ワガママ
―――――――――――――――――――――――――不機嫌そうな顔でやってくると、何にも言わずに人の部屋に上がり込んで、ベッドに座り込む。
いい加減慣れたとは言っても、シンヤはいっつも唐突で。
「…またダイくんとケンカしたんでしょ」
とりあえず――って言うか、仕方なく、僕はシンヤに聞いた。
聞くまでもなく、この人が不機嫌な時なんて、ダイくんがらみの時しかありえないんだけどね。
いわく、「ダイくんがうるさい」(いろいろ注意されるという意味らしい)。
その次に多いのが、「ダイくんが京くんばっかかまってる」。
そうじゃなかったら、「ダイくんが薫くんと絡んだ」。
…そんなのばっかり。
だから僕は、こんなワガママお姫様(しかもお子様)なシンヤのお守りをするダイくんが、
ホントにすごいなって時々思っちゃうんだよね。
「僕だって疲れてるのに、いつもそういう時に押しかけてくるんだからー」
「だったら寝たらええやん」
「…人のベッド占領しといてそれはないんじゃない?」
ちょっと意地悪を言ってみたら、物ともせずに言い返された。
何とかこっちも言い返してみるけど、そんなのがシンヤに通用するはずもなくて。
「帰れって言うとるの?」
「…それ、逆ギレって言うんですけど…」
シンヤらしい返し方に、思わず苦笑してしまう。
僕はいちばんシンヤと年が近いし、同じパート同士、話をすることも多いから、
自然と僕が、このワガママの餌食になってるんだと思う。
でも、毎回、今日はどんなテでダイくんとのところに送り返そうって悩む方の身にもなってもらいたいよ。
「あのさぁ、シンヤ」
「何や」
「ダイくんって、すっっごーく、優しいと思うよ?」
「…それが何?」
一語一語区切って、「すごく」を思いっきり強調して言ったら、シンヤはやっとこっちを向いた。
クッションを抱きしめて不貞腐れる顔が、妙にシンヤに似合ってて何だかカワイイ。
ダイくん、この顔に弱いんだろうなぁ…なんて考えてたら、
「なに人の顔見つめてんねや」
と言われてしまった。
我に返って、説き伏せモードに入る。
「シンヤのワガママをあんなに聞いてくれる人なんて、ダイくんしかいないよって事」
「…僕、ワガママやないもん」
「分かってないトコがお子様だって言うの」
「子供やない!」
「そうやってすぐ怒るの自体、子供な証拠だろ?
何があったのか知らないけど、どうせシンヤが勝手に飛び出してきたんだろうから、さっさと行って謝ってきなさい」
「…………」
いつもとはやり方をちょっと変えて、断定口調で言う。
反論できないところを見ると、強ち自覚がないわけでもないらしい。
そうして、ちょっとの間シンヤは迷ってるみたいだったけど、やっと立ち上がった。
着たままだったコートを直して、僕に一言、
「…トシヤなんかキライや」
そう言い残して出て行こうとする。
それもいつものことだから、僕も特に気にしなくて。
「いい加減素直になりなよー」
そんな言葉をかけると、シンヤは玄関のところで振り返って、子供みたいに言った。
「大きなお世話やもん」
「はいはい。じゃーねー、ダイくんによろしく」
ひらひらと手を振ると、悔しそうに唇を噛んで出て行くシンヤ。
本人は一言も言わなかったけど、今の様子から言ったら、ほぼ確実にダイくんのところに行くつもりなんだろう。
あのシンヤが素直に謝るはずなんてないけど、それは僕が心配しても仕方ないし。
何より、あの二人のことだから、どうせ明日にはまたいつも通りに冗談交じりで口喧嘩してるに違いない。
「…さ、お風呂入ろうっと」
シンヤに出してやったコーヒーのカップを片づけながら、僕は呟いた。
to be continued×××
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