【此処でキスして。】

橙ちゃんとケンカした。

原因は、橙ちゃんが「零名はホントに樹くんが好きだよねー」なんて言い出したこと。
それに俺が「橙ちゃんだって遊汝さんと超仲良いじゃん」って言い返して、
お互い、「そっちほどベタベタしてない」「そっちほど甘えてない」とかいうことで言い合ってる内に、
何か知らないけどケンカになってた。
遊汝さんは「零名がムキになったのが悪い」なんて言うし、
大関くんは当たり前みたいに遊汝さんの味方するし・・・。

「・・・いーよ、俺ちょっと抜けるからっ」
その場にいるのがたまらなく嫌になって、俺はドラムの傍を離れた。
ドアを思いっきり乱暴に閉めて、スタジオを出る。
遊汝さんが怒った声で呼んでるのが聞こえたけど、そんなの無視。
・・・後が怖いとか、とりあえず考えないことにして。
ロビーまで来たところで、ソファーに座り込む。
いっちゃんは、さっきコンビニに行くとか言って出てったきり、まだ帰ってきてない。


そう。
そもそもの俺の不機嫌の原因はいっちゃん。
一緒に行くって言ったのに、「零名は練習してろ」とか言われて、それで不機嫌になって、
そしたら橙ちゃんに色々言われて、遊汝さん怒らせちゃうし・・・、ホント全部いっちゃんのせいなんだから。
「・・・いっちゃんのばかーっ」
八つ当たりだって分かってても、そんなことを言っちゃうあたり、やっぱり子供なのかも。
なんて思いもしたけど、やっぱ、むかつくもんはむかつく。
ホントは新曲のドラムも全然見てないから、ここはスタジオに戻るべきなんだろうけど。
でも戻ったところで気まずいし、謝るのも何か変だし。
かと言って謝んなかったら遊汝さんにはたかれることは目に見えてる。
でも、ずーっとここにいたところで、どうせ怒られるのには変わりないし。

「ううー・・・」
元はといえば、橙ちゃんとケンカしたのが悪いんであって・・・。
橙ちゃんも普段は仲良いんだけど、時々、ホントに時々、こうやって変なことでケンカになる。
我ながら困ったもんだ。


・・・とかあれこれ悩んでいる内に、いっちゃんがコンビニから帰ってきた。
すかさず立ち上がって、駆け寄って、そのままの勢いで抱き着く。
「おかえりっ」
「ただいま・・・っていうか、こんな所で何してるんだよ?休憩?」
「んーとね。橙ちゃんとケンカした」
当然聞かれるだろうと予想済みの質問。
正直に答えると、いっちゃんは、あーあ、って顔をした。
「それは・・・何でまた」
「だって橙ちゃんすぐからかってくるしー。遊汝さんは橙ちゃんの味方で、
しかも大関くんまで遊汝さんの味方すんだよ?」
「それなら零名は、俺にワガママ言えばいいじゃないか」
「・・・ぅわぁ」
俺の文句に、さらっとそんなことを言ういっちゃん。
思わず変な声を上げちゃったけど、実は結構スゴイ言葉に、顔が熱くなった。
いっちゃんは、ホント底抜けに優しいんだから。
てゅか、俺って甘やかされてる?って思う事もしばしば。

「ほら、今だけ何でも聞いてやるから」
俺の気持ちなんか気にしてないみたいで、いっちゃんはやっぱりさらっと言う。
「それじゃぁね」
ちょっと考えた末に、俺はこう答えた。
せっかくだから、甘えとこうと思って。
「ここでキスして」
「・・・・・・ここでぇ?」
俺の要求に、いっちゃんは露骨にイヤそうな顔と声で応える。
確かに「ここ」って言ったら、ロビーの真ん中だし、誰が見てるか、誰が通るかわかんない、かなり危険な場所。
でも初めにワガママならいっちゃんに言え、何でも聞いてやるから、って言い出したのはいっちゃんだもんね。
「してくれないんなら、俺だって橙ちゃんに謝んないもん」
「・・・ワガママ」
我ながらかなり子供っぽいことを言ったら、いっちゃんはそう苦笑した。
言い返す間もなく、顎に手を添えて軽く引き寄せられる。
ちょっと口唇がくっつくだけの、一瞬だけのキスで。
「ハイ、おしまい」
「・・・えーーーっっ」
「次は零名がちゃんと謝る番」
思いっきり不満な声を出したけど、いっちゃんは澄ましてそう言った。
「うぅ・・・分かったよぉ」
仕方なく頷く。笑いながらいっちゃんは俺の頭をぽんぽんと叩いた。
「簡単なことだろ。ごめんの一言で済むじゃないか」
「うん。まぁそうなんだけどさぁ・・・」
あんましケンカの理由がバカバカしすぎるんだよね。
なんて思って、自分で苦笑。
まぁだからこそ、簡単に謝れるという考え方もあるし。

「・・・ま、簡単な事だよね。うん」
「そうそう」
「あ、ちょっと待って」
スタジオのドアを開けようとするいっちゃんの手を押さえて、俺は言った。
「・・・もう一回」
思いっきり省略した言葉だったけど、それでもいっちゃんは分かってくれる。
仕方ないなぁとか何とか言いながらちょと身を屈めて。
三人からドア一枚を隔てただけの場所で、優しいキスをくれた。


そして。
橙ちゃんの言った「そっちほど甘えてない」
---すなわち「橙ちゃんは、俺がいっちゃんに甘えるほどは遊汝さんに甘えてない」
というのは正しいと身を持って知った俺は、
「橙ちゃん、ごめんね」
とあっさり謝ったのだった。




<おわりv>




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私の「砂吐くくらい甘々甘々甘々!!なヤツ」というリクに
応えてくれたのです☆さんきう〜〜!
いっちゃん頼もしいっすね。零名かわいいよ。
ほんと仲良いよねSの3バカトリオ、イツレイ+ダイ・・・(冗談・微笑)。 <のち>

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