cuckoo
―――――――――――――――――――――――――ひどく泣き腫らした目をしてしがみついてくるから、振り解くなんて出来なかった。
震えている体を、僅かな隙間も許さないように抱き締める。
そうすることで、今更のように冷え切った直の体に気付いた。
驚いて、何かあったのかと問おうとするのを遮るように、直が呟く。
「真、ねえ、真と離れてる時に、世界が終わったらどうなるの」
「…そう簡単に、この世界は終わったりしないから大丈夫だよ」
「何でそう言い切れるの。何か起こったらどうするの?
もし…本当にもしだけど、地震とか、戦争が起こるかもしれないよ。
その時離れ離れだったら、もう二度と会えない――」
「直さん」
何かに憑かれたかのように言い募る直を抱き締める腕に、もう一度力を込めた。
少し苦しいかもしれない、それくらいの力を。
直の体が硬直し、そして段々と緊張が解けていくのを待って、ゆっくりと体を離す。
至近距離でその眼を覗き込んで、真はゆっくりと、言い聞かせるように云った。
「どうしたの。何でいきなり、そんなに不安になったの」
「怖いんだよ。急に、このままもう二度と会えなくなったらどうしようって思って…」
「俺は、ここに居るよ。傍に居る」
「でも…怖かった。真が帰って来るまで」
「うん。でもね、今はもう、一緒に居るでしょ。
そんなに不安なら、もう直さんから絶対に離れないよ」
「…本当?」
「本当」
不安そうな色の消えない眼に頷いて、そっと抱き寄せる。
未だ細かい震えの止まない、細くたよりない体。
自分が留守にしていた数時間の間、直はひとりきりで、
この不安定な体と心とを持て余していたのだろう。
「…おいで。とにかく、体暖めなきゃ」
「このままでいい」
「良くないよ。風邪引く」
顔を埋めたまま弱々しく抵抗する直を連れて、寝室に戻る。
エアコンをつけて、二人一緒に毛布にくるまって腰を下ろした。
すぐに体重を預けて寄り添ってきた直と、手を繋いで。
「まだ寒い?」
「…ちょっと」
「すぐ暖まるから」
「うん…」
そうしてそれきり、言葉を無くした。
エアコンの静かな作動音だけが聞こえる部屋で、
隣に居るひとの静かな息遣いを感じて。
カーテンを閉め忘れた窓から、暗い空を見ていた。
夜闇が、ぼんやりと白んで行くまで。
夜が明ける前の、微妙な時間帯。
黒から濃藍へ、そして紫へと空の色が変わり始める頃だ。
そろそろ夜も明けるだろう。
「…真」
「なに?」
「…何でもないけど」
「呼んだだけ?」
「うん」
小さく頷く直の輪郭が、明け方の仄かな光に浮かび上がる。
口唇をかるく噛んだその表情は、まだどこか不安げで。
「ここに居るよ」
何度目とも分からない言葉を繰り返す。
何時もの温かみを取り戻した直を抱いて、そっと目を閉じた。
俺は、いつ世界が終わっても良いように、ずっとあなたの傍に居るから。
いつか世界が終わってしまう時が来ても、こうして手を繋いで、抱き合って、
そのまま次の朝を待てば良い。
だからそんな不安そうな顔をしないで。
そんなに掠れた声で名前を呼ばないで。
俺のこの体も心も、全てあなたに出逢うために備えられたもの。
あなたに出逢うために、この全てを抱いて生まれてきた。
だから、終わる時も俺はあなたと一緒に居る。
約束するから、何時でも、何時までも、二人で居よう。
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小学生の時、学校行ってる間に地震が起きて、
自分や家族が死んだらどうしようとか、
家で火事が起きて家族が死んだらどうしようとか、
怖くて仕方ない時があったんですワ。
エレベーターに乗ってる時に事故ったら死ぬーとか思って、
マンションのエレベーター乗れなくなったり。
給食食べれなくなったのもその時期でした。
あれは一種の病気だったんでしょうかね。(ありえない)
君の描いた絵を見てネタを思い付き、
あの頃のそんな気持ちを思い出して書いた。
直さんはいいね、真さんが居てサ。お幸せに。(卑屈)
2001.0815. 雪緒