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名探偵エルキュール・ポワロでお馴染みのアガサ・クリスティの推理小説。頭文字がA(アリス)、B(ベッティ)、C(チャーストン)…の順に予告状通りに殺されていく。この予告状が単なる愉快犯の仕業ではなく、十分な意味と整合性のあるもので、謎解きの後では誰もがその意義を溜飲するだろう。非常にクオリティの高い一編。だが、ホームズにしろポワロにしろ、相方をバカだアホだと罵ること甚だしく、読んでいて胸糞悪くなる。英国の探偵は性根が腐っていると思う。 |
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探偵神津恭介シリーズ第1弾。一見、密室モノ。探偵が出てくるまでがとにかく長い。中学生の頃に読んだので細部は覚えていないが、当時衝撃的だったのが神津恭介の次のような台詞で、「こんなトリックはいつか見破られる。犯人はそこまで計算している」というもの。密室トリックは“当然“見破られる、という見識。考えてみれば当り前で、仕掛けがあってそれが人の作ったものなら必ず誰かが見破れる。密室を作ったからといって犯人は全然安泰じゃない。密室トリックが見破られることを前提に、さらなる心理的トリックが構成された小説。 |
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アガサ・クリスティの素晴らしい作品。島に招待された10人の人たちが、童謡「10人のインディアン」の歌詞に乗せ、少しずつ殺されていくお話。非常にドラマティックで、躍動感のある物語で、まったく退屈せずに読むことができるだろう。しかし、何にも増して素晴らしいのは、この小説には名探偵が出てこないことで、ポワロの毒舌に耐えられない人も安心してこの書を楽しむことができる。 |
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谷崎潤一郎の犯罪小説集。犯罪を扱った短編集で、探偵小説とは少し趣きを異にする。「柳湯の事件」「途上」「私」などはどれも実験的で、「白昼鬼語」は比較的探偵小説風味であるが、オチはやはり捻ってある。有名なのは「途上」に出てくるプロバビリティの犯罪で、これはある意味、理想的な完全犯罪と言えるかもしれない。江戸川乱歩が「途上」に影響を受け、「赤い部屋」を書いたことでも知られている。 |
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アホバカミステリ。作者いわく「人によっては腹が立って本書を投げ捨てるかもしれない」とのことだが、嘘いつわりなく本当に酷い作品。ユーモアに溢れたミステリ短編集を目指していることは良く分かるが、いかんせん一つ一つが推理クイズの域を脱しておらず、文章にも品がない。ユーモアも下ネタばかりなのは困った。気軽に読める軽い作品を書くのはいいけれど、もうちょっとくらい文章に格調があってもいいんじゃないだろうか。 |
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京極シリーズ第1弾で、京極夏彦のデビュー作。京極シリーズにしては飛びぬけて短く、なんと、たったの600Pしかない。二十箇月以上妊娠しつづける娘と、密室から失踪したその夫、呪われた産婦人科の呪いを解く妖怪小説。しかし、結末はオカルトではなく、京極は常に科学的に呪いを解体する。この作品も、呪いは最終的に科学的解決を見るのだが……。しかし、あの結末は作者が意図し、繰り返した程には、読者を納得させるものではなかったと思う。本作のキーワードは「脳」。 |
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《オススメ》京極シリーズ第2弾。ハコにまつわるお話。バラバラ連続殺人事件に怪しい新興宗教、不可解な医療研究所などが絡む妖怪小説。京極シリーズは毎回終盤にばたばたと人が死んでゆく展開の濃さに胃もたれしそうになるが、魍魎は本書のアイドル加菜子に関するとっておきのネタがラストまで控えているため、それのお陰で全ての鬱屈が拭われた気がする。とにかく、その「とっておき」は素晴らしく、喩えようも無い悪魔的な魅力を秘めており、異常な読後感を覚えるだろう。本作のキーワードは「境」。 |
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京極シリーズ第3弾。心理学と立川流についての叙述が豊富な妖怪小説。日本神話も関係してくる。心理学と宗教に関する薀蓄が多いため(本書に限ったことではないが、京極シリーズは薀蓄が多い)、人によっては辛いかもしれない。また、前二作と異なり、犯罪の影に歴史的な問題が絡むため、推理して楽しむことは放棄した方が良いだろう。押し寄せる薀蓄と、それにより顕になる事件の容貌を受け止め、楽しむ類のものと割りきろう。キーワードは「骨」。 |
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京極シリーズ第4弾。雪深い箱根山中の独立寺院で起こった連続僧侶殺人事件を解く。不自然な死に方を続ける僧侶たち。この作品で何よりも分からないのはトリックや真犯人ではなく、僧たちの思考。宗教空間という異世界の解体がメインとなっている。また、「禅」と「悟り」について随分と紙幅を費やしており、(どこまで信用していいのかは置いておいて)「悟り」の概要を何となく理解できるのではないだろうか。あまりスッキリした終わり方ではないが、読んでるときはとにかく楽しい。キーワードは「禅」。 |
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《オススメ》京極シリーズ第5弾。作品全体の構造が素晴らしい逸品。題名の妙。連続殺人の多重構造という美麗なプロットを蜘蛛の縦糸と横糸になぞらえ、その中心で糸を引く者を絡新婦(じょろうぐも)、そして蜘蛛の引く糸の連鎖を理(ことわり)と呼ぶ。併せて「絡新婦の理(じょろうぐものことわり)」。題名が全てを現した名作。それまでの作品と比べても構造の複雑さは飛び抜けて甚だしいが、薀蓄は比較的軽め。キーワードは「網」か?ちなみに、京極シリーズは登場人物が微妙に繋がっているので、1作目から順に読まないとネタバレに苦しむ。 |