タイトル   明日への道

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◆序

◆ 1章≪15歳まで、あと10日≫

◆ 2章≪15歳まで、あと9日≫

◆ 3章≪15歳まで、あと8日≫

◆ 4章≪15歳まで、あと7日≫

◆ 5章≪15歳まで、あと6日≫

◆ 6章≪15歳まで、あと5日≫

◆ 7章≪15歳まで、あと4日≫

◆ 8章≪15歳まで、あと3日≫

◆ 9章≪15歳まで、あと2日≫

NEW UP DATE 2001/03/23
◆10章≪15歳まで、あと1日≫
◆終章≪誕生日≫
◆あとがき



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◆ 序
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アタシは15歳に成る前に死のうと思う。
何故なら世の中がツマラナイから。
今はまだ親の庇護の元生きているから深刻さは無いけど
それでも、自由がない。金がない。そしてぬくもりがない。
だれもアタシを助けてくれない。
やはり死んだほうが良いと思う。

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◆ 1章≪15歳まで、あと10日≫
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アタシは存在が希薄。
たとえアタシが死んでも気づく人は稀だと思う。
クラスでは居ても居なくても同じ人物。
家では、アタシの行動を父親も母親もしらんぷり。
綺麗な顔でも、スポーツができるわけでも、勉強ができるわけでも、
みんなを笑わせる事が出きるわけでもない。
かといって、注目を浴びるほどの運動音痴でも、不細工な顔でも、馬鹿でもない。
とにかく普通なのだ。
辺り障りのない、空気みたいなアタシ。
多分、アタシの一生は、平凡に生きて平凡に歳を取り、平凡な男と結婚して、
平凡な子を産み、やがて平凡な死を迎えるのだろう。
それも悪くないのかもしれない。
でも、嫌だ。もう退屈。もう我慢できない。
だからアタシは、15歳の誕生日の前日、死ぬのだ。
でも、どうやって死のう?

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◆ 2章≪15歳まで、あと9日≫
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アタシは一晩かけて、どの方法で死ぬか、考えてみた。
まずは首吊り。
ポピュラーな死に方だけど、死んだ後、オシッコや・・・排泄物なんかが出てくるらしい。
一応アタシも女の子なので、やはり綺麗に死にたい。みっともないのは嫌だ。
次に、飛び降り。
確実に死ねる高さからなら、まず生き残る事のない死に方。
だけどこれもアタシの体が無残な屍を晒す事になる。
飛び出した血や脳漿を見て、野次馬どもはなんと思うだろうか?
やはりこれも綺麗じゃない。
入水もダメだ。
すぐに死体を見つけてもらえれば良いが、長く水の中でほっとかれると
体にガスが溜まりパンパンに膨れ上がるらしい。
これも醜い。
ガス。
都市ガスは、中毒をおこす物ではないそうだ。
爆発を起こせば死ねるだろうけれど、まわりの人を巻き込むつもりはない。
これもダメだ。
睡眠薬・・・どうやって手に入れれば良いのか分からない。
毒・・・苦しそう。
餓死・・・これも苦しそうだ。
あぁ、そうだ。何故初めに気がつかなかったんだろう。
手首を切ろう。
すぐに見つけられては、助かってしまうかもしれないが
確実に死ねるくらいの時間を稼げるところでやればいいだろう。
もちろん腐乱する前に見付けてもらえる様にしなければ、これを選んだ意味がないけれど
幸い、アタシの誕生日は12月25日。
この時期は、そう簡単に腐ったりはしないと思う。
次はどこで死ぬかだ。

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◆ 3章≪15歳まで、あと8日≫
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どこで死ぬか、アタシは一晩かけて考えた。
死んでしまう前に見つかってしまうのはマズイ。
早過ぎる発見は自殺の失敗を意味するからだ。
かといって、いつまでも発見されないのも良くない。
死体が腐って醜い姿を晒すのは嫌だし、ましてや白骨化してしまったり
野犬に食い荒らされるのもゴメンだ。
女性として綺麗に死にたいのだ。
あまり人の来ない夜の公園はどうだろう?
翌朝、ジョギングの人でもいるような所なら、上手い具合に見つけてもらえるかもしれない。
しかし、夜の人気の無い公園などケダモノのような男がいたらアタシは襲われてしまうかもしれない。
あくまでも綺麗に死にたいのでそういう事態は望ましくない。
自分の部屋は、どうだろう?
上手い具合に世間はクリスマスイブ。
そして忙しい年末。
そう簡単には親も仕事から帰れないのではないだろうか?
いや、もし万が一帰ってきたら・・・いや、ひょっとしたら休みだという事もありうる。
アタシは父親や母親とは普段の会話が無い。
彼らの予定は分からないのだ。あやふやであるのなら止しておこう。
学校は、どうだろう?いや、まず鍵が無い・・・?
24日と言えば終業式だ。隠れる様にして夜まで待てば一人になれるのではないだろうか?
うん。これは上手く行きそうだ。
だが問題は、いつアタシの死体を見つけてもらうかだ。
24日で、終業式だという事はその次の日からは学校には誰も、
少なくとも生徒は来ないという事ではないだろうか?
あぁ、そうだ。おそらく、クラブ活動の生徒は来るだろう。
よし、これは事前に調べておこう。
部室の方へ行けば誰か同じクラスの女子がいるだろう。

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◆ 4章≪15歳まで、あと7日≫
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運動部の部室の近くにアタシは、来ている。
誰か見知った人はいないか見まわしていると、アタシに視線を向ける人がいた。
誰だか知らないけど、どうやらサッカー部の人らしい。
アタシをじっと見ている、男の子。なんのつもりなんだろう?
アタシは気味が悪くなり、立ち去ろうとした。
「高田さん。高田さんよね。1年の時同じクラスだった。」
そう言ってアタシに話し掛けて来たのは、1年生の時に同じクラスだった桜川香織だった。
彼女は美人で頭が良く、クラスの中心的人物でアタシみたいなのとはとは雲泥の差の持ち主。
そんな彼女からまさか呼び止められるとは思わなかった。
目立たず地味に過ごして来たから、アタシが同じクラスだった事を覚えてる人も少ない。
さすがに成績優秀な人は違うものだなとか思いながら、アタシは彼女に返事をした。
「そうです、桜川さん。」
「ヤダ、敬語なんてよしてよ。同い年でしょ。」
「うん。そうだね。なんか緊張しちゃって。」
「ところでどうしたの?こんな所で会うなんて、珍しいわね。」
確かに珍しい。アタシは進んで何かを行動する事など無かったからクラブ活動もしてなかった。
だから、運動部の部室など近寄った事も無い。今回が初めてだ。
「うん。なんとなく足が向いちゃって・・・。」
アタシは無難に、それらしく聞こえる答えを返した。
「ふ〜ん。まぁ、そういう事ってあるわね。」
なんだか探る様に、視線を向けながら、とりあえず納得してやるとでも言う感じの態度を彼女はとった。
なんだかアタシには嫌な感じに見えたのだ。被害妄想かもしれないけど。
「アタシはね〜、彼氏待ってんの。」
アタシは別にそんな事を聞いてはいないのに、彼女はワザワザ親切に教えてくれた。
「サッカー部のねぇ、中村竜威くん。カッコイイのよー。」
「サッカー部?」
「そうよ。ほら、あの人。」
そう言って彼女は目的の人物をアタシに教える為、その人物を指で指し示した。
その細く可愛らしい指の指し示す方向には、先ほどアタシをじっと見ていた人物がいた。
「ね、カッコイイでしょ。」
「・・・そうね。かっこいいよ。」
アタシは愛想笑いとともに、相手が望むであろう答えを返した。
ふとアタシはここに来た目的を思い出した。
ちょうど良いので彼女から、情報を聞き出す事にした。
いきなりズバリ聞くのも怪しまれそうなので、遠回りに聞く事にする。
「サッカー部かー、毎日練習で大変なんでしょうね。」
「そうなの。おかげでデートも、あんまり出来ないの。」
「ひょっとして、冬休みもなの?」
「うん、そう!アタシは会えなくなるから嫌だけど、竜威にはレギュラーとって欲しいから休めなんて言えないの。」
「クリスマスくらいは、休みなんじゃないの?」
「初めは休みだったんだけど、あとで午前中に練習試合が入っちゃったの。」
「大変だね。でも午後からは一緒にいられるんだから良かったね。」
「そうよね。前向きに考えないと楽しくないよね。」
アタシは、必要な情報が手に入ったのだが、何故か、そこから立ち去りがたく、
彼女と一緒にグラウンドを見ながら、しばらく話をしていた。
中村竜威を見ながら・・・。


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◆ 5章≪15歳まで、あと6日≫
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今日は、手首を切るためのナイフを買いに行こうと思う。
自分の人生の最期の小物が、台所の包丁や工作用のカッターナイフじゃ嫌だった。
いや、地味で目立たない自分の人生の最期くらい、綺麗な演出が欲しいと思った。
だから、学校帰りにアンティークショップに行ってみる事にした。
確か、駅の裏にそういう店があったはずだ。
そのお店は、同年代の女の子に人気があり、結構流行っているらしいのだが、
アタシはインテリアに気を使う事も、アクセサリーで身を飾る事にも興味がなかったのでその店にも、入った事がなかった。
だから正確な場所は分らないけど、評判のお店なら行けば分るだろうと思った。
しかし、アタシは迷ってしまった。
どうしても、その店がある場所が分らない。
明るかった空は、すでに薄暗くなっていた。
アタシは泣きたい気分だった。
いや、すでに涙が零れそうだ。
どうしてアタシはこうなんだろう?
誰かに聞けば分るかもしれないのに、それをせずに只、あちこちをしつこく見まわすばかり。
道行く人に聞いてみる事も出来ず、涙を流し、キョロキョロしている自分にの姿は、さぞかし滑稽だろう。
自分は、誰にも構われず、誰にも関心の払われない路傍の石である事を痛感させられる。
誰かに問い掛けて、無視されるのが怖い。
そんな事も分からないのかと、嘲笑われるのが怖い。
自分が、この場所に異質であると自覚する事が怖い。
誰も、アタシを認識してくれない事が怖い。
それでも帰ろうとしないで、この場所に固執する自分はいったい何者なのか?
アタシは、思わず笑ってしまった。
泣きながら笑い出したアタシに、まわりの人の怪訝な目が向けられる。
本当は、アタシは一人でいるのが好きな訳じゃない。
ツマラナイ自分でいるのも嫌だ。
平凡な自分を、いつだって覆したくて堪らない。
でも、可愛くも無く、特別な才能もない自分に自信が持てない。
だから、なるべくさらに目立たない様に生きてきた。
それが、今の自分の姿。
ここに来る前に正確な場所を、誰かに聞いてくれば迷う事もなかったのだ。
ただ、自分には友達がいないから、誰に声をかけて良いのか分らなかった。
今、自分が孤独である事に疲れている事を自覚した。
本当は、死にたくなんかない。
でも、これ以上一人で生きて行くのに耐えられない。
それが、自分の自殺の本当の動機だ。
格好をつけて平凡で終わるのが嫌だと理由を付けたのも、惨めな自分を自覚したくなかったからだ。
アタシは・・・もう・・・限界だった。
その時だ。
「高田さんじゃない、どうしたの?」
途方に暮れ、泣きながら立ちつくしていたアタシに声をかけてきたのは、あの桜川香織と中村竜威だった。
アタシは、二人の姿をボォッと眺めていた。
涙が、後から後から流れてくる。
瞬きもせず二人を見ていた。
自分とは掛け離れた存在。
とても幸せそうに、仲良く過ごしている二人。
死を選びたくなるほど、絶望を抱えた自分。
ほんの僅かな道程さえ辿りつく事が出来ない自分。
誰かにお店の事を聞く事すら出来ない、愚かな自分。
あまりに・・・惨めだ。



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◆ 6章≪15歳まで、あと5日≫
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結局、昨日はナイフを買わずに帰宅した。
あの後、二人の視線から逃げる様にアタシはその場を走り去った。
惨めだった。
帰りついて、アタシは声を殺して泣いた。
遅く帰宅しても母親は何も言わなかった。
いつアタシが帰ったのかさえ、知らないのかもしれない。
孤独だ。
寂しくてしょうがない。
アタシが死にたい、本当の理由が分かった気がする。
ツマンナイとかそういう事じゃなかったんだ。
ただ、寂しくて寂しくて一人で生きる事が寂しくて、辛くて・・・
ただそこから、逃げ出したかっただけだったんだ。
アタシは、その事に思い当たって、ますます生きているのが嫌になった。
あと5日。
その間、アタシは、最後の孤独を抱えて生きるのだ。
永遠の解放を手に入れる為に。

今日は、日曜日。
アタシは、家から出ない。
出る気になれないのだ。
だからといって、何をするでもない。
ただ、ボウッと一日を過ごす。
その・・・つもりだった。
不意に、来客を告げるチャイムが鳴らなければ。
あいにく今、家には母さんも、父さんも居ない。
無視をしたかったが、連続で鳴らされるチャイムが、あまりにも不愉快で、仕方なくアタシは玄関まで出向いた。
ドアを開けた、その先には、中村竜威がチャイムを鳴らしていた。
「あ、やっぱり居たな。」
にっこり笑って、彼はそう言った。
アタシは、何故ここに彼がいるのか理解できない。
よく見ると桜川香織も、彼の後ろにいた。
「あのね〜、竜威。あんまり鳴らし過ぎは迷惑だよ。ゴメンね、高田さん。」
何故この人達は、ここにいるんだろう?
「・・・・・・・・。」
アタシは、二人を見たまま固まってしまった。
どう対応して良いのか、分らない。
どうしてアタシの家に来たんだろう?
何を言えばいいんだろう?
そんなアタシを見て、桜川香織が困ったような顔をしながら話しかけてきた。
「・・・あ〜、ゴメンね。いきなり押しかけてきちゃって。」
「・・・いや、べつに・・・」
「実はね。アナタを誘いに来たの。」
アタシは、彼女が言ってる事が理解できなかった。
「遊びに行こう!」
明るく笑いアタシに、そう言った。
ア・ソ・ビ・ニ・イ・コ・ウ。
誰かに遊びに誘われたのは、生まれて始めてかもしれない。
「もしかして、忙しいかな?」
中村竜威が、遠慮がちにそう言った。
キレイな目がアタシの顔を覗きこむように見下ろしている。
「・・・暇です。」
アタシがそう答えると、二人はにっこり笑ってアタシの手を取った。
そのまま玄関を出る。
何かに、流される様に…。

そして今、アタシは、遊園地にいる。
何故、こんな所にいるのだろう?
何故、二人はアタシに笑いかけてくれるのだろう?
彼女達は、昨日アタシを目撃した。
泣いていた、アタシを。
惨めで、情けない、アタシにとっては嫌なタイミングで。
そのアタシに、二人は笑いかけてくれる。
憐れみだろうか?
だったら二人を許せない・・・。
続けていくつかの乗り物に乗った後、少し休む為にアタシ達は、ベンチに腰を下ろした。
「あ〜、もう最高だね。高田さん。」
「・・そうだね。」
桜川香織は、アタシに笑いかけた。
アタシは、ぎこちなく笑顔を返した。
楽しさより、戸惑いの方が大きいのだ。
「オレ、何か飲み物でも買ってくるよ。何がいい?高田さん。」
中村竜威が、アタシにそう問い掛けてきた。
「あ、あの・・・アタシは、なんでも…・・・・」
アタシがはっきり答えられずにいると、横から桜川香織が助け舟を出してくれた。
「竜威、アタシはミルクティーね。高田さんも同じで良い?」
「あ・・・うん。」
「わかった。じゃ、ちょっと待ってて。」
そう言い残し、彼は売店に足を向けた。
アタシは、横目でちらちらと、桜川香織を盗み見た。
美人にありがちな、高慢な印象をまるで与えない本当の優等生。
あぁ、こんな人も世の中には居るのだ。
本当に、不公平だ。
アタシは決して、ブスでは無いと思うが、あまりに個性に乏しく、ブスより目立たない。
本当に地味だ。
化粧をすれば、少しは変わるかと思い、母親の化粧品を使って試して見た事があった。
結果は、お化けが現れただけだった。
やり方を憶えたら、もう少しましになるかもしれないが…。
それに引き換え、彼女は本当にキレイだ。
何より、自信に満ち溢れている。
そして、カッコイイ彼氏もいる。
中村竜威。
カッコイイと思う。
多分アタシは、彼のような男の子が好きなのだ。
だから、初めて見た時から、彼の事が気にかかっているのだろう。
でも、彼は決してアタシを見ない。
桜川香織を捨てて、アタシの彼氏になる事は無い。
叶わない望みだ…。
「・・・・さん、・かださん・・・高田さん!」
「…え!?」
桜川香織が、アタシを呼んでいた事に、しばらく気が付かなかった。
慌てて返事をして、彼女の方を向くと彼女は、アタシの目を覗き込みんだ。
「高田さん、何か、悩み事があるんじゃない?」
「?」
「昨日の高田さん、何か変だったよ。」
「・・・変?・・・・・・そうかな?普通だよ。」
いきなり何故、そんな事を聞くんだろう?
アナタには、関係ない事なのに。
「泣いてたじゃない。なにか、辛いこととかあるの?」
辛い事だらけだけど、アナタには関係ないと思う。
「何か、思いつめてる様だったわ。」
何故、そんな事を聞くの?アナタには関係ないのに…。
「学校で、虐められてたりとか…変なヤツに付け狙われてるとか…。」
うるさいわ。アナタには、関係ないじゃない。
「アタシで良いなら相談に乗るよ。」
ヤメテヨ、アナタに何が分るというの?アナタには、決して分らないよ。
「ね、高田さん。」
もう、言わないで!これ以上言われたら、アタシがもっと惨めになるだけ。
お願いだから、言わないで!
「きっと、良い友達になれるはずだわ。」
「・・・・トモダチ?」
「うん、そう!友達になろうよ。」
アタシは、彼女を睨みつけた。
「なれないわ。」
「え!?」
アタシは、今まで抱え込んでいたモノを吐き出したくなった。
誰にも言えずにいた鬱屈した、アタシの思いを。
「アナタとじゃ、アタシは友達になれないわ。ただ、アタシの惨めな気持ちが、増すだけよ!!」
「えっ?何を、言ってるの?」
その時、中村竜居が戻ってきた。
「おおい、ミルクティーなかったからストレートティーにしたけど良いだろ?」
まるで場違いな今の空気にそぐわないセリフ。
その白けたタイミングを利用してアタシは立ち上がった。
「バイバイ」
そしてアタシは、そう言い残すとその場から逃げ出した。
「高田さん!!」
後ろで、桜川香織の声がする。
アタシは、振りかえらない。
彼女から受けたのは優しさではない。
憐れみだ。
絶対の位置にいる、幸せな彼女からの施し。
それを分けてあげる。彼女は、そう言ったのだ。
いや、それは考え過ぎで、本当はただの親切なのかもしれない。
少なくとも彼女には悪気は無いのだろう。
それでも、アタシには、そう思えない。
そんな風に素直に生きてきてないアタシには、とてもそうは思えない。
素直に、彼女と友達になれるような、そんなアタシだったら。
アタシは、彼女が見えない所まで走った事を確認すると、その場に立ち止まった。
俯いたアタシの足元に、ポタポタと涙の痕跡が増えていく。
「死のうなんて、初めから思わなかった・・・。」
寂しさと、素直になれない自分。
その両方を、アタシは今、呪っていた。


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◆ 7章≪15歳まで、あと4日≫
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今日と明日は、3者面談。
明後日は、祭日。
その次は、終業式。
そして、次の日には、既にアタシは、この世にいないのだ。
それでも、3者面談の時間を待っているのは、少し滑稽かもしれない。
アタシの面談は今日の午後2時から始まる。
でも、アタシの親は、来ない。
3者面談だから、父親か母親は普通来るものだと思うけれど、それでも来ない。
高校受験とかで3年の面談はほとんど親が来るものなのに、アタシの親は来ない。
だからアタシの場合は2者面談だと思う。
未来のないアタシの、進路について、いったい何を話すのか?
本当に笑ってしまう。
だけど、それをアタシは誰にも言うつもりはない。
だから、周りに合わせて、残りの時間を過ごさなければいけない。
予定外の行動はもう、いらない。
ナイフも買わないといけなかった事を思い出したが・・・なんだか、なんでも良い気になってしまった。
何で切っても、結果は変わらない。
購買で買ったカッターナイフで良いと、アタシは考えを変えた。
ポケットの中には真新しいカッターナイフが入っている。
カチカチという音と一緒に曇りのない刃が出てくる。
さっきから、ポケットの中で刃を出したり引っ込めたり。
なんとなく、この音が精神を安定させてくれる気がする。
今の時間は、11時30分。
面談の時間まで、2時間30分。
校外に出て暇をつぶそうか、それとも1度家に帰るか…。
長い待ち時間だけど、家に帰るほどじゃない。
もうすぐお昼だけど、あまりお腹がヘってない。
けど、もうすぐ食べる事も無くなるんだし、少しはそういう楽しみを味わっていた方がいいかもしれない。
でも、遠くまで行く気も無いので、学校の裏のあまり流行って無さそうな軽食屋で食べる事にしよう。
あまり中の見えない店構えは、普段のアタシなら入る事にためらいを見せたかもしれない。
しかし、今のアタシはナンだか、そういう事にも関心が無くなっていた。
ナンだか、少し投げやりな気持ち。
それでいて、あと少しの生を満喫しようとする感じ。
ナンだか、思わず笑ってしまいそうな感じだった。
カランとベルが鳴る仕掛けのドアを開けて中に入ると、そこには数人のお客さんが居た。
アタシは、あまりそちらを見ない様にして、一番奥の2人掛け用の小さなボックス席に着いた。
すると、感じの良さそうなおじさんが、メニューとお冷やを持ってきてくれた。
アタシは、あまりお腹がすいてないと思ったが、メニューの写真を見てると急にお腹がすき始めた。
どれも、美味しそうに見えたからだ。
アタシは、ナポリタンとチーズケーキセットを注文し、
料理が運ばれてくるまで、店に置かれていた週刊少女マンガ雑誌『メロン』でも読んで時間をつぶすことにした。
本を読むのはあまり好きではないけれど、マンガはけっこう好きだった。
死んだらこれも読めなくなるのが少し辛い。
とくに喜多ナオリ先生の『真夏の王国』は、本当に大好きだ。
主人公のアリューシュ君が、幼い頃に出会った、少女リセアナを探しに世界中を旅する話。
作り話だとは分かっていても、そういう純愛話にはなんだか憧れる。
王子様を待ってるような、そんな夢見る少女ではないけれど
それでも、恋はしたかったかもしれない。
人を好きになるってなんだろう?
アタシには良く分からないけど。
「・・・・・・・・・。」
今週の『真夏の王国』は、美しくもないお姫様がアリューシュ君を好きになるシーンから始まっていた。
ナンとか自分のそばに居てもらおうとするが、彼はそれに応えない。
自分の言うことを聞かないアリュ−シュ君を、父親である国王に言って牢に閉じ込めさせてしまう。
そして毎日彼の元へ行き自分のそばに居る事を約束すれば、牢から出して上げると言うのだが…。
しかし、彼は連日それを拒否する。
お姫様は、次第にヒステリーになり、彼を鞭打つようになる。
それでも、彼は屈しない。
そのうちお姫様は泣き出してしまう。
アタシが、美人じゃないから嫌なのか?と。
彼は、言う。
顔の美醜は問題ではない、と。
僕にはずっと前から心に決めた人がいる。
だから、他のどんな人の誘いにも乗る事は出来ないと。
たとえ、金銀財宝を積まれようと、権力を貰おうと、至上の美姫に迫られようと、
自分にはすでに、唯一の大切な人がいるから、その人以外に心を動かす事はないと。
お姫様は言う。
うそ、アタシがブスだから、そう言って逃げているのだと。
彼は言う。
お金、権力、暴力では決して人の心を買う事は出来ないのに・・・・。
それらで、僕を縛りつけようとしている。
醜いのは、アナタの顔ではなく、心です。
それを姫への暴言と取り、控えていた御付きの老爺がアリューシュ君を殴る為に杖を振り上げた。
今週の話はここで終わっていた。
顔より心が綺麗な方が良いなんて嘘だと思う。
誰だって、顔が良い人を選んでいる。
TVでも、ユニークな顔をしたお笑い系の女の人は、美人の女優に比べれば、ぞんざいな扱いをされてる。
いつだって、美人は得をしてる。
アリューシュ君の大好きなリセアナちゃんだって、まだ登場してないけれどきっとすっごくカワイイ子だと思う。
綺麗な心だけじゃなく、綺麗な心と身体と顔の人が一番愛される。
多分それが、正解なんだと思う。
ここまで考えた所で、ナポリタンがきた。
アタシは、他のマンガはあとで読む事にし、本をテーブルの端に置いた。
タバスコもパルメザンチーズもかけずにアタシはそのまま食べるのが好きだ。
あまり器用ではない手つきで、くるくるとフォークにからめて、口に持って行く。
美味しい!
なんか、うまく言えないけれどホッとする味だ。
アタシは、パクパクと食べる事に専念した。
もっとも、あまり早くは食べれないけれど。
その時、お店のドアがカランと開いて、誰かが入って来た。
「マスター、カフェオレひとつ。」
アタシは、入り口に背を向けて座っていたので入ってきた人の顔は分らなかったが、
その声で、その人物が中村竜威である事に気がついた。
彼は、どうやらカウンターのひとつに腰掛けたらしい。
あちらを向いて座って無くて良かった。
昨日の事がある為、顔を合わせるのは、なんとなく、気まずい。
「ねぇ、マスター。今週の『メロン』は?今日発売だったから買ってるんだろ?」
「買ったよ。どこか、そこらに有るだろ。」
彼は、どうやらこのお店の常連であるらしい。
が、それより、どうしよう?
『メロン』は、アタシが持ってるけれど、あまり声を掛けたくないし…。
「あ、有った。」
あぁ、気付かれた。
「ねぇ、君、今読んでないんだろ?」
彼は、そう言いながらアタシの座っているテーブルまでやって来た。
アタシは何も言えず、何も出来ず、ただじっとしているだけだった。
「ねぇ、聞いてる?先に読ませてくれない?」
彼を本に手を伸ばした。
その時アタシと、目が合った。
「あ、高田さんじゃない。あ、ここ座って良いかな?」
彼は、アタシの返事を待たずにさっさと座ってしまった。
「マスター、カフェオレこっちに持ってきてね。」
「・・・どうして、ここに・・・座るんですか?」
アタシは、彼が何故アタシと同じテーブルに座ったのか理解できなかった。
「ダメ?」
「ダメじゃないけど…。」
彼は、だったら良いじゃないかと言うと、マンガ雑誌の目次を広げた。
「え〜、『真夏の王国』は何ページだ?」
「42ページ。」
「え?あ、ホントだ。」
アタシは、彼が同じ話を読む人だと知って思わずそう言ってしまった。
「君も、これを読むんだね。なんか、同じマンガ好きな人がいると嬉しいな。」
「・・・そうだね。」
なんだか、少し胸が熱くなった気がする。
桜川香織を省いた、アタシ達2人だけの関係。
彼とのささやかな共有感。
それらが、アタシに少しだけ、ささやかな幸せをもたらしてくれたのかもしれない。
彼が、『真夏の王国』を読んでいる間に、アタシはナポリタンを食べ終わった。
男の人の前で、物を食べるのは少し恥かしかった。
でも、それも少し、くすぐったく感じる。
もちろん、不快ではなく、幸せっぽく。
彼が読み終わると同時くらいに、アタシのチーズケーキセットと彼のカフェオレが運ばれてきた。
まだ食べるアタシを見て彼は呆れているかもしれない。
これは、けっこう恥かしい。
アタシは、顔を紅くしているだろう。
「今週の『真夏の王国』、もう読んだ?」
アタシが、俯いて紅くなった顔を隠していると、彼が何気なくそう聞いて来た。
「へ?」
油断していたアタシは、思わずマヌケな声を出してしまった。
慌てて、言い直す。
「あ、よ、読みました。それだけは先に。」
「けっこう、ファンなんだね。」
「一番好きなマンガ家さんです。」
「そうなんだ。で、今週の話、どう思う?」
「どうって・・・。」
「俺ね、絶対このお姫さんが、間に入って、かばうと思うんだ。」
「そうですか?」
「絶対決まってる!じゃないと、話になんないじゃん。」
「???」
なぜ、断言しちゃうのかな?彼は。
「だって、これは夢見る女の子の為のマンガだよ。」
一応そうだ。この雑誌は少女マンガ雑誌だ。
アタシが頷くと、彼は身を乗り出す様にしながらさらに熱く語った。
「アリューシュ君の一途さに胸を打たれて、お姫様が改心する方がドラマチックじゃないか?」
この後も彼の、マンガ論は続いた。
意外だった。
サッカー少年な彼が、熱心な少女マンガファンだなんて・・・。
本当に意外だけど、少し彼と仲良くなれた気がする。
「高田さんは、3社面談は?」
「今日の、2時から。」
「そうか、オレはもう終わっちゃったんだけどさぁ。ああいうのは、なんか馴染めないな。」
「楽しいものじゃないから…。」
「そうなんだけどさぁ。」
「桜川さんは、今日は…どうしたの?」
「今面談中だよ。終わるのを待ってるんだ。」
「・・・そう。仲が良いんですね。」
「そうか?普通だろ。」
そういう関係が普通である人に、アタシは成れない。
だからとても羨ましく思う。
彼には、きっとアタシの気持ちは解らないだろう。
そして、桜川香織にも・・・・・・・・。
そういえば、彼は何故、昨日の事を聞いてこないのだろう?
はっきり言ってアタシは、昨日の事は、感情ではともかく、一般的には失礼な行為だという事を自覚している。
誘ってもらって遊びに行ったのに、いきなり喚いて帰ってしまったのだから。
桜川香織から何か聞いたのだろうか?
聞いているとしたら、どんな風に聞いたのだろう?
聞いていたとしたら、彼はその事について、どう思ってるんだろう?
聞いてないとして、アタシが彼にそれを聞かれたとして、なんて答えれば良いのだろう?
そんな事を考えていたら、まるで心の中を読んだかのように彼はその事を持ち出した。
「香織って言えば、昨日・・・。」
アタシは、彼に最後まで言わせず、それを制し、立ち上がった。
「ゴメンナサイ、アタシもう行かなきゃ…。」
本当はまだ、時間はあるけれど…昨日の話題には触れられたくなかった。
「そうか、じゃ、またね。高田さん。」
彼は、そう言うとニッコリ笑った。
追求してこなくて助かったけれど、アタシはなんだか、寂しさを感じた。
本当は、彼に色々聞いてもらいたかったのかもしれない。
なんとなく、そう思った。

教室の前、今終ったばかりの面談の内容を思い出そうとした。
でも、頭に浮かぶのは、無邪気にマンガの話をしている中村竜威の顔ばかりだった。
先生に進路の話を聞かされている間も、うわのそらだった。
この世に最早、未練など無いと思っていたけれど彼の事を想っていると、切なさが募ってくる。
ほんの少し、2人で話をしただけで、アタシの心は彼ヘの想いに支配されてしまった。
恋愛関係になることがなくても、想ってるだけでも気持ちが暖かくなる。
アタシは、ハッキリと自覚した。
彼に恋している事を。
もう1度、彼の顔を見たくなってきた。
なんだか、気持ちが落ち着かない。
焦りみたいな気持ちがアタシを支配していた。
アタシは、無駄と思いつつも、ひょっとしたら彼がまだ、さっきのお店にいるかもしれないと
自然とそちらに足が向いてしまった。
中に入ってまで確かめる勇気はなかったので、ガラス窓越しに中を覗き見る。
「・・・いるわけ無いよね。」
残念ながら、彼は居なかった。
でも、嫌な気分じゃなかった。
男の子を追いかける自分。
今まで、こういう自分を考えた事もなかった。
人を好きになって、そういう恋を楽しむような可愛い行動を。
悪くない。
なんだか自分が好きになれる気がする。
くすぐったくて暖かい。
そんな気持ちだ。
今まで機械的な惰性な等登下校か、嫌な気分での帰宅しか経験がなかったけど
楽しい気分で家に帰るなんて初めてかもしれない。
自然と表情が綻んでくる。
「死ぬの、止めようかな。」
思わず口から出た言葉。
なんだか急に、死ぬ事に執着する事が馬鹿馬鹿しく思えた。
「人を好きになるって良いな。」
アタシは、泣いていた。
昨日までとは、違う。
喜びの涙だった。


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◆ 8章≪15歳まで、あと3日≫
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ひょっとしたら、生まれて初めてかもしれない、爽やかな目覚め。
アタシは今、それを体験していた。
清々しい。
朝の空気が、こんなに気持ち良かった事なんて、今までなかった。
喜びだ。
自分の中に、こんな優しい気持ちがあるなんて、知らなかった。
嬉しい。
前向きな気持ち。
それが、今アタシの中に確かに存在していた。
死の影は、アタシの中に既に無い。
アタシは、誕生日を前に死ぬはずだった。
でも、もうそんな気持ちは残ってない。
中村竜威を好きという気持ちが、アタシを変えてくれた。
恋は人を強くするというのは、本当なんだと実感している。
たとえ叶わない恋だとしても、それでも、好きという気持ちが心にあるだけでアタシは、強くなれる気がする。
桜川香織とだって、上手く付き合えるかもしれない。

昨日の午前中は、授業があったが、今日はもう授業が無い。
残りの3者面談が有るだけだ。
昨日終った人間も、不公平が無いように一応朝のHRの為だけに出席しなければいけない。
来なければ、欠席扱いだ。
馬鹿馬鹿しいとは思いながらも、それでも出席してる人が多いのは、クラブ活動の締めが今日ある部が多い為だろう。

HRを終えたアタシは、教室からすぐに出た。
居てもする事は無いからだ。
だが、出てすぐにいきなり声を掛けられビックリした。
「よ!」
「わっ!?」
目の前に居たのは、中村竜威だった。
「高田さん、ちょっと良い?」
アタシは、彼への想いを自覚した事によって、平常通りの態度をとる事が出来なかった。
顔を真っ赤にしながら、しどろもどろに、どうにか彼の問いかけに答えた。
「はっ、はい。いい・・です。」
彼は、そう聞くとにこやかにアタシの明日の運命を決定した。
「だったら、明日の休みに、サッカー部でやるパーティーに来ない?香織が一人だったら嫌だけど、君とだったら行っても良いって言うんだ。」
「パーティー?」
「そう。2日早いクリスマスって訳じゃないけど、休みだからそういう話が出てるんだよ。」
「そうなんですか・・・。」
「23日なんて変な日にちだけど、24日のイヴは練習があるし、25日はサッカー部は試合だからさ。」
アタシは、迷った。
なぜなら大勢で、はしゃいだりするなんて未経験の事だから。
でも、せっかくの彼の誘いを断るなんて、今のアタシには出来なかった。
「良いんですか?部外者のアタシが行っても?」
彼はニッコリ笑って、もちろんだと言った。
「それに香織だって部外者だよ。」
アタシは、それだったらと、彼の求めに応じた。
彼は、また良かった、と言いながらニッコリ笑った。
その笑顔にアタシは、ドキドキする。
顔も赤くなってるかもしれない。
「良かった、行ってくれるんだね、高田さん!」
「わぁあ!?」
急に後ろから声をかけられ、アタシはビックリした。
「さ、桜川さん!?」
中村龍威がやれやれとでもいったような顔をしながら、ビックリさせるなよ、と言う。
「だって嬉しいんだもん。高田さんが参加してくれて」
何故彼女は、そんなに喜んでいるんだろう?
アタシが参加する事がそんなに嬉しいのだろうか?
理解できない。
でも、悪い気はしない。
うん、悪くない。

何か用事があるという中村龍威と分かれて、アタシと桜川さんは買い物に行くことになった。
明日の為の服を買いに行くのだ。
アタシは必要を感じなかったが、彼女が買わなくても良いからついてきて欲しいといったので、それならばと思いついて行くことにした。
「買い物は、一人より二人の方が楽しい。」
というのが彼女の持論であるらしい。
今までアタシは、二人での買い物なんてものは、小さな頃の親との買い物しか経験した事が無かったのでなんだかとても新鮮な気分だった。
目的の百貨店までバスで行くことにした。
二人掛けの座席を知人と座るのも初めてだ。
なんだか最近のアタシは初めてだらけで、まるで異邦人にでもなったいみたいだった。
しばらくアタシ達は言葉を交わさずにいたのだけど、不意に桜川さんが真剣な顔でアタシに言った。
「ごめんね。この前は。」
アタシは、なんの事だろうと思った。
謝られる事なんてされた憶えが無かったからだ。
でも彼女は構わずに話を進めて行く。
「友達になろうなんて言ってしまって…間違ってた。」
ここに来てアタシはやっと一昨日の事だと気が付いた。
慌ててアタシは言い返す。
「桜川さんは、悪くないよ。あれはアタシが・・・。」
彼女はアタシに最後まで言わせなかった。
「違うは、あれはアタシの傲慢な考えだったの。…友達になろうっていったでしょ。あとで考えると自分を上にみた考えだって気が付いたの。」
そうだろうか?そんな考えじゃないはずだ。今のアタシなら分かる。彼女はそんな人ではないことが。
「なろうって言うのが、いけないのよ。だって、アタシが高田さんと友達になりたかったんだもの。アタシから頼むのが正しいのよ。」
え?なんだろう?アタシと友達になりたいって言ってる気がする。
「だからもう1度、言いなおすね。高田さん、アタシと・・・友達になって下さい。」
真剣な桜川さんの目がアタシの心まで届いてきた。
彼女は、ただの優等生じゃない。
本当に優しい気持ちを持った人だった。
友達になろうって言葉が、本当にそんな風にとれる言葉なのかは分らない。
多分、彼女はどうやったらアタシが傷つかないでいられるかを考えてくれたんだと思う。
その為に言葉を選んでやり直してくれたんだ。
嬉しい。
アタシは、また泣いていた。
涙が止まらなかった。
アタシが言った、こちらこそという言葉は、きちんとした言葉にならなかった。
それでも、アタシの言いたかった事は彼女に伝わった様だ。
彼女は、アタシの肩に優しく寄りかかってきた。
暖かい。
彼女も涙で頬を濡らしていた。

終点の駅前バス停に着く頃には、二人の目は真っ赤になっていた。
目的地の百貨店は、そのすぐ前だったが、買い物の前に少し気分を落ち着かせる為に
アタシ達は、百貨店の一階にあるハンバーガーショップに寄る事にした。
12時には少し早いけど、あまり混んで無くて逆に良い感じだった。
頼んだ物が出てくるまで、アタシ達は無言だった。
彼女が何を考えてるかは分らないけど、アタシはドキドキしていた。
初めての友達。
なんだか、くすぐったい。
昨日の中村龍威を好きなんだと分った時の暖かさともまた違った、もっと安心できる暖かさをアタシは、感じていた。
自然と笑顔になる。
いつも無表情でいた自分が信じられない。
こんな簡単に新しい自分が見えてくるなんて思ってもみなかった。
チラリと、桜川さんを見てみる。
彼女もアタシを丁度見たばかりのようだった。
自然と笑顔を交し合う。
「食べよ。」
彼女がそういいながらチーズバーガーに手を伸ばした。
「うん!」
アタシも彼女と同じものに手を伸ばした。
そしてまた、くすっと二人で笑った。

食べ終わる頃には、ちょうど店は混み始めていたのでアタシ達はすぐに席を立った。
目的の服を売っている階は3階なので、ハンバーガショップのすぐ目の前にあるエスカレーターを利用することにした。
さすがにクリスマス、そして年末を控えてるだけあって、百貨店の中は、人がいっぱいに溢れていた。
目的の場所まで来ると、桜川さんは気に入った服を手に取り試着し始めた。
着替え終わると、試着室のカーテンを開きアタシに似合ってるかどうかの意見を求めてくる。
そういった事も初めての体験だったけど、アタシは焦りながらも頑張って色々自分の意見を言った。
あまり、オシャレには縁のないアタシだから、参考になってるのかは、疑わしいけど。
でも実際の所、彼女の選んだ服は、彼女に似合っていた。
どんな服を着てもサマになる気がする。
やはり、こういう時は神様は不公平だと思う。
アタシに、似合う服を選ぶ事は凄く大変で、大抵いつも無難で地味な服を買う事になってしまうから。
「・・・さん、・かださん、たかださん!」
「!?」
アタシは、いつのまにか自分の世界に入ってしまっていたらしい。
桜川さんが、アタシを呼んでいた事にしばらく気がつかなかった。
「どうしたの?」
彼女が心配そうにアタシの顔を覗き込む。
アタシは、ちょっと考え事をしていただけだと言った。
嘘ではない。
ただ自己嫌悪に落ち込みそうになっていただけだから。
彼女は、だったら良いんだけどと言った後、それよりもコレコレと言ってアタシに持っていた物を見せた。
それは、ジュエリーのカタログだった。
桜川さんは、その中の可愛い小さな花をかたどったピアスを指差していた。
「・・・かわいい・・・。」
アタシは、思わずポロッと、本当に自然とそう言ってしまった。
普段装飾品なんかに興味の無いアタシが思わず良いと思ってしまった。
そんな、ピアスだった。
「でしょ。」
そう言って桜川さんは、ニコリと笑った。
「うん、きっと桜川さんに似合うよ。」
アタシは、思わずそう言ってしまった。
少し欲しいと思ったけど、でも自分が見つけて来た訳でもない物を譲ってもらうわけにはいかない。
きっと桜川さんも、凄く気に入ってるんだろうし。
そもそもアタシの耳にピアスの孔は無いし、ピアスが可愛くてもアタシに似合うとは思えない。
でも、桜川さんは指を横に振り振りしながら、違うよ〜って言った。
「これはね、高田さんに似合うと思って持って来たの。」
「え?そんな似合わないよ。アタシは、そう言うのに合わないもん。それに孔も開いてないし・・・。」
「開けちゃえば、良いよ〜。」
アタシは困ってしまった。
アタシには、そういうものは似合わないのに。
「あのね、それに、お金…ないし…。」
「そうなの?」
「うん。それにピアスなんてしてると・・・先生に怒られちゃう・・・。」
「う〜ん、そうか〜。無理強いは出来ないね。でも、本当に高田さんにアタシは、似合うと思ったんだよ。」
「うん、それは嬉しいよ。ありがとう。」
アタシは、それよりと桜川さんに話しかけた。
「服、買ったの?」
彼女は、手に持った紙袋をアタシに見せて、バッチリだよって言った。
この百貨店の名前の入った紙袋だ。
「じゃ、帰ろうか、桜川さん。」
「あ、ゴメンもう少し待っててくれる?お手洗いに行ってくるから。」
アタシは、だったらドリンクコーナーのところで待ってると彼女に言った。
「すぐ戻るから、ゴメンね。」

その後、アタシ達は適当にぶらぶらしながら家路についた。
明日の待ち合わせ時刻を確認したあと、またねと言って別れた。
またね。
良い言葉だと思う。
未来がきっと来るって感じがする。


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9章≪15歳まで、あと2日≫
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アタシは今、寒い夜空を見上げていた。
服はずぶ濡れで、身体中はズキズキと痛い。
12月の寒空でこんな格好では、まさに死ねと言ってるようなものだ。
だけど、アタシは、もうそれでも良いと思った。
そうすれば、全てが上手く行くんだから・・・。

中村竜威に誘われたパーティーは、カラオケボックスのパーティールームで行われた。
集まった人たちは30人くらい居たのだろうか?
アタシにとってあまり見た事無い人がいっぱい居た。
でも桜川さんと中村竜威が一生懸命話し掛けてくれたのでそれなりに楽しめた。
でもアタシがトイレに一人で行くと、その後を付いて来る様に5人ほどの女子が同時に席を立った。
そこでアタシは、いきなり突き飛ばされた。
洗ったばかりのトイレだったらしく、タイルはグショグショでアタシのスカートは、無残にも濡れてしまった。
お気に入りの白いスカートなので汚れが酷く目立つ。
そのままアタシは、蹴られた。
痛かった。
つま先で顔を蹴られたのだ。
痛くないはずがない。
唇を切ったらしく、口の中に錆びた鉄のような風味が漂った。
「な・・なに?」
アタシは、パニクッていた。
いきなり蹴られるなんて、初めてのことだ。
「何じゃないってぇの。何でアンタみたいなのが、来てるのよ。」
また蹴られた。
頭を上から踏みつけられるように。
そのまま顔がタイルに押し付けられる。
「あぐっ」
「邪魔なのよね。ただでさえムカツクやつが来てるのに、アンタみたいなのが混ざってるとますます不愉快。」
「そうそう。大体アンタ誰?どこの学校のヤツよ?」
アタシは、頬を押し付けられ、喋り辛い態勢から言葉を吐き出した。
「おっ、同じ・・・ヒック・・・が、学校・・・で・・ですっ。」
言った瞬間、押さえつけていた足が外れ、今度は、お腹をつま先で蹴られた。
瞬間、息が出来なくて悲鳴を上げることも出来ない。
「嘘つくなよ。アタシらアンタみたいなの見た事ないし。」
「う、うそ・・・うそじゃ・・ないで・・・す。」
アタシを蹴っているのとは別の人がアタシの顔を覗き込んだ。
「ふん、まぁ良いけどね。アンタがどこのヤツでも。でも、どっちにしろ目障りだってことにはかわりは無いし。」
「そ、そんな!?」
「そんなじゃないっての!」
彼女は、そう言いながらアタシの頬をぺちぺちと軽く叩いた。
「ねぇ、さっさと帰ってよ。あんたこんなとこに来れるような人物なわけ?」
「だって、桜川さんと中村君に誘われて…きゃっ!」
アタシは最後までいう事が出来ずに頭を床に押し付けられた。
「うるっさいなぁ。桜川がどうだっていうの?あいつだって邪魔なんだよ。中村君を独占しやがってさ。これみよがしにベタベタして。ムカツクんだよね。」
他の人たちもそれに同意して、口々にムカツク、うざい、調子にのるな等といった桜川さんを罵るような事を言っている。
アタシにですらそれは、ただの僻みだと分かる。
ただ失敗だったのは、アタシがそれをおもわず口にのせてしまった事だ。
ボソッと、本当に小さな呟きだったのだがそれが聞こえるような人がいたらしい。
アタシはまた蹴られた。
頭といわず、お腹、顔、手足。
蹴られてないところなどなかった。
そのうちアタシは、掃除用のバケツに汲まれた水をかけられてびしょ濡れになった。
今は12月。アタシはおもわず心臓麻痺で死ぬかと思った。
骨の髄まで冷えていく。
ガタガタと歯の根が合わない。
まだアタシへの乱暴は続く。
もう、アタシは限界で、気を失ってしまいそうだ。
頭が痛い。顔が痛い。お腹が痛い。手が痛い。足が痛い。
心が痛い。
「アンタたち何やってるの!?」
そのとき入り口で大声を上げた人がいた。
アタシに暴行を加えていた人たちの一人がその人物の正体を教えてくれた。
「桜川・・・何?アンタなんか文句あんのぉ?」
桜川さん?
「有るわよ。有るに決まってんじゃない!アタシの友達になんてことしてるのよ!!許せないわ!」
アタシの所からは見えないけど、なんだか怒ってるみたい。
「許せないのはアタシらの方なんだよ。」
そう言って彼女たちはアタシへの暴力を止めて桜川さんへ悪意の有る視線を向けた。
「訳のわからない事言わないで。そこ退いてよ!」
そう言って桜川さんはアタシの方に歩いて来ようとしたが彼女たちにその行く手を阻まれた。
「なによ?」
桜川さんは、怯まずに相手を睨みかえした。
彼女たちは、ますます凶悪な顔で桜川さんを睨む。
身体中痛くて堪らないけど、アタシは頑張って顔を起こした。
涙で滲んだ視界に、桜川さんの姿が映る。
助けに来てくれた?
「あ・・・」
何か言おうと思ったけど声が出てこない。
緊張と恐怖で喉が枯れている。
それでもなんとか「さ・・くら・が・・さ・・」と言った。
「高田さん!?」
桜川さんの顔は驚愕によって歪んだ。
アタシの姿を見て驚いているのだろう。
多分今のアタシは酷い状態だから。
彼女は急いでアタシの駆け寄ろうとした。
しかし、またその動きを阻まれてしまった。
暴力によって・・・。
「行かせないって。」
そう言いながら一人が桜川さんの髪を引っ張った。
こらえられず、彼女は、びしょ濡れの床に引き倒される。
そこに別の人が倒れた彼女のお腹を蹴った。
「ぐっ!?」
「アンタは、顔は傷つけないでいてやるよ。だって中村君にばれたらアタシらも困っちゃうからさぁ。」
そう言って再度、桜川さんのお腹を蹴った。
「あぁっ!!」
「でも、本当に気に入らないよ。アンタってさ。みんなが中村君の事好きででも誰も付き合えなかったのに
いきなりアンタと付き合い始めてさ。ムカツクよ。本当にね!」
それが合図だったかのように、他の奴らも彼女を蹴り始めた。
初めに言った通り、顔だけは蹴らないようにして。
「や・・・めて!」
あたしは精一杯声を振りしぼって、それだけをなんとか言った。
聞こえたのか聞こえないのか分からないくらいの小さな声しか出なかったがそれでも彼女たちの内の一人には聞こえたようだった。
桜川さんを蹴るのを止めて、アタシを振り返る。
「あんたってさぁ〜、桜川の何なわけ?今までつるんでたわけじゃないよね〜?」
そう言ってアタシの前で、顔を覗き込みながら、しゃがみこんだ。
懐から白い箱を取り出した。タバコだ。
そのまま慣れた手つきで火をつけ、アタシに向けて煙を吹きかけた。
ゴホゴホとアタシは咽る。
「アンタも、災難だよね〜?桜川といっしょにいたばかりにアタシらに眼をつけられてさぁ〜。ふふふ」
「・・・だもん。」
アタシは、掠れた声でそいつに言ってやった。
「へ?」
掠れ過ぎた声で、相手には上手く伝わらなかったらしい。
アタシは、声を張り上げていった。
「友達だもん。一緒に居たって良いでしょ!!」
アタシの声の大きさにビックリして、そいつはビクッと体を振るわせた。
「たか・・ださん・・・。」
桜川さんの声が届いた。アタシの想いは届いただろうか?
「友達だぁ〜?フゼケルなよ〜!」
そいつはアタシの手の甲にタバコを押し付けた。
「あ、あつっ、あつい・・・やめて・・・あぁ・・・・・・・・。」
彼女は、火が消えるまで押し付けたタバコをそのままアタシに目掛けて投げつけた。
もう熱くはなかった・・・。でも・・・。
「ははは、じゃぁ、良い事教えてやるよ。アンタの友達の桜川がなんで今アタシらにいじめられてると思う?
アンタが居るからだよ。なんとも冴えない見た事も無いアンタみたいなヤツをパーティーにつれて来てるから
だから、目障りさが増したんだよ。今までも邪魔だとは思ってても、さすがに中村君に気が付かれるのも嫌だったしね。
でもさ、アンタみたいなショボイのがさ、中村君と一緒になって楽しんでるの見てさ。ホント、ムカツクんだよね。
それも、桜川がアンタみたいなのを連れてきたせいだろ?分かる?全部アンタが悪いのさ!場違いなところに迷い込んじまったアンタがね!」
言い掛かりだ。
そんな事で、何でアタシがこんな目に会わないといけないの?
そんな事で、桜川さんに酷い目に合わせるの?
「アタシが・・・悪いの?」
アタシは、前が見えないくらいの涙を流していた。
悲しかった。
アタシのせいで桜川さんがこんな目に合わされたと言われた。
アタシが、悪いんだ。
綺麗な桜川さんの顔が歪んで見える。
顔は殴られてないはずだから、それは多分アタシの涙のせいだ。
「アタシが・・・アタシが・・・・・・アタシが居なかったら・・・・桜川さんは・・・酷い目に合わないの?」
彼女は邪悪なまでに歪めた顔でアタシの顔を覗き込みながら言った。
「あぁ、そうだよ。あんたさえ居なかったら、アタシらもそこまで酷い事はやんないよ。」
「アタシが居なかったら・・・・。」
アタシは、痛みをこらえて立ちあがった。
そのまま出口に向けて歩く。
桜川さんの前でチラッと彼女を見た。
桜川さんは、口を押さえられ、喋る事が出来ないようにされてた。
アタシは、彼女に向けて精一杯の笑顔を贈った。
「バイバイ。」
一言。それだけを置き去りに。

そしてどれだけ、歩いただろうか?
分からない。
アタシは、学校へ来ていた。
普段なら開いてないはずの校舎の屋上への鍵が開いている事が不思議だった。
まるで、アタシの為に用意された明日への道のようだ。
アタシさえ居なかったら、桜川さんは酷い目に合わないんだ。
元々死ぬ予定だった明日。
アタシが居なくなれば、桜川さんは酷い目にあわない。
明日が来たら、アタシは居なくなろう。
そう・・・決めた。



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10章≪15歳まで、あと1日≫
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今日はついに14歳最後の日、12月24日クリスマス。
明日になればアタシは15歳になる。
ううん。なるはずだったんだ。
でも、ならない。
アタシは、このまま14歳で自分の物語を終わらせる。
男の子を好きになったり、友達が出来たり、短い間に結構、良い思いが出来た。
それまでの人生では、何も無かったのに。
わずかな間でそれまでの人生以上に密度の濃い生き方が出来た気がする。
そして・・・初めて出来た友達の為に、アタシは死ぬ。
悪くない。
うん。
アタシにも、誰かの為に何かが出来るなんて、悪くない。
そう思う。
それは、確かだ。
だからアタシの体が震えてるのは、怖いからじゃない。
濡れて冷え切った体が寒いから。
そんな理由。
「さぁ、そろそろいいかな。」
アタシは、死への方法を飛び降りに決めた。
以前あれこれ考えたのが馬鹿馬鹿しいほどだ。
死んでしまえば、それで終わりだ。
あれこれその後のことまで考える必要は、ない。
それにこれが一番簡単に死ねる。
必要なのは、高い場所。
それだけだから。
あいにく屋上の端には、フェンスがあるのでそれを乗り越えなければならない。
少し面倒だなとアタシは、ぐるりと辺りを見回した。
そしたら視界に、壊れたフェンスが目に入った。
まるでアタシのダイブの為に用意されているかの様に・・・。
煌煌と照らしている月明かりが、誂えた舞台のようにアタシとその壊れたフェンスを結んだ。
「ははは。」
まるで、運命さえもが、アタシを死に追いやっている様でもあり、笑えた。

壊れてしまって、その用を成さなくなったフェンスの下は、暗い闇だった。
地面を覗きこんでも、下は見えない。この下はどうなってるんだっけ?
あまり気にした事が無いので校舎のどちら側に何が有るのかアタシは知らなかった。
「・・・まぁ、いいや。4階から落ちたら死ねるよね。」
誰に話すわけでも無いのにアタシはそうもらしていた。
冷たい夜の風が吹いてアタシの体を不安定にする。
・・・・・・・怖い。
下に見える・・・いや、何も見えない闇がアタシに恐怖を感じさせている。
止めるなら今のうちだって声が、アタシの心には有る。
他人の為に自分の命を捨てて何になるのか?
そう問いかける気持ちがアタシの中に、たしかに、有るのだ。
でもアタシは彼女の為に何かをしたかったから、死に向かって1歩を踏み出した。
「じゃあね、桜川さん。」
最後の別離の言葉を呟く。
そうしてさらに1歩を踏み出そうとした時だ。
「ダメェ!!ヤメテ高田さん!!!」
物凄い勢いで扉を開け、飛び出してきた桜川さんだった。
まるであたしの言葉が聞こえたかのようなタイミングだった。
「どうしてここに?」
アタシがここにいるなんて誰にも分からないはずなのに、彼女はどうしてここにいるんだろう?
しかしアタシは彼女の姿を見て、答えが分かった気がした。
彼女は真冬だというのに汗が吹き出ていた。
息もあがり、まるでさっきまでフルマラソンで42.195Kmを走っていたかのような状態。
髪は乱れ、衣服には汚れも見える。
ああ、昼間あいつらに痛めつけられた時以上に汚れていた。
膝にも怪我がある。転んだのだろう。
なんだか痛々しかった。
彼女はアタシがここにいると思って見つけたのではない。
色々探して、やっとここにいるアタシを見つけたのだ。
アタシは、泣けてきた。
アタシの為にここまでしてくれる人がいる事に。
だったらアタシも彼女の為に出来る事をしよう。
改めて、そう思った。
「最後に・・・桜川さんに会えて、嬉しいよ。」
アタシは、暗い闇に背を向けて彼女の方へ向き直り、精一杯の笑顔で微笑んだ。
もう思い残す事は無かった。
後ろ向きに重心を移すとアタシは、そのまま暗い夜の空に落ちていく。
筈だった。
しかしアタシが身体を傾け、目をつぶった時、桜川さんはアタシに向けて飛び掛っていた。
「ダメッ!」
結果、アタシは屋上の縁スレスレに落ちる事無く、彼女に押し倒されていた。
それでも、肩から上は虚空に投げ出されている。
どこか身体を打った気がするけど、痛みが分からなかった。
それ以上に驚きがアタシの心を支配していた。
どうして止めるんだろう?
これはアタシが彼女に出来るたったひとつの恩返しなのに。
「止めないで!」
アタシは懸命に彼女を振りほどうこうともがいた。
しかし、彼女はアタシの体をがっちりと捕らえて離さなかった。
「離さない!絶対、絶対離さない!」
痛いほどに彼女は、アタシの身体を抱きしめている。
「離して!アタシが死んだらアナタは虐められないでしょ?アタシはアナタが酷い目に遭うのが嫌なの!!アタシが死んだら全て上手くいくの!!」
アタシは努めて冷静に、彼女に訴えようとしたが、思いがけず荒い口調になってしまった。
まるで、親におもちゃを買ってもらえない子供のような、駄々をこねる姿が想像できる。
頭の何処か冷めた部分がそんなふうに考えていた。
「分からないよ、そんな妙な理屈!」
「良いの、分かってもらいたいんじゃないの!アタシがしたいことをするだけなの!!」
アタシは、力をこめて桜川さんをひきはがそうとするが、彼女のアタシを抱きしめる力は緩むことがなかった。
「それだったらアタシだって、したいようにするよ。絶対死なせない!」
桜川さんの真っ直ぐな目がアタシを見ている。
その綺麗な目からは、宝石みたいな涙がこぼれてアタシの顔を濡らした。
「何で泣くの?」
「悲しいからよ!決まってるじゃない!!死のうなんて考えないでよ。死んだら終わりだよ。何も無くなっちゃうんだよ。アナタの存在が消えちゃうんだよ。死ぬくらいなら頑張れるよ。頑張れば、何とかできるよ。あいつらが何だってのよ。笑っちゃうわ!!アタシはあんな奴等に負けない。負けない。負けない。」
涙に濡らしながらも、彼女の眼差しはアタシを射抜いていた。
アタシが間違っているのだろうか?でも、アタシが死ねば、すべてが解決することは間違いないはずなのに・・・。
頭が混乱する。
何が正しくて、何が間違ってるんだろう?
アタシが居なくなれば、彼女は苛められない筈なのに。
「気にしなくて良いよ。元々アタシは今日死ぬはずだったんだから・・・」
「なによそれ!?」
「だって生きてても死んでるのと同じなんだもん。誰もアタシを気にしない。見ない。分かってくれない。アタシはそれから抜け出せない。そんなだったら死んでるのと同じだから・・・だから、死のうと思ったの!!」
「なによそれ?そんなはず無いよ。親だって・・・」
「あの人たちはアタシのこと何も知らない。アタシが死にたいなんて考えてるなんて気がつきもしない!きっと居なくなったって気がつかないよ!!」
「だったら、アタシがいるじゃない!アタシは見てる。アナタのこと感じてるよ!死ぬなんて言わないでよ。アタシを悲しませないで!!」
アタシは彼女の言ってる事なんて、もう聞いてなかった。
自分で何を言ってるのかもう、分からない・・・。混乱してる。
「だって、だって、だって。あいつ等が言ったよ。アタシがいなければ桜川さんには酷い事しないって!そう言ったもん!!死んでるみたいな自分が、もう一度死ねば、アナタが嫌な目に合わないんだったらアタシは死ぬよ!」
彼女は悲しそうに頭を左右に振った。瞳から涙が飛び散ってアタシにシャワーみたいに降りそそいだ。
「ばか!あんな奴らの言うことまに受けないでよ。あいつらは元々アタシが邪魔だと思ってたのよ。竜威と付き合ってるから。以前から嫌がらせは、されてたの。アナタのせいじゃないの!」
「だって、だって、だって・・・」
桜川さんは、首を2、3度、横に振った。
「アタシが、どれだけアナタの死を悲しむのか・・・高田さんは分からないんだね。・・・だったら、・・・だったら教えてあげるわ・・・」
彼女はそう言ったかと思うと、アタシから放れて壊れたフェンスの前に立った。
「なっ!なにを!?」
「アナタはこれからアタシが死ぬのを見ていればいい。きっとアナタが死んだときに感じるアタシの悲しさと、アタシが死んだときにアナタが感じる悲しさは同じくらいだと思うから・・・」
そう言ったかと思うと、彼女は夜の闇に身体を投げ出そうとした。
「だ、駄目ッ!!」
アタシは間一髪、彼女の落下を食い止めた。
「なんて事するの?死ぬじゃない、落ちたら死んじゃうじゃない」
彼女を背中から抱きしめたままアタシは、怒鳴りつけた。
体が震えている。怖かった。彼女が死ぬと思ったら、怖くて怖くて、そして・・・。
肩越しに彼女は振り返った。
「怖かった?アタシだってアナタが飛び降りよとしているところを見て怖かったよ。嫌だよ。友達が死んじゃうなんてさ。」
アタシは、声をあげてわんわん泣いていた。
「ごめんなさい。もう死ぬなんて言わないから、桜川さんもこんな無茶しないで!」
彼女は泣き笑いで、ふふって微笑んだ。
「アタシは、死にたくないよ。良かった、アナタが止めてくれて。止めてくれなかったら本当に死んでたかもしれないもんね」
その時、桜川さんの携帯電話から、メロディーが鳴り始めた。




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◆ 終章
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それは、タイトルは知らないけれど、何処かで聴いた事がある誕生日の歌だった。
「あ、そういえば、セットしてたんだアラーム。高田さん、誕生日おめでとう!」
アタシは、一瞬なにを言われたのか分からなかった。
「0時になったよ。今日、誕生日なんだよね」
そう言ってポケットから小さな包みを取り出した。
「え?」
アタシは、呆然としながら疑問を投げかける。
「どうしてアタシの誕生日、知ってるの?」
「先生に頼んで生徒名簿を見せてもらったの。今度アナタの誕生日が来たらビックリさせようと思って。でも、すぐだなんて思わなかったからちょっと焦ったよ」
アタシは、貰ったプレゼントをじっと見ながら固まってしまった。
緊張してる。両親以外から初めて貰った誕生日プレゼント。
「あけてみてよ」
彼女にそう促され、アタシは初めての友達からのプレゼントをドキドキしながら開いた。
「あ!?これ、このまえの!」
中は、この前二人で買い物に行ったお店で見かけたピアスだった。
「実は、あの時買ってたんだ。ほらトイレに行くって行った時に。これ気にってた感じだったし」
アタシは、恐る恐る聞いた。
「本当に貰って良いの?」
「もちろん。そのために買ったんだもん。でも、アタシのときにも何か頂戴ね」
アタシは泣きながら何度も頷いた。
「うん、絶対アタシも、プレゼントする。これに負けないくらい素敵なものを」
彼女は、ハンカチでアタシの涙を拭いてくれた。
「今度、耳に穴開けに行こうね」
涙に滲んでよく見えない彼女に向けて、アタシは、約束だねって言った。










明日への道 あとがき

あとがきなんか書いてみようかなとか思ったので書く事にしました。

本来この話は、こんな話になるはずでは有りませんでした。
ただ、毎日が過ぎていき、そのまま死を迎える。
そんなただの日記のような感じになり、終章では誰かがそれについて語るような感じだったのです。
それが、なぜか脇役だったはずの桜川さんと中村君が、急にでしゃばり始め
さらに、途中からは中村君は戦線離脱状態、女の子の友情みたいなものになってしまいました。
しかし女の子同士の友情なんて物が僕に分かるはずも無いので、かなり怪しい話になってしまいました。
でも、一応話を終わらせる事が出来たのでOKかなと思ってます。

終章と10章のラストは土壇場で書き直しました。
なんとなく説得力が無かったなというのがその理由ですが
そのバージョンだったら高田さんは中村君に告白もするし、なんとなく全部終わったという感じだったんですけど
現実では何もかも、一気に解決するなんてことはあまり無いはずだから、まぁこれで良いのではないかと。
もし続編なんてものがあれば、そこのあたりも解決できるんですけど。
上にも書きましたが、元々日記のようにその日のことを1章分に分けていたことから
いろいろ制約が出来てしまい、途中から10章は長いなとか、もう少し長く出来たらなとか
もう書くの止めようかなとか、色々考えてしまい、本来の締め切り(自分で決めた)から1年と3ヶ月が経ってしまった事をここにお詫びします。
2回目の締め切りからは、3ヶ月なんですけどね(笑)
] あと、最初の予定から変わったことによって矛盾点があちこちにあるかもしれませんが、見つけても気にしないでください。m(_ _)m

さて、では次の話を考えるとします。


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