恐怖、ナナミ料理! 著者:17様

「よしっ!完成っ」
「ええ!?早いわよ、ナナミちゃん!あたしはもうちょっと…」
そう言いながらもニナの顔は真剣そのものだ。
一球入魂と言わんばかりに絞り袋に少しづつ力を加えていく。
「これで、いいわ」
満足げな表情で絞り袋を持った手を下ろす。
そこには真っ白な生クリームのドレープが描かれたケーキ。
「どれどれ?わー!ニナちゃんのケーキもきれいね!」
「見本と同じ様になるように気をつけたから。ナナミちゃんだって!見本と寸分違わないくらいにきれいだわ」
「ありがと!きっとフリックさんもニナちゃんのケーキ喜んでくれるわよ」
そう言いながらナナミは粉とクリーム塗れになった白いフリルのエプロンを脱いだ。
「うん!絶対食べてもらうんだ。ナナミちゃん、弟くんにありがとうって伝えといて」
「うん、わかった。言っとく。ハイヨーさんとあの子のおかげでケーキのレシピゲットできたもんね」

先日行われた本拠地名物料理勝負の戦利品のケーキレシピと厨房をハイ・ヨーから拝借したナナミとニナはケーキ作りにいそしんでいた。
2人ともケーキ作りは初めてだったが、うまくいったらしく見本のイラストと寸分違わぬ出来だった……見た目だけは。
「それじゃ、あたしはあの子のところに持ってこうかな?勉強会も終わっている頃だしね…ええと、箱はどこかな?」
成り行きでリーダーになってしまった彼女の弟は、戦争や政治について軍師のシュウから教わっている。
慣れないことをしている弟のためにナナミはケーキを作ることを思いつき、フリックへのアプローチにいいのではないかとニナを誘ったのである。
「こっちの引出しの中にあるってハイヨーさん言っていたわよ?…うわぁ、結構色々あるなぁ。ナナミちゃんほら、こっちに来て」
「えっ!?ほんとに?」
ナナミが厨房の隅にむかって走り出す。
その時、調理台の下から何かが這い出てきた。

「…ケーキ、ケーキ!ええと、ニナの造ったほうは左だったな?」
なんと這い出てきたのはチャコだった。
つまみ食いをしようと厨房に忍び込んだのはいいが、ナナミ達が入ってきたため慌てて調理台の下に入りずっと隠れていたのだ。
「どれどれ…」
とチャコが手を伸ばした瞬間。
「あ――――――っ!チャコ!!あんた何やっているのよっ!!」
「わわわわっ!」
ニナが物音に気がつき振り向いたのだ。
チャコは身体をびくつかせ、ニナのケーキの載った回転台を思わず右にずらした。
「へへへへへ、クリーム塗れだったからきれいにしようと思って…」
取り繕う様に側にあった布巾を手にし、調理台を拭きはじめる。
見るからに怪しい。
ニナは半眼になり、つかつかとチャコに歩み寄る。
「嘘つくんじゃないわよっ!」
ニナの右腕が唸る。
「ぐぇっ!」
いつの間に持っていたのか、百科辞典付愛のブックバンド(武器Lv・16)がチャコの頭に直撃した。
チャコ:戦闘不能。
「ったく、人の愛の結晶に手、出さないでよね」
そう言いながらフリックの為に厳選したハート柄の箱に慎重にケーキを入れた。
「それじゃナナミちゃん。あたしフリックさんの所に行ってくる!」
「いってらっしゃい!頑張ってね〜」
まだ箱を選んでいるナナミは後ろに声だけのエールを送った。

「ね〜フリックさん!あたしの作ったケーキ食べて」
「まったく、何で俺がケーキを食わなくちゃならないんだ…」
歯が痛くなりそうな1ホールのケーキとナイフとフォークが酒瓶とともにテーブルの上に乗っていた。
レオナの酒場での押し問答は30分続いている。
「絶対に美味しいのにっ」
しまいには泣く始末。泣きたいのはフリックのほうだった。
日常はもちろんのこと戦闘時にまで付きまとってきて、弁当、洗濯、部屋の掃除に今度はケーキだ。
ニナが来て以来フリックに安息の日々は無い。
(誰か、こいつを何とかしてくれ)
「フリック、一口ぐらい食ってやればいいだろ?」
横でニヤニヤ笑いながらビクトールがせっつく。
明らかに面白がっている熊男にもフリックは腹が立っていた。
「じゃぁおまえが食えよ」
「ひどい!あたしはフリックさんの為につくったのにぃっ!」
俯いたままさめざめとニナが更に泣く。
酒場で騒いでいた客もフリックが悪いという視線を突き付けてくる。
はぁっとフリックは溜息をついた。
「…わかった。一口だけでいいんだな」
「本当!?フリックさん!」
がばっと笑顔でニナが顔をあげた。
(こいつ…嘘泣きしていたな)
涙の跡は無かった。
「…口に出した以上は食ってやるよ」
鼻歌混じりにケーキにナイフを入れた。
(…いつかはフリックさんとケーキ入刀、なんちゃって)
ニナは取り分けたケーキをフリックに差し出した。
「はい、フリックさん。あたしの愛のこもったケーキを召・し・上・が・れ」
フリックはフォークをケーキにぶっさし、やれやれといった顔つきで一口頬張った。
フリックの動きが止まる。
そのまま彼は後ろへ倒れた。

「フリックさん!」
(どうして!?レシピの通りにあたしは作ったのに何でフリックさんが倒れるの!?)
その答えはすぐに知れた。
「ニナちゃん!」
「ナナミちゃん!」
「ニナちゃん、あたしのケーキ持っていったでしょ!」
「え!?」
そんなはずはないとニナは思った。自分のケーキは左側の回転台に載っていたものだ。
「チャコがあの時ケーキを入れ替えてしまったって言ったの。だから、ニナちゃんの持っていったのはあたしのケーキなのよ」
「ええっ!?」
「するってぇと、フリックはナナミのケーキを食ったってことか。それなら納得だ、おい、誰かホウアン先生を呼べ!
フリックがナナミケーキを食ったから急いでくるようにってな!」

ナナミ料理:軍最凶兵器。見た目は素晴らしい出来だが味は想像を絶するほどの不味さで、犬(コボルト)も何でも食うボルガンでも食わない代物だ。
ただ、唯一耐え得ることができるのは彼女の弟のリーダーだけ。シュウはこれを兵器登用しようか思案中である。
「ナナミさんのケーキを食べてこうなってしまったんですね?」
フリックの自室にやってきたホウアンが触診をしながらニナに尋ねる。「はい」
「大丈夫。ナナミさんの料理は食中りを引き起こしますが、今まで死者は幸いなことに出していませんから」
ただし、彼の診療所には1ヵ月前にアレを食べてしまい、いまだに意識不明な被害者が厄介になっている。
「で、でも…!あたし、どうしたらっ!!」
フリックは脂汗をかいて熱をだしており、未だに目が醒めない。
このままフリックが死んでしまったらと考えると気が気でない。
「それではフリックさんの看病をお願いできますか?私は他の怪我人の看病をしなくてはならないので」
「は、はいっ」

遠くでボブの遠吠えが聞こえる。もう、真夜中だ。
もうフリックが倒れてから6時間経過したが、未だに彼は目を覚まさずにうなされている。
ニナは彼の顔の汗をそっと濡れた布でふきとった。
手を額にあてるが、まだ熱い。その時、引っ掛かりを手に感じた。
指でその部分を確かめる。傷跡だ。
月明かりの下よく見ると目立たないが色々なところに傷跡があった。
「うわぁ…」
その時暑いのか、フリックが布団から腕を出した。
「だめですってば、フリックさん。ちゃんと身体を温めて汗を出さないと」
上着を掴んで布団の中に戻そうとするが、服がぐっしょりと濡れていた。
「大変!きがえさせないと……ってことはあたしがフリックさんの服を脱がすの!?」
悪化させないためには必要なこと…そう理由づけてもやはりニナはニナだった。
(役得だわ……これはチャンスよっ)

ニナが布団を剥ぎ、フリックの上着を脱がせた。
ビクトールのように筋肉隆々ではないが、無駄な脂肪はなくしっかりとした筋肉がついていた。
その身体にも無数の傷跡がある。
「やっぱり、戦の世界に身を置いてきた人は違うな」
そう言いながらニナは傷跡を一つ一つ指先でなぞっていく。
古いのもあればここ最近塞がったようなものもあった。肩から胸へそして、腰。
彼が生きぬいてきたその証を確かめる。
「当然下も脱がせなかったら女も廃るわよね」そう言って、下着もズボンごと一気に脱がした。
「うわっ結構大きい」
流石に勃ってはいなかったが、それでも今まで見た中で結構大きいほうだった。
ニナはフリックの肉棒を手にとった。ぴくんとそれが動く。
「フリックさん、してほしいの?」
おそるおそるニナがしごき始める。どんどんとそれが堅さを帯びてくる。
「感じてくれてるんだ」
何だか嬉しくなってきたニナはだんだんとその動きを早くした。
鈴口からじわじわと精液が出てくる。ニナはそれをそっと舐めるように舌で絡め取った。
苦い。
「…ぅん」
「フリックさん?」
気がついたのだろうか?と思いニナが顔をあげる。
だが、フリックの目は開いていない。うわ言を彼は呟いた。−ニナが一番聞きたくなかったその言葉を。
「……オ、デッサ…?」

「まだ、忘れられないんだ…フリックさん」
ニナは再びフリックの肉棒に眼を向ける。もうはちきれんばかりにそれは大きく勃っていた。
ニナはフリックの上に馬乗りになって、それを口に咥えた。
ぴちゃ。
淫靡な音を立てて舌で唇で口全体で愛撫を加えていく。
(オデッサさんじゃないよ。ニナだよ)
わかってほしい。もういなくなってしまった人はあなたをこれからも愛し続けることなんてできないと。ここに愛している者がいると…
熱情を、願いを、込めながらニナは一心不乱にフェラチオをしていた。
水の音と艶めかしい吐息だけがフリックの部屋に響きわたる。
口の中でひときわ大きくなると感じたその瞬間。
どくっ。
独特の匂いを放つ大量の白濁液がニナの腔中に放たれる。ニナは懸命にそれを飲み込んだ。
だが、その量は尋常ではなくニナの口の端からたらりと精液が垂れる。
垂れたそれを指で掬い舐めた。
「はぁ…いっぱい出たね、フリックさん……でも、あたしももうダメ」
身体の芯がもう熱くて限界だった。そっとスカートの中にニナが手を入れる。
ショーツの上からでも彼女の花弁の形がわかるくらいに濡れていた。
「ねぇ、フリックさん。あたしのこと、好きになってくれないの?」

ニナは卑怯だと思った。自分自身も…そして、オデッサも。
意識のないフリックにこうしている自分。そして、永遠となってしまったオデッサ。
(できることなら、サシで勝負したかったわ……あなたはどう思うの?)
手の届かない空の彼方でオデッサはきっとこれを見ている。最低な女だとでも言うだろうか。
(あなたはこうして愛することはできないのね、オデッサさん。二度と…)
ぴちゃ、ちゃぷっ…
手と口を使った愛撫はまだ続いていた。月はもう隠れ、部屋の中は暗闇が支配する。
口からそそり立つ肉棒を出す。たらんと透明な糸を引いていた。ニナはそれに躊躇せずに服を脱ぎベッドの下に投げ捨てる。
一糸纏わぬ姿となりそのままフリックの肉棒を掴んだ。それをニナの股間に押し当てる。
「…いくよ、あたし」
一息に白い身体を沈めていく。
ぐちゅ…じゅぷぷぷぷぷぷ…
「はぁぁぁぁぁっ!!」
(おおき…っ!)
騎乗位だから、尚更その大きさが感じられる。
「ぁっ、はぁっ…はぃ、ったぁ…」
ふぅと息をつく。そして、ゆっくりと腰を上下に動かし始めた。

…重い。
身体がだるくて重い。
フリックは何かが自分にあたっているように感じた。
「…はぁっ…ぅん!はぁ…はぁ…っ」
女の喘ぎ声。
「…なっ!」
朦朧としていた意識が一気に覚醒する。がばっと勢いよくフリックが起きあがった。
「…はぁんっ!フ、フリックさぁ、ん!」
フリックの腰をがっちりと脚でホールディングしたニナが肉棒を突き刺したまま上に乗っかっていた。
小ぶりな胸がフリックの目の前で揺れている。
「…に、ニナっ!おまえっ!?」
「フリックさん!よかった!気がついたんですね!」
「何でっ、ええと…はぅあ!?」
状況を把握できないためフリックが混乱しているにも関わらず、ニナは構わずに腰を動かす。締めつけられ、フリックがびくんっと硬直した。
「ぁんっ!フリックさんのって大きくて気持ちいいっ」
気持ちいいのはフリックも同じだが、状況が状況だ。
必死にニナを押しのけようとするが、ナナミ料理を食らったその影響からか力が入らない。
「…馬鹿っ、やめろニナっ」
自分自身がむくむくと大きくなってくるのをフリックは感じた。
……このままだったら、やばい。
「やめないですよっ!こんなチャンス滅多にないし、あ…はぁっ!」
じゅぷっ、じゅぶ、じゅぶ……
どんどんとそのピストン運動のスピードが速くなる。
愛液と先走りの液が潤滑油代わりになっているので、フリックが嫌でもそうなってしまう。
「あっ…おまえっ…ばっ、ちょっと…!」
フリックは必死に腰を引こうとするが、ニナが突いてくるので逃げようがなかった。
「やめろっ!出るっ」
「ああっ…フリックさん!あたしもイクっ……っ!」
「……待て、やめろっ!……あああああああああああっっ!!」
フリックの絶叫が深夜の本拠地にこだました。

「昨夜はお盛んだったようだな、フリック」
朝食のパンをがっつきながら、ビクトールがばしばしとフリックの背中を叩く。
フリックは肩を落としている。ヤられた本人は非常にショックを受けていたのだ。
(年下に、しかも暴走小娘にヤられた…オデッサ以外の人間と金輪際しないと誓っていたのに…)
厨房から賑やかな声が聞こえる。
「ナナミ!そんなもの入れてはダメアルヨォ!…アイヤーーーっ!!またっ!酢を1瓶入れてはダメアルヨー!」
「何言っているの、ハイヨーさん!酢は身体を健康にするんだってホウアン先生も言っていたじゃない!よしっ出来た!
……はーい、お待たせっ!ナナミ特製八宝菜!ちゃ―んと食べるのよ!?」
厨房から大皿一杯の八宝菜をもってきたナナミが我らがリーダーのテーブルの上にその皿をドンと置いた。
周りの人間がしんと静まりかえってその光景を見るなか「いただきます」と手を合わせ、黙々と彼は八宝菜を食べていく。倒れる気配は一向にない。
「……なぁ、ビクトール」
「何だ、フリック」
「食ってみてあらためてわかった。やはり、アレを食えるあいつは只者じゃない」
「そういや、アレを実食した感想は?」
「……訊かないでくれ」
思い出すのも恐ろしいという風にフリックが身震いする。ビクトールが笑い出した。

―こうして、またナナミ料理伝説に新たなエピソードが加えられることになったのである。

<了>

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