眠りの瞬間
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ふと目が覚めて。
隣にぬくもりを感じた。
頭を起こしたら、熟睡している綺麗な顔があった。
情事の後の、軽い倦怠感はもう抜けている。
時計を見て、シャワーでも浴びようかと考えて、やめた。
遊汝はそのまま再び毛布の中に潜り込むと、目を閉じた。
あたたかい。
「お前にとってさぁ、俺ってなんなわけ?」
遊汝はそう樹に訊いたことがある。
しばらく考え込んで、返ってきたのは、
「・・・頼りになる人、かなぁ・・・」
どこか、樹らしい答えだった。
「じゃぁ、遊汝さんにとって、俺は?」
その時の樹の顔を思い出して、遊汝はひとりでに笑みをこぼした。
期待と不安をパレットの上で混ぜたような顔。
訊きたいような、訊きたくないような。
分かりやす過ぎ。
だから、苛めたくなる。
「あ?俺にとっての、お前?」
遊汝は含むように笑ってみせた。
「階段の手すり」
「・・・どういう意味?」
「急いでる時、邪魔。別になくても困らない」
何度か瞬きをして、樹は苦笑した。
「相変わらず、言うよね・・・」
「いつものことだろ。他に何を期待してたんだ?」
意地悪な笑い方。
それでも。
階段を踏み外した時、何に掴まるか。
長い上りの途中、疲れたら何に身体を預けるか。
「・・・樹」
「何?」
「おまえがバカで、俺は嬉しい」
言うと、樹はほんの少し考える仕草をして、
「・・・俺、そんなにバカかな・・・」
遊汝は思わず吹き出した。
「何、今更自問してんだよ。そういうとこがバカだっつってんだよ」
一緒にいると、
吸う、煙草の本数が減る。
それに気づいたのはいつだったか。
「おまえといると、楽だよ」
ベッドの中で、隣のあたたかさを感じながら、遊汝はそう心の中で呟いた。
本人の前では絶対に言いたくないけれど。
何もない時間を。
何も考えない時間を。
END
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あたしへのプレゼントってことで、ホントどうも有り難う!
イツユナだよ、イツユナ。
この「階段の手すり」って表現がまた上手いですよね。
思わず納得しちゃったもん。
本人の前では絶対言わない、っていうこの遊汝さんの意地っ張りぶりもステキ。
バカと言われて納得してるいっちゃんもステキ。(笑)
なんだかんだいって、頼りにしてるんだなぁ、お互いを。
すごい良い関係ですよね。
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