シエラ×ビクトール 著者:11様
賑わいを見せるミューズ市の中心街から少し離れた場所。
先の戦争で犠牲になった者達の墓標が、見渡す限り見受けられる。
その中でも一際目立つ立派なつくりをした墓の前に、
1人の大柄な男がゴツゴツと靴音を鳴らして近づいて行く。
暖かい陽光を浴びてキラリと光るその墓標は、
その墓の主の生前と何ら変わりのない輝きを持ち続けていた。
「よぉ……元気そうだな。」
土に還っても相変わらず自分の存在を顕示しているそれを見て、
男はボサボサの髪の毛を掻きながら笑みを携えた。
「アンタはどこに行っても変わりなさそうだ……安心したぜ。」
肩に担いでいた、最低必要限の物しか入っていないリュックを地面に下ろし、
男は立膝をついてその墓をじっくり見据える。
死してなおこのような立派な墓が立てられたのも、大勢の人の信頼を得ていたからだろうか。
それとも、現市長であるフィッチャーが手を廻してくれたのだろうか。
きっとどちらも当てはまる。それだけこの墓の主はミューズにとって偉大な人物だったのだ。
「……いつの世も、アンタみたいに必要とされている人間は早く死んで
オレみたいなどうでも良いヤツは生き残る。全く世の中ってヤツぁ理不尽だよな……。」
そう言って男は目を閉じた。
目の前で眠る彼女との想い出を思い出す。
どれもこれもくだらない事ばかりだが、そんな出来事も男には大切な宝物だった。
ふと、感傷的になっている自分に気づき、自らを笑う。
「昔の想い出に浸っちまうなんて、オレも年食ったのかねぇ……。」
だが、それも悪くない。目の前の人物は男にとって大事な人なのだから。
地面の土を弄りながら、そんな心地良い雰囲気を味わう。
後ろの方で足音が聞こえる。
こんな広い墓地だ。他の訪問客がいても不思議じゃない。
男はさして気にせず、目の前の久しぶりの友との再会を楽しんでいた。
しかし、その足音は真っ直ぐこちらへ向けて進んでくる。
もしかして彼女の客人だろうか?
それならば、自分のような大きな男がこんな場所に陣取っていては邪魔になるだろう。
そう思い、男は黙って腰を上げた。
心の中で墓の主に別れを告げた瞬間、背後から声をかけられた。
「なんじゃ、やはりビクトールか……おんしとこのような場所で出会うとはな。」
どうやら自分の客だったらしい。墓地という特別な場所で、
まだ生を受けている者に用事というのもいささか非常識だと思ったが、
後ろにいるであろう彼女にはそんな常識は通用しないのだろう。
自分の知り合いでこんな年より臭い喋り方をするヤツは1人しかいない。
「シエラか……久しぶりだな。ヘンなところで会う……、いや、そんなコトねぇか。」
吸血鬼の始祖である彼女には、墓地という場所は何処かマッチして見える。
彼女は先の戦争で共に戦った仲間だったが、当時も実際墓場で姿を見かける事が多かった。
「墓地というのは、わらわにとって心地良い場所なのじゃ。
それなのに一番大きな墓の前にこれまたデカイ図体したヤツがいては目障りでたまらん。」
シエラはビクトールの横に並び、目の前の立派な墓標に目を向けた。
「アナベル……ふむ、以前のミューズ市の市長か。
おんしとは旧知の仲じゃったらしいが……。」
「あぁ……。」
ピク、とシエラの細い眉が動く。
久々に再会した目の前の男からは彼女の知っている豪快さは無く、覇気が全く感じられなかった。
身体はここにありながら、その心はどこかへ置き忘れてきたような……
そんな印象を与えるビクトールを怪訝そうに見つめる。
「……そうか、昔馴染みの知り合いと再会を懐かしんでいた訳か。
どうやら邪魔したようじゃな。」
らしくないシエラの気遣いを内心笑いながら、ビクトールは立ちあがると、
「………いや、もう終わったさ。
さーてと、とりあえず今日はミューズで一泊するかぁ……長旅だったから疲れちまったい。」
と言って、うーんと大きく伸びをしてから墓場を後にした。
「………で、なんでアンタがここにいるんだよ?」
今晩の寝床であるミューズの宿の一室で、ビクトールは目の前の人物に訊ねた。
「久方ぶりの対面じゃ、積もる話もあろうて……わらわが話相手になってやろう、はよう話せ。」
「なんだそりゃあっ!?」
相変わらずな人の都合を全く考えない物言いに怒りを通り越した呆れ声を返す。
しかしベッドに腰かけた当の本人は、細い脚をプラプラと遊ばせて何食わぬ涼しい顔をしている。
シエラは生活に最低必要な物しか置いていないこの質素な部屋を見まわし、
「ほんに何もない部屋じゃのぉ……まぁたまにはこのような所で寝るのも一興か。」
どうやらこの部屋に泊まるつもりらしい。
「勝手に人の部屋に潜り込んでケチつけんなよ……」
「何を言うか。わらわの心遣いがわからんのか。
長旅で疲れたおんしを癒そうというわらわの心が。」
「あんたのおかげで余計疲れがたまりそうだ……。」
シエラだけのせいでは無いだろうが、やはりこのミューズという地には想い出がありすぎる。
心身共に疲れていたビクトールは何も考えずにただ泥のように眠りたい、と思った。
『疲れた』と言いたげにハァ、と大きく溜息をつくと、一息にシャツを脱ぎ捨てる。
盛り上がった筋肉がシャツの中から弾け出し、身体中についた傷が
幾多の修羅場を潜り抜けて来た事を匂わせた。
「こらこら、乙女の前で汚い裸をさらすな。恥ずかしいではないか。」
言葉とは裏腹に、全く恥ずかしさが見えない顔でシエラは注意する。
だがその口調はあくまでも軽く、いつもの調子でビクトールをおちょくっているようだ。
「誰が乙女だよ……800才の乙女なんかいるか、ババァが。」
その言葉を聞いた瞬間、シエラの細い眉がピクリと動いた。
表情は変わらないが、口元がヒクヒクと引きつっている。
だがそんな彼女の様子に気づく事なく、ビクトールはのそのそとベッドに近づいて行った。
「俺、もう寝るからそこ退いてくれよ。」
「誰がじゃ?」
「あんただよ。あんたしかベッドに座ってねぇだろうが。」
「何故じゃ?」
「なぜって……俺が宿代払ってんだからそれは俺のベッドだろうが。いいから退いてくれ。」
「どうしてじゃ?」
「………。」
このまま禅問答をしていても埒があかない。
俺は早く寝たいのだ。
そう思いつつ、ビクトールはシエラの横を通ってベッドの中に滑り込んだ。
「こら、女より先に寝床に入るとは失礼なヤツじゃな。」
「………。」
ここで相手にしては、またくだらない話が始まりかねない。
ビクトールは無言で睡魔を待ち続ける。
「ふむ、まぁ確かにおんしの言う事も一理ある。
わらわが勝手に着いて来たのじゃからな。」
一理じゃなくて真理だよ……ビクトールはシエラの言葉を脳内で変換していた。
「おんしも疲れているようじゃからな。
一宿一飯のお礼に、1つ願いを叶えてやろうではないか。」
「……………へぇ。」
これは殊勝なことを言う…我侭な始祖様が人に謙るとは。
ビクトールは襲い来る睡魔を隅へと押しやり、シエラへの願い事を考え出した。
「じゃぁ…」
「マッサージか。まぁ妥当な意見じゃな…良かろう。」
「お、俺はまだ何も言ってねぇ!」
「……なんじゃ?わらわの言う事が不服かえ?ならこのまま寝るとするかの。」
自分を置いて勝手に進む会話(?)に、ビクトールは口だしせずにはいられなかった。
だが、女の子にマッサージされながら眠りに就くのは悪くない。
シエラも中身はアレだが、外見だけを見ると類稀な美貌を持っている。
そんな彼女に身体を揉まれながら静かに夢の中に入っていくのはさぞ気持ち良いだろう。
「う、うぐ……わ、わかったよ。頼まぁ…」
「ふん、して欲しいなら正直に言わんか。男らしくないぞよ。ほれ、うつ伏せになれ。」
お礼をすると言いながら、あくまで傲慢な態度のシエラにビクトールは舌打ちしながらも
黙って背を向けた。
その上にシエラがゆっくりと乗る。
そしてその細い指をビクトールの背に這わせると、硬いところを探し出しては
ぎゅっと強く押しこむのだった。
「おんしの身体は硬いのぉ。これではどこが凝っているのか判らんではないか。」
「んー、もっと上の方を重点的に…」
「よいしょ、よいしょ……」
シエラの身体がすすす、とビクトールの身体を這い上がっていく。
彼女の暖かい股の感触が背を移動するのを感じ、ビクトールは奇妙な気持ちになっていった。
馬乗りでビクトールを指圧し続けるシエラはそんな彼の気持ちの変化に気づかず、
懸命にその固い背中を探っている。
(うっ……やべぇ……)
シエラに意識を集中していると、ビクトールは股間に血液が溜まるのを感じた。
ここしばらく女など抱いてはいなかったせいか、急速に集まった血液達が
瞬く間に彼の股間を盛り上げる。
ビクトールはシエラに気づかれないよう、もぞもぞと態勢を直しながら
モノが治まるのを待とうとしたが、その度に身体の上で踊るシエラを感じて余計に
そのモノは硬度を増していくのだった。
「なんじゃ、動くでない。狙いが定まらんではないか。」
「そ、そんな事言われてもよ……その……なんだ、身体が勝手に…」
「?何を言っておる。ヘンなヤツじゃな…」
そう言って、シエラがビクトールのお尻の上に移動した時だった。
何か不自然な盛り上がりを感じる。
固いものが、まるでベッドとの間に支え棒のように腰を持ち上げている。
「なんじゃ、おんし…」
そう言ったところで、シエラは気がついた。
ビクトールが男の生理を隠している事に。
シエラはそこで不敵に笑うと、弱みを握った悪党のような気持ちで
ビクトールに囁きかけた。
「ほぉ……先ほどから様子がおかしいと思ったら、こういう事じゃったのか。スケベ。」
「なッ!?」
バレた!!
一番見られたくないところに気づかれ、ビクトールは絶句してしまった。
「わらわに欲情するなどとは、おんしはもしかして『ろりこん』というヤツか?スケベ。」
「お、俺はロリコンじゃねぇ!!」
「股間を勃起させた男が言うても説得力がないわ。このスケベ。」
「ぐっ…」
この女、さっきからスケベスケベと……!
ビクトールは冷めていく興奮と同時に涌きあがってきた怒りに身を震わせながら、
ほくそ笑むシエラを睨む。
このまま言われっぱなしではどんどん立場が悪くなる……そう思ったビクトールは
攻勢に出ようと試みた。
「はッ、俺はお子ちゃまには興味ねぇんだ。
ほら、あんたの事考えるとどんどん萎んでいくだろ?」
ビクトールは仰向けになって自分の股間を指し示すと、その強靭な精神力でモノを萎えさせた。
シエラはきょとんとした面持ちでその奇妙な光景を見つめていたが、
何かを思いついたかのような妖しい笑みを浮かべてビクトールの上に再び跨っていく。
「ほぉ……ではそのお子ちゃまの誘惑には負けないと?」
「あ、あぁそうさ。頭ばかり年取らないで身体の方も成長してくれや、ははは…」
その得体の知れない迫力に押されながらも、ビクトールは強がりを吐いた。
だが、その言葉で彼の命運は決定づけられただろう。
シエラの瞳に、冷ややかな炎を灯してしまったその時から。
「ならば証明してもらおうではないか。『ろりこん』ではないと言うおんしの言葉を。」
「何?」
シエラは呆気に取られるビクトールを他所に素早くズボンを引き降ろすと、
身体に見合った大きさを持つモノを捉えて、その小さく可憐な唇を近づけていった。
「お、おい待て!ちょっと…」
「じっとしないか……噛み切るぞ。」
シエラの口腔に鋭い輝きを帯びた八重歯が光る。
ビクトールは背筋に冷たいものが走るのを感じて、そのまま状況に身を任せるしかなかった。
「…………ん。」
ゆっくりと彼のモノをシエラの唇が飲みこんでいく。
その小さな口には大きすぎるのか、シエラは口をできる限り大きく開いてそれを迎え入れた。
滑った感触が肉棒を包み込んでいく。
ビクトールは久々の感覚に身震いしながら、歯を食いしばって声が漏れるのを耐えた。
シエラはちらりとビクトールの顔を見てから、口を上下に動かし始めた。
唾液が肉棒に纏わりつき、淫猥な音が発生する。
「んぶ……ず、じゅる……ぅむぅ……」
喉もとまで肉棒を飲みこみ、激しいストロークを繰り返し行う。
たまにビクトールの顔に移る視線は、堪らなく淫靡なものだ。
「うく……っ」
そんなシエラの攻撃に辛抱できなくなったのか、ビクトールが低くうめいた。
ふっと笑みを浮かべたかと思うと、シエラは深く、ゆっくりとした動きで肉棒を愛撫する。
まるで快感をその場に持続させ続けるかのように。
じんわりと襲い来る刺激にビクトールはブルブルと震えながらそれを耐え忍ぼうとしている。
薄幸な雰囲気を漂わせるこの目の前の美少女が自分のモノを咥えているという情景だけで、
ビクトールは眩暈のするような興奮に襲われるのだった。
「ふんむ………ずっぶぶぶ………んっちゅ、ちゅぅぅぅ……」
「うはっ!!」
激しい吸引が始まった。
亀頭の部分を口内の上部にあて、シエラは竿全体を絞るように扱く。
(な、なんだこの舌使いは!?)
常人よりやや長めに思われるシエラの舌が、巻きつくように自分のモノに密着してくる。
シエラはその滑った舌で肉棒を擦り上げると同時に頬をすぼめて吸引を強くしてきた。
それは手慣れた娼婦以上に彼に快楽を送り続ける。
その行為を繰り返すシエラの顔が少女のそれから妖艶な熟女に変わっていく。
(く……もう、持ちそうにねぇっ!!)
堪らなく淫猥なその表情はビクトールの神経をマヒさせ、
彼の感覚をシエラの虜にさせていく。
目、耳、鼻……そして股間に血液が凝縮して、
「ぐぉ……だ、だめだ!出る!!」
そう忠告した瞬間、美少女の口内に男の欲望が破裂した。
「んぐっ……!!」
シエラは口内を満たす生臭い液体をゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干すと、
肉棒を綺麗に舐めあげてから口を離した。
ベッドから立ちあがり、洗面所に向かうとガラガラと口を濯ぎ出す。
そして口内を掃除し終わり、再び脱力しているビクトールのベッドに潜り込んだ。
「お、おい……」
何事もなかったように去って行き、何事もなかったように戻ってきたシエラに
ビクトールは戸惑いながら、その思惑を探ろうと声をかけた瞬間。
「ス ケ ベ。」
ポツリとそう言い残してシエラはビクトールから顔を反らすとスゥスゥと寝息を立て始めた。
白銀の髪が白いシーツに映え、その可愛い寝息が普段は小憎らしい彼女に愛らしさを抱かせる。
「くっ……」
シエラの口内に発射してしまった自分にはいい訳する事すらできない。
彼女の性技に達してしまった事実。
それがビクトールに屈辱を与えていた。
(………俺はロリコンじゃねぇ………)
そんな言葉も、今の彼には虚しく聞こえる。
目の前の少女の寝顔を見ながら、再び込みあがってくる欲望と葛藤しつつ
ビクトールは自分にそう言い聞かせるしかなかった。
完