宵の月明かり


「うわぁ・・綺麗な月だね〜・・ねぇ、そう思わないかい?蛇神くん」

時刻は夜も遅く。
町の外れの大きな寺、蛇神の家に向かう途中。
「ねぇ・・?」
いつもよりも甘い声で蛇神に同意を求める。
今は羊谷宅で催された酒盛りの帰り。
すっかり呑まされて、牛尾はかなり酔っていた。
「そうだな・・」
蛇神は牛尾を背負って、ゆっくりと歩いている。
「綺麗だよねぇ・・」

「・・・・・」
蛇神は羊谷が執拗なまでに牛尾に酒を呑ませたことが気に入らず、
途中で牛尾を抱えて席を立ち、帰ってきた。
「月が好きか」
「・・・・うん・・?」
「我は好きか」
「・・・・好きだよ?」
酒で赤い牛尾の顔は、さらに赤くなる。
「牛尾も我を好いておるのなら、名で呼ぶといい」
「・・・尊、って?」
「そう也。我も主を名で呼びたい」
いきなり呼んでくれてもいいのに、と牛尾は少し笑った。
「御門はなかなか我のみと話すことはないからな」
でも今は背中に牛尾はいる。
蛇神にとって何にも変えられない至福の時間。

蛇神の家に牛尾が来たのは久しぶりだった。
部活をやっていると遠い蛇神の家までくるのは無理なのだ。
「着いたぞ」
自分の住む離れに着くなり、眠ってしまった牛尾を起こそうとした。
しかし、酒が入り寝ている牛尾はピクリとも動かない。
「・・・寝かせておくべきか」
蛇神は1人納得し、靴だけ脱がせるとそのまま抱えて部屋へと入っていった。
部屋の隅に畳んである布団を広げ、そこに牛尾を寝かせた。
スースーと寝息をたてている牛尾を横目に、蛇神は畳に寝転がった。
灯り一つ付いていない真っ暗な部屋に、障子を通り越して月明かりが差している。
「綺麗な月・・、か」
そう呟くとフッと目を閉じた。


いくら時間が経っただろう。蛇神は薄らと目を開いた。
畳で寝たはずの身体に暖を感じたからだった。
「まだ夜だよ・・ゴメン、起こしたかい?」
「・・いやそれはよいが・・御門こそ寝ていたのではないのか?」
「何か目が覚めたんだ。そしたら・・尊が畳で寝てたから」
牛尾は上半身を起こす格好で、蛇神に掛け布団だけでもかけようとしていたらしい。
「そんなことを気にする必要はない也」
僕は気にするよ・・と愛らしい瞳で囁くと入りなよと、布団を少し持ち上げた。
「まだ酔っているのか?」
わざと反対を向くように寝転がった。
「もう・・・酔ってないよ」
「そうとも思えん。普段の御門はそんなことしない也」
「・・そんなこと?」
ずっと前から牛尾を大切に思っていた。
「いつもなら触られるのすらも嫌がるのに、布団に入れとは」
羊谷に嫉妬もした。
「やだなぁ・・別に変な意味はないよ・・?」
「我は御門が好き也。きっと布団なぞに入ったら我は我を抑えられなくなる」
「え・・?」
静かに寝るがいい、と促しそのまま牛尾の方は向かなかった。

音一つない、静かな部屋に二人の気配だけが満ちる。

「ねぇ?」
「・・・・何也」
牛尾の声はまだ、何気なく甘い気がする。
「・・何か怒ってる?」
微妙な空気を読んだ牛尾は、蛇神へ声をかける。
「御門へではないが・・少々な」
「・・どうして怒ってるの?」
牛尾は蛇神の背中を見つめている。
「・・昨日野球部の皆で、酌をしたのは覚えておるのか?」
「野球部で、飲酒?」
信じられない、と目を開いたが実際に牛尾自身も頭が痛かった。
だが自分から呑んだ記憶は蘇ってはこない。
「監督の開いた宴也。容易に想像できよう?」
蛇神には昨日の呑まされている牛尾が目に浮かび、また少し歯痒い。
「・・その席であまりに御門が監督に呑まされてな。
 それが気に食わなかったゆえ、御門を連れて帰ってきた也」
「・・だから怒ってた?」
「そう也。心が狭いと思うか?・・・そのくらいの事で怒るとは」
「・・僕のために監督に嫉妬してくれたの・・?」
蛇神はフッと笑ってまた続ける。
「我の我侭也・・・それに貴奴は・・誰にでも手が早いとも聞くゆえ、
 どうしてもあのまま御門を放ることなどはできなかった也」
そういうと蛇神はやっと牛尾の方を向いた。
本当に嫌だったという表れなのか、蛇神は眼を開いて牛尾をじっと見た。

見つめられると動けない、細く冷たく、厳しい眼。

それが好きだと思う。
それが嫌いだと思う。

牛尾はそのうちに酒とはまた違う昂揚感に襲われたが、それを必死に隠し呟いた。
「なんだか・・嬉しいな。そんなに思ってもらえると」
「それは当然の事・・我は御門の事に関しては決して己を曲げぬ」
蛇神の口端が緩く上がり、冷たくも笑っているようだった。
牛尾以外にはきっと、それが笑顔だとは気付かないくらいの変化。

「・・・月が・・綺麗だね」


月の光は徐々に傾いてきていた。
さっきよりもだいぶん低い位置にあるようで。
蛇神は壁に凭れる状態に身体を起こした。
「・・そうだな」
蛇神がそう喋ったかと思ったら。牛尾はもう蛇神の腕の中にいた。
「!?」

「御門・・愛している也」

突然何の躊躇いもなく、蛇神の口を出てきた言葉。
少し前に告白された時も同じように抱きしめられた。

「ど・・どうしたの、また・・突然・・」
牛尾は耳まで赤くなる。誰も見てはいないのに、恥ずかしくてしょうがない。
「言ってみたかっただけ也。しかし昨日は真、不安だった・・」
そのまま何をするでもなく、ギュッと強く抱きしめられた。


月はヒカリ、踊り、宵の中に日は沈む。



end

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つーかこのまま裏に続きますか!?(をぃ)
多分続きますが。・・あぁ自分どっか逝け。
ホントに全く・・蛇牛を書くと甘々になります。
私が書く蛇様は独占欲がお強いようで・・・。嫉妬しまくりです(くは)。

これは夏に参加するどっかのコミケに出す本(しかも初、そしてコピ本/汗)の元原稿の予定で、
いつもはストーリーが捻じ曲がるので今回は話を先に書いてみました。
そこまではよいとして、私の画力でどうやってこれコマ割するんだ!
どうマンガに仕立て上げるんだ!!(逃亡)
今必死にネーム切ってます。
どうなる・・夏

最後になりましたが、ご拝読ありがとうございました。

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