そなたは…わたしのものだ。
あの人が言った。
わたしは…あなたのものです。
こう言った人もいる。
どうしたらいいんだろう、一人ぽっちで、連れてこられた、大昔の京都、龍神の神子、私のことだと、紫姫は言う。何ができるのか、わからないまま、心の導くまま、おもむくまま、時は、確実に過ぎていく。
闇から、呼ぶ、声。
シャラン…。
頭が…痛くなる。
シャラン…。
行ってはいけない。
シャラン…。
少しだけ、痛みがやわらぐ。
私は…気が付くと駆け出していた。
あの人に、アクラムに…逢う、為に。
月明かりが、朽ちた門を照らし出す。羅城門には、鬼がでるのだという。
「アクラム…。」
月を見上げて、高倉花梨は呟いてみた。
頭の痛みはやわらいだ…が、胸の痛みは消えない。正体も解らない、いつも面をつけている、異形のモノ、気まぐれに現れては言葉を残して去っていく、敵なのか、味方なのか、ただ、確かに感じる胸の痛み、出会った時に見せる仕草、仮面を外した時の、冷ややかな眼差し、ずっと眺めていたい。…と、思った。
「アクラム…。」
「私を呼んだか…、龍神の神子よ。」
ふいに声をかけられ、心臓が跳ね上がる。
胸が、痛くて、下腹に鈍い痛みが走る。ああ…逢いたかったんだ、私は。
「そのように、無防備な笑顔をさらすものではないな。」
仮面をはずし、まっすぐに見つめられる。肩にかけた毛皮ごと絡めとられる、思いがけない顔の近さに、花梨は目をそむけた。
「特に、このような夜には。」
耳元で、低い声が響く。
ああ…、決意を込めて、花梨の両腕がアクラムの首にしがみつく。
「逢いたかったの、私…、あなたに。」
「やれやれ、たいそう無粋なことだ…が、それほどまでに、私を請うか、神子よ。」
アクラムの問いに、花梨はより強い抱擁で答えた。
「私はそなたのものではない、そなたが私の物なのだ。」
いつの間にか花梨の腰に回されたアクラムの腕にも力がこもる。
「私の『もの』を、私がどうしようと自由のはずだな。」
耳元から、首筋へ、アクラムの唇が花梨の白い喉元を這う。片方の手が水干の隙間から入り込む。見た目以上に豊かな膨らみの先端を探し出し、指先で弄ぶ。
「あッ…。」
体を震わせ、花梨の力が抜ける、力の入らない自らの両足ではなく、アクラムに身を委ねる。
もどかしそうに、水干を脱がせていくのを、花梨が体をずらして助ける。月明かりに、白い肌が映える。夜の冷気が肌を冷やすのに、アクラムの唇の軌跡から放熱するように熱い。吐息が白く、花梨の体はいっそう熱さを増す。花梨の白い肌の先端をアクラムが口で含み、舌先で転がす、既に一方の手は、花梨の足の付け根を目指して流離い始めている。 どんどん、力の入らなくなる花梨の体を腕一本で支え、ようやくたどり着いた目的の場所で指が踊る。淫らな音をたてて、花梨の体が答えた。
快感に打ち震える花梨の喉に、鎖骨に、季節はずれの桜の花びらを散らしていく。
初めて肌を併せたのはいつだったろう、ぼんやりと、花梨は考えていた。以来、囚われている、魅せられている。夜毎の愛撫が、少女を変貌させた。
アクラムの舌先で存分に弄ばれた乳首が月明かりに輝き、花梨は全身をアクラムに委ね、その首に両手を回した。
「ダメ…私、もう…。」
充分な潤いを湛えた場所から溢れ出る蜜を指ですくい、花梨のスカートをたくし上げる。下着は、つけていない。
「どうして…欲しいのだ?神子よ…。」
往生際悪く、わかっていても敢えてアクラムが問いかける。しかし、指の動きはやまない。焦らすように、わすかにそらして。
「ン…ッ…!」
快感と羞恥で花梨の顔が紅く染まる。荒い呼吸が、アクラムの耳にかかる。
「ィ…じ、悪…ッ!!」
遠まわし、遠まわして、指先が花芯をとらえた。
「あ…ッ…ン、ああンっ!」
指先のみで、たった一人上りつめてしまった花梨は、放心して、されるまま愛撫を受けていた。
「…そなたは、今日、あの武士と大豊神社に行っておったろう。」
淫らな神子は、肩で息をし、視線がいまだに定まらない。
「…二人だけで。」
どこか言葉に刺がある。
うっとりと余韻に浸っていた花梨が夢見心地から一気に引き戻された。
「…アクラム?」
アクラムの表情には、わずかばかりの悋気があった。
「もしかして?!」
表情を気取られまいと、仮面をつけたアクラムの体が遠のく。
「罰だ、その身、持て余すがいい…。」
そして、そのまま姿を消した。満たされないまま、花梨は月明かりの廃墟に残された。だが、満たされない体に反して、心はどこかあたたかい。妬いて…くれたのだろうか。
周囲を見回し、身を繕い、花梨はその場をあとにした。
壁紙提供:廃墟庭園様