憧憬
―――――――――――――――――――――――――
憧れは
そのカタチを変えて、今も…
×××
あまり何の意識もなしに
遊汝を家に呼びつけた。
一緒に呑んで呑んで呑んで
バンドのこと、メンバーのこと
これからのこと、いっぱい話して
酔った勢いで
「ねぇ、今夜抱いてよ」
なんつったら
「あ、いいっすよ」
なんて言われて。
そのまま。
遊汝の細い腕は
あの人の細い腕に
どこか似ているような気がした
「遊汝、あの人・・・元気?」
「自分で会いにいけばいいじゃないスか」
「イジワルいな、お前」
最近全然見てない、あの人
俺が避けてるだけだけど
だって会ったら
この感情全てぶつけてしまいそうで
怖かったし
第一、向こうも俺の顔なんて
みたくないだろうし
なんて、後ろ向きな考え
いいんだ、根暗だから
なんで俺は今
憎いこの男の腕に抱かれていたんだ?
遊汝に罪がないのはわかってる
あの人が、遊汝を選んだだけのことだから
でも、この汚い感情を
あの人にぶつけたくはない
好き、だから
あの人のこと。
だから憎しみの矛先を遊汝にむけるのは
別におかしいことじゃないよね?
なんて、自分を正当化したりして
自分を守ってる
泣き出しそうな自分を
「ねぇ遊汝、誰も傷付かない方法ってなかったのかな?」
今にもトびそうな意識の中で
俺は呟く
「えぇ、ないですね。みんな誰かを犠牲にして生きてるンスから。」
こいつは嫌いじゃない
けど、憎い。
犠牲にされたのは俺?
それとも…
なんで、俺は今遊汝に抱かれてる?
あの人じゃなくて、何で遊汝に抱かれてる?
思い出せない
あ、そうだ
自分から抱いてくれって言ったんだっけ
酒のせいで忘れちゃったよ
いつからか
憧れは現実の彼方に置き去ってしまった
あの頃の思いが
思い出せない
何も思い出せないよ
「何考えてるンスか?」
うざったい、遊汝の声
「…お前のこと」
「またまた」
熱い遊汝の体温
あの人の冷たい皮膚とは違う
この体温をあの人は求めたのか
「ねぇ…俺ってあったかい?」
「何言ってんすか」
「あつい?」
「熱いっすよ」
俺の体温じゃダメだったんですか??
ねぇ
果てて寝付いてしまった遊汝。
遊汝の寝顔を見ながら思う
こいつをいっそ殺してしまえば
あの人はまた俺の元へかえってくるんじゃないか、とか
遊汝の細い首は
俺の手でも、絞め殺せそう
いっそ自分が死ぬっていうのはどうだろう
俺が死んだら
あの人は泣いてくれるだろうか
俺は幽霊になって
あの人のことを上から見下ろすんだ
でももし泣いてくれなかったら?
やめよ。
バカらし。
なんか意識がもうろうとしてきたよ
なんで
あ、さっきの酒のせいか
寝てずっと起きなかったらいいのに
なんて、ね
×××
何時間眠ったのだろう
目が覚めた時には、横に遊汝はいなかった
シーツを握りしめて
二日酔いの頭痛と戦う
「起きた?」
カイキ・・・さん?
なんで。
あまりに急な登場に
ボーっとする頭を
無理矢理起こした
「何でカイキさん…」
「なんかさ、朝遊汝から電話あってよ
『紺さんが倒れたーー!』なんつーから来てみりゃ
スースー寝てんじゃん、お前。
なんのいたずらだか知んねーけどよ」
「わざわざ来てくれたんですか」
「騙されてな」
それでも、起きるまでここにいてくれたんですか。
ぶっきらぼうな顔は、おきまりの照れ隠し。
「紺ちゃんが倒れたなんて
シャレになんねー嘘だよな」
いつもは「紺」って呼び捨てだけど
機嫌が良いと「紺ちゃん」って呼ぶんですよね
そういう時、俺はなんだか嬉しくて
「はいっ」なんて返事しちゃって
「元気いいのな」なんて返されちゃって。
夢みたい。
夢かな。
自分が今どんな顔しているか
鏡を見なくてもわかる。
「なんなんだよなー遊汝のやつ」
その名前が再度彼のクチから出て
ふと我に返る
そっか、今は自分のものじゃないんだ、この人は。
でも今は、束の間だけど
あなたの優しさにすがってもいいですよね?
自滅行為
でも…
「カイキさん」
「あ?」
「好きですよ、今でも」
「そっか。」
そのまま流れる穏やかな時
答えなんていらない
わかりきったことだから
憧れはそのカタチを変えて
今は愛情として俺の胸に宿る
俺は彼の答えを待たず、
ただ彼を思うだけ
end
―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――ずっとやりたいとは思ってて、温存してたんだけど、結局公開しちゃいました。
なんか文がつたなくて、伝わるもんも伝わらないっていう…。
紺ちゃんが恨み節ですよね…いいんだ、紺ちゃん根暗だから。(ダメ)
ネタ的には好きなんだけど、文章が…精進します。