【愛情の形】

最近、遊汝さんの俺を見る目が優しい。
ってゆか、何かと後ろから見守られてる。

それを確信づけたのは、橙ちゃんの一言で。
「・・・最近遊汝さん、零名のことばっか見てない?」
などということを、恨みがましそうに言われたのだった。
「俺もそう思うけど、全然嬉しくないし」
むしろ怖いっていうか。
「俺にはいっちゃんがいるしさー」
「零名ずるいよー」
「だから嬉しくないってばー」
こどもっぽい、泣きそうな顔になった橙ちゃんと、本気で嬉しくない俺。
遊汝さんはといえば、橙ちゃんがこんな風に気に病んでるのなんてまったくお構いなしに、
向こうでいっちゃんとぜっきーと話をしてる。
「遊汝さん、俺には全然優しくないのに・・・」
「俺も優しくされたことなんてないもん」
「零名に浮気してんのかなぁ・・・」
「えぇ?そんなん俺がやだよー」
「・・・ううー・・・」
「泣くなって」
遊汝さんを見つめたまま言葉を無くす橙ちゃんの頭を、
いっちゃんがいつもしてくれるように、ぽんぽん、ってやってあげる。
その時、遊汝さんがこっちに気付いて、俺らを指差した。
いっちゃんとゼッキーも振り向いて、何やら笑っている。
ちょっと耳を澄ますと、「微笑ましい」やら「かわいい」やら「かわいくない」やら
言ってるのが聞こえてきて。
「あの三人はいいよなー・・・」
「こっちの気も知らないでー・・・」
橙ちゃんと俺は同時に呟いたのだった。

 ×××

まぁ何だかんだ言っても、仲良しの橙ちゃんが傷心なのをほっとくわけにもいかず。
「ちょっと休憩してくるわ」
練習時間に俺は、そう言ってスタジオを抜け出した遊汝さんの後を追って、ドラムセットから離れた。
・・・橙ちゃんが(やっぱし不安そうな顔で)見てたような気がするけど、今はあえて気にするまい。
ってゆか、ゼッキーの視線のほうが怖かったし。

「遊汝さぁん」
「お、零名か。どした?」
「ちょっといいですか?」
「何だよ」
改まって聞くと、遊汝さんはおかしそうに目を細める。
ロビーのソファーに座った遊汝さんの隣に座って、ちょっと考えた後、単当直入に切り出すことにした。 
「最近、何で俺のこと見てるんですか?」
「・・・は?」
「いや、ほら、あの・・・何か、見てるような気がしたから」
思いっきり不審そうに聞き返されて、俺はしどろもどろになりながら答えた。
するとちょっとあってから、遊汝さんは、ああそれね、とか何とか言って。
「零名を見てると、子供を見守る父親みたいな気分になるんだよ」
冗談なんだか本気なんだか分からない口調で続ける。
「何ですかそれは・・・」
またからかわれてるのかと思って呟くと、くしゃくしゃと俺の頭を撫ぜて、遊汝さんはふっと笑った。
「樹が可愛がる気持ちもわかるなーって」
「からかわないでくださいよぅ」
「別にからかってる訳じゃなくて・・・」
タバコを取り出して火をつけ、遊汝さんはそこで言葉を区切る。
軽く吸って、煙を吐き出してから、改めて口を開いて。
「・・・俺には、好きな奴を素直に可愛がってやるなんてこと出来ないからな」
「・・・?」
「だから、樹とお前見てると・・・」
そこまで言ってきゅっと口を閉ざす遊汝さん。
その時、俺はふと思い出した。
橙ちゃんの前に、Sのボーカルやってた‘彼’のこと。
ちょっと暗い性格で、俺とはあんまし仲良くなかったけど、遊汝さんとはいつも一緒にいた。
遊汝さんもあの人も何も言わなかったけど、二人が付き合ってたんだろうなぁってことは、
俺でも何となく分かってた。
なのに、いきなりいなくなって、そのまま音信不通だとか。
「遊汝さん、それって・・・」
「これ以上は言わない。終わったことだしな」
「・・・・・・」
どうしようもなくなって、ただ俯く。
物言いと表情から、遊汝さんが誰を思って喋ってるのかが分かった気がして。
二人の間に何があったとか、そういう詳しいことは知らないし、こうして聞いてもわかんないけど、
やっぱり遊汝さんの言った「好きな奴」っていうのは、ミヤ君のことなんだろう。
もしかしたら、橙ちゃんも含まれてるかもしれない。

何となく気まずくなって、どう言いつくろおうかと思ってる俺に、遊汝さんはもう一度笑顔を向けてくれた。
今までのとは違う、やさしい笑い方で。
「お前は樹に大切にしてもらえよ」
「・・・うん」
「素直でよろしい」
こっくりと頷くと、遊汝さんはまた俺の頭を撫でてきた。
いつもはちょっと心外な子供扱いだけど、不思議とそれが心地良い。
「遊汝さん、これじゃおとうさんだよ」
「こんなでかいガキがいてたまるか!」
「あはははは」
いい意味で言ったのに、本気で嫌がる遊汝さんは、やっぱり遊汝さんで。
そんな遊汝さんには、遊汝さんなりの愛し方があって、
それはいっちゃんが俺を可愛がってくれるのとはまた違うやり方なんだろう。
きっとそれだから、俺たちを見ていると、ふっと笑ってしまう。
微笑ましい。
あるいは、羨ましい。
きっとそんな色んな思いがあって、遊汝さんは優しい目をするのかな。
そんな気がした。

 ×××

その日の帰り道、いっちゃんと一緒に歩きながら、俺は言ってみた。
「いっちゃん、俺のこと大切にしてね」
「は?」
何を今更。そう言いたげな口調で、いっちゃんは俺を見下ろしてくる。
「この上なく大切にしてるじゃないか」
「・・・うん」
さらっといっちゃんが言った言葉に、同意を込めて頷いた。
・・・うん。
心配されなくても、俺たちは大丈夫。
むしろ遊汝さんの方がよっぽど心配だったりする。
「遊汝さんも、橙ちゃんとゼッキー、大切にしてあげればいいのに」
俺が呟いた言葉に、いっちゃんは、何それ?と笑った。




<おわり>

 
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何なのかなぁ・・・これは・・・(苦笑)
あたし自身、何が言いたいのかよく分からない。
大体零名はこんなに色々考えないと思う。(爆)
「パパ遊汝」をテーマに、零名の一人称で書いていったら・・・というものです。
<雪緒>

かわいい零名とパパ遊汝をごちそうさま(微笑)。
そもそも何故「パパ遊汝」なのか?それというのもソレイユのイベント(Sがゲストの)
に行った友人からその日の夜、「張り切って告知をする零名を見る遊汝様の目が
授業参観に来ている父親の如しだったんだよ!!」と電話があったことに始まるのです。(笑)
そっから【零名の成長を見守る遊汝】というイメージが出来て・・・って感じで。
そして今度の岐阜文化センターのライブが『授業参観』でホントびっくりしました。
<のち>

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