egoiste
―――――――――――――――――――――――――予測していなかったことではないと云え、
初めはユニットをどうするかと云う話をしていたはずなのに、
いつのまにか又ただの呑みになっていて、
終いには何時も通り、紺の愚痴を聞く羽目になっていた。
「懲りずに苦しい恋愛続けてるんだねえ」
「ほんとだよー…もうやりきれないよ」
「止めりゃ良いのに」
「そんなん分かってるよ!」
「はいはい、怒らない」
酒が入ると途端にガラの悪くなる紺を宥めて、戒依は笑う。
これだけ酔っていても、紺は具体的に誰がどうとか云うことがない。
初めはそれだけ自制心が強いということなのかと思っていたし、
紺もそれを意図していたのだろうけれど、
付き合いが長くなれば相手の欠点も明け透けになってくるというもの。
今では、具体的なことを何一つ云わず、こっちから訊けば誤魔化すその姿勢は、
紺の妙なプライドの高さだということなんて、重々承知している。
「幾つになっても不安定なヤツー」
「…戒依には旦那が居るからそんなこと言えるんだろ」
「は?何?旦那?」
「鈴音さん」
「ああ…鈴音は確かに仲良いけどさー。
でもバサラ解散しちゃったし、俺だって別に倖せじゃないんだけど」
「でも両想いじゃん」
「女々しい!」
何かと反論のネタを見つけては細かく突いてくる紺に、一喝。
酒で潤んだ、それでいて恨みがましそうな眼をする紺の頭に手を伸ばし、
戒依はその紅い髪をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
「あのねぇ、紺がいくら悩もうが苦しもうがそれは紺の勝手だけど、
あんまり被害者ぶると可愛くないよ。
それと、威介や流維に失礼なことするのも止めなね」
「…何」
「自分の弱さとか、あいつらの好意を良い様に利用すんなって云ってんの」
「分かってるよ…」
「本当に?」
「うるさいな。何で戒依はそうやって容赦無いわけ?」
「はぁ」
容赦、ねぇ。
紺の吐いた言葉を口の中で反芻する。
まあ確かに、自分の物言いは容赦が無いかもしれない。
けれどそれだって、紺のため――否、そんなことを言うと偽善っぽくて吐き気がする。
むしろ自分のためだ。
確かに紺は、自身が誰よりも愛するひとに棄てられ、地獄も見てきたのだろう。
けれどここには紺を心から慕い、少しでも支えになりたいと陰に日向に努める者がいて、
紺はと言うと、彼らが差し出してくれる優しさを拒絶するような素振りを見せながら、
見えないところでは寄りかかっている。
紺を支えようとする彼らは、そんな弱さそのものに庇護欲を掻き立てられたり、
弱さを押して上を目指す姿に尊敬を抱いたりしているのだろう。
けれど、戒依は紺の、自分の甘えに気付いていないような部分は嫌いだった。
紺のことが好きだから、余計にそこが気になってしまうのだ。
「…俺は、おまえを嫌いになりたくないから言ってんだけどね」
「わかんない」
「だろうね。でも、敢えてもうひとつ言わせてもらうけどさ、
いつまであの人にこだわってるつもり?」
「もう…何でそうやって突っ込んでくるんだよ。
て言うか戒依には関係無いよ」
「もういい加減諦めろよ」
「だから、戒依にはわかんないよ」
「わかんないよ、当たり前だろ。でも、今のおまえの態度は良くない。
昔の人を追っかけて、縋って、それで悩んだり傷ついたりしてさ。
それで結局、おまえを慕ってくれる人まで傷つけて。
それって何か意味あんの?」
「意味なんか考えたことない」
「だろ?無意味なんだって」
「もう、戒依うるさいよ!鈴音さんのところに帰れ!」
追い詰めるように言い募れば、紺は子供の癇癪のように喚き散らす。
ビールの空き缶を投げつけてくるのを手で庇いながら、戒依は苦笑した。
酒の勢いもあるとは言え、普段は極力避ける話題を振られてここまで感情的になるのは、
戒依の言葉のひとつひとつが図星だったからだろう。
自分の甘えにも気付かず、すぐに凹んで浮上してこないような紺だから、
些か我侭なんじゃないかと思って心配に思っていたのだ。
けれど、これだけ怒れるのなら大丈夫。
指摘されて怒るというのは、相当に子供っぽい表現ではあるが、
自分の何処を恥じるべきなのかが分かっている証拠だから。
「分かった、悪かったって。言い過ぎた。ほら、ゲノの話しよう」
「しない。もうゲノやりたくないよ、おまえの毒舌には愛想が尽きた」
「だから悪かったって言ってんじゃん。
お詫びに今日はゲノの話無しでいいから、潰れるまで呑んどけ」
「え、いいの?戒依ぽん付き合ってくれんの?」
「付き合うよー、紺ぽん。あるだけ呑もうぜ」
「いいねー話が分かるね、戒依ぽん」
大分酔いが廻ってきたらしく、とろんとした眼を向けてくる紺に笑うと、
紺も、先程の癇癪からは考えられない笑顔を返してくる。
いくら毒舌でも辛口でも、今のように戒依が引き際を心得ているから、
こんな付き合いが続いているのだ。
それに、呑み潰れて次の朝になってしまえば、
二人とも今夜のやりとりはなかったかのように普通に振る舞うのだし。
――こういう相手こそ、悪友と呼ぶんだろうか。
親しみを込めて、反語的に言う「親友」。
自分にとってのそれは、正に紺かもしれない。
そんなことを思いながら、戒依は新しい缶ビールを手に取った。
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や、あの、紺さん好きだよ?(何)
何か、紺さんって不幸そうだし、実際痛々しいけど、
いっさんやらキャーミーやら色んな人に慕われてるわけで。
(妄想なのか現実なのか自分でも良く分からんが。)
でも誰かに慕われてるっていうのは倖せなことだと思うのよ。
そこでその倖せに気付かないで、自分の不幸だけしか見れなければ、
いずれ自滅してしまいそうじゃない?
戒依さんは紺さんを傷つけるの承知で、敢えてそれにブレーキをかけてる感じ。
戒依さんって紺さんの面倒見係って言うか、紺さんの上を行ける唯一の人だと思って。
熟年夫婦で、時には親子みたいな。更に或る時は子供同士。
勘違いも甚だしい。(苦)
このSS読む限りだと、紺さんも戒依さんもエゴイストだよね。
だから題名をegoisteにしたんだけど、
自分にはネーミングセンスが無いと気付きました。イタタ。
て言うか、終わり方が気に入らない。(笑)
2001.0824.雪緒
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友達ってさ、いくら言い過ぎても許してくれるだろうっていう甘えがあるから、
ついつい辛くあたっちゃったり、本音でぶつかっちゃったりするんだよね。
紺ちゃんもさ、戒依ぽんにはかなり甘えてるんじゃないかな。
でもこの戒依の考え方は筋が通っててかっこいいっす。
なんかgenoって感じだよー!精算日記だよ。(笑)
こんだけ言うこと言っても、壊れない関係。悪友っていいよね。
のち