●『君主論』研究_第二〇章





『城砦その他、君主が日々、政体の維持のために、行っていることは、役に立つのか否か』
〔第二〇章では、市民を軍隊に組み込むこと、分断工作、かつての敵を味方にすること、城砦の扱い方、などの政策について言及されている〕

テーマ1:「市民を軍隊に組み込むことについて」

《まったくの新しい君主の場合》

・市民を軍隊に組み込む(市民を歩兵隊にする)ことはOK
(メリット)
1、軍備を得ることができる
2、疑心を抱いていた連中も忠実になる ※1
3、忠実だったものはそのまま忠実な軍備に
4、歩兵にしてない他の市民を安心して統治できる ※2
5、歩兵になった人達は、いわば侍階級になったわけなので君主に恩義を感じる

※1
これはなぜ疑心を抱いていた連中が忠実になるのか、良く意味が分からないが、5に関連したこと理由からかと思われる
※2
軍備を得て力をつけたから、程度の意味か?

・逆に市民を軍隊にしなかった場合は…
1、自分たちは兵士にできないヘタレである、君主から侮られている、と思い、市民が憎悪を抱く
2、代わりに傭兵を雇うことになるが、前述の通り、傭兵は役立たずなのでダメ。


《新しい政体を獲得して、付け加えた場合》

獲得の際に自分を支持した者たちを除き、武装を解除する必要がある。また、自分を支持した者たちも時間をかけて勢力を弱め、骨抜きにしなければならない。最終的には自分の持っている全政体の軍備を、本来の自分の兵士達と一体化するよう組織を整えなければならない。※3

※3
ここで述べられている、新しく獲得した政体における軍備を自分の軍備と一体化させるプロセス、は説明がないため、いまいち想像し辛い。


テーマ2:「分断工作について」

分断工作した都市は外敵が近づいてくると、あっさり失われてしまうので良くない。平和な時には効果はあるが、戦争になると弱い。

例)「フィレンツェ人によるピストイアの分断工作」「ヴェネツィア人による分断工作」

ここでいう分断工作とは、新しく獲得した政体の中に、複数の党派を作り、それらを戦わせる(内部分裂させる)ことで、彼らの上位にある支配者(フィレンツェ人、ヴェネツィア人)に対し、彼らが一致団結して反抗しないようにするものと思われる。こういった工作は、確かに支配者の支配を容易にするかもしれないが、外敵が近づいてきた時には脆くなる。内部で弱い方の党派は外敵と結びつき、強い方の党派も、外敵と一緒になった弱い方の党派の攻撃には耐えられないから。
マキャベリの論調からすると、おそらく「分断工作はよくない」という考えだと思うが、一応分断工作にも若干のメリットがあるため、「分断工作はダメ!」と断言しているという感じではない。少なくとも君主論を書いたその当時の状況では、分断工作は良い選択肢ではないようだが。この後に続く一段落(P158末からの一段落)は何を言いたいのか意味不明で困る。


テーマ3:「かつて自分に疑心を持っていた人達を味方にすることについて」

一概に論じることはできないが、かつての敵を味方にすることは有益。

マキャベリはここでもイチかゼロかの極論は避けているが、「確かにいえることは政体の発足当初に敵意を示した人でも、保身のため政体に依存せざるを得なくなれば、味方に引き込むのは容易い」と、この点は断言している。
かつて敵だったものは、自分の行動でかつてのイメージを拭わなければならないので、最初から味方で安穏としてる人達よりも良く働く。特に、君主が新しく獲得した政体において、その政体の内部から自分を手引きしてくれた人がいたらならば、その人がどういう理由から自分を手引きしたのか考えなければならない。もし、それまでの政体に納得していないがために自分を手引きしたのだとすれば、彼らを満足させることなんてできないので、彼らを味方のままにしておくのは困難である、らしい。

テーマ4:「城砦の扱い方」

城砦――謀反を企てる者への牽制
     不意に襲来した外敵に対する避難所(※4)

※4
ここでいう外敵とは、民衆や側近の反乱を言うのかもしれない。城砦は、国外勢力からの防備のものではないのかも?

・城砦を破壊した例
「ニッコロ・ヴィテッリ卿」「ウルビーノ公グィード・ウバルド」「ペンティヴォッリ家」

・『城砦が有用であるか否かは、時代によって異なる』
外敵よりも民衆を恐れる→城砦を築くべき
民衆よりも外敵を恐れる→城砦を築かない

・『最良の城砦があるとすれば民衆に憎まれないことだ』
どれほどの城砦があろうと、民衆が立ち上がればそれを外敵が助けるため、持ちこたえられないから。
例外)フルリ伯夫人は城砦で一度は助かった。

結論:城砦を築くことに関しては良し悪しはケースバイケースだが、城砦を過信しすぎて民衆に憎まれることを軽んじてはいけない。

城砦に関しては、いかんせん当時の城砦がどのようなものでどのような機能があったのか知らないため、ここに書かれていることもいまいち理解できない。城は外敵対策のようなイメージがあるが、これを見る限りでは、支配地の領民の反乱に備えるのが第一義なのだろうか?


第二〇章のまとめ

テーマ1:「市民を軍隊に組み込むことについて」

新しい君主の場合は市民を軍隊にすべき。新しく獲得した+αの政体の場合は、敵だった勢力は武装解除し、その政体の中の軍備も自分の固有の軍備と一体化するよう編成しなければならない。

テーマ2:「分断工作について」

確かに平和な時は支配が容易になるが、戦争が起こると脆く、すぐに外敵に取られてしまう。

テーマ3:「かつて自分に疑心を持っていた人達を味方にすることについて」

かつて敵だった人の方がイメージを良くするために一生懸命働くので、良い場合が多い。

テーマ4:「城砦の扱い方」

外敵よりも民衆を恐れるなら築くべきだし、民衆より外敵を恐れるなら築かない方がよい。城砦を築くかどうかはケースバイケースだが、どんな良い城砦を築いても、民衆が立ちあがれば持ちこたえることはできないので、城砦を作っても民衆に憎まれていいわけではない。


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