●空虚の解析(前編) |
では、堀部健和先生の神撫手はどうしてこうも空虚なのでしょう。 僕が考えるに、それは多層的に配置された知欠ポイントによるものでしょう(矛盾点などのクソ漫画要素を便宜上「知欠ポイント」と呼ぶことにします)。 神撫手はまず表層的な知欠ポイントを毎週配置することで、読者を知欠ポイントへと誘導します(もちろん堀部先生は意識していないと思います)。 そして、読者に知欠ポイントの存在をしっかりと認識させ、それを発見する下ごしらえを整えたところで、今度はより致命的かつ破壊的な、ストーリーそれ自体を台無しにする知欠ポイントを配置するのです(やはり堀部先生は意識していません)。 知欠ポイントの発見のし易さとストーリーに対する打撃力は反比例であるわけです。 よって、僕は神撫手における知欠ポイントを3つの段階(レベル)に分けて検証していく必要があると考えます。 下位レベルの知欠ポイントは「作者頭悪いなあ」とせせら笑うに止まり、ストーリー自体を台無しにするほどの破壊力は持ちません。 この程度のものなら神撫手にはたくさんありますし、他の漫画にだってあります。 しかし、神撫手の優れた点はそれらの下位知欠ポイントを数多く配置することで、作品のクオリティを常に低いままに保ち物語の土台をガタガタにするだけでなく、中位の知欠ポイントを投入することでストーリーに大打撃を与え、さらに上位知欠ポイントにより作品を壊滅にまで追い込んだことです。 ここで、論を進める上での便宜上、神撫手(全2巻)の内容を整理してみたいと思います。 1、神の御手 2、切り札 3、少女 4、標 5、剣士 6、北斎の眼 7、開眼 8、欠片 9、依頼者 10、引導 11、面影 12、宿命 13、神無手 全13話です。 最小単位である1話ごとに現れた知欠ポイントを下位知欠ポイントとします。 下位知欠ポイントは、それ単独ではただの知欠描写であり、作品それ自体を揺るがす力はありません。 その影響力は1話のうちに留まるものであり、それ以降のストーリーに影響は及ぼしません。 また、この程度のミスは見逃してもいいんじゃないか、というものもあります。 ですが、この下位知欠ポイントの豊富さが、神撫手という作品を骨抜きにし、物語を薄っぺらくする大切な要素なのです。まさに縁の下の力持ちといった存在でしょう。 次に、この13話をシリーズごとに分けて考えます。 1〜3話は怪盗編です。ここで設定が一通り提示され、ならびに楓花が登場します。 4〜8話は蒼眼の登場により、能力者バトル蒼眼編となります。 そして、9〜10話がもっとも壊滅的であり、もっとも混迷の色合い強いミステリー編です。 最後の11〜13話が再び能力者バトル編です。能力者バトル春栄編と呼びましょうか。 上記のように神撫手は4つのシリーズに分けることができます。 そして、この1シリーズごとに大打撃を与えた知欠ポイントを中位知欠ポイントと定義します。 下位知欠ポイントと中位知欠ポイントの違いは、下位知欠ポイントが「単に頭の悪い描写」であり、ストーリーそれ自体は(骨抜きにはするものの)さほど影響を受けないものであるのに対し、中位知欠ポイントはシリーズ単位でストーリーが破壊され、「このシリーズ要らないんじゃん?」と読者に思わせる打撃力を秘めていることです。 この中位知欠ポイントはミステリー編では明らかに確認することができますし、能力者バトル春栄編でも、それらしきものを確認しています。 下位知欠ポイントの中にも中位知欠ポイントと判断し辛いものがあるとは思いますが、これは便宜的な分類法であることを前提に、僕の主観的判断によるものだということでご了承下さい。 最後に挙げるのが上位知欠ポイントです。 これは神撫手という物語そのものを破滅に導く、致命的な知欠ポイントです。 1話単位、シリーズ単位以上に、複数話、複数シリーズにまたがり展開されている知欠ポイントであり、それらを総合した時に神撫手という物語が根底から崩れ落ちるようにセットされています(堀部先生にはそのつもりはないでしょうが)。 これは今のところ1つしか発見されておりません。 概念的で曖昧な表現になりますが、神撫手における物語破壊の要素をもう一度段階的に提示いたします。 まず、読者は毎週の神撫手において下位知欠ポイントを発見します。 これは誰にでも分かる明白な知欠描写なので、すぐに目が付くところです。 読者は繰り返し下位知欠ポイントを発見することで、神撫手に対し「どうも納得できない」「中身がスカスカな感じがする」「つまらない」といった感情・イメージを熟成していきます。 ボクシングで例えればボディブローです。 実質的には、この時点で既に物語は十分に壊れていますが、しかし、ここまでの壊れ方であれば、それは一般的なクソ漫画の範疇であり、特記するほどのものではありません。 次に少し注意深く読みこんだ読者は中位知欠ポイントを発見します。 繰り返される下位知欠ポイントにより読者は神撫手が虫食い漫画であることを認識していますが、中位知欠ポイントにより物語は虫に食われたどころの話ではなく、ぽっかりと大きな穴を空けられることになります。 シリーズ単位で穴が空くのですから、物語全体に及ぼす影響力は言うまでもありません。 ボクシングで例えれば必殺の右ストレートです。 最後に発見されるのが上位知欠ポイントです。 これを発見した時には「神撫手という物語には一体何の意味があったんだろう」と思うことでしょう。 最も基本的な土台が上位知欠ポイントにより、半壊(人によっては全壊)してしまうのですから。 ボクシングで例えれば、対戦相手が腹にダイナマイトを巻きつけて自爆したようなものです。 では、次から具体的な下位・中位・上位知欠ポイントを見ていきましょう。 →空虚の解析(中編) |
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