頂き物小説


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2002/03/22
うつろいゆく季節に触れる(No10鬼灯様)
 
 
 
 
手を翳して、見上げた空は、蒼い青。
 街角のベンチに腰をおろした青年は、少し眉を顰めて、右の目を掌で覆う。
「…痛い……かな?」
 ん〜…と、小さく唸って、細く溜息を吐く。
 美しく澄んだ翠緑の双眸は、けれども命の通っているのは左の瞳のみで、同じ色をした右の瞳は、精巧に作られた義眼である。自力でその目を抉り出した時は、痛みなんか麻痺していたけれど、生きる事を選んで、与えて貰った右の瞳は、あまり相性が良くなくて、殆ど見えない上に、酷使すれば目の奥がシクシク痛む。
 そっと、小さく息を吐いてゆっくりと右手をずらし、閉ざしていた右の瞳を開いて、またぼんやりと空を見上げる。
 柔らかに凪いだ風が、上空で緩く雲を押し流し、不規則にその形を作り変えて行く。
 何事に驚いたのか、不意に飛び立った鳥の群れが、産毛を撒き散らしながらせわしなく空に消えて行く。
 有るか無しかの風に吹かれて、舞い落ちる──羽根。
 何気なく、手を伸ばして、揺らめき落ちる白いそれを受け止めようとした。
 もう少しで、掌に落ち着く所まで来たそれは、けれど気紛れな動きで、その手を避けるかのように、螺旋を描いて、指先を掠め、地に向かう。
「…あ…」
 何故だか、酷く残念に思えて、まるでその手に触れる事を拒絶されたように感じて、青年は伏せ目勝ちに、己の掌を見る。
 日に焼け難い体質の為、いっそ病的に白いその手は、かつて真紅に染められた。
 愛した人を奪われ、自分でも制御できない狂気に駆られた結果だった。
 過去にするには余りに近い日の出来事で、まだ生々しく濡れた感触も、その色合いもはっきりと思い出せる。
 白い。
 白いその掌を見つめていると、また目の奥がシクシクと痛み出した。
 けれど、青年は今度は目を閉じる事もなく、ただぼんやりとその掌を見ていた。
(…拙いな…)
 リー…と、か細く虫の声に似た音が、耳の奥から聞こえ始めた。
 こんなに晴れているのに。
 耳鳴りが、雨音を連れて来る。
「…っ」
 秀麗な眉が寄る。
 白い掌を染める紅い色が、幻だと解っているのに…
 トクリトクリと鼓動が早くなる。
 目を、閉じなければと思うのに。
 街のざわめきも、浅い呼吸と、心臓の音と、耳障りな雨の幻聴に掻き消されて、意識が記憶の中の闇に引き摺り込まれて行く。
 だって、掌が、こんなに紅くて。
 死人と、まだようように息のある人々の呻きが微かに聞こえてきて、道行く人々も、ホラ。恨みと、憎しみと、嘲りの篭もった罪人を見る目で自分を見ている。
 それは、あの日の死者の目と同じ目で──
(──違う)
 違うと、繰り返しても、それを幻と解っていても、訪れた闇に抗う事も出来なくて、全身が、小刻みに震えるのを止められない。
 開いたままの瞳は乾いて、どんどん視界が奪われて行って、変わりにあの日の記憶が滲み出ては、辺りの様子を書き換えて行く。
 止まらない。
 一度、落ち始めると、それは坂道を転げ落ちるのに似ていて、どんどん加速して行く。
「〜〜っっ」
──ねぇ、悟能──
 血濡れた指の隙間から覗く、懐かしい人。
 変わらぬ姿で、笑っている。
──ね。
「悟能」
 耳元に聞こえた、強い声と共に、視界が暗転する。
「………ぁ…」
 両の目を覆うように、暖かな物が押し付けられる。
「…大丈夫だから」
 少し幼さの残る、けれども力強い声に促されるように、漸くゆっくりと瞬きをする。
 数回、落ち着けるように深く呼吸を繰り返して、震える喉から声を搾り出す。
「…悟空…さん?」
 背後から、自分の両目を覆う暖かな手に、そっと手を添える。
「うん」
 緩く手が離れて、今度は耳が塞がれる。
 温かな掌の内側を流れる力強い血流の音。
 死と雨音に侵された鼓膜が、漸く取り込んだ、生きた音。
 柔らかく、鼓動が落ち着いて行く。
 確かめるように、またその手にそっと触れた。
 すると──
「っ…悟空さん?」
 幾分小さな手が、けれども強く自分の手を握り締める。
「帰ろうな?」
 驚いて振り返ると、満面の笑みを浮かべた少年が、誇らしげに悟能の右手に、自分の左手の指を絡めていた。
 優しい温もりに、促されるように立ち上がった悟能の手を、遠慮なく引いて悟空は歩き出す。
 自分より頭一つ分背の低い少年に手を引かれて歩くのは、いかにも気恥ずかしくて、僅かに頬を染めながら彷徨わせた視線の先で、長く伸びた悟空の髪に絡んで揺れる白い羽毛を見つけて、悟能はほんの少し、目を見開いて、それから、穏やかな笑みを浮かべた。
「…何?」
 気配を察したのか振り返った悟空に『いえ』と、小さく首を降って、その白い羽根をそっと指に取る。
 気紛れな風が、柔らかなそれを宙に運ぶ。
 ひらりと舞い上がり、ゆらゆらと落ちてくるそれを、二人は目で追う。
「…キレーだな」
「そうですね」
 柔らかな笑顔のまま、悟能は頷いた。
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  ★言い逃れ★
八会発足記念&入会記念に書かせていただきました。
Σ(ー□ー;)
って、何も記念っぽくないですね。(^^;)
その上、悟空×悟能なんてマイナー極まりない組み合わせで…(吐血)
一応、まだ斜陽殿にいる頃で、外出許可を貰って町に出ている悟能って感じなんですけれど…って、説明しなきゃ解らないのもどうよ?
だから、悟空の「帰ろう」って言った場所は斜陽殿です。はい。
 
2002.03.22 鬼灯
 
 
*『八会』管理人:安純*
 
有難うございます〜〜〜(*^▽^*)
発足+入会記念……殺風景な我が家(笑)が潤いましたvv
悟空×悟能……やっぱマイナーですかね??安純けっこうマイナーカップルも好きなんですけどね(^^ゞ
当時の2人が浮かんできますね〜〜〜v
本当に有難うございました<(_ _)>

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