「シアル!起きてよー」
・・・ん・・・
「ねぇ、シアルー。もう朝だよー!!」
・・・朝・・・か・・・
「寝ぼけないでよ、シアル。さぁ、起きた起きた」
ぎゅっ。
「い、いってぇーー」
「シアルのほっぺ、おもちみたーい♪」
リイナの奴、僕のほっぺを思いっきりつねってくれちゃって。しまいにはおもちみたーい♪か。ま、いいけど。
・・・僕はシアル。
本名シアリール・メデュー・クレイセントール・12世。
シアルとは、母上が付けて下さった愛称だ。実は、こう見えても僕は王子なんだ。将来は国王となる立場の筈だけど、その気はない。今は訳あって旅をしている。
「もー!何寝ぼけてるの?食事は出来てるんだから、早く顔洗って!!」
「わ、わかったって」
・・・この気の強い女の子はリイナ。
本名はリーセイナ・スルー・サザーラス。
僕とは幼なじみで、実は隣国「サザーランド」の王女さまなんだ。僕の旅に付き合ってくれていて、食事なんかも作ってくれているとてもありがたい存在だ。
僕はまだ眠い目をこすりながらテントの外へ出て行く。
お城を極秘で抜け出して旅をしているものだから、堂々と宿には泊まれない
身だ。見つかって連れ戻されるのはゴメンだし・・・。だから、レディのリイ
ナには悪いが、毎夜、森の中で野宿をしているんだ。
近くの川で顔を洗い、身支度を整えてリイナの元へと向かうと、おいしそう
なコーンスープのにおいがただよってきた。
「わぁー、今朝はコーンスープを作ってくれたんだね、リイナ!」
「ええ、そうよ。もちろん、シアルの好きなブレンドでね!」
リイナは意外と気が利く。栄養関係の面も考慮し、それでいておいしい手料
理を毎日3食披露してくれるんだ。
「じゃあ、いっただきまーす!」
モグモグモグモグ・・・・・・・・。
ズズーーーー、ズズーーーー。
「ねぇ、ちょっとシアル?」
「ん?なんだいリイナ?」
僕がリイナの作ってくれた朝食を楽しんでいると、リイナが怪訝そうに話し
かけてきた。
「あなた、一応王族で、未来の王様よね?」
「あったりまえだろー。まぁ、王になる気はないけどね」
・・・そう、王になるなんてゴメンだ。
「だったら・・・・」
「????」
リイナのすごい剣幕(ホントにすごいんだ!)に気圧されて、僕は黙り込ん
でしまった。
「どうしてそんなに下品な食べ方するのよーー!!」
「ひいぃぃぃぃーーー」
リイナが怒り出すと、もう止められない。
「王族というものの、食事のマナーも習わなかったの!?」
「い、いや・・・一応は心得ているよ。公式の晩餐会なんかでは必要なス
キルだしね」
王族は、何をするにも格式ばっている。
もちろん、食事のマナーなどは基礎中の基礎である。
だけど、ナイフやフォークは内側から(外側だっけ?)使う、とかスープは
音を立てないように飲む・・・なんてのは食事をつまらなくするマナーのよう
な気がしてならないんだ。
「でしょ?なら、なんでそんなに下品に食べるのよ!」
「下品って・・・」
「何か言った!?」
「い、いいえ・・・」
僕が小声で反論しようとした瞬間に黙らせるなんて・・・リイナの地獄耳。
どうしようか・・・この場合、なんと弁解すればリイナの機嫌を損ねないん
だろうか・・・?
「あ〜〜、そうだ!なぁ、リイナ!!」
「な〜によ? 言い訳なんか聞かないんだから!!」
「う、うん・・・」
うわぁー、リイナの奴、思ったより鋭いぞ。女っていうのは、こんなもんなの
か?
「リイナの料理がおいしすぎておいしすぎておいしすぎておいしすぎて・
・・・・・ついついマナーを無視しちゃったんだ。な、だからゴメンな
、な?」
「はいはい、もう、お世辞はいいんだから。シアル、そんなに奥手だと、
将来奥さんに尻にしかれちゃうぞ!」
ツンッ!
リイナが僕のほっぺをつつく。ちっ、余計なお世話だ・・・。
「まあまあ、聖クレイ王国の12代目王子様。そうお怒りにならないでく
ださいな。さぁ、スープが冷めてしまいますわよ」
リイナが女官のようにかしこまって言う。まあ、いっか。
「そうだな、せっかくリイナ姫が丹精込めて作ってくれたスープだもんね。
残さず食べなくちゃ、もったいないね」
「もう、シアルったら・・・」
リイナが僕に寄り添ってくる。そして急に真剣な声になる。
「シアルは、本当は、11世王妃様の料理の方がいいのよ・・・ね?」
「母上の味・・・か」
母上・・・。父を亡くした僕には、今となってはただ一人の家族。
それなのに、僕は母上をあいつのもとに・・・・・・。
「いや、リイナのも、十分おいしかったよ」
「ふふっ、ありがと!シアル!!」
それから、リイナは少し離れて、僕のスプーンを握って、
「はい、あ〜〜ん」
「え・・・」
僕はちょっと戸惑いながらも、
「あ、あ〜〜ん・・・」
と口を開ける。
「おいしい??」
「ああ」
ちょっと照れながらも、そう答えた。