最大多数の最大幸福
 〜普遍的利益という表現は最大多数の利益 あるいは全員の利益と普通に一致する〜

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「れーいーなっ」
「・・・うぇ?」

ぺちぺちとほっぺたを叩かれて、俺は目を覚ます。
目の前にあるのは、金色の細い髪---っていうか、広いおでこ。

「わーい、橙ちゃんだ〜」
「おっはよー」

何か無性に嬉しくて、橙ちゃんの首に抱きつくと、橙ちゃんも笑顔で言ってくれた。
橙ちゃんは、毎朝車で俺を迎えに来てくれる。
それだけじゃなくて、こうやって起こしてもらうこともしょちゅうだったりする。
俺が結構寝坊するから、勝手に入って来ていいよーって前にゆったんだ。

「ハイ、あと20分で支度するー」
「え、そんだけしかないのっ?」
「零名が寝坊するのが悪いんだろ」
「ひどいよー、もうちょっと早く来てよ」
「送り迎えしてやってるだけでもありがたいと思わないの?」

俺の文句に、橙ちゃんは笑う。

「それはすっごく感謝してるもーん」
言い返して、俺はベッドから跳び起きた。

橙ちゃんのスバラシイ運転のおかげで、結構余裕を持って事務所に到着。
(ちょっと怖かったけど、まぁ文句は言うまい)
集合場所になっている部屋のドアを開けると、まだ誰も来てないのか、
遊汝さんが銜えタバコのままソファーに座ってるのが見える。

「おはようございまーす」
「お、橙ちゃんと零名か。おはよ」
「おはよーございまーすっ」
「お前は毎朝元気でいいな」
始めに挨拶した橙ちゃんに、にっこりと笑う遊汝さん。
挨拶を返すと、遊汝さんはくしゃくしゃと俺の頭を撫でた。
そんな俺達の横で、恨みがましそうな顔をするのは橙ちゃんだ。

「・・・またそうやって零名ばっか可愛がってー」
「橙ちゃん、嫉妬?」
「嫉妬じゃないッスよー」
「ふーん?橙ちゃんも頭なでなでしてやろっか?」
「・・・いらないですー」
ちょっと意地悪そうな顔で聞く遊汝さんに、すっかり拗ねモードの橙ちゃん。
いつもこの調子のこの二人を見てるのも面白いんだけど。
「ねえねえ、いっちゃんは?」
「樹はまだ来てねえけど?」
「じゃあ俺、ちょっと見て来るね」
遊汝さんの言葉を聞いて、俺は部屋を出た。
いっちゃんを迎えに行くっていうのもそうだけど、たまにはあの二人も二人っきりにしてあげなきゃね。

「おい」
「ぎゃっ」
「・・・何なんだよ、その反応は!」
いきなし後ろから襟首を掴まれて、思わず変な悲鳴が出た。
慌てて振り返ると、不機嫌そうな顔で突っ立ってたのは、予想通り(って言うのかな?)大関くんだった。
「・・・ちょっとゼッキー、いきなし襟首掴むのやめてよー」
「お前がチョロチョロしてるから掴みたくなったんだよ」
「そんなこと言われたって、俺ネコじゃないのにー・・・」
「いや、お前は猫以下だ。ネズミでいいだろ」
「ひどーい!」
腕を組んで、不敵に廊下に立ちはだかる大関くん。
身長は同じくらいだし、年だってそんなに違わないのに、大関くんはいつも俺にちょっかいかけてくる。
しかもイジワルだし。

「・・・大関くんって俺のことキライでしょー」
「ああ、嫌い嫌いも大嫌い」
「・・・嫌い嫌いも好きの内?」
「・・・気色悪いこと言うな!」
「いったーい!何すんだよー!」
今度は前触れもなく頭をはたかれたし(泣)。
・・・大関くんって遊汝さんのことが大好きで、橙ちゃんとも仲良しで、
更に(悔しいことに)いっちゃんとは一緒に住んでるし、
こんな仕打ちされるの俺だけなんだよ?
でも、俺と大関くんがこうやってケンカ(?)する度に、遊汝さんといっちゃんは“やっぱ仲良いのな”なんて言う。
俺的には、ホントどこが?って感じなんだけどな・・・。

「とにかく!俺はいっちゃん迎えに行くんだから邪魔しないでよ!」
「お前なー、いつもいつもいっちゃんいっちゃんってうぜぇんだよ!」
「いいじゃんかー!」
「良くねえ!樹も迷惑してんだろ!」
「してないもん!何で大関くんにそんなの分かるんだよぉ」
「常識で考えりゃ分かるだろうが!」
「うるさーい、ゼッキーのくせにー!」
「ゼッキー言うな!おい、零名!」
この状況から逃げるべく廊下を走りだした俺を、大関くんの声だけが追いかけてくる。
ふんだ。
元陸上部だし、足の速さには自信あるんだからね。
・・・にしても、どうして大関くんって俺ばっか苛めるんだろ・・・?


「あ、いっちゃーん!」
事務所の建物を出たところで、向こうから歩いてくるいっちゃんの姿が見えた。
何だか嬉しくなって、俺は思わず両手を振ってしまう。
一瞬怪訝そうな顔をして動きを止めたいっちゃんだったけど、すぐに分かったのか、
早足でこっちに向かってきてくれた。

「今日は遅かったんだねー」
「え?でもまだ遅刻じゃないよな?」
「まだ大丈夫だと思うよ。そういえば大関くんと一緒に来なかったの?」
ふと思ったことを言うと、いっちゃんは溜息をつく。
「最近あいつ、俺を置いて先に出てくんだよな・・・」
「・・・それはなかなか大関くんらしいよね」
心なしかやつれたいっちゃんの言葉に、思わず納得してしまう俺。
だって大関くん、しょっちゅう遊汝さんと一緒にいっちゃんをイジメてるんだもん。

「でも、俺もさっきイジメられたよ?」
「大関に?」
「うん。後ろから襟首掴まれて、“チョロチョロすんな!”って怒られた」
「それはなかなか大関くんらしいよねー」
「真似しないでよー」
さっきの俺の言葉をそのまま繰り返すいっちゃん。
抗議すると、いっちゃんはいやいや、とか何とか言いながら笑った。
「それが大関なりのコミュニケーションなんだろ」
「あんまし嬉しくないよ・・・」
「でもイヤじゃないんだろ?」
「うん。・・・ほんとはちょっと楽しいんだけどね」
「それが一番だよ」
本心を言うと、いっちゃんはにっこりと笑った。
この穏やかさというか、人の好さがみんなにつつかれる原因でもあるんだけど、
やっぱりいっちゃんの笑顔は安心する。
こんな時---いっちゃんの笑顔が見れたっていうすごく些細なことでも、
いっちゃんのことが大好きだって実感するんだよね。
その度に、この気持ちを伝えなきゃ、って思って。

「でもね、俺はいっちゃんが一番スキだよ。大好きだよ」
「俺も零名がいちばん好きだよ」
俺の言葉に、いっちゃんはごくあっさりと返してくれた。
ともすれば軽すぎるようにも聞こえるけど、いっちゃんの言葉はいつもそう。
それに、“いっちゃんの一番好きな自分”を確信していられる大きな理由はもう一つあって。

「今日も一日がんばろうな」
そう言って、誰もいない廊下で、いっちゃんは俺のほっぺたにキスをくれた。
その小さな行為ひとつが、その“理由”なのだった。

「おはようございまーす」
「あ、樹くんおはよーっ」
「お前おせぇぞー」
「零名、樹から離れろ!」
「やだよー、俺はいっちゃんと一緒がいいんだもん」
俺達2人が部屋に入って5人になると、途端にうるさくなる。
大関くんに言い返しながら、俺は4人の顔を見回した。

橙ちゃん。

遊汝さん。

大関くん。

それに、いっちゃん。

こんなに優しい、おもしろい、そして大好きな大切なメンバーがいて、俺は倖せです。

 


<END>

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どうでしたか?私はこのSSすっごい好きなんですね。
そしてイツレイと思いきや、これはゼッキー→樹ですね(笑)。ユナダイも♪
いっちゃんがスキゆえにイジめ、零名をもイジめてしまうゼッキーが近頃可愛くてしょうがないです。
あなたには出逢えてよかったと心から思える仲間がいますか?<2000.05.29 のち>

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