●国





僕は自分がバンドをしているということもあり、よくインディーズのライブに行くんですが、残念ながらインディーズのバンドというのはそれほど楽しいものばかりじゃないです。
心から感動して見れるものは20に1つくらい。それなりに楽しめるのは10に1つ。まあ不快ではない、というのが5つに1つくらい。酷すぎて笑えるのが30に1つですね(苦笑)

国は僕が心から感動した数少ないバンドの一つで、バンドのアンケートによくある「好きなバンド」のところにはA2と並んで必ず書いています。今回は国のライブを振り返って簡単に思い出を書いてみます。


僕が初めて国のライブを見たのは去年(2000年)の9月か10月くらいでした。
国はネット上のメン募で知り合った狩生健志さんという人のバンドなのです。
ライブは荻窪の公民館?みたいなところで行われていました。
ライブといってもライブハウスのような設備があるわけではなく、音楽室らしきところで設備といえばアンプがひとつとマイクがいくつか置いてあるだけでした。おそらく地域の合唱団などが練習で使う部屋なのでしょう。
こんなところでライブが出来るのか?それまで普通のライブハウスでしかライブを見たことのなかった僕には新鮮でした。

また、客層も普通とは大きく違いました。僕たちヴィジュアル系のライブではお客さんはほとんどが可愛く着飾った少女たちです。ですがそこにいたのは、ものすごい破れ方をしているジーパンをはき、これまた原型をかろうじてとどめているにすぎない程に破れたTシャツを着た、髪など何日に一度洗っているのだろうか、という想像を絶する風貌の男だったのです。
(あとから分かったことですが、この人はカニバリズムガンジーバンドというバンドの人で、そのライブを見た後ではこれはファッションであり、パフォーマンスなのだと理解しました)

僕はいささかの戸惑いを覚えながらも会場に入りました。
断片的な単語を語りながら麦茶を振舞うバンド、電ノコで石を斬って火花を出すバンドのあとが国でした。

まずは狩生さんが出てきました。
入念にギターのチューニングをしたあと、今度はおもむろにドラムを叩き始めました。
それまでのバンドが音楽をまったくやっていなかったので、まさか今日は音楽はないだろう、と思っていたのでこれには少し僕も驚きました。

そして、どうやら転換が終わり、これから演奏が始まるようです。
部屋が少し暗くなりました。
すると、狩生さんともう一人(いかにもラップないでたちの人)が部屋中をノソノソと歩き回ります。
何かの儀式だろうかと、見守っていると、急に軽やかな80年代風ダンスミュージックが始まりました。どうやらカラオケのテープを流しているようです。
すると突然、狩生さんがマイクを掴み、物凄いテンションで歌いだしました。その歌い方は、あらん限りの声を張り上げ、怒声に等しい勢いで荒々しく声を吐きつけるというもので、声を美しく聴かせる、メロディを軽やかに表現する、などといったボーカルの基本的なあり方とは全く異質なものでした。喩えるなら、すっかりできあがった部長が3次会のカラオケで「 Be Together」を酔いに任せて歌っているかのようです。そして、あれだけチューニングをしていたギターには手も触れないのです!

また、もう一人のラップな人は、曲の雰囲気や構成を顧みることなく一人ラップを吐き続けます。
そのうちに車椅子に乗った青年が現れ、二人の間を縫うように、たまにぶつかりながら、暴れ出します。
曲で歌の入らないところは狩生さんが突然MCをはじめ、歌が始まるとMCを途中で打ち切ってまた歌いだします。ラップの人は歌とかMCとか関係なく常にラップを吐いています。

それが4曲ほどノンストップで続いたでしょうか。
ふと気づくとステージには狩生さんしかいません。
狩生さんはおもむろにギターを手にとります。
そして、何かのコピーをすると言い出します。ここまでやっといて今さら普通に音楽をするのか?と思っていたら、次の瞬間、狩生さんは狂ったようにギターをかきならしながら身をもだえ回転し、倒れました。
そのまま暴れつづけ、5秒ほどでシールドが抜け音が出なくなると、またMCに入り、次は別のコピーをやると言い出します。何のコピーかは聞き取れませんでしたが、その次も全く同じことをしました。それが3度くらい続いてライブは幕を閉じました。


約20分程度の短いライブでしたが、その間に幾度もの衝撃に襲われました。
結局ライブ前にあれだけ叩いていたドラムには手も触れませんでしたし、ライブ中に配っていたビラもさっぱり意味がわかりません。
キャッチーかつ理不尽、国の魅力は二つの相反する魅力を備えていることだ、といえるでしょう。


なお、狩生さんは狩生ランドという自主レーベルからアルバム(テープ)を幾つか出しています。
狩生さんのページで試聴などしてみてください。僕は「恋のテレポーテーション」「風呂場ブルース」などが好きです。



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