ウサギの罪
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人は、その人が好きなものに、どことなく似ていることがあるという。
それにどの程度の根拠があるのかは分からないが、それは確かに、彼に関しては頷けることだ。
たとえば、ウサギ。
ウサギという生き物は、非常に寂しがりで、構ってやらないと死んでしまうらしい。
つまり、誰かが常に傍にいてやらないといけないということだ。
一人でいるのが苦手で、どこか放っておけない感じ。
ウサギのそんなところが、紺にどことなく似ている。
×××
久しぶりにできたオフの日。
普段なら一日中寝て過ごすこの日に、イスケと紺は、連れ立って買い物に出かけていた。
冬にしては暖かい気温の下、街の通りもそれなりの賑わいを見せている。
そんな中を、他愛ない話をしながら歩いていた二人だったが、ふいに紺が足を止めた。
「イスケ、ちょっと待ってて」
そう言って、道の脇の方に逸れていってしまう。
初めは紺の行動の意図が読めなかったイスケだったが、
紺の行く手を見てみれば、それはすぐに分かることだった。
「…なるほどね」
道の脇には、露店みたいなものがいくつか並んでいる。
その中に、白いもこもこのものが入ったケージが見えたのだ。
「紺ちゃん、ホントにウサギ好きだね」
足早に追いついて、からかうように言う。
けれど紺は、イスケの本意に気付いているのかいないのか、表情を微笑ませるばかりだ。
「久しぶりに見た」
「ウサギ、好きなの?」
小さな声で言って、ミニウサギのケージの前で膝を屈めた紺に、店番らしい女性が問うてくる。
思い思いに菜っ葉をかじったり眠ったりしているウサギたちから目を離さずに、紺は頷いた。
「小さい頃、家で飼ってて…可愛いですよね」
ケージの隙間に指を入れて、一匹のウサギの背をなぞりながら答えた紺の、少し照れたような笑顔と口調。
それらに触発されて、イスケは知らず知らず笑みを零す。
普段は血をベースにした凄惨なビジュアルでステージに立つ自分達だが、
こうしてプライベートに戻ってしまえば、普通の人間に過ぎない。
ウサギが好きで、家族思いで、人に優しいという性格の紺がたまらなく愛しいのも、
イスケという一人の人間の想いだ。
「今は飼ってないの?」
「ええ…仕事で家を空けることが多いものですから」
「寂しいわねえ」
女性と会話を交わしながら、紺は飽きることなくウサギたちを眺めている。
…紺がウサギ好きだというのは周知の事実。
そしてイスケも、そのことはよくよく知っている。
でも、こんなに表情を変えるほどに好きだということまでは知らなかった。
改めて、紺の内面を知り直したような気がする。
「…すみません、ありがとうございました」
「――あ、もういいの?」
「うん。行こう」
イスケが少し考えている間に、会話も終わったのか、紺は立ち上がった。
神経質なくらいの挨拶を残してその場を立ち去る紺を、イスケも追いかける。
去り際に振り返ると、店番の女性がにこにこと手を振ってくれた。
×××
「紺ちゃん、聞いてる?」
「聞いてるよ…」
「…そうかなー」
買い物を終わらせ、早めに戻ってきたイスケの部屋で、先程から幾度となく繰り返される会話。
いい加減に飽きてきて、イスケは紺との話を諦める。
と、紺の不安そうな瞳が追いかけてきた。
「あの…ホントに聞いてるよ、ちゃんと」
「別に怒ってるわけじゃないって。そんな顔されても困るよ」
「…………」
「紺ちゃん、そんなにウサギが恋しい?」
「…イスケぇ」
冗談で聞いたのに、紺はうまく返せなくて困っているようだ。
恨みを込めてイスケの名を呼び、溜息で口を閉ざしてしまう。
「…なんか…高知にいた頃のこと、思い出しちゃって。それだけなんだけど」
ややあっってから彼が言った言葉は細く、聞き取りにくい。
「…あー、」
ホームシック?
頷いて――続けて出そうになったそんな問いかけを、慌てて飲み込む。
紺は人の言葉に敏感な方だから。
もういい加減“大人”と呼べる年齢の男なのだから、そんな言葉は使われたくないだろうし。
そう思い直して、質問を変える。
「紺ちゃん、ウサギがいなきゃダメ?」
「だから、そうじゃないって」
そんなふうに問うと、僅かに苦笑して首を振る紺。
けれどどうやっても本心の隠しきれていない表情に、イスケは笑顔を返す。
「今は…俺がいるもんね?」
「えっ…」
イスケとしてはもちろん本気なのだけれど、冗談にも取れるように、分かりにくい口調で。
ちょっとずるい言葉だったのに、それさえ受け流せず、紺は視線をさまよわせた。
「な…まあ、そうだけど……でも…」
「それともウサギ買ってきてあげようか?」
「だからっ、いらないって」
イスケの冗談に、ようやくいつもの調子で笑う。
紺のその様子を見ながら、イスケはふと思った。
やっぱり、この人の傍には誰かがいてやらないと駄目らしい。
願わくば、それが自分でありますように。
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雪緒初の威介+紺ですーーっ!パチパチパチ
長い間温めてきたネタがやっと公開できました〜。
それにしても渋公中止…威介さん大丈夫なんでしょうか(心配)?
紺ちゃん…存分にISUKEを労わってあげてください。
<のち>―――――――――――――――――――――――――