終の空
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ちょうど一年前、俺の恋人が死んだ。
だから、今日はその一回忌だ。
あの日と同じように、曇りのない青空は抜けるように高い。
握り締めた手の冷たさを覚えてる。
痩せて骨の浮いた背中と、乾いて荒れた口唇の感触。
一日中寝たきりで過ごす事が多くなっていた。
身動きすら辛そうな中、激しく咳込む事が多くなっていた。
そんな時、ただ傍にいて、背中をさすることしかできなかった俺に、
彼は苦痛の涙で潤む眼で笑いかけてくれた。
そうして最期に、力の入らない腕で抱き締めて、キスをして、
――俺の前以外じゃ、泣くなよ…。
…彼の記憶はそこで途切れる。
俺の中の彼は、いつまでもあの姿のままだ。
×××
「元気にしてるかなぁ」
「え?」
窓に張りついたまま、 ぼんやりと呟く。
周りに聞こえないように、ただの独り言として言ったつもりだったのに、
静まり返った部屋には思いのほか大きく響いたみたいだ。
それを聞きつけたらしく、メンバーたちが集まってくる。
彼らは俺の傍に佇んで、同じように空を見上げた。
(…ああ、)
目の前のガラス窓に映るのは、四人だけ。
…一人足りない。
いつも俺の隣にいた彼がいない。
そんな現実を突きつけられてからもう一年にもなるのに、俺はまだ、自分の傍に彼を求めてる。
彼の声。彼の笑顔。細長い指と、抱き締めてくれる腕と、暖かい胸と、何よりもその体温。
俺が唯一、心から帰りたいと願う場所を。
「潤…」
「分かってるよ。ただ、あっちで元気にやってるといいなぁ…って思って」
心配そうに呼ばれて、俺は笑ってみせた。空を指差して。
本当は、泣きたい。
でも、今は泣いちゃいけない。
俺が泣いていい場所は、この空の上にしかないから。
「…分かってる、大丈夫。絶対元気にやってるよ」
かける言葉が見つからないらしい三人に、俺はそう言ってもう一度笑いかけた。
ほっとしたように、三人の表情が緩む。
そんな様子から、俺を心配していたんだろう事が痛いくらいに伝わってきて、
嬉しいのと同時に、すこし胸が痛くなった。
…そう。
いつまでもこの世界に、泣く場所を求めてるわけにはいかない。
いつか帰る空では、彼が待っているんだから。
だから俺は、この空の下では、彼がいなくても自分の道を歩いていかなきゃ。
すべてが終える、この青い空の下…
end
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>>あとがき最初は京受けで書いてたそうです。
でも最後青い空の下・・・という言葉が出てきて慌てて潤受けにしたらしい(笑)。
さぁこの潤じゅんの相手は誰でしょーっかっ?
私はやっぱあの人として読んだけど、みなさんはどうですか?
(のち)
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