●『君主論』研究_第八章





『極悪非道によって君主の座に達した者たちについて』

私人から君主に成り上がる方法――自己の軍備と力量により(6)
                       他者の軍備と力量により(7)
                       極悪非道によって(8)
                       市民による君主制によって(9)

・極悪非道により君主となった2つの実例

シチリアのアガートクレ

一市民から軍事司令官まで自力で昇進した後、機を見計らって一度の機会に元老議員、ならびに最も富裕な民衆たちを一斉に殺害し、君主の座を奪った。

マキャベリはアガートクレの自力での昇進、かつ君主となって以降の外敵からの防衛手腕を評価しながらも、「自分の同朋である市民を殺害し、友人を裏切り、信義を欠き、慈悲心を欠き、宗教心を欠いた行動を力量と呼ぶわけにはいかない」「権力を獲得することはできても、栄光は獲得できない」としている。

フェルモのリヴェロット

育ての親である伯父、ならびにフェルモの重要人物を騙まし討ちで一斉に殺害し、当時は共和制だったフェルモの最高行政府を包囲した。君主となった後は、不満を抱き危害を加える恐れのあるものを一人残らず殺し、新しい民事・軍事制度で体制を補強した。

マキャベリはリヴェロットに関しては何も言及していないが、おそらくアガートクレに対してと同じ評価をしていると思われる。


・極悪非道の正しい用い方

「政権の安定をはかる必要上、一挙になされた場合であり、その後はいつまでもこだわらずに、可能なかぎり臣民に役立つことへと事態が転換された場合」

このように「正しい極悪非道」を用いる場合は、しなければならない極悪非道を全て仔細に検討し、全てを一挙に実行に移さなければならないという。そして、必要な極悪非道を一度にやってしまった後は、その後は繰り返さないことによって人々を安心させ、恩恵を施し手懐けねばならない。加害行為はなるべく少なく済むように一度に終えてしまい、逆に恩恵は少しずつ与えていかねばならない。


・極悪非道の間違った用い方

「初めのうちはわずかな残虐であったのが、時と共に消えるどころかそれが募っていってしまう場合」

必要な極悪非道を十分に検討しなかったため、もしくは臆病により一度に極悪非道を全て行えなかった場合は、長く絶え間ない迫害を行うことになり、臣民は君主に気を許さなくなる。


第八章のまとめ

正しい極悪非道⇒必要な極悪非道を一挙に全てやってしまい、その後は臣民に長い時間をかけて恩恵を施す
良くない極悪非道⇒必要な極悪非道を一度に行ってしまわず、長い時間臣民を苦しめる

マキャベリはアガートクレの業績を極悪非道ゆえに認めない方向だが、ボルジアの謀略とアガートクレの極悪非道の何が違うのか、私には良く分からない。さらに、最後には「正しい極悪非道」のやり方も示しており、マキャベリがどこまで極悪非道を許容しているのか(もしくは許容していないのか)良く分からない。やはり、極悪非道であることはgoodではないとしながらも、現実にはそういう事態が避けられない時もあることを考慮しての記述なのだろうか。



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