同棲生活
―――――――――――――――――――――――――毎晩毎晩、懲りずに連綿と続くローテンポな会話を、いい加減うざったいと思う。
このところそんな日々が続いているのも、零名が電話をかけてくるからだ。
あまり賢いとは言えない零名の話を、樹はただ穏やかに聞いてやっている。
「ああー…うん。それで? …なるほどね、零名らしいよ」
(うるせぇよ)
「え? あ、うん、それはまぁ…遊汝さんだからさー。…あはははは」
(遊汝の話までしてんじゃねぇ!)
この二人の会話からでは、その内容までは聞き取ることは出来ないけれど、
やっぱり「零名らしい」とか「遊汝だから」というのが聞こえると気になる。
自覚こそ無いけれど、大関は樹と零名の仲の良さに嫉妬しているような節があって。
それに相俟って、毎晩繰り返されるこの会話が、一層神経に障るのだ。
「じゃあそろそろ切るけど…」
(やっとかよ…さっさと切れ)
そろそろ我慢も限界の大関は、言葉こそ悪いものの、樹の言葉にふっと怒りを解く。
けれど大関の希望通りに行かないのもまた、いつものこと。
「…え? 何? ああ、結局どうなった?」
零名が引き止めたのだろう、二人の会話はさらりと再開してしまう。
――普段からボケボケな零名と、聞き役の樹。
この二人に何をそんなに話すことがあると言うのか。
「…いい加減にしろーー!!」
「うわっ」
「お前いつまでもうるせーんだよ! いい加減に切りやがれ!!」
「ちょっ…何怒ってるんだよ?」
「うるせー、早く切れ! むしろ切るぞ!!」
「分かった! 切るから! 切るからちょっと待てって!!」
掴みかからんばかりの勢いで怒鳴ると、樹は本当に慌てた様子で答える。
携帯を耳に当てなおすと、今の聞こえただろ? なんて言って。
「そうそう、ゼッキーがうるさいとか言ってキレてるから…ああ、また明日な。おやすみ」
そう言って、樹はようやく携帯を手放した。
そうして、樹のベッドに陣取った大関に向かって微笑す。
「これでうるさくないっしょ?」
「お前の存在がうるさい」
「居候させてやってんのはこっちなのに…」
「つか、ゼッキー言うな。何様だお前」
「自分で言ったんだろ」
「うるせ、バカ」
「…おまえって、ホント口悪いよなー」
いじられ役(苛められ役)という自分のスタンスが地の性格になってきているのか、
いくら毒を吐いたところで、樹は苦笑して返すばかりだ。
「ま、いいや。明日も早いから俺寝るよ」
「あっそ」
「うるさくしてごめんな」
文句一つ言わず、床に敷いた布団に横になろうとする樹。
完璧に大関の八つ当たりだったのに、謝りさえするところが底抜けにお人好しだ。
そんなイジメ甲斐の無い姿を見ていると、――逆にちょっかいかけたくなるのが性ってもの。
「…樹ぃ」
「何? え? 大関!?」
微妙な体制で振り向いた樹を押し倒すのは簡単だった。
隙を狙って、肩を押え込む。
拍子抜けするくらい簡単に倒れ込んだ樹に、至近距離まで顔を近付けて。
唖然としてこちらを見つめる顔は、やっぱり美人だと思う。
「…いや…、何て言うか、下に両親いるんですけど」
「…………」
そうしてややあってからの返ってきたのは、あまりに的外れな言葉で、返せたのは溜息だけ。
樹らしいと言えば至極樹らしくもあり、天然といえば至極天然でもある、そんな反応が妙にツボだった。
「…ばーか」
「は?」
「お前なんか襲うわけねーだろ。さっさと寝ろ」
「…あはははは」
樹の上から退いて言い捨てると、やはり一瞬あってから彼は可笑しそうに笑った。
「そうだよなー。俺、なに本気に受け取ってたんだろ?」
なんて言って。
布団を直して寝ようとする樹を見やりながら、大関の思っていたことはひとつ。
(…当分こいつで遊んでやる)
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ゼキイツ夫妻第2弾!
やっぱねー樹弱!そしてほんのり大関哀れ。これに限りますな。
つか、ゼッキー可愛いですよね。いや、あのいっちゃんを好きなくせに苛めてるとことか、
遊汝&カイキ命なとことか、の割にこの頃橙ちゃんと仲良しなとことか。
樹さんとは2人で風呂に入ってる仲ですからね、これからももっと仲良くしてほしいです。
コメント by のち 2000.7.5
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