ナッシュ×クリス 著者:ウィルボーン様

クリスの部屋は、まだかすかに明かりがついていた。ナッシュは嫌な予感を覚えてドアをノックしてみた。返事はない。鍵がかかっていなかったので、そっと開けてみる。
クリスはベッドに座り、身じろぎ一つせずに床を見つめていた。まるで美しい彫像のようだ。
「クリス?大丈夫か?」
声をかけたが、返事はない。
まったく、勇壮な銀の乙女が聞いて呆れる。戦場ではあんなにも強いのに、それ以外では心が脆すぎる。よくここまで生き抜いてこれたものだ。
横に座って肩に触れる。反応はない。
(ビンタ一発、我慢するか)
ナッシュは舌打ちをしつつ、クリスにキスをした。唇が氷のように冷たい。一瞬後、何をするこのばか者!とビンタが飛んでくると予想したが、それでもクリスの反応は何もない。
(…たく、世話のやけるお嬢さんだ。何だってこのナッシュ様が鉄の処女相手に超絶技巧のキスをしなきゃならんのだ)
ブツブツ言いながら、再びキスをした。顎の窪みに指を置き、無理やり舌を差し込んだ。歯茎を丁寧に嘗めあげ、舌を絡ませて吸い上げる。
「な!何をするこのばか者!!!」
覚醒したクリスが悲鳴を上げ、思い切りナッシュを突き飛ばした。ベットから転がり落ち、床に頭をぶつけたナッシュは、いててと言いながら立ち上がる。
「何をするって、あなたが死にそうな顔をしてたから、気付け薬のつもりだったんだけどね」
「だ、だからって…」
クリスは闇の中でも分かるほど顔を真っ赤にし、手の甲で唇を拭った。
「一人で考え込んでいると、どんどん煮詰まりますよ。さてお姫様、温かい腕と話し相手のどちらをご所望ですか?」
大げさに片膝をついてマントをつまんで一礼すると、クリスは困ったように笑う。
「話し相手に、なってくれるか」
「喜んで」
ナッシュは近くの椅子に背もたれを抱える形で座った。

「おまえは、その、どう思った?ユンのこと」
「村の習慣ならば、仕方のないことでしょうね」
「私はそこまで達観できない。軍人で、戦場で人の命を奪う私が言えたことではないが、あんな形で人が死ぬのは辛いな…」
「あれが彼女にとっての戦いなんでしょう。あなたが戦場で戦うように、彼女も戦った」
「……」
クリスが俯いた。肩を震わせ、やがて鼻をすする音が聞こえる。
「初めてだった…。守ってあげたいと、思ったのに。妹みたいだと…」
あとはもう、声にならなかった。クリスは顔を覆ってしゃくりあげた。
ナッシュは立ち上がり、クリスの横に座って肩を抱いた。一瞬の静寂の後、クリスはナッシュの胸に顔を埋めて泣いた。
(何やってんだろうねえ、俺は。まるで父親じゃないか)
そっけないようで実は情に厚いというのは、諜報員としては見事な欠点だな、などと考えていると、クリスが顔を上げて濡れた瞳で見つめてきた。
「お願い、今だけは忘れさせて…」
「ええっ?」
驚くナッシュに、クリスは自ら唇を寄せてきた。先ほどの氷のように冷たい唇ではなく、燃えるような熱さを持った唇だった。
「ちょ、ちょっとクリス」
「お願い…今夜だけでいいから」
クリスは懇願するように、なおも唇を這わせてくる。性急に求めてくるクリスの肩を掴み、ナッシュは正面から見据えた。
「いいのか、あとで後悔することになるぞ」
「それでも…。今のこのやりきれなさから逃れるなら、何だっていい」
ナッシュは返事の代りに頬にキスをした。銀の乙女に、今宵一夜の夢を。

部屋の明かりは消していても、夜空に輝く満月がクリスの裸身を美しく照らしている。
普段は鎧だったり旅装束だったりと美しさの割りに色気を感じない体であったが、改めて見るとその美しさは目を見張るものがある。豊かにこぼれる胸、くびれたウエスト、白い肌のあちこちに刻まれる傷跡も、まるで彼女の美しさを際立たせるアクセサリだ。
ナッシュは鎖骨の傷跡に唇を這わせた。
「あっ、う…ぅん!」
クリスの口からはため息交じりの濡れた声がこぼれる。声を抑えようと眉を寄せる表情がたまらない。
少し触れただけでも驚くくらい敏感に反応するクリスは、おそらく処女だろう。
それならば、とナッシュは宝物に触れるようにそっと抱きしめる。
「リラックスして、俺に全てを任せて」
そう耳元で囁くと、クリスは恐る恐る瞳を開け、小さく頷いた。
キスを交わし、舌を絡める。最初は驚いて体を強張らせたクリスが、優しく攻めているうちに、次第に自ら舌を伸ばして求めてくる。正直上手いとはいえないが、その必死さがいとおしい。
「あふ…っ」
嚥下しきれない唾液がごぽりと唇の端から溢れる。
やがてクリスの手が伸び、ナッシュの腕を自らの胸に誘った。豊かな白い胸は、磁石のようにナッシュの手を吸い付ける。こぼれんばかりの乳房を包み、ゆっくりと愛撫する。
「あぁ…ッ!」
クリスが小さく悲鳴を上げる。悲鳴を抑えようと唇を覆うと、鼻を鳴らして喘ぐ。
柔らかな乳房の頂部分はすでに硬くとがっており、ぷっくりと充血している。指で軽く摘んで口に含む。

「ぅぅ…んっ!あぅん、あ…」
この快楽をどう受け止めていいか分からない、といったかんじでクリスは体をくねらせる。逃がさず抱きしめ、柔らかな膨らみをきつく揉み、頂を舌で嘗めあげ、歯を当てて甘噛みをする。
「だ、駄目…、なんだかおかしい、ヘン…あ、あ、あああっ!」
びくん、と体が跳ね上がり、一瞬の静寂の後、弛緩するようにベッドに沈み込んだ。
自らを慰めることも知らなかったのだろう。胸だけの愛撫でクリスは軽く達してしまった。クリスが肩で息をしている間、ナッシュは着ているものを脱いでクリスに寄り添った。
「…ナッシュ…」
「そんなじっと見られると照れるなぁ。もっと見たい?」
「…バカ」
先ほどまでの強張った表情から、いくぶん和らいだ表情を浮かべるようになったクリスは、呆れたような微笑を浮かべて身をすり寄せてくる。
濃厚なキスを交わしながら、ナッシュは手を下腹部に伸ばした。すでに体が火照っているのだろう、クリスはさして抵抗もせず、ナッシュの侵入を赦した。
包み込むように秘所に触れ、ゆっくりと上下させる。
「あ…うぅん…ッ!あぅ…」
そこはすでにしっとりと潤んでいた。初めての感触に一瞬体を強張らせるものの、愛撫一つで簡単に堕ちてしまう。指でそっと線をなぞると、甲高い声が漏れる。すでに一度達しているクリスの体はちょっとしたことにも反応してしまう。
指を一本、入れてみる。最初にほんのかすかな抵抗があったものの、すんなりと根元まで飲み込む。指一本しか飲んでいないのに、抜けないくらい締め付ける。
中でくいっと形を変えてみる。と、クリスはあられもない声を上げる。
あの熱狂的な信者たちが知ったら、殺されるかも知れないな。心の片隅でそう考える。

と、クリスがナッシュの股間に手を伸ばし、硬くなりつつあるモノに触れた。
「クリス…ッ!?」
「わたしだって、このくらいは知っている…。こうすると、いいのだろう?」
「駄目だ、あなたはこんなことしちゃいけない」
ナッシュは手を振り払うかのように起き上がり、それからクリスの下腹部に顔を埋めて舌を使って愛撫をした。掬い取っても、次々に泉のように湧き出てくる。
「あん!あ!駄目、そんな…!あぁぁ…」
クリスが悶える。舌で愛撫を重ねながら、指を挿入する。まず一本。慣れてきたら二本。二本目の指が奥まで収まったところで、ナッシュは体を起こした。
「クリス、体の力を抜いて」
頬に軽くキスをして、それからナッシュは自らのものを推し進めた。
「く…っ!」
愛撫で陶酔しきっていたクリスの表情がにわかに曇り、苦痛に眉をしかめる。しかしその苦悶の表情が、逆に征服欲をそそる。体勢を変え、少しずつ推し進め、あとは一気に貫いた。
「…!!」
クリスの瞳から大粒の涙がこぼれる。痛みのためか、悲しみのためか。ナッシュは頬に唇を寄せ、涙を掬い取る。クリスはぎこちなくナッシュの背中に手をまわした。
「大丈夫ですか…」
「これくらい、なんてことはない」
返事に力強さが戻る。先ほどまでの、ユンの死にうろたえ、怯えていたクリスの姿は
どこにもなかった。

「動きますよ。まだ、力は入れないで。入れないでっていっても無理でしょうけど」
「ふふ…」
本当ならばどこまでも冗談を言って力みを取ってあげたいのだが、思ったよりもクリスの中は居心地が良く、自制心の強いナッシュですら、あっという間に限界を迎えそうだった。クリスに負担をかけぬよう、そっと体を動かす。クリスは最初の方こそ苦痛の呻きをもらしたが、その声はやがて艶っぽさを帯び、最後は本能の赴くままに快楽の喘ぎを発していた。その声がまた、ナッシュを煽る。
「あ、あぁ、ナッシュ…!」
その声で、ナッシュは己の欲望を、クリスの最奥部に注ぎ込んだ。

翌日。ナッシュはクリスを起こさぬように寝床を抜け出し、身支度を整えた。
もうクリスは大丈夫だ。これで自分の役目は終わったはずだ。あとは、よけいな感情が
互いに芽生える前に姿を消した方がいい。
彼女には自分よりも、もっと日の光を浴びた男が相応しい。
「銀の乙女に一夜限りの夢を、か。夢を見たのは俺の方だったのかもな」
地面に置いた荷物を背負ったその時、背後に人の気配を感じた。振り返ると旅支度を整えたクリスが立っていた。
「一人でいくつもりか?」
「クリス…」
「まだお前の役目は終わってないのだろう?」
そういって腰に手を当てるクリスは、いつものクリスだった。迷いのかけらも見出せない、毅然とした美しさと強さを持つ、銀の乙女。
「おまえにはもうちょっと付き合ってもらうぞ。いいだろう?」
クリスの混じりけのないまぶしい笑顔を受け、ナッシュは地面に膝をついて大げさに手を広げた。
「いいでしょう。姫。どこまでもお供いたしましょう」

おわり

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