精神安定剤 sample1
―――――――――――――――――――――――――
夕食を済ませて、シャワーも済ませて、
適当にTVのニュースを見ながら他愛のない話をして。
そろそろ寝ようかと電気を消した部屋、電化製品の稼動音が聞こえる中で、キリトは唐突にこう言った。
「…最近、悪夢しか見ないんだよな」
「あくむ?」
「夢見が悪いって言うか…寝てんのか寝てないのか分からなくてさ」
「そりゃ大変だね」
「大変なんだよ」
いつも不思議なことを言い出すキリトだから、タケオも軽く返してみる。
けれど、キリトは本当に参っている様子で、疲労の見え隠れする声でそう反復した。
滅多に見られないキリトの姿に、タケオは閉じていた目を開ける。
「…そんな深刻な話?」
「そうでもなきゃ話さないだろ」
「それで…俺にどうしろと?」
真剣に話を聞くつもりではあるのだけれど、眠気も手伝って、ついそんな言葉を返してしまう。
すると、ばさり、と音がして、キリトが起き上がったのが分かった。
「キリト――」
怒った?
そう問う間もなく――と言うか、そう問うよりも先に布団がめくられて、キリトが滑り込んでくる。
特に大きくはないベッドだから、男二人というのはやや狭苦しい。
けれど、身を寄せてくるキリトにはそんなことも言えなくて、ただ軽く抱き寄せてやる。
「キリトがこんな甘えるなんて珍しいよなぁ?」
「うるさい、ドラム」
「ドラム…って」
こっちが揶揄うつもりで言ったのに、独特な言葉のセンスに思わず笑ってしまった。
同時に、キリトにそれだけの気力が残っているということにも少し安心する。
「オマエが傍にいると何か安心するんだよっ」
笑っているタケオにむきになったみたいに言ってくるキリトの表情。
ようやく闇に慣れた目に映ってきたそれは、普段は絶対に見られない種類のものだから、
いつもの「お父さん」な部分が出てきてしまう。
せっかくこうして頼ってくれるんなら、応えてあげようじゃないか
――みたいな思い。
そうして、微笑んで言った。
「じゃ、今日は悪夢見ないで済むように、一緒に寝ますか」
BACK