●レビュー「DAWN OF THE DEAD」








(あらすじ)
大変だ、ゾンビが街にあふれちゃった。
テレビ局のカップルとSWAT隊員二人は4人でヘリに乗って逃げ出したよ。
ついた先はショッピングセンター。
屋上からショッピングセンターに入った4人は、ゾンビがいない安全なお部屋を発見。
とりあえず一安心だ。
でもショッピングセンターの中にはゾンビがいっぱい。
4人は協力して入り口を閉鎖し、外部からのゾンビの侵入を全てシャットアウト。
中に残ってたゾンビは皆殺しにして、安全なショッピングセンターを手に入れたよ。
この作業中に一人ゾンビに噛まれて死んじゃったけど、とにかく残り3人はショッピングセンター内の豊富な物品のおかげで結構贅沢に暮らしてたんだ。
しかし、あるとき、武装した強盗団がショッピングセンターを襲って、せっかく完全閉鎖してたショッピングセンターにゾンビがわらわら入って来たよ。
強盗団との戦いで傷付いたカップル(♂)はゾンビに食われて、SWATとカップル(♀)はショッピングセンターを放棄してヘリで逃げ出しておしまい。

(レビュー)
この作品のテーマは一般的には「大量消費社会への批判」といわれています。
しかし、僕にはその意味するところが良く分かりません。
むしろこの作品からは別のメッセージ(?)を受け取りました。

この作品でいちばんビックリなのは、ゾンビがゴミのように弱いことです。
この作品のSWAT隊員は、不意をつかれない限り1対1で負けることはありません。
銃を持ってれば圧勝、鈍器や刃物であってもほぼ完勝、素手で出くわしても逃げるだけなら簡単です。
いかんせん相手は数が多いので、その点は確かに脅威ですが、しかし、なんともならない圧倒的なモンスターというわけではないのです。
現に彼らは、入り口を封鎖するなど知恵を用いて、ゾンビの侵入を抑えることに成功しています。

さて。
この状況は何かに似てはいないでしょうか?
僕はこの状況を「自然に対する人間の姿」と捉えました。
すなわち、確かに人間を害するゾンビの存在は脅威ですが、なんとかならない相手ではありません。
要はライオンみたいなものです。
ライオンは確かに脅威ですが、柵で囲うなりしてその脅威を軽減し安全を確保することができます。

最初、ショッピングセンターに安全な一室を見つけた彼ら4人は、いわば野生動物の跋扈する大自然の中で、たまたま動物の寄りつかない洞穴を見つけた状態です。
そこで、彼らは「下のショッピングセンターには物品がいろいろあるから、ゾンビがたくさんいて危険だけど取りに行こう」と考えます。
いわば野生動物の危険性を承知の上で、洞穴を出て果物などを採集しようとしてるのと同じです。
そして、首尾良くお宝をゲットした彼らは、今度はそのお宝がある場所の安全を確保しようとします。
つまり、野生動物の危険性を排除して、そこにある果物を食べながら安全に暮らそう、という考えです。
そして、人類は実際にそうしてきました。
人間は知恵を出し合い、勇気を奮って互いに協力するならば、自然を征服し、安全と食料を確保することが可能なのです。

しかし、そこに出てくるのが悪意ある人間、強盗団です。
人間は知恵によりゾンビから身を守るバリケードを築きましたが、同様に強盗団は知恵をもって、そのバリケードを破るのです。
人間は知恵と協力により安全を確保したのに、同じく人間の知恵と協力により危機にさらされるのです。
本来恐るべきモンスターであるはずのゾンビは、人間の悪意の結果やっと主人公を襲えたに過ぎません。

だから、僕が受け取ったメッセージは、月並みな表現をするならば「本当の脅威は同じ人間」ということなのですが、こう書いてしまうとこの映画はあまり面白くなさそうです。
この映画の面白さはこのメッセージ自体よりも、「自然の脅威に晒されることになった人間がどのようにして安全を確保していったか」という人類の歴史をシンプルに凝縮したところ、ならびに、命がけで手に入れた平和が同じ人間の悪意により破壊される悲劇的カタルシスにあると思うのです。
だからこの映画には、単に人をびっくりさせるだけのホラー映画ではなく、それ以上のものが描かれていると思います。
単に人をびっくりさせるだけのホラー映画も僕は大好きですが、それは勧められる人が限られてしまいます。
でも「DAWN GF THE DEAD」はみんなも見てもいいんじゃないかな。


(補足)
「DAWN OF THE DEAD」には訳がわからないほどたくさんのバージョンが出ています。
僕が見たのはたぶん上のリンクにもある米国劇場公開版かと思いますが、もしかしたらディレクターズカット版かもしれないです。
あと、ダリオアルジェント監修版というのもあって、これだと「大量消費社会への批判」というニュアンスが強調されています。このバージョンは音楽がすごくカッコイイ。
ちなみに、最近同じ名前でリメイクが作られており大変紛らわしいので注意してください。
見分け方は監督の名前で、監督がジョージ・A・ロメロならここで述べている「DAWN〜」で、監督がザック・スナイダーならリメイクの「DAWN〜」です。
あと、ロメロのゾンビは走らずヨタヨタ歩きます(だから弱い)が、リメイクのゾンビはめちゃめちゃ疾走します。
このリメイクはまあ面白いことは面白いです。そんなに不出来じゃありません。
でも、上記で僕が書いているようなメッセージというかそういうのは全く受け取れなくなってるので、個人的には「DAWN〜」の続編って感じはしてません。けどまあそれなりに面白いです。
ちなみに走るゾンビといえば、トレインスポッティングの監督が作った「28日後」という作品がたぶん先で「ゾンビが走るの!?」ということで話題を集めた記憶があります。
28日後は前半まで面白いんですけど、途中から軍隊の基地に移動してからはゾンビがほとんど関係なくなっちゃって、そこで描かれる人間模様も面白くなく微妙な作品でした。
とはいえ、ゾンビ映画は「チルドレン・オブ・ザ・デッド」とかホントに酷いのもあるので、それに比べれば28日後も秀作といえます。
さらにいえば、「チルドレン〜」は特殊メイク担当のトム・サヴーニが演じているのが唯一のポイントなので、この点だけをチェックするために見るというなら止めません。
トム・サビーニは何気に目立ちたがり屋みたいで、「ランド・オブ・ザ・デッド」でもゾンビ役で出ててめちゃくちゃ嬉しそうに人殺してますよ。



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