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「京くん…」

言葉が出なかった。
痛々しい姿で泣きじゃくるこの人を前に、僕は何を言っていいかも分からない。
切れた口唇と、赤く腫れた頬。
冷やしたタオルを当ててあげながら、不器用な言葉で宥める。
ねえ、どうしたの?一体何があったの?

…誰にやられたの?

聞いちゃいけない気がして、ただ、大丈夫だよ、と繰り返す。
自分の不器用さに苛立ちながら、でもそうすることしかできずに、どれくらい経っただろう。

 「薫くん…が…っ……」
一言だけそう言って、京くんは僕にしがみついてきた。
がたがたと震える手で、僕の体を掴んで離さない。
…その一言で、全てが分かった。


×××



「…ごめんな。迷惑…やったやろ」
ようやく落ち着いたのか、京くんはぽつりぽつりと話し始める。
「ううん。それより大丈夫? 痛くない?」
「さっきよりマシになった。…トシヤのおかげや」
うっすらと笑って答える。
そのまま口を閉ざした京くんに、僕は何も聞けない。
…それに、詳しく聞かなくても、何があったかは分かったから。

「あのな…」
それからまたしばらくあってから、京くんは言葉をつなげる。
俯いた表情は見えなかったけど、声が震えてた。
思わずその細い肩を抱きしめると、顔を上げて僕を見つめてくる。
潤んだ目で。
「…こうやってな…トシヤに、抱き締めてもらえたらって……それしか、考えられへんかった」
そう呟いて、京くんは悲しそうに微笑った。
あからさまな自嘲に、僕の胸まで締め付けられるような感覚を覚える。
返す言葉は、ひとつしか思いつかなかった。

「…僕でいいなら、いくらでも抱いててあげるよ」


×××



そして京くんは僕のうちで暮らすようになった。
でも時々、何かを思い出すみたいに、ぼんやりしてることがある。
ほら。
窓際に佇んだ京くん。
ガラス窓を通して、どこか違うところを見てるよね。
そんな姿は、僕の心の闇を呼び覚ます。自分でも嫌なくらい、疑心暗鬼になる。
本当は薫くんのところに帰りたいんじゃないの?
僕は薫くんの代わりじゃないの?
…いつまでこんな思いに囚われてるんだろう。
京くんは、僕のことが好きだって言ってくれてるのに。
こんなに信頼してくれて、僕でいいって言ってくれてるのに…。

「…帰らなくていいの?」
それでも、口から出るのはそんな言葉。
「帰るって…うちに?」
「薫くんのところだよ」
「…………」
「帰りたいんじゃないの?」
感情任せにそんな言葉をぶつけてしまって――それから後悔した。
言葉を失った京くんの表情。
その眼に、絶望に近い悲しみが過ぎる。

「だから…トシヤが好きやってゆうとるやん」
それでも京くんは、穏やかなほどの笑顔で僕をまっすぐに見つめて答えた。
でも、本当は泣きそうなのを必死に堪えてるのが、痛いくらいに伝わってくる。
…僕の言葉はいつも彼を傷つける。
京くんが傷ついてることは僕が一番よく知ってるのに、
僕はいつまでも懐疑的で、憂鬱で、思いやりの言葉一つかけてあげられない。
…こんな僕、消えてしまえればいいのに。

「…ごめん……」
何とか絞り出した謝罪の言葉も、聞こえているかどうか分からない。
気まずい雰囲気に耐え兼ねて、僕はその場を後にした。
京くんの視線が追いかけてくる。
でも、それに応えることができなかった。
自分をコントロールできない。

助けて…。


×××



僕はずっと、京くんのことが好きだった。
でも、京くんが愛したのは薫くん。
だから自分の思いを閉じ込めてきた。
メンバーとしての“好き”だと思おうとしてきた。
そうやってずっとずっと苦しんできたのに、こうして京くんが僕を頼ってきてくれた時には、
優しくする事すらできないなんて。
これは、嘘を吐き続けた僕への罰なの?

京くん。
京くんは、本当にこんな僕でいいの?
いつも傷つけて、泣かせて、悲しませてるのに?
…こんな僕、殺してしまってもいいんだよ?

京くん。
僕はきっと、ずっとこのままだよ。
こんな僕の傍で、京くんは、京くんらしくいられるの?
…こんな僕、殺してしまってもいいんだよ?

…でも、それは、僕の偽善に過ぎない。
京くんが愛しくて、そんなことは言えない。
京くんから離れたくない。
京くんを離したくない。
こんな僕の我侭を、あなたは許してくれるの?






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モシモ君ガ僕デイイナラ

君がもしも・・・・・悲しいのなら
この僕を殺せれば優しい事なのに
君がいとしくてできない

君の心臓の中でいつまでも懐疑的な憂鬱の僕
もうこんな僕なんて死ねばいいのに

助けて…

思いやりの言葉一つでも自分が邪魔して口からでないから
こんな僕なんて死ねばいいのに・・・・・

苦しみから逃れる為にいつも別の事のように
置き換えていた 嘘をついて

もしも君が僕でいいのなら
君がもしも悲しいのなら
この僕を殺せれば優しい事なのに
君がいとしくてできない

体の中を掻き回され
それでも君は笑顔で答えて
また 涙を隠して

もしも君が僕でいいのなら
君がもしも悲しいのなら
この僕を殺せれば優しい事なのに
君がいとしくてできない

僕が僕でこれからもあるのなら
君が君である事ができるの?
この僕を殺せれば優しい事なのに
君がいとしくてできない

(作詞:紺 作曲:SIN from:結界〜ガラス神経ト自我境界〜 /La'Mule)

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雪緒曰く「意外と安産だった」この作品、「妄想通信」から生まれたんですよ〜。
とっち×京にこんなにもはまるとは思わなかったよ・・・。

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