった。

「きついですね……ワタリさんはアヤメさんを抱いたことが無いんですか」
かっとアヤメの顔に血が昇る。
ワタリと彼女はそういう関係は一切無かった。
それどころか……。
「……おや?」
マイクが腰を引いた。その黒い怒張に絡みついていたのは……。
「……これは驚きですね、アヤメさんは処女だったんですか」
「……!」
「すいませんでしたねぇ、アヤメさん。初めての人がワタリさんではなく私で」
マイクの動きがぴたりと止まる。後ろから手を伸ばしアヤメの涙を拭った。
(許して……くれるのか?)
「……………っ」
引きつるような声がマイクから漏れる。泣いているのかとアヤメは思った。
(………こいつは!!)
目を閉じていたワタリにはわかった。泣いてなんかいない。
「………ぅぐぅっ!!」
マイクは引いた腰を最奥まで突きいれ、激しく腰を動かし始めた。

「思う存分楽しめそうだ」

(…………悪魔だ)
引きつるような悦びの笑い声にアヤメの世界が崩される気がした。

アヤメの狭い膣内が抉られる。
その度にぐちゃぐちゃと音が漏れ、その動きでワタリの陰茎にも刺激が伝わってくる。
「初めてなのに、こんなに中を濡らして感じているんですね」
「ふ…ぅ、う、うぁ……っふ、うぶっ」
「こんな卑猥な音を立てて……ワタリさんにも聞こえていますよ。恥ずかしくないんですか、アヤメさん」
結合部からは破瓜の血と愛液が混じったモノが流れ、アヤメの白い腿を伝っていた。
マイクは腰を動かしながら、陰核を弄る。
その度にアヤメの膣内はビクビクと収縮して容赦なくマイクの陰茎を締め付けた。
「ほら、あなたの淫らな姿を見ているのは私だけじゃない。そこにいる男達だってみているでしょう?」
「……ぁっ…、…う、ぅぅ……んぁっ」
ぎりぎりまで肉棒を引き抜いて、叩きつける。
「ふぁあああああっん!!」
その衝撃にアヤメは声を張り上げた。
「くくく……いいですよ、アヤメさん。そろそろ1発目を出しておきましょうか、膣内にね」
アヤメの表情が一変する。
「う!?………ふぁめて!!ほふぉだふぇ、はふぁめふぇ!!」
「そんなに歓迎されると嬉しいですね」
「……ひがっ!!ほめらいっ、ふぁめふぇ!!」
アヤメは必死に抵抗するが、その腰の動きは止まらない。
最奥まで突き入れられたモノが、一瞬収縮し、熱い毒液を吐き出した。
「ひ……あああああああああぁああああああっ」

ビクビクと膣内は痙攣し、アヤメの目は虚ろだった。
口からは唾液が溢れてワタリの肉棒を伝った。

ズルっ……

マイクが肉棒を引き抜くとそこからピンク色の液体が溢れ出してきた。
「……おや、イキましたか。でも、まだ気を失われると困るんですよ」
マイクは射精した後なのにまだ硬度を持っているソレを再び蜜が溢れている壷の中に埋め込んだ。
「……ふっぁああああ!」
望んでもいない光がアヤメの目に戻ってきた。
ズチャ……グチュ……。
淫猥な音が再び貯蔵庫の中を支配する。
ワタリの顔に汗が伝う。下半身で動くものを感じまいと必死に耐えていた。
それに気付いたかマイクがワタリに声をかけた。
「ほら、あなたも感じるのでしょう?ワタリさん。どうです?アヤメさんのお口は」
「………。」
「……お得意のだんまりですか。気持ちいいのなら声をあげてくれても
構わないんですよ。……それとも、私がお手伝いしなければなりませんか」
マイクが腰を動かすのを止めて、アヤメの頭を押さえて動かす。
「ふぅ!むぅぅうう!!」
「ぅあっ!!」
ワタリは刺激に耐えきれない声をあげる。
「ほら、アヤメさんも協力してください。ちゃんと裏筋を舐め上げるとかして」
「う……ふぁ」
舌先でアヤメが肉棒の裏筋を舐めあげる。その動きに乗じてマイクが頭を動かした。

ジュプ、ぬちゅ……。
その音が漏れるたびにアヤメの咥えているワタリのモノが堅く大きくなってくる。
「そう、いい子ですね……アヤメさん」
「……やめ、ろ!……アヤメ……」
唇を噛んでワタリは堪えた。
しかし、それを嘲笑うかのようにますます身体の熱は高まっていく。
やがてその動きは激しくなり、咽喉の最奥まで押しこまれた時に限界が来た。
「……う゛ぁっっっ!」
白濁した液がアヤメの腔中に放たれる。くたりとワタリが頭を垂れた。
「気を失いましたか……まだまだ見せ場はあったんですけどねぇ」
「うぐっ……うぅううううっ」
嘔吐感が込み上げてくる。
口の中が苦いものでいっぱいで、口の端からたらりと白い筋が流れた。
「飲まないんですか?アヤメさん?貴方の大切なワタリさんの精液……」
マイクはワタリの肉棒をアヤメの口から抜いて、上向かせる。
「うぅっ」
口の中に溜まっていた精液が咽喉の中に流し込まれる。
「ぐっ…………げほっ……かはっ」
咳き込みながらアヤメは荒い息をつく。
マイクの背後にいた者達が彼に声をかけた。
「……そろそろ私達もよろしいですか?」
「もうさすがに我慢の限界でしょう。構わないですよ」
ずるっとマイクは秘所から肉棒を引き抜いた。
男たちがアヤメに近づいて、一人が反り猛った肉棒を口の中に捻り込む。
「ん……ぐっ……」
「歯ぁ立てたら殺すぞ」

「俺はじゃぁこっちだな」
もう一人が十分に潤った膣内に一息で突き入れる。
「……それでは、私は今度はこちらにしましょうか」
マイクが触れたのは後ろ。
(………!!)
「ひぐっ……ぅふぅっ……」
その痛みに息が詰まる。
本来なら排出されるだけの器官に異物が入っている。
「締りがいいですねぇ、こちらも。これは儲けものですよ」
「まったくだ」
男たちはアヤメに構わずに思い思いに腰を動かす。
「ひ……っ!ふ、ふぐ……うぅ」
その動きに翻弄されて、喘ぎ声が陰茎の隙間から漏れる。
膣内を滑る肉棒と直腸を抉る肉棒の刺激が強すぎて、アヤメの意識は朦朧としていた。
白い胸が舐めまわされて、液体が這った跡が輝いており、その頂きは赤く尖っていた。
びゅちゅ……ちゅば……
「もっと音を立てろよ。俺達を満足させたいんだろ」
男たちの言われるがままにアヤメは舌を動かし、腰をくねらせる。
「淫乱ですね、本当にあなたは」
「ふぁめ……ひ……」
柔襞がびくびくと肉棒に絡みつき、男は耐えきれずに声をあげた。
「こいつの中引きこもうとしているな……もう限界だ」
「……もう、そろそろまた出そうですね」
「俺も出る」
口の中に入れられていたモノが引き抜かれて爆ぜた。
同時に膣内や直腸内を貫いていたモノも最奥で発射する。

「あ……ぁ……」
ドク……ドク……ドク……。

身体に掛けられる、注ぎこまれる白い液体。
(……これで、解放される)
身体も心も侵食されてしまった。
でも、3人の男が出し終わったということはこれで終わりだ。
ワタリは助かる。

―そう思っていた。

「まだですよ、アヤメさん」
「……ぇ……?」
内部にあった異物がまた硬くなるのを感じアヤメは戦慄を覚えた。
「まだ、わかりませんか?淫乱なあなたの肉襞がまだ絡みついているんですよ。
あなたが求めているんじゃ我々も止めるわけにはいかないでしょう?」
「……ぅ、そ」
「我々の予測以上ですよ、あなたは……夜はまだ、長いことですし、まだ楽しませてもらいますよ」
マイクの哄笑と共にアヤメの中のモノが蠢動しだす。
「……ゃ」
終わらない。
この地獄はまだ、終わらない。
「…ゃ……ゃめ……もう……ぃゃぁああぁぁああああ!!」

瞼が重かった。こじ開けるようにアヤメは切れ長の目を開いた。
乾いた白いものが肌に髪の毛に張り付いたままで、肌が悲鳴をあげている。
「……タリ?」
呟いたのは囚われていた男の名だった。だが、返事は無くしんと静まり返っている。
アヤメは関節を外して手首を拘束していた縄を解き、起き上がった。
鉄の鎖がそこにぶら下がっているだけで、アヤメ以外には誰もいなかった。
―そう、誰も。
(…………ちく……しょうっ……!)
だん!と彼女は拳を床に叩きつけた。
何もかも汚され、そして、追い求めていた者ももういない。
『ここで殺さない』かわりに彼等はワタリを連れ去った。
「……私はっ………!!」
結局、ワタリを助けることができなかった。
絶望で目の前が暗くなる。

アヤメ……

「……ワタリ?」
―彼の声が聞こえた気がした。

彼が吊るされていた鎖に近づく。
「!!」
ワタリの血に染まった鎖。
しかし、ある一部にだけ鎖に規則的に血のついた鎖と血のついていない鎖があった。
“カゲ”で使われていた暗号の一つ。
(……ワタリ!!)
目から熱い涙が零れる。−希望はまだそこにあった。
それが潰えていないのならば、ワタリが生きているのならば……?
(いや、)
彼女は心の中に浮かんだその疑問を打ち消した。―生きている。
そう自分が信じなければ、立ちあがれない。
でなければ何のために彼を追ってきたというのだろう。
(私は、あんたを追いかける)
時折ワタリが呟いていた一言。それがマイクに関わるものならば、情報を捜しやすくなる。
それを一から洗いなおして、追い求めていけばきっと辿りつける。
辿りついてみせる。
(それは“カゲ”としての使命じゃない、私が決めたことだ)
彼女は祈るように鎖を握り締め、それを離して踵を返した。
腰に響く痛みを堪えて歩きながら、顔についた精液だったものを爪を立ててはがす。
乾燥したものを引き剥がしたために一緒に表皮も捲れ、血が滲む。
この痛みを忘れてたまるか。この屈辱を忘れてたまるか。
マスクを拾いあげ、口を覆い隠す。
(ワタリ……あんたを取り戻す)
彼女は貯蔵庫の鉄扉をぐっと力をこめて開けた。

―それが彼を追う彼女の新たな旅の始まりだった。

<了>

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