●テニスSS「舞野リポート」





こんにちは! オレ、舞野利太郎(まいのりたろう)、高校二年生!
今日は中学生たちのテニスの全国大会を見に来たんだ。
なんでテニス部でもないオレが中学生のテニスなんか見に来たかって?
それは、コレ!
オレの悪友、井上源太(いのうえげんた)。
今日はコイツに誘われて見に来たのさ。
正直テニスなんか興味ないしダルかったけど、源太がすげえ勧めてくるし、まあオレとしても休日に家にいてもやることもないしな。
軽いヒマ潰しくらいのつもりで来てみたんだ。

「ホントだって! 絶対期待していいから! オレ、こないだ兄貴に誘われて関東大会見に行ったんだけど、もうマジすげえの! あんなの普段絶対見れないからさ。見とくべきだって!」
源太はまだ試合が始まってもないのに、すごい勢いでまくしたててる。
源太が言う兄貴ってのは、正確にはコイツの叔父にあたる間柄らしい。
でも、おじさんというには憚られる年齢らしいから、昔から兄と呼んでるんだと。
なんでも「月刊プロテニス」とかいう雑誌で記者をやってて、中学生のテニス部ばかりを追いかけてる変な記者らしい。
それでもその叔父さんの記事は人気があるから、編集長も何も文句を言わないらしいけど。

「で、どの試合がすごいんだ? 最初の1試合くらい見てつまんなかったらオレ帰るぜ?」
源太は手に持ったパンフレットからトーナメント表を開き、オレに見せつけた。
「まずはココ! 青春学園。コイツら関東大会の優勝校で全国大会でも優勝候補なんだけどさ、コイツらヤベエの、マジで!」
源太のヤツ、テニスの話になるとすげえ嬉しそうに語るけど、何がどうスゴイのか聞いても全然答えてくれないんだ。
「それは見てのお楽しみ」っていつもはぐらかされるけど、お楽しみも何も所詮中学生のテニスだろ? 何がそんなに面白いんだ??
他にも関東の中学を中心に幾つか紹介されたんだけど、源太にも他の県の高校までは分からないんだってさ。
叔父の井上記者もさすがに全国の中学全てを把握してるわけじゃないし、情報が回ってこないらしい。
源太は「ここはいま亜久津が抜けたからイマイチなんだけど……」と言いながら、山吹中っていう中学の試合にオレを引っ張っていった。
何の期待もせず中学生たちのテニスを眺めてたオレだけど、ふとおかしなことに気付いたんだ。

「なあ、オイ。源太。あれおかしくないか。あのリチャード坂田って中学生。足が見えないぞ」
「な、すげえスピードだろ! でもあんなのは中学テニスじゃ序の口だぜ? それに、この勝負はたぶん千石の勝ちだな」
源太の言葉通り、千石っていう中学生は足の動きが見えないハーフの中学生をアッサリ倒しちまった。
なんだ、今の? おかしいだろ、人間の足の動きじゃないぞ。
でも源太は何でもないことのような顔をしている。
それどころか「やっぱりキョンシージャンプが抜けたのは痛いな」とか言ってた。
おいおい源太。お前はオレの知らない何を見てきたんだ??

オレは源太に連れられて、さらに違う中学の試合を見に行った。
そこではやけに方言のキツい沖縄の中学生たちが千葉県の中学生と試合をしていたんだけど、沖縄の中学生は本当に訛りがキツくて何言ってるのか分からない。なんで千葉の中学生は会話できてるんだろう。
で、なんかそいつらの試合を見てたんだけど、おかしいんだ。
試合中、突然、沖縄の中学生が、消えるんだ。
千葉の中学生がネットにボールを引っ掛けるっていうすごく巧いプレイをしてて、そこまではオレにも意味が分かるんだけど、そっからがどう考えても理解できないんだ。
沖縄の中学生が消えるんだ。
いや、ホントに消えてるんだ。
それで、気付いたらネット際に出現してる。
全然意味が分からない。
オレはかなりビックリしちゃって源太の方を見たけど、源太は平然とした顔をしてる。
余りに平然としてるから、何か知ってるのかと思い説明を求めたけど、源太にもどういう現象かは分からないらしい。
ただ、瞬間移動くらいは中学テニスでは驚くことではないらしい。

そのうち、千葉の監督(?)らしいジイさんが瞬間移動の説明をし始めた。
オレも興味津々だから聞き耳を立ててたんだけど、何だか沖縄武術とか引力がどうとか訳のわからないことを言ってる。
そんなことで瞬間移動できるようになるものなのかな。
あッ!
ジ、ジイさんがスマッシュを受けて倒れた…!
なんだ!? 今の絶対わざとだろ!
これには源太も流石に興奮してたけど、でもこれでもまだまだ序の口だってさ。
審判とかも誰も咎めなくて、そのまま試合は続行してるし。
なんだこれ? これが普通なのか、中学テニスでは??
だとしたら、確かにすごい大会だな。
でも、源太によれば、青春学園っていう中学校が出てきたらこんなものじゃないらしい……。

その後も色んな中学が見たこともないテニスをしてた。
ある中学生は空中でシェーをしながらボレーを返してたし、また別の中学生たちは試合中にメンバーが互いに変装したりしてた。
一番ビックリしたのは不動峰っていう中学の石田って選手で、どうもラケットに火薬を仕込んでいるらしく、スマッシュの瞬間にラケットが爆発するんだ。
「アレ、いいのか!?」って源太に詰め寄ったけど、あれくらいでイチイチ驚くなって逆に怒られちまった。
関東大会だけでもラケットに火薬を仕込む選手は3人いたらしい。
アレは一般的なテクニックなんだって。
ホントに中学テニスってスゲーことになってたんだな。ビックリしたよ。

オレたちは次にお目当ての青春学園の試合を見に行ったんだ。
源太のヤツ、すげえウキウキしてたな。
一番楽しみにしてたんだって言ってた。
で、その青春学園って中学はさっきの方言のキツい沖縄の中学と対戦してんだけどさ。
まず最初の試合からおかしい。
沖縄の中学生が突然青春学園の選手の胸倉を掴んでる!
今まで選手のどんな振舞いにも見て見ぬ振りを続けていた審判も、この時だけは止めようとしてた。
源太によると中学テニスではラケットで相手に殴りかかるのは良くあることらしいけど、実際に胸倉掴んだりするのは珍しいらしい。
中学テニスにおいても、ラケットやボールを使わず、素手で暴力行為を行うのは相当なダーティプレイなんだって。

あ、試合が始まった。
さっきのやたら身体が大きい沖縄の中学生(アイツ2Mは越えてるな)、これがデブのくせにすごい動きが速くて、やっぱり瞬間移動とかしてる。
もう瞬間移動くらいはオレも見慣れたんだけどさ、3Mくらい垂直飛びしてサーブを打つのには唖然としたなあ。
それを返そうとした青春学園の中学生は、吹っ飛ばされて壁に叩きつけられ、血を吐いている。
オレはあれはもう病院行った方がいいと思ったんだけど、青学顧問とかも全然動じてないし、心配している素振りも見せない。なんなんだこいつら??
結局、試合は身体の小さな選手が巨漢の中学生の顔にスマッシュを当てて(文字通り)倒したんだけど、一試合目からものすごいモン見ちまった。
源太オススメの青春学園ってのはコレのことか、すげえな。
でも源太は「今日はあのチビ光らなかったな、残念だ。まあそのうち光るだろ」とか訳のわからないことを言ってたけど。

さっきほどの試合はもうないだろ、とか侮ってたら、また次がすごかった!
ダブルスなんだけど、沖縄の中学生のサーブがおかしいんだ。ビックリしたよ。
何ていえばいいんだろう。ヘビ?みたいにクネクネしながら飛んでいくんだ。
何をどうやったらあんな球が打てるんだ??
あ! 
沖縄の選手が青学の顧問に向かってスマッシュした!
と、思ったら次は青学の選手が沖縄の顧問にスマッシュしてる!
おいおい、テニスのルールにこんなのあったか??
源太いわく、「中学テニスではクリーンファイトだよ」
そうか、すげえな中学テニス。
その後、青春学園の顧問が相手の顧問に向かって「テニスボールが怖くてテニスの顧問ができるか!」とか大声で叫び出した。
でも、オレはそれを聞いて納得したなあ。
だからさっきの選手は血を吐いてたのに、誰も慌てたりしなかったのか。
中学生のテニスってのはずいぶん危険なものだったんだな。
オレの高校のテニス部ってそんな命がけでやってる感じでもなかったけど、やっぱ全国大会だから色々覚悟が違うんだろうな。
それから、青春学園の選手の中にもやっぱりラケットに火薬を仕込んでるのがいて、相変わらずオレは驚いたけど、また源太に怒られそうだから黙ってたよ。

で、いま、三試合目のシングルス戦が始まったんだけど、今度の沖縄の選手もヘンなやつだなー。
ラケットを逆手に持ってて、試合中に時々ズッコケるんだ。
それが何故かズッコケた瞬間に相手にボールが返っていく。
何が起こってるんだ、アレは。バイキンなんとかって叫んでるけど、それにしても見た目が間抜けだよな。

ん……。
あれ……。

おかしいな、目の錯覚かな。
いや、いま青春学園の選手が二人に見えたんだけど……。
あれ、いや、間違いない! 二人になってる!?
どうなってるんだ!??
いま、シングルスだったよな???
オレは慌てて源太の方を見たけど、源太もアホみたいに口を空けて呆然としている。
「あの菊丸って選手は関東大会の時から3人に分身したりしてたんだけど、まさか一人でダブルスをするとは思わなかったな……」
昔から分身してたってのもビックリだけど、でも一体どうなってるんだ? どういう仕組みなんだ??
「なあ、あれ、マジックみたいなもんか? タネとかあんのかな??」
「いや、ないと思う。たぶんあれは菊丸って選手の身体能力だと思う。それにしてもここまでとは、びっくりだな」
結局試合は二人に分身した菊丸って選手が勝ったんだけど、あれを身体能力だけでやるって一体どういうことなんだろう。
オレ、中学生の頃分身できたっけな。
いや、今でもできねえよ。
なんなんだ、こいつらの身体能力は?
それについては源太が説明してくれたんだけど、何でも井上記者の推測によると、511キンダーハイムとかワイミーズハウスとかいうのが関わってるらしい。
けど、源太にも良く意味は分かってないみたいだ。
ただ、一つ確実にいえるのは、この会場に集まっている中学生のほとんどは、オレたち普通の人間とは全く別種の存在だってことだな。

「中学生のテニスって面白えだろ!? 来て良かっただろ??」
源太は青春学園の試合が始まってから、すごくテンションが高くなってる。
でも、今となっては源太がどうして事前に何も話してくれなかったのか良く分かった。
こんなこと口で説明されても信じられないもんな。
この目で見たオレでさえ、自分の目が信じられないんだから。
それどころか、こんなことを言いふらしてたら気が狂ったかと思われても仕方ない。
源太も喋りたかっただろうによく我慢してたよ。たぶん親から止められてたんだろうな。
「なあ、オレちょっと不動峰の試合見てこようと思うんだけど、お前どうする?」
源太が突然そんなことを言い出した。
けど、オレはやっぱり青春学園のやつらに期待してたから残ることにした。
でも、これは失敗だったな。
次のダブルスの試合はこれといって見所もなくて普通のテニスの試合だった。
不動峰って言えば確かラケットに火薬を仕込む中学だったよな。
源太と一緒に行けば良かったよ。

と思ってたら、ちょうど源太が帰ってきた。
なんだかすごく興奮している。
「光った! 光ったんだよ! 不動峰の部長が戦ってたんだけどさ! やっぱ光ってたよ!」
源太は酷く興奮してて何を言っているのかさっぱり分からなかったけど、どうも不動峰の橘っていう選手が試合中に身体が光ったり、煙を出したりするらしい。
とはいえ、いくら何でもそれは信じられないなあ。
さっきまで色んな試合を見てたけど、人体が光るってのはいくら何でもありえない。
「源太、いくら何でも冗談が過ぎるぜ。そこまで言われちゃ、いくらオレだってウソだって分かっちまう」
「違うって! ホント、ホントなんだよ! 今までオレがテニスに関してウソついたことなんてあったか!?」
……確かに、そう言われればそうだ。
今まで源太はテニスに関してウソをついたことはなかった。
でも、いくら何でも人は光らないだろう…。

そんなことを思っていると何かコートの方から眩しい光が差しこんできた。
何だと思い、コートを振りかえると……

うわっ!

せ、青学の選手が光ってる!

「おい! あれか、源太! お前が見た光ってのはアレか!?」
「う、うん……そうだけど。でも、ちょっと違うかな」

いや! ちょっと違うとか、そういう問題じゃないから!
なんだアレ、一体どうなってるんだ……?
てか、目の前で生身の人間が光ってるのに、沖縄の選手は「そのチンケなオーラで何をみせてくれるんだね?」とか言ってるし。
ていうか、アレ、オーラなのか!?
オレ、オーラなんて初めて見たよ!

「なあ、おい、源太! あのオーラってどうやって出すんだ? オレにも出せるかな。今度叔父さんに聞いといてくれよ」
「ああ、それ、オレも前聞いたんだけどさ。たぶんテニスやってないと出せないって」
「そっか、テニスなんて恐ろしくてとてもできないしな。諦めるか」
いま光ってる選手はテニスでタニタニック級の客船を一隻沈められるらしい。
そのくらいテニスが巧くないとオーラは出せないみたいで、残念だけどちょっと無理だな、オレには。
もっと普通に高校生活送りたいし。

結局、試合は青春学園の圧勝。
沖縄の中学生なんて全員瞬間移動ができるのに一勝もできなかった。
源太が「瞬間移動くらいで驚くな」って言ってたのも今なら良く分かるよ。

それにしても源太には感謝している。
こんなスゲエ試合がまだいくつも見れるなんて、今日は本当にラッキーだ。
オーラ見たのなんて初めてだったし。分身もすごかったなあ。

おっと、そろそろ青春学園と氷帝学園の試合が始まっちまう。
氷帝学園ってのもすげえテニスプレイヤー揃いらしいから楽しみだ。
後の試合の様子は、家に帰ってからまた日記につけておくよ。


〈完〉

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