Calling
―――――――――――――――――――――――――
電話ひとつかけるのにも、自分で驚くくらいに勇気が要る。
今かけても大丈夫かな?
疲れて寝てるんじゃない?
…迷惑だったりしないよね。
そんな、自意識過剰くらいの悩みがつきまとう。
そうしてちょっと悩んだ末に、ひとつ深い息をついてから、相手の番号を検索して。
『はい』
たった3回くらいの呼び出し音で出てくれる彼。
嬉しいのだけれど、心構えができていなくて、初めの言葉に詰まってしまう。
こんな片想いを続けている以上、心構えなんて、いつまで経ってもできないのかもしれないけれど。
「あ、タケオくん? 起きてた?」
『うん、今帰ってきたばっか』
「そうなんだ。ごめんね」
帰ってきたばかりなら多少なりとも疲れているはずなのに、それを全く感じさせずに、彼は答える。
そんなタケオに思わず謝ってしまってから、アイジは自分の神経質さに苦笑した。
『何謝ってんだよ。アイジが電話かけてくるなんて珍しいことでもあるまいし』
「まあね。そうなんだけど」
そう。電話依存症一歩手前のアイジが電話をかけるなんて、確かに珍しいことじゃない。
でも、こんなにドキドキしながらかけるなんて、本当に久しぶりだ。
ずっと忘れていたこの感覚。
『どうかした?』
「うーん…ただ何となく」
『“何となく”寂しいだけ?』
「からかうなよー」
『いや、アイジのことだから、まーた一人が寂しいとか言い出すんじゃないかと思ってさ』
笑いを含んだ声で言ってくるタケオに言い返してみるけれど、すっかり見抜かれている。
でも、彼は気付いていない。
“何となく”はただの言い訳で、“一人が寂しい”もただの建前にすぎないこと。
全部タケオに電話するための口実。
声が聴きたい。
その声で紡がれる言葉が欲しい。
叶うことなら、好きって言って。
でもそんなことは言い出せずに、今日もまた、他愛ない会話で夜が過ぎていく。
×××
『じゃあまあ、疲れてるだろうし、ゆっくり寝ろよ』
会話が途切れて、すこしの沈黙の後で、タケオはそう言った。
時計を見ると、既に30分近い時が流れている。
特に長いと思うほどの時間でもないけれど、明日も仕事があることを考えれば、
これくらいで切り上げるのが妥当かもしれない。
「…うん。そうする」
『ああ、おやすみ』
短い沈黙を含ませて答えたアイジに、タケオの優しい口調が返ってきた。
(…このまま、何か言ったら)
…もうちょっとだけ、会話を長引かせられる。
でも、あんまり長く付き合わせて、タケオの迷惑になるのは、いちばん嫌だから。
「おやすみ…」
呟くように、囁くように言って、携帯から耳を離す。
オフのボタンを押して、枕元に放り投げると、アイジはベッドに身を投げ出した。
枕を抱いてぎゅっと目を閉じる。
耳の奥に残るのは、タケオの低くて甘い声。
その声で、アイジのために発してくれた言葉をひとつひとつ思い出して、そうして胸の痛みに気付く。
大好きな人は傍にいて、声をかけてくれて、ほんの少しの間なら、独占することもできる。
それでも、苦しい。せつない。
こんな感情、とっくの昔に置き去りにしてきたと思っていた。
それどころか、存在すら否定しかけていた。
(誰だよ…片想いが楽しいなんて言った奴)
自分のことをどれくらい好きなのかとか、誰かに盗られないかとか、溜まってゆくのは不安ばかり。
彼がこの想いに気付いてくれるのと、自分が耐えられなくなって告げてしまうのと、どっちが先だろう?
その答えも結果も分からないけれど、ただ思うのは、
また明日も彼に電話をかけるだろうということ。
素直に告げられない想いなら、せめてその欠片でも伝わるように。
そして、大好きな彼の声を聞いていたいから。
.:+.. *..+. :..+ .:.+.:. * .:+..::.*.. .:+.. *..+. :..+ .:.+.:+.. *..+. :..+ .:.+.:. * .:+..::.*.. .:+.. *..+. :..+ .:.+雪緒さんPCぶっ壊れご臨終記念です(苦笑)。
やっぱねーアイジといえば携帯電話でしょう。彼はすごいらしいですね。
自分でも言ってたけど寂しがりやなんでしょうね。
そんなアイジ君・・・TAKEO兄さんとお幸せにネ!
BACK